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前回からの続きです。 「悪魔の種子」内田康夫 から 内田小説は、いつもながら肝心の推理小説そのものはさておいて この中に出て来る、地名とか歴史、神社のこと、そして 社会問題など、本当はこのことが言いたいのか?と思われるテーマが 浅見光彦を通じて語られています。 今回は、その比率が相当高いようです。 米の品種改良について書かれている部分からの引用です。 (浅見光彦は未だ登場していません。) 基本的に、品種の改良、新品種の開発は、2種類の異なる品種を掛け合わせることによって行なわれる。 具体的に言えば、種類の違うイネの雄しべと雌しべを交配することだ。 今でこそ何でもない常識でしかないけれど、この作業ひとつ取ってみても、かつては難しかったものである。 異品種の掛け合わせをするには、受精する前に母体となる側のイネの雄しべを全部殺して、雌しべだけを生かしておかねばならない。 そのために、開花前のもみの先端をはさみで切って、中の雄しべを一本一本除去するという、気の遠く手間のかかる仕事だった。 昭和初期になって、雄しべは雌しべに比べて高温に弱いことが発見された。 穂を43度の湯に入れると、雄しべは死滅するが、雌しべは丈夫で受精能力もあることから「温湯除雄法」が開発され、それ以降、人工交配の作業は非常に楽になった。 「品種改良の仕事って随分大変みたいですね?」 「大変?とんでもない。僕は大変だなんて思ったことはただ一度もないよ。むしろこんな素晴らしい仕事をさせてもらった上に給料までもらうのが申し訳ないくらいだ。 毎日が感動の連続みたいなものだ。 きみは見たことがあるかな。イネの受粉する瞬間を顕微鏡下で見ると、自分が神にでもなったような気分がしてくる。 いや、神は存在すると思えてくるよ。イネたちが開花するのは、どういうわけか午前9時頃からと決まっているんだ。いろいろ環境を変えてやってみるけど、やっぱり午前9時前後から開花したのが、断然すぐれものなんだな。 こういう自然の摂理みたいなのには逆らわないほうがいいことが分かってくる。 とにかく彼らの最も条件のいい時に受粉させてやるのが、神の手として働く人間の義務だという気がする。 それでいて、神でさえなしえなかったような新種作りをやってしまうのだから、ある種、崇高で敬虔な気持ちでなければ許されないんじゃないかな。これを大変だなんて思うやつがいたら、犬に食われて死んでしまうがいい」 聞いていた由紀子は、どういうわけか自分でも説明ができないまま、鼻の奥の方からこみ上げてくるものを感じた。涙腺が緩んでボワーッと涙が溢れてきた。 これに似たような場面を、私も昔に経験したことがあって 植物にせよ、動物にせよ、生命力の神秘さををかいま見た瞬間があります。 本当に背後に、神の世界を感じるのです。 私たちは、何者か大きな力で生かされているのですね。。。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.06.07 04:54:53
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