カテゴリ:読んだ本
こうしたブログで文章を時々アップするようになって約10数年の時間が経つ。そして初めて「文章を書く」
ということを意識して文を書くようになって30年くらいになる。 大した文章はまだ書けてないけれど、僕の文章を書く上での師匠と言える人物が二人いる。一人が村上春樹氏でもう一人は松村雄策氏である。僕の文章はこの二人の影響下にある。 僕の20代は村上春樹氏の多大な影響下にあって、この間の僕の文章は村上春樹に憑依されたかのようだった。20代に書いた文章は大学ノートで10冊分くらいのものだったと思うけど、その文章はほぼ村上春樹の劣化コピーという状態だった。それこそ句読点の打ち方から何から何まで、村上春樹氏の文章の劣化コピーを必死に書いていた。 今も村上氏の文章の影響下にあるとは思うけど、自分なりの文章の中での泳ぎ方を覚えたのは、30代に入ってからではないかと思う。 村上春樹氏の文章の劣化コピーは意外と簡単にできる。これという形で具体的に文章化はできないけれど、少なくとも「ノルウェーの森」から「国境の南、太陽の西」までの村上氏の文章にはある種のフォーマットがあると思う。そのフォーマットに沿って文章を書けば少なくとも村上春樹氏の劣化コピーはいくらでも書ける。 だからこそ「村上チルドレン」と言われるような若手作家は90年代に多くいたし、文学的な影響力も大きかった。 さて、文章を書くということは意外と障壁が高い。特に誰に指示されるのでもなく、自発的に自分の思いを文章にすること。そうした活動を行うには何か大きな「きっかけ」がないとなかなかできない。 特に僕はそれまで日記をつける習慣がなく、作文の課題やレポートの提出以外に文章を書くことがなかったので、20歳になるまで自発的に文章を書くことがなかった。 そのような僕に「文章を書いてみなさい」と背中を押してくれた人。それが松村雄策氏。もっと正確に言うと「アビーロードからの裏通り」というタイトルの本である。 「アビーロードからの裏通り」は僕が20歳の時に読んだ。それはまだ松村氏が20代のとき、1970年代に思い・悩み・駆け抜けていった軌跡を記した素晴らしい文章の数々である。 松村氏は自他共に認めるビートルズファンである。そして偶然ではあるけれど、僕も同じくビートルズのファンであった。 80年代から90年代前半まではまだビートルズファンであることは隠すべきことであった。特に僕と同じ世代のロックファンの間ではそうだった。まだパンクの神話は健在であったし、今では歴史に埋もれてしまった二流のパンクバンドの方がビートルズよりも偉かったりした。 そんな時代に松村氏が20代に書いた文章と出会った。松村氏はリアルロック、シリアスな音楽としてのジョンレノンやポールマッカトニー、そしてビートルズを語ってくれた。 ビートルズと共に走り、そしてその歩みとともに始まった松村氏の人生をその素晴らしい文章で表現されていた。そこには血と汗と涙と生きている実感と生き急ぐスピードがほとばしっていた。 だけれども松村氏はそのことを前面に出してアジるような野暮なことをしなかった。普通の書き手だとやりがちになってしまう重くて汗臭い熱血話を松村氏は書かなかった。あくまで軽やかに、必要以上に暗くならずにそうした重たい内容を文章で表現していた。 松村氏の文章に接したことがある人は、誰もが言うことだけれども、松村氏は非常に文章がうまい方だ。名文家である。 プロレスの話。日本酒を立ち飲みしていた見ず知らずのおじさんのはなし。そんな僕がよく知らなかったり、日常のふとした光景について書いた文章も面白く読めてしまう。 そんな松村氏の文章への憧れもあったのだと思う。僕はいつしか恐る恐る自分のための文章を書くようになった。 2022年3月12日。松村雄策氏が亡くなられた。最近は憧れのロックンローラーたちの死を聞かされることが多いのだけど、そのニュースを聞いたとき、やはり「えっ」と思った。 僕と松村氏はちょうど20才差だ。だから今後の人生をどう生きていきたいか。そんなことも考えさせられた。 そして何よりも、あの松村氏の文章の最新版をもう読むことができない。それは何か寂しい気がする。 僕と松村氏とは、直接の面識がないのだけれど、1度フジロックで松村氏と出会ったことがある。それは早川義夫のライブが終わったフィールドオブヘブンで、思わず感激して握手を求めてしまった。松村氏は少し困ったような照れたような感じで、握手をしてくださった。ジャックスを聴くきっかけを与えてくれたのは松村氏の文章なので、何か不思議な縁を感じてしまった。 そしてもう一つ僕が松村氏から教わったことで今でも守っていることがある。 それは「わかったふりをするな」という警句である。わからないものをわかったふりをする大人になるな。わからないものはわからないと正直に言って、若者たちの前に立ちはだかる大人となれ。 年を取るにつれて、その言葉は重みを増すように感じた。誰でもなく自分の人生を生きなさい。それが松村氏の文章に込められた僕らへのメッセージであると僕は思う。 ビートルズは眠らない [ 松村 雄策 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2022.07.05 15:46:52
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