現の証拠 3-9
「それがカッコイイのか?随分と派手な気がするが、こういうのがいいもんなのか。サイズもあいそうだ、よしこれにしよう」 正宗本人は気に入っているのかイマイチ掴みとれないけれど、全く迷う様子もなく全盛期のシュワルツネッガーのような筋骨隆々の店員のところに持っていくと、包装するのを断って正宗は髑髏の皮ジャンを羽織った。 手渡した金額を見て僕は愕然とする。 値段は確かに見なかったけど、正宗は6万円もポンと支払って涼しい顔で戻ってきたのだ。「正宗、それっていくらだったの?」「ああ、6万5千円だった。店員がいい奴でな、6万にまけてくれたんだ」 正宗はこっちの気持ちなんてまったく気がつかないでそう言った。「だって、それでも6万円だよ?」「ん、だってお前が気に入ったんだろコレ?」 どうしよう、正宗の言ってる事がサッパリわからない。 自分の買い物なのに何で僕が気に入った物を買うのだろう。そのくせ、革ジャンという選択肢を強行したのは正宗だ。 まったく、わけのわからないまま買い物に付き合わされて。 そして買い物の終わりもまったくわけのわからないものだった。「はっはっは、そりゃ災難だったじゃん」「そうじゃろう?まったく最近の若いもんは人の見た目ばかり気にするからいかんのう」 事務所に戻れば、ドアを開ける前から楽しそうな笑い声が扉からもれていた。 一人はニーズの物、もうひとつは記憶にあるものの思い出せない。「ただいま戻りました」「おかえり~」「おお、やっと戻ったようじゃのう。そしてわしもただいまじゃ。ほれ、ねぎらいの挨拶をせい」 めったにお目にかかれない黒い着物に、茶というよりも紅色に近い長い髪。 その長さは少女のくるぶしまではありそうで、その髪は二本の三つ編にまとめられていた。 背の高さはニーズと同じくらいだろう、大人びた印象を受けるニーズの顔立ちとは違い、彼女の顔立ちは少女その物。 なのにそのクリッとしたツリ目の力強いく優し印象といったら、まるで全てを見透かす賢人を思わせる。 その目の持つ深さだけで、ニーズ同様にかもしだす雰囲気は少女というよりも大人の女性そのものだ。「何がねぎらいの言葉だ、俺達はさっき警察に尋問まがいの事をされたんだぞ」「い、いきなりなんじゃ正宗。そんなに目くじらを立てなくてもよかろう、わしとて警察全部に顔が聞くわけじゃないやい。ほれほれ、敦也が困っておるじゃろう。改めてお主にはあいさつをしないとのう」「こら、誤魔化すな不死子!」 正宗の言葉なんてどこふく風でチョコンとソファーから降り立つと、着物の裾をドレスのスカートをもちあげるそぶりを和服の裾で真似しながら一礼をする。「未寝不死子じゃ、といっても挨拶は二度目じゃな」「長瀬敦也です、よろしくお願いします」 そう、僕は一度だけ不死子さんと会っている。 ちょうど不死子さんは何かの会議とかいって、丁度僕がここに入った一ヶ月ほど高野山の会議に出ていたらしい。 そして帰って来て、ここに2、3時間いたかと思えば。早々に警察の人に事情徴収という形で連れていかれてしまった。 不死子さんは警察に、 話しだけ聞きかじるならば、その名前だけで大概の国家期間にフリーパスらしい。 その一回だけ会った、わずかな時間の間に聞いてもいないのに本人が言い出したのだからどこまで本当なのかはわからないけど、おそらく本当なのだとは思う。 理由は何故かと本人に問いただしたら「わしは超VIP待遇じゃからのう」と意味ありげかつ挑戦的な微笑みで返されたのだけは印象に残ってる。「話しを誤魔化すな。不死子、聞いてるのか?」「聞いてますよん、正宗ちゃん。しかし、いいのかのう?わしはお主が喜びそうなみやげ話しを二つも持ってきたというのに」 のらりくらりと話しをそらす不死子さん。 持ってきたという話しよりも、あの正宗をちゃんずけで呼んでるところに驚いた。「・・・何だ、話してみろ」 続く