カテゴリ:現の証拠
当然だ、俺は生まれた時からそういった境遇なんだ。
だから俺は仕方ないとして敦也は違う、すなわちこれが普通の反応なのか。 いや、俺は普通にならなければならないはずだ。 俺、私。 私はあの人にそう言われたはずだから。 私、俺。 自分の意思は、思えばどっちなんだ? 背筋が凍る。 自分が自分だと信じられない。 こんな恐怖があるか。 「正宗?正宗?大丈夫かい?」 「あ、ああ。すまない、俺も熱くなった。悪かったよ」 本当に今日はらしくないと自分に呆れた。 それにしてもこの男は口癖のように大丈夫かと聞いてくる、そんな言葉なんて求めちゃいないのに。 ともかく、長瀬敦也はマイペースだった。 「気にしてないから大丈夫、それにしてもこう冷静に振り返ってみると大変だよね。警察とかってニーズ大丈夫なのかな?」 「あまり良くはないだろうな、だとしても問題はないだろう。それに今回は警察の話しで動いてたはずなんだから」 「そうだよね、でもあの人はなんかこう・・・うまく言えないけど」 「そうだな、ともかくニーズに報告だ。とっとと買い物を済ませちまおう」 俺は敦也がもってきたハンバーガーを手早く口に運ぶと席を立ちあがった。 慣れてきた、なんて言えばいいのか。 形は違えど、僕の目の前に唐突に現れた警察を名乗る女性。藤咲正美とのやりとりに僕は必要以上にあわてふためいていた。 確かにどんな人でも警察を名乗る人なんて出てきたら萎縮して、それこそ悪い事なんてしてなくても挙動不審になるかもしれないけど、やましい事がないわけではないといえ、今の自分は過剰すぎだ。 藤咲正美とのやりとり。 と、いうよりも一方的な藤咲正美の誘導尋問のようだったけど。 加藤の事については嘘はついてないはずだ、何せ加藤とは関わり合うという以前に加藤自身が燃え尽きてしまったのだから。 事故とかの証拠などを付きつけられた時はさすがに焦ったけど、だからといって僕が慌てるというのもおかしな話しだと思った。 なので普通に接したつもりだったんだけど、正宗には何か気に入らなかったようだった。 とはいえ今は機嫌を直してくれたのか、いつもの正宗だ。 「敦也、とりあえず要り様な物を買っちまおう」 そう言って正宗は片っ端から店に入るのをやめて、自分が興味のある店にだけ目をこらすように店を物色しはじめる。 となれば時間はかからなかった。 「敦也、敦也はどれがカッコイイと思う?」 結局、正宗が選んだのはこの前着ていたものと変わり映えしない革のジャンバーだった。 「どれが、って言われてもどれもこの前に着てたのと同じようにしか見えないんだけど・・・」 「そうか、そうだよな。俺もそう思う。でもな、この革ジャンって奴は最初は固くて動き難くても、慣れてくれば自分の体の一部のようになるんだ。まるで同化するようにな、それに丈夫だし、何よりこれだけ羽織ってれば普通の奴は俺によってこなくなる。これを着て寄ってくるような奴は殴ってもいいような人種だって不死子がいってた。俺も今までの経験からそう思う」 「そう、よくわからないけど。じゃあ、せめてワンポイントあったほうがいいかな?」 僕は幾重にも重なって陳列される革ジャンをサッサッとめくっていくと、一つだけ目を引くデザインがあった。 墨汁でもぶちまけたような真っ黒い生地に、クッキリと浮かび上がる白い髑髏。 白骨であるしゃれこうべは確かに怒りの表情で、口から桜の花びらを吐き出していた。 正直、デザインのコンセプトは意味不明だけど、その背中に大きくあしらった大胆なデザインはとにかく奇抜で目を引いた。 続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.01.02 00:12:16
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