中二病戦争 ep.10
次の日。朝。ガラガラ…。静かに教室の戸を開ける。ツカツカツカ…。静かに中央へと進む。パタン…。出席簿を教卓に置く。………「出席を取ります。」我ながら、感情のない声。「梅崎くん。」「…、はい。」抑揚のない返事。でも、意味もなく、それは続く。……「…桜坂くん。」……桜坂、犬くん。…「桜…坂、…くん。」…返事が、ない。そりゃ、そうだよね。来れるワケ…、ないよね。でも…「桜…、坂…」生徒たちが、少しざわつき始める。…、ごめん、ごめんね…ごめん…「桜…」-パタン。出席簿をおもむろに閉じる。初めての、朝の義務の拒絶。………ふぅ。顔を上げる。今日初めて、生徒たちの顔を見る。サングラスをかけた生徒たち。ソリコミを入れる生徒たち。私ではなく、ある1人の生徒に崇拝の眼差しを向ける生徒たち。…はは。もう…、よく考えなさいよ奈緒美。こんな、こんな中学2年生見たことないよ。自分の不甲斐なさを改めて痛感し泣きそうになる。…でも、そんなことしたって何にもならない。足が震える。膝が笑う。でも、…もう逃げたりしない。「桜坂くん…」震える声を絞り出す。「桜坂くんが 今日休みの理由を 知ってる生徒。 手を挙げて。」生徒たちを見下ろしながらそう、問う。一瞬にして生徒たちの目が私に向けられる。無機質な、なんの愛も感じないモノクロの眼差し。結果は当然…、誰もその手を挙げない。…そりゃ、そうよね。手を挙げなきゃ、バレないんだもんね。でも、…でもね。私は、誰が犯人か知ってる。「…分かりました。」別にここで何かを期待していたワケではない。ここで全てが解決するなんで思っていたワケがない。でも私は、教師として絶対にこれを、解決する義務がある。-ザワザワ…何も知らない生徒たちが次第に騒ぎ始める。………し、「静かにっ!」…きっと、教師人生の中で1番怒鳴った瞬間だった。生徒たちの動きが止まる。静かな、重い空気が作られる。「今日、桜坂くんが学校を休んだ理由を 先生は知っています。」息を整えながら、事実を伝えていく。「そして、先生の他にも その理由を知っている生徒がいることを 先生は知っています。」私の大声にビビったのか珍しく真剣に話を聞く全生徒。「ここで、誰とは言いません。 ただ、その生徒たちに言っておきます。」チラリと、訴えかけていくように松竹梅の逆の順序で、静かに睨みつける。「あなたたちが犬くん…、 桜坂くんにしたこと。 先生は、絶対に許しません。」昨日の犬くんの姿を思い出し私は無意識に手に力を入れる。「もしあなたたちに 反省の色が見られないようなら… 先生にも考えがあります。」夢見ていた明るい中学校教師生活。それが少しずつ壊れていく。…こんなはずじゃなかった…、でも…「悪事、身にかえる。」あの3人に向けた脅しにも似たメッセージ。「覚悟しておきなさい。」心を鬼にして、誰を睨みつけるでもなく鋭い目つきでそう言い放つ。思い描いていた教師像とのズレに落胆し、また泣きそうになる。でも、なんだか初めて教師らしいことをした…ような気もした。「…では、朝礼を終わります。」出席を途中で終えたことなどすっかり忘れるほど頭の中がいっぱいでとにかくこの場から1度身を離したかった。ツカツカツカ…再び教室のドアへと今度は少し駆け足で進む。……「…面白そうじゃん。」廊下へ出る直前に私の耳に、誰かの声が届く。誰かの声…?あの子しかいないでしょ。振り向くとそこには1人席から立ち上がり私を睨みつける生徒が1人。言うまでもない、…松浦虎夫。「…何のことだか知らないけどさ。 受けて立つよ。…先生?」私の脅しに怖がる様子もなくなんならすこし嬉しそうに笑いながらそう言ってのける彼。身の毛がよだつ…。行き場所のない感情が湧き出てくる。…ふと教室を見渡すと、クラスの生徒全員が体を私に向けて、私の方を睨みつけていた。初めて見た、クラスの異常なまでの一体感に私は身を引き、たじろいでしまう。…でも、もう、…逃げたりしないと決めた。これは、あの子を助けるため…私のけじめのため…そして最後は必ずこのクラスに充満するウイルスを中二病を、払拭してみせる。最後に1度、クラス全員を見まわしてからそのまま静かに廊下に出てゆっくりと歩き出す。コツコツ…。胸に手を当てる。こんなにドキドキしてたんだ…私。コツコツコツ…。不安で頭がいっぱいになる。どうしよう…、どうしよう犬くん…。…………コツ-。「…戦争ね。」独り言のように、小さく呟く。-第1幕 完----------------------------------------------- 1日1回ポチッとクリックしていただけると嬉しいです♪ランキングポイントが加算されてランキング向上に繋がります!よろしくお願いします~m(_ _)mby Kuneko