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空想世界と少しの現実

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緋褪色

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此処に店を開店してもうすぐ一年か。親父の協力が無かったら、資金面でかなり苦しかったな。小さく溜息をつく。

俺の夢を話した時に、親父から釘を刺された。
「お前が私の会社を継ぐまで10年の道楽期間をやる。しかしその期間を過ぎたら、必ず私の元に戻って来い。資金面は心配するな。協力はしてやる」

所詮俺は籠の中の鳥かよ。何でもかんでも長男だから、俺に会社を継げって言うのはおかしいんじゃねえか!反発し心の中で呟く俺。
だけど口に出す事が出来ないのは、親の脛をかじっているからだ。

畜生!金持ちっていう奴は、常に金銭をちらつかせて揺さぶりを掛けやがる!
そんなやり方汚いぜ!一方でそれが実に効果的なことも解かっているさ。
経営者としての教育を、幼い頃から教えられてきたからな。

親父の会社に入りたくない理由はたくさんある。二世が会社を継ぐ事に対する批難や批判。
全国のコンビニを、総合管理するという内容にも興味がない。
俺は24時間経営のコンビニとやらが嫌いだからな。

全く・・・経営者の息子じゃなかったならよかったのにな。いくら溜息をついても、
変わることのない現実に押しつぶされそうな心。

タイムリミットのある自身の夢。親父をぎゃふんと言わせてみたいぜ!
親父が会社を一代で築き上げる事が出来たんだ。
俺だって、この世界で成り上がって見せるさっ!!

閉店後灯りを落とした店内で、レジカウンターにもたれかかってぼんやり考えていた。

コンコンコン・・・入り口のガラス戸がノックされる。三回のノックは浄瑠璃が来た時の合図!!嬉しさで心が弾む!
今晩約束していなかったのにっ!!浮き足立ってるよ俺!苦笑して、慌ててガラス戸に向かって駆け出す!

施錠を外すと浄瑠璃が微笑んだ。
「すみません遅くに。もう居ないかと想いました」薄く微笑む。

頭を右手で掻きながら、「いや構わないさ。お前の訪問なら大歓迎だ!」
柄にも無く照れていた。お前の顔を正視出来ないなんて、まるで初めて会った時みたいだよ。


「白雅、どうしました?」問いかけると少し赤くなっている頬。いつも強気で感情を面に出さず、クールに装っているのに、僕には素の表情を見せてくれるんですね。嬉しいですよ。心が温かくなるような優しい感情に包まれる。
「お邪魔してもいいですか?・・・」


浄瑠璃

「悪い気がつかなくって!」慌てて浄瑠璃の背中を右手で包んだ。白く長い柔らかな髪が手に触れて、自身に起こる熱情を強引に押さえ込むっ!!おいおい!やべぇな・・・

女性のような風貌の、浄瑠璃に心を奪われている俺。お前が好きだって言ったのは学生時代だったな。告白にびっくりして顔を凝視する奴に、「俺・・・変か・・・」そんな言葉を発するのが精一杯だった。

浄瑠璃と白雅

少し俯いて、
「いいえ、変じゃありません。今まで同性に告白された事、何度もありましたから。でも貴方は、そういう類の方に見えなかったので・・・」

困惑した表情で、頬を赤くする浄瑠璃。俺までつられて真っ赤になったんだよな・・・

「白雅、貴方の考えている事、手に取るように解かりますよ。昔を想い返しているんでしょう?」
僕の問いかけに
「ばれたか!」と肩を竦める。「正直な人って好きですよ」

「なぁ・・・そろそろ、もう一歩踏み込んだ関係になれねえのかな?俺達」耳元で呟くような問いかけをする。

「プラトニックからの脱出ですか。それには全てを犠牲にする覚悟がないと。身も心も、貴方に預けてもいいと思えないと出来ません」


きっぱり言い切る浄瑠璃。「お前の事、本気で好きなのにな」
切なくて少し凹む俺に、
「白雅、貴方がこの世界で登りつめた時、側に居るのが浄瑠璃という最高のバトラーで在りたいです。貴方専属のバトラーになるために、必死で精進をしているんです」

「遺伝子を残す為の結婚もするのでしょう。世間体がありますからね。貴方はいずれお父様の会社を継ぐ、大切な跡取だと、白雅も僕も十分過ぎる位理解しているのですから。
2人がずっと離れずにいられる方法は、最高のバトラーになることなんです。
僕の覚悟はもう決まっていますよ。白雅、貴方の覚悟は決まっているのですか?・・・」


「あったりまえだろっ!!決まっているさっ!!」「本当に?」「本当だっ!!」

「ムキになるのは、君が虚勢を張っているから。それじゃ本気じゃないですね」冷たく言い放つと、白雅がしゅんとなる。「少し言い過ぎました、ごめんなさい・・・」背中の手が離される。

彼だけが歩みを進め、店の中央に取り残される。今まで何度も繰り返されてきた同じ会話。
レジカウンターに立った彼は、カウンター越しに僕を見つめる。


「なぁ、浄瑠璃。此処にある黒の置き時計、YOnoBI(ヨウノビ)から発売されている、ダンシング・オン・ザ・ウォーターって言うんだ。綺麗だろ、木が使われていないのに漆塗りなんだぜ!他に朱と溜があるんだ!」レジ横に置いてある時計を指し示す。

Dancing on the water

「俺さ、こんな商品みたいにインパクトの強い服をデザインして、それを安い値段で多くの人に購入してもらいたいんだ。皆に『白雅のデザインした服はデザイン機能性が優れていて、尚且つ、値段もリーズナブル!』万人に、そう言ってもらえる商品を作りたいんだ!」

「お前がバトラーで登りつめるなら、俺はアパレル界で登りつめる。だから待っていてくれ。必ず浄瑠璃という最高のバトラーを、俺の専属にさせてみせるから。お前に伝わるかな、これってプロポーズなんだぜ!」


白雅の言葉に耳を傾け、小さく頷くと、カウンターから歩みを進め、背中から僕を抱きしめる!

浄瑠璃と白雅


「お前が好きだ・・・だからずっと側にいてくれよな。お前無しじゃ俺は、此処まで来る事すら出来なかったんだから・・・」


からかいへ





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Last updated  2008/08/29 03:11:15 PM
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