塾の教室で一波乱■ 塾の教室で一波乱私が担当していた教室でこんなことがありました。 ある日、全ての授業が終わり片付けをしていたときに、小4の女の子の保護者からお電話がありました。 「うちの娘が、泣きながら手紙をわたしてきたんです。 塾で見つけたその手紙には娘の名前と『死ね』と書かれていて・・・。 先生、話を聞いてやってもらえますか? 私もくわしく聞いてみます。 こんなの気にしないでがんばろうねと言ったら、 うん。もういい。って言うんですけど・・・」 と。 私はとにかくびっくりしまして、すぐに翌日の授業の時間よりも早く教室に来てもらえるようにお願いしました。 仮にその女の子の名前を「菜穂」とします。 翌日、早めに来た菜穂さんは、くしゃくしゃになったルーズリーフ1枚を差し出しました。 そこにはシャープペンで「菜穂 死ね」と書かれていました。 そして、菜穂さんは「たぶん詩織ちゃんだと思う。」というようなことを言いました。 菜穂さんと詩織さんは元々幼馴染で、菜穂さんの方が先に入塾してきて、半年後に詩織さんも入塾。 菜穂さんは小4としては平均的な学力です。明るくて友達も多い。 詩織さんは、やや精神年齢が高めというか落ち着いたお姉さんと言う感じです。 学力は高く、授業で積極的に挙手することはほとんどないのですが、よく理解しているのはきちんと整理されたノートや提出されたプリントなどを見ればよくわかります。 二人はほとんど毎回いっしょに塾にやって来ているし、よく小さなメモのような手紙を交換しているのも見かけていたので、私達は二人は仲良しなんだと思っていました。 ですので、ここで詩織さんの名前が出てくるのに驚きました。違和感。 講師や大人の前での振舞いと子ども同士の中では別という子は多々いますので、断言はもちろんできませんが・・・詩織さんが犯人というのは彼女の誤解ではないかと思いました。 「詩織ちゃんとは仲良しじゃないの?けんかでもしたの?」 「・・・わからない。」 「どうして詩織ちゃんだと思ったの?」 「他の人じゃないと思ったから。」 「これ、どこで見つけたの?」 「教室の後ろのゴミ箱。くしゃってなっていたけど私の名前が見えたから拾って開いた。」 ちょうどそこへ詩織さんが教室へやってきました。 菜穂さんと私のいた個室とは別の教室へ詩織さんを呼び、 「ねぇ、変なこと聞いてごめんね。菜穂ちゃんと最近けんかした?」と聞きました。 「・・・。けんかはしていないけど、最近菜穂ちゃんに避けられてる。」 「そうなんかぁ。何か心当たりある?」 詩織さんは首を横に振ります。 「なんか菜穂ちゃんね、変な手紙もらったって悩んでるみたい。」 「悩んでるん?だから私の話しかけたん聞こえんかったんかな・・・。」 「詩織ちゃんは菜穂ちゃんのことどう思ってる?」 「私は菜穂ちゃん好きやねんけど・・・なんで私のこと避けてるんかなぁ・・・。 なんか怒らせてしまったんかな。今日もいっしょに行こうって言ったけど、用事あるからって言われた。」 と詩織さんの目がうるうるしてきました。 「菜穂ちゃんさ、『死ね』って書かれた手紙もらったんやって。」 「え??えぇ!!ひどい!そんなん。」 詩織さんは、そんなひどいことを私の友達の菜穂ちゃんにする人がいるなんて許せない!というような感じです。 決してごまかすとかそういうのではなく。 やはり詩織さんは全く無関係のようです。 とにかく詩織さんだと思っている菜穂さんに、手紙の主は詩織さんでは決してないということそれだけはちゃんと伝えないと。 「菜穂ちゃんは、何か詩織ちゃんについて誤解してるところがあるかもしれないから、それは先生からも話してみるね。早く仲直りできるといいね。」 と、ひとまず詩織さんは教室に戻りました。 もう一度「菜穂 死ね」と書かれた紙を見て、やはりなんだか違和感を覚えました。 ちょうど算数の講師が会議を終えて教室にやってきました。 事情を話し、あのメモを見せました。 算数では毎回、宿題のまちがい直しをさせる復習ノートをチェックしています。 講師は、しばらく見て言いました。 「これ、詩織さんの字では絶対ないわ。あの子はノートの罫線無視して字書けないタイプというか。 つーか、これ菜穂本人の字と思うけど。」 私はちょうど全員集まった小4のクラスの生徒に白い紙を配り、 適当に話をしてこじつけながら、 「みんなこのクラスで、よくしゃべる順番に上から名前書いていってくれる? 男子とか女子とかであまり名前を知らなくて名字だけとか名前だけでもいいから。 どのぐらいの人間関係ができてるんかな~と思って。 それに、仲良し同士宿題写しあいとかしてもこれで先生把握したからバレるよ~。 そんなバカなことしないと思うけどね、念のため。」 素直にみんな書いてくれたので、それを確認してみると、 女子は全員菜穂の名前を書きましたが、 全員「穂」の字は書けず、「なほちゃん」とか「菜ほちゃん」という書き方でした。 前日ゴミ箱は掃除したばかりですし、そうすると使用したのは小4のこのクラスのみ。 この手紙、菜穂自身が書いたことはまちがいなさそうです。 そして、よく考えてみたら、本当に塾のゴミ箱でこのメモを発見したとしたら、 菜穂さんの性格からいくと真っ先に私のところへ持って来てうったえるはずです。 毎回授業前後には、学校であったことやテレビのこと、好きなキャラの話をしにくる彼女がこの件だけひたかくしにして、家で母親に泣き出して訴えた・・・というのは、不自然です。 授業後、菜穂さんに改めてメモの発見時の話を聞いてみると、授業前に聞いたときとくいちがうことがいくつもありました。 いくつも問いかけると、とうとう自分で書いたことを認めました。 幼馴染の詩織さんが自分よりも後に入ってきたのに、テストで自分よりもいい点数をとったことに焦ったこと。 自分の母親が、詩織ちゃんの母親に自分のことをのんびりさんで困ると言っているのを聞いて、詩織さんを悪者にすれば自分の味方をしてくれると思ったこと。 3歳の弟はみんなにやさしくされてて羨ましいこと。 私は叱られてばっかりな気がすること。 理科の講師が、詩織さんのノートがきれいだと皆の前で誉めたことがくやしかったこと。 (理科の講師は女子に人気がある。) 詩織ちゃんは悪くない・・・詩織ちゃんみたいに私もなりたい・・・。 と泣きながら言っているので、詩織さんに一生懸命謝ったらきっとわかってくれるよ。 と。 そして、菜穂さんのお母さんに電話を入れました。 事情を順を追って話ますと、 「実は最初にメモを見たときに、ちらっとそんな気がしたんです。」と。 「でも、泣きながら訴える娘を頭から疑うことをしたらいけないような気がして、味方だよというスタンスで電話を掛けて先生に相談させてもらいました。相談するところをあの子に見せたというか。」 私達に電話をしているすぐ横に菜穂がいたので、お母さんの頭をよぎったことまで詳しくは私達に話せなかったようです。 最近、今まではノータッチだったお父さんも点数や宿題に口を出すようになったこと、3歳のまだ小さい弟に対してはおじいちゃんもおばあちゃんも甘いので、弟がお菓子食べたり、テレビを見ているときに、一人塾へ行くのも本当はすごくがんばってたんですね。 ほめて欲しかったんですね。よしよしってして欲しかったんですね。 反省します。とおっしゃっていました。 自分を見て! 私も誉めて! あの子ばっかり誉めないで! 彼女なりのSOSだったのですね・・・。 こんな形はもちろんよくないですけど、それに至った彼女の気持ちを考えるとね。 精一杯自分を優しく受け止めてくれる方法を考えたんでしょう。 優しくよしよしとなでて欲しいイチバンの相手がお母さんだったから、お母さんに見せたのだろうなぁ。 最初は、小4の子どもが自分の名前と「死ね」なんてメモを自作自演するなんて・・・と信じられない思いでしたが。 何年も前のことなのによく覚えています。 その後、間もなく菜穂さんと詩織さんとは仲良くいっしょに来るようになりましたし、お母さん同士も仲良くされていました。 (お子さん同士が仲たがいをして、親御さん同士が仲たがいして、子ども同士は仲直りしても親同士はできないというケースもけっこう多いんですけどね・・・。) 難解な問題をすらすら解くようになっても、生意気な口をたたくようになっても、そこは年端もいかない小学生。 わけもなく甘えっこでありたいときもあるようです。 いっしょにお風呂に入るとか、いっしょに眠ったら子どもの顔に戻るよなんておっしゃるお母さんもいらっしゃいました。 両親とおやすみのハグは絶対に欠かさないというお宅も。 親が自分のことを大好きであるという当然と言えば当然のことですが、それをちゃんと実感している子は、頑張りぬくパワーにつながると思います。 ときには無条件に大好きなんだよって、実感させてあげるのも大事かもしれませんね。 小さいときのアルバムやビデオ、ひっぱり出してみませんか? 私も大人になってからですが、子どもの頃の写真を見ながら、写真って、映っている自分を見つめる親の視線を形にしたものなんだなってことに気づいたときなんだかすごく大きな安心感というか、幸せな気持ちに包まれました。 応援してくれてありがとうございます(*'-'*)/ →TOP(FREE PAGE 記事一覧)にもどる。 →次の記事「叱り方テクニック」を読む。 ジャンル別一覧
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