カテゴリ:音楽あれこれ
ストーンローゼズのライブはたいてい行っている。
再結成前の活動期間はファーストアルバム発表の1989年から解散の1996年まで。それはちょうど僕が18歳から25歳までの時期で、どうしたってその頃の記憶と活動の軌跡を重ねてしまう。 1990年代。僕の20代前半。バブルの栄光からオウム事件を経て急転回してしまった日本の社会。そして失われた20年。 そうしたことすべてが、ストーンローゼズの奏でる音像と記憶が重なり合う。だから僕には客観的にストーンローゼズを語ることができない。僕が今書こうとしている2017年4月21日の武道館のストーンローゼズは、そんな僕の様々な回想や思い入れの雑多な感想録でしかない。 武道館の客層はだいたい僕と同年代の40代の人々が主流だった。その様子を見ていると僕と同じ時代を生きてしまった40代の現在が垣間見られる感じがする。最初は何か散漫とした雰囲気の武道館だったけど、開演時間が迫ってくるとだんだんこれからストーンローゼズが始まるという雰囲気になってくる。 7時をちょっと過ぎたころに客電が落ちるとメンバーが登場する。武道館に大きな歓声が沸き上がる。1989年や2012年と同じように、1曲目はI wanna be adored。曲の最初から武道館が地響きしているような大合唱が起こる。 今回のライブではフジロックの時より、ジョンのギターの音がシャープではっきりした音のように感じた。だからその分ジョンのギターテクがより前面に押し出されているような感触があった。ただ今回のライブでのジョンのギターの響きの違いは野外でのライブか、ホールでのライブかの違いだけかもしれない。 デビュー当時から演奏が下手、ボーカルが下手といったレビューを受けることの多かったストーンローゼズだけれども、今回の武道館公演は1989年当時よりも、そしてフジロックの時よりも演奏技術が上がった彼らを見ることができた。 Sally cinnamon,Mersey paradise,Elephant stone 次に演奏されたのはローゼズ特有の憂いを含んでいて、それでいてポップで美しいメロディーラインを持った曲だ。ローゼズ流ポップソングのお手本とでも言っていい曲たちでもある。 彼らの音楽が80年代と90年代の音楽の分水嶺になった理由はそのメロディーラインに一つの理由があった気がする。 ストーンローゼズの音楽は深い眠りから覚めた直後のまどろみのような境界線上で奏でられた音楽だと僕は思っている。そのまどろみは夢と現実を行ったり来たりしているような不安定さを内包している。だから彼らの音楽は混沌や酩酊を、そして「目覚め」の瞬間のはっきりした意思をも含んでいる。 彼らの代表曲Elephat stoneはそうした混沌や酩酊とはっきりした意思の両方を、ローゼズ特有の美しいメロディーラインとその曲のリズムによって表現した名曲だと思う。 Elephant stoneのみならず、ストーンローゼズのファーストはだからまさに90年代の「目覚め」にふさわしいサウンドトラックになり得たのではないだろうか。 ストーンローゼズのファーストはそのような偉大なアルバムであるため、セカンドはどうしても評価が低い。だけどセカンドも決して駄作ではない。 今回のライブでも演奏したBegging youなどは、レ二のものすごいドラムプレイを聴くことができる。初来日の頃によく言われていたことだけれど、レ二のドラムスはそれ以前のインディーロックから一線を画していたといわれる。そしてそのドラムサウンドが90年代の幕開けのブレイクスルーになったとも評される。そんなレ二のドラムスの凄さが今回のライブのBegging youでフルにさく裂していた。この曲は今回の武道館公演のレ二の最高プレイの一つだった。 ライブ中盤のハイライトはWaterfallからDon't stopへの流れではないだろうか。この2曲は「まどろみ」「混沌」といったストーンローゼズの音楽の一面を如実に表している曲だ。 今回のライブでのジョンのギターのクリアな響きが目立ったのはこの曲だったのだけど、僕にとって印象的だったのはマニのベースプレイだ。 一歩間違えると完全な混沌に陥りそうだったDon't stopのライブ演奏。それを一つにまとめ、一曲のポップソングとして踏みとどませているのがマニのベースだった。 今回のライブでは新曲のAll for oneも演奏された。曲の印象としては1991年のOne loveの半年後にシングルとして発表されてても違和感がない曲。ローゼズの新作アルバムを期待させる曲だった。 ホワイトファンクの名曲Fools gold。まさか演奏されるとは思っていなかったBreaking into heaven。そうした見どころたっぷりの中盤戦を経て、Made of stoneが演奏される。ライブ後半戦だ。 She bangs the drums、This is the oneといった曲が次に待っていた。Waterfallといった曲が「まどろみ」を表現しているとしたら、これらの曲は「覚醒」「目覚め」を表現した曲だ。 This is the oneは僕が個人的に大好きな曲で、この曲が演奏されているときは胸が熱くなるような気持だったけれど、やっぱりこの曲が今回の武道館公演で一番盛り上がった曲だ。I am the resurrection。 This is the oneに続いてI am the resurrectionが演奏されたときの気持ちをどう表現すればいいか。僕にはわからない。ローゼズにとってもファンにとっても僕にとっても、この曲に託される思いは強い。前半のまるで何かの「宣言」のようなうたも、後半のグルーヴィーでスピード感あふれるソウルなインストゥルメンタルも。 地響きのような大合唱に再び包まれた武道館は、最後に向けて興奮の渦が巻き起こっていた。その渦を引き裂き、かき混ぜるようにドラムのレ二が、ベースのマニが、ギターのジョンが、ストーンローゼズグルーヴという名にふさわしい台風の目のような演奏をかき鳴らす。 その時間は何分間だったのだろうか。僕には3分くらいにしか感じなかった。 そしてそれは、今回のライブの終わりを告げる曲でもあった。 ストーンローゼズは現在の英国の最新ロックシーンとは関係のない存在かもしれない。結局ストーンローゼズは40代の懐メロでしかないのかもしれない。それでも仕方ないし、それで構わないと思う。 だけど彼らの音楽に僕が託しているいろいろな何かはまだ壊れずに2017年のストーンローゼズの中に存在していた。それだけでも僕にとって2017年のストーンローゼズは「リアル」な存在だ。それが日本の40代一男性による根拠なき幻想であるとしても。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.04.25 08:37:07
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