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カテゴリ:アニメ ('д')
2012年6月19日 19:34:51 イワークがよく語るwww * * * フリットたちは、軒先に置かれた、それぞれ形のちがう椅子に腰をかけた。プラスチックのカップにそそがれた紅茶を口にした。 紅茶はインスタントだが、十分にうまかった。フリットは、ようやく人心地がついた気がした。 天井から低い音がなった。獣のうなり声のようだった。 フリットたちは、天井を見あげた。イワークも、湯気の出るカップを片手に、いまいましげに天井をにらんだ。 「あいつら、調子にのりやがって……」イワークがいった。 「あの戦闘は、なんなんですか?」フリットはたずねた。 「このコロニーが、連邦から特別に自治を認められていることは知っているか」 「2つの勢力が、コロニー内のそれぞれの領域を管轄しているという話は聞いたことがあります」地理の教科書で読んだおぼえがあった。 「あれは2つの自治勢力、ザラムとエウバの争い――戦争ごっこさ」 「コロニーで、そんなことを――」フリットはおどろいた。資源の限られたコロニー国家で、人間同士が戦うという愚かなことが今でもあることに。 「俺の知る限り昔は、あそこまで激しい戦いではなかった。せいぜい、辺境で小競りあいをするぐらいだった。――しかし、ここ数年前からだ。両勢力とも最新のMSを手に入れるようになって、戦いが激化していったんだ」 「でも、コロニーの街で戦闘をするなんて……」 「戦いが激しくなってからは、勢力図も日ごとにかわるようになってな。今では、街なかでも戦闘が起きるようになっちまった」 「もっと、平和なコロニーだと思ってました」エミリーがいった。「街はにぎやかで、人もたくさんいたし……」 「昔はもっと賑やかだったさ……」イワークは遠い目をした。昔を思い出しているのだろう。「もともと、人の多いコロニーだったからな。景気も今より、ずっとよかった」 イワークは、カップの紅茶をのどに流しこむと早口にいった。 「やつらがところかまわずドンパチするせいで、ファーデーンがいかに大きなコロニーでも、安全に住める場所が限られてしまってな。地価は高騰し、金のないやつは地下でくらすしかなくなったんだ」 イワークは視線を落とすと、なおも続けた。 「――しかも、ここは法的には開発がゆるされないため、自由に家を建てることもできない。もっとも、今は不景気のせいで、仕事さえないやつのほうが多いぐらいだが……」 「自治政府や連邦は、なにもしてくれないのですか?」フリットはきいた。 「あいつらが弱者のために動くものか! ……偉ぶってはいるが人のために働くことなんて、考えもしないやつらなんだ。俺たちは、あいつらのせいで、この生活を強いられているんだっ!」 フリットが読んだ教科書にはファーデーンについて、ただ1行「コロニーでは稀な、直接自治が認められている」とあった。それは、こんなにも重い現実だった。 イワークは冷静さを取りもどすと大人の表情になっていった。 「とはいえ俺も、ここの住民も、政府の発注する公共事業がおもな仕事だったものがほとんどでな。今は、予算が軍事費にとられ、公共事業が大幅にへらされちまったんだ。仕事さえあれば、こんなところから出て、キャシアにも薬を買ってやれるんだが……」 「リリアちゃん、鉄くずをあつめてました。お母さんのお薬をかうって……」エミリーがいった。 「そうか……。俺の仕事が安定しないせいで、あいつにまで苦労をかけてちまったな……」 「あなた、リリアを見なかった?」キャシアが家の奥から出てきた。「――おかしいわ。さっきまで、そこにいたのに……」 一瞬の沈黙のあと、イワークはいった。「まさか、あいつ。また、外に出て……」 「外になんて行くかなぁ」デシルが口を開いた。「あぶないのに」 「戦いのあとにでる鉄くずを拾いにいったのかもしれん……。特にMSの機銃からでる“薬きょう”は、高値で売れるんだ。あんな危ないものには触れるなと、きびしく言っているんだが……」 「あー、それじゃあ」デシルに視線があつまった。「行っちゃったかなぁ……」 ズウゥゥン……! 天井から大きな音がした。 「もう1時間以上たっているのに、まだ戦闘が……」イワークは、思いつめたようにいった。「リリアを探しに行く!」カップをキャシアに押しつけると駆けだした。 「僕も行きます!」フリットはいった。「エミリーは、キャシアさんと、ここでまっていて!」 「わかった!」エミリーはこたえた。 「ボクも行くよ!」デシルがいった。 フリットとデシルは、イワークを追って走りだした。 * * * フリットたちは、さきほどの通路とはちがう、地上につながる道を走った。地下の住民が、よく使う道だという。 地上に近づくにつれ、照明が少なくなり、暗くなっていった。立ち入り禁止を示す金網のやぶれをくぐって、3人は外にでた。 立ちならぶビルは、分厚いコンクリートの防御壁に囲まれていた。200メートルほど先で、深緑色をしたザラムのMS“ジラ”と、あざやかな紫色をしたエウバのMS“ゼノ”が戦っているのが見えた。 MSは互いに距離をとり、重火器でけん制しあっていた。2機のジラが、マシンガンの弾を嵐のようにばらまいた。1機のゼノが、ビル陰から、対MS用ライフルの狙いをつけた。大きな爆発音のあと、長い砲身から鋭く弾丸が放たれた。 「リリアッー!」イワークは叫んだ。声は、ライフルの発射音にかき消された。 「手分けして探しましょう!」フリットはいった。 「ん? あれかな?」デシルが指した――2体のジラの巨大な足元に、ピンク色の服を着た子供がいた。 「リリアァッ!!」イワークは絶叫した。 リリアは火がついたように泣いていた。両手には大きな布袋をかかえていた。 「あ、あいつらぁっ!!」イワークは雄牛のように猛って走りだした。 フリットは、自分の腰ぐらい太いイワークの腕にしがみついた。よろめきながらいった。 「だめです! 危ないですよ!」 「なら、どうしろというんだ!」イワークが目の色を変えていった。 「停戦を呼びかけるんです! 今、ザラムもエウバも、リリアの姿が見えていない! マイクかなにかで、足元に子供がいることを教えてやるんです!」 イワークは、跳ねるように顔をあげた。視線の先には、そこだけ壁に囲まれていないビルがあった。窓がない。立体駐車場のように見えた。 イワークは、ビルを見ながらいった。「仕事でつかっている作業用MSがある。あれなら……」 「それで、注意をひきつけましょう!」フリットはいった。 「よし! 俺はMSをだしてくる。フリット、悪いがリリアのこと、たのまれてくれるか?」 「まかせて下さい!」 「恩にきるよ……」イワークは、本来のやさしげな顔を見せた。すぐに厳しい顔にもどると、ビルにむかって走りだした。 * * * ほとんど光が入らない空洞のビルのなか。MSハンガーに固定されて、作業用のMSが立っていた。黄色い塗装は所々はがれ、サビが目立った。 イワークは、ハンガーの側面についた階段を駆けあがった。MSの胸の高さまでのぼると、脇の下にある赤と青のスイッチを操作した。 胸の装甲がまえにひらいた。イワークは、なれた身のこなしで、なかに飛びのった。 コンソールの下に鍵をさしこむ。前面のパネルが光を放った。 「待っていろ! リリア!」黄色いMS――デスペラードの頭部にある、強化ガラス製のヘッドゴーグルがにぶく光った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年07月07日 20時59分47秒
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