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「暗黒童話」 乙一著(集英社 2001年9月30日第一刷発行)
雪の降るある日、私は雑踏の中、探していた。 親切な男が見かねて「コンタクトを落としたのですね」と近寄ってきたが違う。私が落としたものは・・・ 大丈夫ですか?と男が聞いたとき振り返った私の眼球のあるはずの場所からあごにかけて血が伝う。その後、気を失って倒れた私が目覚めるとそれまでの記憶を失っていた。 左の眼球と記憶を失う以前の私”菜深”とは別人のようであるらしい。 姉妹のように仲が良かったらしい母は以前の菜深と比較しては苛立った。父も突然無口になった娘に戸惑った。でも今の私は家のスイッチ一つ分からない。 久しぶりに登校する学校の場所も先生も友人も分からない。明るく優等生であった菜深だったと言われるのだが・・・今ではカンタンな問題すら答えられないし、コンクールで入賞するほどの腕前だったピアノもさっぱり弾けない。 祖父が不正な手を使って眼球移植をしてくれた。いつもの病院ではなくて郊外に立つ小さな病院。 手術後、包帯を取って見た景色はガラス越しのようであった。 外見だけは以前の菜深に戻った私。早く記憶を取り戻してねと母にも言われた。 退院の直前病室にかけられたカレンダーを眺めていた私はうめき声をあげた。移植された左目に熱を感じた。視神経が痙攣するようだ。 そのときカレンダーの中のブランコが揺れたように感じた。髪の長い少女が微笑みを浮かべている。が、カレンダーのブランコは無人に戻った。今のは夢だったのだろうか?左目が見た夢。 学校帰りの駅でレールを見つめていると再び襲われた左目の熱、脈動。そして現在を映す右目とは違う風景を写す左目。夢だ。森に続くレールと打ち捨てられた電車。窓に手を伸ばす夢の中の私。電車の中の子どもが石を投げ持っていた枝を投げつけた。顔をかばうと夢は覚め電車が駅に入ってきた。 私は左目の見た夢を記録し始めた。記憶をなくし思い出に飢えていた私。何かを見た拍子に始まる夢。 テレビで行方不明者を探す特別番組をしていた時、突然熱を持った左目。いつもよりも激しく、悪夢を予感させる。身動きできない!が母がテレビを消すと金縛りから解かれた。 夢の中の私は和弥という少年らしい。和弥と砂織と両親の心地よい夢。私も和弥の世界の人だったら良いのに・・・ しかし気づいてしまった。この記録は「夢の記録」ではなく「かつて眼球が見た景色の記録」だと。眼球の提供者は冬月和弥。 以前との菜深と比べられ緊張を苦痛を感じていた私は学校をサボり、図書館で和弥の死亡記事を探す。そこで見た「十四歳女子中学生行方不明」の記事。始まった夢。地下室にいる行方不明の少女の顔。 窓をこじ開けようとする和弥だが誰かがいる。追ってくる人影、激しく揺れる視界。森を抜け転がり落ちた先には白い車のバンパーが・・・ 家を出て砂織に会うため和弥のいた楓町に向かう菜深。 同じ方向だからと鴉のマスコットが付いた車に乗せてくれた和弥の友人であったという住田、夢でも見た喫茶店「憂鬱の森」、喫茶店の店主・木村、常連客の老女・京子と絵描きの潮崎。 楓町には夢で見た風景があった。和也の友人と聞いて温かく迎えてくれる砂織。 でも私が来たのは行方不明の少女相沢瞳を救うためでもある。 夢に出てきた青いレンガの洋館。犯人は一体誰? 物語の始めと途中に差し挟まれた暗黒童話「アイのメモリー」と監禁されている人たちの状態が結構グロいのですが、菜深が家出をして和弥の姉・砂織に会い、楓町で和弥の眼に焼きついた風景を探していくところなどはなんとも懐かしい風景です。 後半、定期健診のために一旦家に帰る菜深は楓町に戻らない方が良いのではないか(命の危険が・・・)とも思いましたが、母に今の自分の気持ちをきちんと話して楓町に向かい再び温かく砂織や木村、おじさんに迎え入れられるところはやはりここが彼女(和也の)帰る場所なのかなあと思ったり。お互いの存在が和弥の死から癒されているところが単なる怖い話ではなくて良かったです。 監禁されていた瞳の甘えたところと慈悲深さは十五歳の少女とは思えませんでしたが、いくら痛みを感じないとは言え、それでも自由を奪われ傷つけられて平気ではないはず。不思議な幸福感を感じるから?両親に会いたがって夢で涙を流す彼女がね、娘と歳が近いのでなんともいえませんでした。 記憶をなくす前の自分と比較されながらも努力を重ねそれでもうまくいかなくて友人や母でさえも以前のような関係を築けないところはとても悲しくそのまま砂織の妹になってしまったら良いのにと思ったほど。でも両親もそんな変わってしまった菜深を嫌っていたわけではないんですよね。ただただ戸惑っていただけで。どちらの気持ちも分かってついつい子どもにきつい物言いをしてしまう自分を反省したりして・・・ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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