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ken tsurezure

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trainspotting freak

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2018.05.24
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カテゴリ:音楽あれこれ
ほぼ20年ぶりになる小沢健二の武道館公演。そのライブが終わって1日経った今、ワードの白紙原稿を前に戸惑っている。
そのライブはよかったのか。それともどうでもいいようなライブだったのか。答えは決まっている。非常によいライブだった。それだけは確信を持って言える。特に僕のような20代の日々を1990年代という時代の中で過ごしてきた人間にとっては。
ではそのライブの何が良かったのか。そこで僕は言葉を失ってしまう。今回の小沢健二の武道館公演は何がそんなに良かったのだろう。
例えばフジロックのライブは、久々に小沢健二が戻ってきたという高揚感を中心に文章を書けばわかってもらえることが多かった気がする。
今回の武道館のライブも確かに小沢健二が武道館に戻ってきたという公演だったと言えなくもない。でも単なるノスタルジアで語られるべきライブではなかった。半分は僕らと同世代の人々の思い入れで構成されていたライブだったけれど、あと半分は何か違うものを発したいという小沢健二の思いが伝わってくるようなライブだった。
その半分って何だろう。それがなくしてしまったジグソーパズルの一片のようにうまくつながってくれない。それは何だったのだろうか。

1996年と現在とで違うのはネットという情報ツールが世の中に浸透したことだ。携帯電話で少し検索してみれば事前に武道館ライブのセットリストや大まかなコンサートの構成だとかがわかってしまう。
その事前の検索結果同様に、この日のライブは大人数のオーケストラとゲストの満島ひかりと小沢健二のコラボで構成されていた。
客電が落ちて始まった曲は「アルペジオ」それも僕が事前に知っていたのと同様だった。
僕の座っている2階席はさすがに集中力が散漫だった気がする。コンサートが始まっても座ったままの人々が大半だ。客席はほぼ30代から40代くらいの人々で埋まっていいる。今日ここに来ている人々の大半はかつての小沢健二を知っている人々ばかりなのだろう。
だから「ラブリー」とか「僕らが旅に出る理由」といった昔の曲の方が断然に盛り上がる。
満島ひかりは今回のライブでは最初から最後までずっと出ずっぱりだった。コーラスや舞台の演出、ダンスなど大きな役割を担っていた。時々一人で歌う時にどのキーに合わせようか迷っているときもあったけれど、彼女がこのコンサートでここにいる理由がちゃんとあったと思う。それは多くの人々が指摘していることだけれど、この武道館に集まった女性ファンの代表としてここにいる。そのように思った。
実際、小沢は「女子」「男子」と言ってシンガロングを求めていたけれど、「女子」のときに満島ひかりがうまく合唱をリードしていた。
今回の武道館ライブでは新曲も昔の曲も織り交ぜて進んでいったが、新曲の中で一番印象に残ったのは「フクロウの声が聞こえる」だ。
この曲がシングルとして発表されたバージョンはSEKAI NO OWARIとのコラボだったが、今回のフルオーケストラのバージョンは非常に重厚感があり、そして小沢健二がこの曲に込めた「重さ」がよく伝わってくるアレンジだった。またこの曲の良さが今回のライブバージョンのほうがわかりやすく伝わってくる気がした。
この日のライブの最高潮は「戦場のボーイズライフ」から始まるメドレーとそして「ある光」だった。
「戦場のボーイズライフ」「愛し愛されて生きるのさ」「東京恋愛専科」そして「強い気持ち 強い愛」と最強の4曲で構成されたメドレーは何も解説がいらないほど素晴らしかった。90年代の小沢健二を代表する曲でもあり、そして同時に90年代のいわゆるJ-POPを代表する名曲が今ここで再現されている。それだけでも感動してしまう。
そしてその後で演奏された「ある光」。原曲は憂いや暗さや希望と同時に重要な何かのメッセージを込めた8分に及ぶソウルナンバー。この曲の発表後、小沢健二は長い沈黙に入ってしまう。そのためこの曲は小沢健二のファンから特別視されることが多い。
そんな「ある光」が、満島ひかりのギターのフレーズから始まったとき、僕は色々な思いを抱かざるを得なかった。
この日フルオーケストラで演奏された「ある光」それは力強く、そして明らかな希望を映し出していた。少なくとも僕にはそう感じられた。それは今の小沢健二の活動の核心の何かを映し出している。そして僕がこの日のライブをどう書けばいいかわからないと述べた理由もそこにあるような気がしている。
小沢健二の90年代のラストシングル「春にして君を想う」のB面に収録されていた「ある光」のロングバージョン。今にして思うと「ある光」は小沢健二による90年代の総括であった気がしている。
1998年当時に歌わなければいけなかった希望や未来への祈り、そして彼自身がなぜ沈黙しなければなないのか、それを「ある光」で表明していた。それはこの曲をシリアスにしているし、ある種の重さを感じさせざるを得ない。
多分、「ある光」のロングバージョンをライブで演奏するのは今回が初めてだと思う。このある種特別な曲を2018年の今、ライブで演奏すること。それには彼の何かの意思が働いているのではないか。

90年代の小沢健二はその当時の音楽シーンの中心人物の一人でもあった。小室哲哉と並んで90年代を代表するアーティストであった。彼はまさに90年代という時代の最先端を駆け抜けたそういうアーティストだ。
そんな彼が2018年の武道館でライブを行う。「ある光」を新しい解釈で歌う。それは彼なりに90年代という時代を決着させる。そして2018年という時代を見つめて活動をしていきたい。そんな意思表明ではないだろうか。
フジロックのときは90年代のノスタルジアだとか久しぶりのブギーバックだとか、それで盛り上がっていればよかったかもしれないけれど、今回は2018年に小沢健二がどう活動していきたいか。それを見据えての武道館公演ではなかったのか。
そのためにも彼は90年代の小沢健二の名曲に決着をつけなければならなかった。90年代のトップランナーとしての責任を果たすために。

それはそのまま僕らにも跳ね返ってくる。僕らは90年代に何を成し遂げてきたのだろうか。僕にとっての90年代はほぼ僕の20代の日々と重なってしまう。その時期に僕は何を成し遂げてきたのだろうか。自分自身の人生に対して、その頃の社会に対して。
90年代は変動の10年間だった。今までうまく回って見えた昭和モデルがことごとく逆機能を起こしてしまい、一部では「失われた」と称された時代だった。
そうした時代に対して僕や僕らは何をできたのだろうか。うまくやり抜く何かを僕や僕らは時代に対して提示することができたのだろうか。
黄金の90年代という言葉に僕は違和感を持つ。少なくと僕は90年代の自分が何かをできたという感覚を持てない。新しい生き方、新しい明日。そうした何かに沿って僕が自分の人生を生きていたか。それに疑問を持つからだ。そのとき僕にできたことは、まるで大きな高波に飲み込まれないように必死で救命具につかまりながら乗り越えるだけ。そんな気がしてならない。
そうした僕の90年代に対する「呼びかけ」を今回のライブで強く感じたのだ。90年代、僕は若かった。ただそれだけで終わるライブではなかった。ただ懐かしいだけだったら、今回のライブは盛り上がりました。それだけでいい。でもそうではなかった。
だから今回のライブを文章にまとめるのが難しいのだろう。

いきなりライブ最後に飛んでしまうが、最後の最後に小沢健二はカウントダウンの後「日常へ戻ろう」と言い、コンサートを終える。
それは多分あの高テンションで多幸感に溢れるラブソングも小沢健二の日常から生まれてきたからだと思う。
「戦場のボーイズライフ」の「戦場」は「平坦な戦場」と呼ばれる僕らの90年代の日常生活だったわけだから。
2018年の日常がいまだに「平坦な戦場」なのか、それともそれ以上に悲惨でシビアな現実なのか。それは僕には断言できない。
だけどそれに立ち向かわなければ何もできない。闘うにしろ逃げるにしろ。
そしてそこから何かが生まれればいい。たとえそれが遅すぎだったとしても。
それからあなたは何をしますか。そんな問いかけを僕は感じた。その問いかけがなかなかこの武道館公演をまとめることができなかったジグソーパズルの一片だった。そう思っている。

参考文献
「小沢健二の帰還」 岩波書店


小沢健二の帰還/宇野維正【2500円以上送料無料】


[CD] 小沢健二/LIFE





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Last updated  2018.05.24 14:21:03
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trainspotting freak@ Re[1]:世界の終わりはそこで待っている(06/19) これはさんへ コメントありがとうござい…
これは@ Re:世界の終わりはそこで待っている(06/19) 世界が終わるといってる女の子を、「狂っ…
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trainspotting freak@ コメントありがとうございます aiueoさん コメントありがとうございます…

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