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今オフにニューヨーク・ヤンキースからFAとなっていた黒田博樹が、8年ぶりに古巣の広島東洋カープに復帰する。黒田はメジャーの複数球団からオファーを受けていたといい、提示された年棒の最高額はパドレスの1800万ドル（約21億6000万円）。一方、広島は総額4億円。あまりの差に日米で『異例』『驚き』『衝撃』と報じられたが、黒田にとっては最も『自然』かつ『必然」で『らしい』決断だったかもしれない。黒田が巨額のオファーに動じなかったのは、これが初めてではない。メジャーへ移籍する時も、ドジャースから提示された4年契約を「現実的ではない」と3年契約に減らし、10億円以上ものお金を蹴っている。以後は、ヤンキース時代でも今回の広島との契約に至るまで、複数年ではなく1年契約を貫いている。年数や金額の大きさではなく、1歩ずつ踏みしめるようにキャリアを重ねることに意義を見出してきたのだ。自分に厳しいうえ、チームへの忠誠心も揺るぎない。2011年の夏は、ドジャースでの実績が買われ、ポストシーズン進出を狙う複数球団からオファーを受けるも、黒田は「残りわずか2カ月でどこかに移籍して優勝しても意味がない」と残留を表明。当時不調のドジャースを見捨てることなくチームに残った。黒田の著書『決めて断つ』にその思いが綴られている。

やっぱり野球は「チームスポーツ」なのだ。
やっぱり野球は「気持ち」のスポーツなのだ

野球はビジネスというのもわかるが、最後の最後は人の『気持ち』が大切であること、これまでやってきた仲間と一緒に戦うことが大切と明かす。個人の利益や栄誉ではなく、チームで優勝を目指すこと。黒田は、至ってシンプルにチームスポーツの精神に立ち返っている。ふと、ソチオリンピックでのレジェンド・葛西紀明が思い出された。葛西は、ようやく手にした個人初となるオリンピックでの銀メダルにはあまり感慨を見せることもなく爽やかな笑顔だったが、団体で手にした銅メダルには一転、「メダルをみんなに獲らせてやりたかった」と、顔をぐしゃぐしゃにして嬉し涙を流していた。また同書によると、黒田は一度、その2011年シーズンが終わった時に、広島へ戻ることを決意していたという。「第一線で活躍できるうちに日本に戻って、若い選手たちに培ったことを伝えたいと感じた」と。この時は最終的に『挑戦』するためヤンキースへの移籍を決断したが、広島への思いは今も変わっていないのだろう。チームを思い、帰属した集団への恩返しを忘れない。あまり多くを語らない黒田だが、その姿勢はプレーの随所に現れている。ピッチャー返しには素手で反応し、デレック・ジーター本拠地最後の試合では200イニングを目前にして静かに降板し、最高の引退劇を『演出』してみせた。黒田の自己犠牲の精神やチームへの忠誠心は、チームメイトは言うまでもなく、現地の番記者やファンも知っている。スポーツ専門局ESPNでヤンキースを担当するアンドリュー・マーチャンド記者は、「黒田の（広島への）古巣復帰は予想できた。彼は忠誠心を持った男だから」と語った。またファンからは、「寂しくなるけれど成功を祈る」「日本では援護点を得られますように！」「厳しいチーム状況の中、今まで尽くしてくれてありがとう」といった声が記事のコメントやツイッターの黒田のハッシュタグ（#HIROK）などに溢れた（参考：ESPN『Hiroki Kuroda to return to Japan』）。7年前にメジャー移籍が決まった時、黒田は「広島を優勝させたかった」と口惜しそうに語っていた。カープはここ2年連続でクライマックスシリーズ進出を果たしている。葛西が団体戦でチーム日本のメダル獲得を導いたように、来年こそは広島東洋カープの優勝が実現するかもしれない。