カテゴリ:授業風景
先日、大学の授業の中で、絵本を読んできました。
いい大人相手に、絵本の読み聞かせです。 その前の週に読解力とは、書いてある情報を受け止めるだけではなく、その表現をした真意や経緯にも思いを馳せることでもある、相手を知ろう、相手の考えや気持ちを正しく理解しようとする気持ちを育てることでもあるというような話をしたんですね。言葉もだけど、しぐさや視線もそうだし、絵にも読解力が必要な場面もあるよと。 例として「千と千尋の神隠し」のこのシーンは、こんな解釈もできるよねなんて話をしたら興味を持ってくれたみたいで、深く意味を探るという感覚が楽しかったようでして、 それなら、イラストや平易な日本語のメッセージを奥深く読み取ろうと、そして就活を控えた大学生にはやはりこれだろう~と「ぐるんぱのようちえん」にしました。 最初はプロジェクターに映し、読み聞かせしました。 気づいたこと、受け取ったメッセージをメモにとりながら、聴いている学生。 その後、私の方でいくつか解説をしました。 1・最初のシーンで、ぞうのぐるんぱが寝そべって泣いています。 「ぐるんぱは、きたなくてくさいにおいもします。」「さみしくてないています。」 2・次のシーンでは、周囲のぞうたちがぐるんぱを励ましたり、叱ったりしています。 ぐるんぱは、そのシーンでは座っています。 3・次のページでは、たくさんのぞうたちが川でぐるんぱに水をかけていて、その次のページでは、 ぐるんぱは、にっこり笑って歩いています。 ここまででもいくつか説明をしました。 1…「ぐるんぱは、きたなくてくさいにおいもします。」という表現だけど、 「自分を磨く何一つの行動をしていない」ってことだね。 寝そべって不満を述べているだけでは、孤独は癒されることはない。 2・3…周囲の人の励ましや注意は、そのときは厳しかったり面倒に感じるかもしれないけれど、行動のきっかけになっているね。寝そべって泣いていたぐるんぱが、彼らの励ましで、水をぶっかけられたりもして、文字どおり「磨かれている」ね。一人では泣く事しかできなかったけれど、笑顔で歩いて行けるようになった。 人との関わりの中で、人は自分の魅力を磨き、前に進む力を得るということがイラストと短い文で伝わってくるね。 この後、ぐるんぱは、ビスケット屋さんのびーさんのところなどのお店で仕事をしますが、どれもはりきって大きすぎるものを作り、失敗して「もうけっこう」と言われてしまいます。 「しょんぼり」しながら、自分の作った大きすぎるビスケットなどを持って出ていきます。 お皿やさんでも、くつやさんでも、ピアノやさんでも、車やさんでも。 「しょんぼり」を重ねて、ぐるんぱは落ち込みます。 「ぐるんぱは、なきそうになりました」とあります。 5つものお店で失敗して、「なきそう」になります。 最初の孤独のシーンでは、涙が落ちました。でも、ここでは、泣きそうだけど、泣いていません。 何もしないで人とも接する事のない孤独の方がつらいってことを示しているのかもしれません。 ここで、なぜうまくいかないのか、学生は考えました。 「はりきって」はいるけれど、ひとりよがりであること。 お客様やお店がどうあるべきかを考えず、自分がしたいことをしているだけでは仕事として成立していないという意見が出ました。 そうですね。 この後、たくさんの子どものいるお母さんに子ども達と遊んでやってくれと言われて、ぐるんぱは歌います。 ピアノをひいて、歌い、子どもたちを喜ばせることができたときに、「ぐるんぱのようなひとりぼっちだった子」も集まってきます。 このとき、ぐるんぱは、前に自分を励まして力づけてくれた側の役割を果たしていることがわかります。 「相手のためになること」が意味のあること、自分にとっても喜びであることに気づきます。 周囲に気を配らず一人で作りたいものを作ったお店のシーンと対比が浮かび上がりますね。 そして、ぐるんぱは今までの自分の作品で幼稚園を開きます。 大きすぎるお皿はプールに、大きすぎるくつはかくれんぼにぴったり。 ここまで、ぐるんぱはたくさんの失敗をしてきました。 その失敗の作品を背負っているイラストも何度も出てきましたね。 この背負うというイラストにも大きな意味を感じます。 失敗でもその経験は自分のものになるということ。 その経験は、自分の一部であること。だから、放り出さずに持って行く。 その失敗の数だけ、めぐりめぐって気づけること、自分の役に立つことがある。 たくさんの経験が、ぐるんぱの場合はたくさんの子ども達を楽しませる遊具となって活きています。 学生の授業の感想、いつもに増してびっしりと書き込まれていました。 ・言葉通りにしか読み取ってこなかったことに気づいた。自分はもっと奥深く読み取る力をつけたい。 ・自分は「しょんぼり」を避けるとこがいい人生だと思っていたけど、ちがうと思った。しょんぼりすら持っていないまま社会に出たら何もないままなんだな。失敗も含めて、経験していこう、挑戦していこうという気持ちになった。 ・こんな素晴らしいメッセージを小さい頃にくれていたのかと、読んでくれた母親や幼稚園の先生に感謝の気持ちでいっぱいになった。 ・最初はさっぱりわからず、単なる繰り返しの典型的な絵本の話だと思ったけれど、解説聴いていたら、なるほど、納得の連続だった。 納得したということは、潜在的には受け止めていたと思うよと言われて、たくさんの本を読みたくなった。 ・挑戦して、経験した先に、いい結果に繋がっていく、それが自分だけでなく周囲の人にとっても嬉しい結果であることもあると思うと、失敗するのも悪くないな、するなら早いうちがいいような気がしてきた。 ・普通にお説教みたいに言われるより、素直に受け止められた。自分が最初のページのぐるんぱと重なった。前に進みたいと思えた。いつか必要とされるときに、何か持っているようでありたい。 ・途中の店で働くページで「先生、就活と絡めたんだな」と思ったけれど、それだけじゃなくたくさんの深いメッセージがあって、改めて絵本などに触れて、とりこぼしたメッセージを受け止めたくなった。 ・めっちゃ気に入ったので帰りに本屋で買います。 小難しい論説文の読解問題で練習するのもいいですけどね、たまには、童心に戻って、丁寧に紡がれた良質な日本語の文章とイラストに浸って、深く味わうということもいいですね。 夏休みに読書の機会も作れると思いますが、どうか義務感だけでなく、楽しみや味わいがそこにありますように。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年07月22日 08時43分05秒
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