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「三月は深き紅の淵を」 恩田陸(講談社・Mephisto club 1997年7月7日第一刷発行、初出「メフィスト」1996年4月号~1997年5月号)
四章からなる四部作。 以前読んだ「麦の海に沈む果実」に出てきた校長が探している「三月は深き紅の淵を」と言う本と同じ題名の本を恩田さんが書かれていたので今回読んでみました。以下あらすじと感想です。 その本はたった一人にだけ、たった一晩だけしか他人に貸してはなりません。 かつて一度でも、むさぼるように本を読む幸せを味わったことのある人に。 ロアルド・ダール作 田村隆一訳「チョコレート工場の秘密」のウィリー・ワンカが出した新聞広告。 第一章 待っている人々 自分が勤める会社の会長・金子に招待を受ける若手社員・鮫島巧一。 毎年この春のお茶会(二泊三日)には履歴書の趣味欄に読書好きと記入した社員が選ばれる。 その人選は秘書課の海老沢課長に任されている。おたくでは駄目。 金子会長とその友人たち(鴨志田、水越夫人、金子)四人の老人集まり。 巧一が入ったその時から何かゲーム(賭け)が始まっている様子。 彼らの目的は一冊の本「三月は深き紅の淵を」を探すこと。 第四部からなる、作者も分からない自費出版で出された発行部数も少ないその本にはルールがあった。 その本はたった一人にだけ、たった一晩だけしか他人に貸してはならない。 第一部「黒と茶の幻想」サブタイトル『風の話』 第二部「冬の湖」サブタイトル『夜の話』 第三部「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」サブタイトル『血の話』 第四部「鳩笛」サブタイトル『時の話』 その本のかつての持ち主の一人・圷のダイイングメッセージ「ザクロの実」、各章の物語の情景にも出てくるザクロ。 巧一はその謎を解けるのか? 課長の「だまされちゃいかん」とは? いや~、一枚も二枚も上手な老人たちでした。四章あるうちで一番楽しい話だったかも。 しかし私もあこがれます。今まで読んだ本をそのまま書棚に全て並べた図書室。まあ他人には見せたくない本もありますけどね。 実際には巧一と同じで図書館派に移行していますが・・・ 一日中自堕落に本を読み耽る。今でもかなり近い生活はしていますが 是非彼らの作品を読んでみたいものですね。 第二章 出雲夜想曲 お互い勤めている出版社は違うが編集を生業としている隆子と朱美。10歳ほど年上の朱美はどうやら隆子同様ミステリファンらしい。 出雲への旅は隆子が誘った。あの幻の本「三月は深き紅の淵を」の作者を探すため・・・ 隆子はその幻の本を父から一度だけ読ませてもらった。完成度は低いけれどひきつけられる魅力。 父は友人からその本を進呈されたらしい。父が言うにはこれは個人的な記録だということだ。 若い頃は今は文豪と呼ばれるようなメンバーと共に文学同人誌「白夜」を作っていた。 見た事を写真を写すように憶えることが出来る隆子はその時の記憶を元に内容をノートに記述していた。 作者は白夜の参加メンバーだったのか?それとも・・・ 二人を乗せて寝台列車「出雲3号」は夜の闇の中を終点に向け走っていく。 明かされる真実は・・・ 本当は到着したくない雰囲気が漂う中での旅。隆子の知りたくないようなでも知らないでおられない気持ちと朱美の複雑な心情が旅行前に「怖れ」と題した絵を登場させることで仕掛けていたり、今日は私の誕生日というのも仕掛けだったし。 大量な弁当と酒とつまみだったのは何だったのか?朱美を豪快に思わせるためだけだったのかな? それでも仕掛けを作りこんだ本を読むときの気持ちよさとか、物語は作者の名前なんて関係ないとか、書くのではなく自動書記のように湧いてくるとか、本作りに関して恩田さんが思っていることなのかどうかは分かりませんが編集者朱美の考えが書かれていて面白かったです。 「・・・さく・え」と言うのは、確かに子どもの時は気にしなかったなあ。今は同じ作者を選んでたどっていくことのほうが増えたけど。でも新しい本との出会いを妨げているようにも思うのは事実。 結末は何とも重苦しいものでしたがこの不安な感じも悪くないです。 第三章 虹と雲と鳥と 11月の末に起こった二人の少女、篠田美佐緒と異父姉妹・林祥子の転落死。 祥子の友人、槙子は祥子は殺されたと言う。あんなに自慢な友人だったのに・・・ 美佐緒の元彼・啓輔は美佐緒が自分は凄く恨まれていると聞いていた。 どちらが殺したのか?あの手すりは危ないと学校の半数の人は知っていたはず。 美佐緒の家庭教師の野上奈央子の元に死の直前送ったと思われる美佐緒からの手紙が届く。 その中に入っていたノートに書かれていたことは・・・ ずぅーっと歩いていけたらいいのに・・・珍しく啓輔の前で語った美佐緒の『永遠』。 啓輔を傷つけまいとして啓輔を振ったのか? 奈央子にだけ語った美佐緒の夢。わたし一冊だけ本を書くの。自分が叶えられなかったら先生が書いて・・・ 奈央子と啓輔がノートと死ぬ前の二人の言動と残されたメモから確信に迫る。 二人が新潟に向かったのは何故?そこで何があったのか? 驚愕の真実。そして母・美佐子の絶叫。 奈央子がカウンセリングも兼ねて家庭教師として付けられていたのは何故なのか詳細がない(母子家庭で美佐子が仕事で不在がち、美佐緒一人でいることが多かったためとは思うのですが)ので何とも言えませんが、美佐子には何となく常に不安だったのかもしれませんね。 美佐緒が祥子とは実は・・・・だったのは皮肉。 美佐緒は全てを知って行動していたけど祥子に何を求めたのだろう。悪意からだったのか、耐えきれなかったからなのか? 完璧な”正しい少女”でいたかった祥子、彼女が最後に思ったのは何だったのだろう? 美佐子の後悔や奈央子や啓輔の苦悩が何とも言えず苦い。 第四章 回転木馬 作者がタイトルからどう物語を書き出すのか。いくつもの書き出し。回転木馬のイメージでこんなにも書き出しが考えられるなんて! そしてどこかで読んだような、懐かしいような物語と作者の物語を書くことについての思いが交錯する。 途中挟まれた物語の断片、どれも恩田さんの作品に関連がありそうですが、特によく出てきたのが「麦の海に沈む果実」(講談社 2000年7月25日 第一刷発行 「メフィスト」1998年10月号~1999年9月号初出)。 理瀬が学園に訪れるところとか憂理がルームメイトになるところ、図書室で黎二に助けられるところ、聖が考えたゲームなどかなり内容は近いものがありました。 でも校長が教頭になっていたり、憂理のキャラが違ったり・・・初出を見ると「麦の海・・・」の方が後なんで理瀬の物語はかなり前から書いておられたのでしょうか? どれも本当に断片で出てくるのでストレスを感じました。続きは?どうなるの?って感じで。 不思議な読後感でした。 どの物語も入れ子になっているし、繰り返し「夥しい」と言う言い方が出てきたり、主人公が作家・編集・読者など本に関係していたり。直接連続はしない四章の物語夫々が章の中で連続というか同じところを回り続けるのは回転木馬だなあと思ったり。 「黒と茶の幻想」も恩田さん書かれてましたよね。未読ですがこれも読んだ方がよいのかな? 他にも恩田さんの作品も他の作家の作品(冒頭の「チョコレート工場の秘密」とか「エルマーの冒険」とか「絵の無い絵本」とか色々。夫々に書き添えられていたのは恩田さん本人が感じていたことなのでしょうか?)もたくさん出てきましたが、図書館に返却の日が迫ってから読んだので一々書き留めなられなかったのです。図書館に予約も入っていたようで貸し出し延長も出来ませんでした。 それこそ帯に「その本はたった一人にだけ、たった一晩だけしか他人に貸してはなりません」と書かれていたように、私も一日で読まねばならなかったのです。 幻の本「三月は深き紅の淵を」を再び読みたい一人となってしまいました。(本編中の主人公たちと違いかなり簡単ですが) 時折小泉八雲(本人だったり似た格好の人だったり)が現れたりってものありました。 その名前だけでもう不思議な世界ですよ。 雰囲気作りについても書かれていたし読み返すとまだ発見がありそう。 ←黒と茶の幻想 ←元になったジャズ「黒と茶の幻想」収録 小学生の時、夏休み中にクラスで回覧された本でした。(課題図書だったかもしれません)まさか映画になるとは思わなかったけど小学生の時に見たあの鮮やかな表紙の方が毒々しい内容にあっていると思うのだけど・・・印象的な本です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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