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衛は衝立から身体を乗り出して、ヘッドフォンをしている圭に向かって手を振って見せた。圭がそれに気づいて顔を上げる。
「飯行こうぜ。」 圭は、はい。と答えて立ち上がると、斜め後ろの空席を見た。 「あれ?アキラさんは?」 衛は鞄から財布を取り出しながら、用事があるんだと。と答えた。 夏休みのカフェは、がらんとしている。再テストを受ける準備か、ノートを広げた学生が数人見られた。多くの学生は既に帰省したか、バイトに専念しているはずだ。 衛は本日のランチセットを、圭は親子丼を注文した。それぞれトレーを受け取ると、日のあたる窓際の席に向かい合って座った。 「ニシハラは試験無事済んだ?」 セットのチキンライスを口に運びながら衛が圭に尋ねた。 「はい。後は7月中に提出するレポートが3教科分ありますけど。」 衛は1年は大変だなと言いながら、カップに入った卵スープを一口飲んだ。 「あ、あの・・・」 圭は親子丼を食べていた手を休めると、衛に向き直った。 「マモルさんはアキラさんと付き合い長いんですよね。」 衛は指を折って数えながら、かれこれ5年かなと答えた。答えてから、なんで?と上目遣いで圭を見ると、圭は目を泳がせて、えっと、その。を繰り返した。 「アキラの何を聞きたいの。」 言い出しにくそうにしている圭の代わりに衛が口火を切った。その言葉に圭ははじかれたように顔を上げた。 「あのっ、アキラさんて、その・・・男の人が、好き、なんですか。」 最後のほうはほとんど消え入るような声だった。 「あいつ、そう思われるような何かしたんだ。」 圭はカーッと顔が赤くなるのを感じた。衛は左手でクイッとずれた眼鏡を元の位置に戻すと、口元で両手を組んで、上目遣いに圭を見た。 「・・・あいつに、抱かれたの?」 圭はブンブンと首を振って、「僕が。抱いた・・・っていうか、その・・・」としどろもどろに答えた。 「何で?」 衛は体制を変えることなく、同じような調子で尋ねた。圭は両手をきっちり膝の上に置いて、うつ向いたままだ。周りから見れば、先輩からいじめられている後輩、もしくは警察に尋問を受ける犯人のような図だ。 「あの、僕が、その、まだ・・・ど、童貞だって、言ったら・・・その、そんなの引きずってんなって・・・それで・・・そういうことに・・・。」 「なるほどね。」 圭が言い終わらないうちに、ドサッと背もたれに凭れかかると、あきれたような、少し安堵を含んだようなため息を吐いた。 「良い言い訳ができたわけだ。」 あの。と言って、困惑気味な圭に、衛はフッと笑った。 「あいつはゲイじゃないよ。男でも女でも関係なく、うまい理由が見つかったらする。それだけ。まあ自分から抱くことはほとんど無いけどね。」 圭は何と言っていいかわからず、はあ、と返した。 「だから、ゲイの道に引きずりこまれることを心配してるんなら、大丈夫だよ。」 いや、別にそういうわけじゃ・・・と圭は頭をかいた。衛はでも、と真剣な顔になって話を続けた。 「もし、ニシハラがあいつを気に入ったんだとしたら、やめておいたほうがいい。言い訳が通用するうちは抱かれてるけど、言い訳出来ない状態になった途端に切れるよ。あいつはいつでも切れる状態でいたいんだ。誰にも一定以上近づきたくないのさ。」 それから圭は、部屋に帰るまで終始無言だった。 --- 君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・21 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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