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Selfishly

Selfishly

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食後に飲み足りないと、酒瓶を分けてもらい部屋に戻る。
エドワードは職務中に深酒はと、渋い顔をしたがロイにしては、
飲まずには決断できないでいるのだ。


『1度だけと決めた筈だろうに・・・』

先にシャワーを済ませたロイが、寝酒を呷りながら、聞こえてくるシャワーの音に耳を済ませる。
この査察に出る前に、ロイは自分で封じた箱を開け、本来ならもう二度と使ってはならないと
心に誓った小瓶を、持ちだして来てしまっている。
1度だけなら、前回のように深酒を理由に隠せるだろうが、2度・・・そして、3度と続けば、
必ず襤褸が出ることになって行くだろう。

自分は念願を叶えたのだ。 たった1度だけで良いと自分に嘯いて。
その後、一度得た記憶は自分を苛むだろうが、それも時が薄れさせてくれると思っていた。
まさか、夜毎夢で繰り返し体験させられ続けるとは・・・、そこまで溺れる事になろうとは。
夢で消化できない体感は、得る為にロイに行動するようにと指令を飛ばし続けていく。
簡単に言えば、欲求不満を解消しろと言う事だ。
どれほど夢がリアルで、自分に都合が良い展開を続けていけると言っても、
所詮は願望の現われの代行で、溜まる不満はロイの理性を苛んでは、
欲望が声高にロイを詰り、謗り、誘惑するのだ。

『薬はまだ4本もあるんだぞ』と。

効果が覿面なのは、実体験で確証を得た。 だから余計に、誘惑を打ち切れずに、
女々しくも捨てずに封印するだけで持ち続けていたのだ。

『駄目だ・・・。 これ以上、彼を裏切る事は出来ない・・・』

そう決心を付けた矢先に、部屋に備え付けの電話が遠慮がちに鳴り始める。
『軍からか?』
そう当たりを付けて、出た電話から聴こえた声を聞くまでは、
確かに欲望よりも理性の天秤が、僅かに勝っていた筈・・・だったはずなのだ。

「はい?」
もしかの事を考えて、名前は向こうが名乗る前には告げないのは習性だ。

『・・・・・・』

沈黙でしか返らない相手に、ロイは不穏な気配が無いかを探るように。

「もしもし?」

『・・・・・あ、あのぉ、そちらにエドワード、いえ、エルリックさんは?』

控えめな声が、恥じ入るようにエドワードの名前を告げると、
ロイには名を聞かずとも、それが誰かすぐに判る。

「やぁ・・・、久しぶりだね?
 どうしたんだい? 彼は職務中でね、少し手が離せないんだが、
 良かったら私で伺おうか?」

出来るだけ親切な声を出そうとするには、かなりの努力が必要だった。
たった数日の得た時間さえ、我が物顔で侵略されなくてはならないのは、
一重に自分の立場が、彼女より希薄なせいなのだ。
そんな現実が、ロイの理性を震撼させる。

『あ、いえ済みません。 司令部に電話をしたら、
 こちらの方に居ると聞いて・・・、少し心配でかけてみただけなんです』

「そうだったのか。 何大丈夫、彼はピンピンしているし、
 我々も数日後には、動けそうだからね」

『そうですか・・・、あのぉ・・・』

「すまないが、仕事が押しててね。 失礼しても?」

『あっ、そ、そうですよね。 申しわけありません、お忙しい中。
 あのぉ、彼にも無茶しないようにとお伝え頂ければ・・・』

「・・・ああ、勿論だとも。
 ・・・・・・ 伝えておこう」

最後の言葉は、冷たくなるのを抑え切れなかった。
『彼』・・、彼ね。
確かに、彼女にとっては『彼』という言葉だけで、通じる立場なのだ。
ありふれた言葉なのに、何故、立場が変われば、まるでそれが特権のように
言われる言葉になるのだろう・・・。

この憤懣はどこにぶつける事が正しいのか。
彼をロイから永遠に遠ざける相手に対してか?
自分から遠ざけようとする、馬鹿な軍の奴らなのか?
それとも、自分から去る事を、何とも思わないエドワードか?
それか・・・、邪な間違った想いを彼に抱いてしまった自分へなのか・・・。

結局、ロイがぶつけた先は、自分の思いどうりにならない運命に対してだった。
この先、どう足掻いても変えられない運命に、少しだけ逆襲したとしても、
それがどうだというんだ。 所詮、変えられないのなら・・・。

ロイは、自分の鞄に近寄ると、中の奥深くに仕舞っていた小瓶を取り出す。
そして、その後はもう躊躇いなどしない。
素早くテーブルの、エドワードが貰ってきた飲みかけのオレンジジュースに
中身を注ぎ終えてしまう。
無味無臭・・・時を消し去る薬は、その効果同様、存在自体も残さない。

移し変えた空になった小瓶を、また元の場所に戻せば、
後にロイがすることは、ただ待つだけだ・・・また、得れる至福の時を思い描いて。



「あっち~」

備え付けのバスローブに着替え、大雑把に髪を拭きながら
エドワードが浴室から姿を顕す。

「相変わらず早いな」

そう声をかけてやると、上気した頬を手で扇ぎながら
スタスタと部屋を横切って近づいてくる。

「それを言うなら、あんただって鴉の行水だろ?」

どちらも軍人らしく、入浴に時間をかけるようなことはしない。

「私は良いんだ、家ではゆっくりと浸かる事にしているからね」

「俺は、のぼせやすいんだよ! だから、これくらいで丁度」

そう話しながら、机に置かれたままのオレンジジュースに手を伸ばす。
そして、美味しそうに喉を反らせて飲み干して行くのを、
ロイは暗い瞳で、ずっと凝視し続ける。

「はぁ~、上手かった~」

人心地ついたとばかりに、椅子に腰掛けて、エドワードが髪を拭う。

「それだけでは足りないんじゃないか?」

そう言いながら、自分が飲んでいた酒を注いで渡してやると、
逡巡しながらも、受け取って呷る。

「う~ん。 風呂上りはやっぱ、ビールの方が上手いなぁ」

渡された酒に口をつけながら、そんな言葉を漏らすエドワードに、
ロイは苦笑しながら、「君も、親父くさくなったもんだ」とからかいを含めて茶化してやる。

「ほっとけ! で、何か電話なかった? さっき、鳴ってた音が聞こえたようだけど?」

そのエドワードの問いかけに、ロイは用意していたセリフを告げる。

「ああ、対した事は無い。 こちらはどうかと伺う内容程度だ」

「ふぅ~ん?」

ロイには当然、下だけでなく上との付き合いも増えてくる。
足止め状態だとわかれば、伺ってくる者も居てもおかしくはない。

「そう言えば、今度の件が片付いて西方に空きが出来たら、
 君にどうかと言う話が上がっているようだぞ?」

「俺!?」

驚く様子を見せるエドワードを注意深く見つめる。
薬の効果を見るのは勿論の事ながら、彼の本心がどちらを向いてるのかを知りたいと
思う気持ちも、当然ある。

「どうするね?」

その問いには、必要ならロイが後押し出来ると言う意味も含ませてみる。

「えぇー? 別に興味ないし。
 もともと軍に入ってんのだって、あんたに借りを返すつもりからだから、
 ここで出世とかする必要はないしさ。
 ・・・あっ? もしかしたら、俺も出世した方が都合いいのか?」

その問いに、ロイはゆっくりとだが、はっきりと告げる。

「必要ない。 君には傍で補佐してもらっている方が、数倍助かる」

その素直の言葉に、エドワードは少しだけ目を見開いたが、
へへへと嬉しそうに笑って、「そっか」とだけ返して見せる。

「貸しなさい、君、全然拭けてないぞ?」

そう言いながら、エドワードの手からタオルを奪うと、
止める仕草の前にさっさと後ろに回って、髪を拭き始める。

「ちょ、ちょっと・・・、自分でするよ」

抗議の声にも素知らぬふりで、髪を拭き続ける。

「何かなぁー、上司に髪を拭いてもらうなんてなぁ・・・」

困る、立場を考えろよとか、ブチブチと呟いているが、
別段、嫌だとは言ってはこない。
そうこうする内に、コクリコクリと船を漕ぎ始めたエドワードの様子に、
乾かす為に動かせていた手を、ゆっくりと愛撫を意識した動きに変えていく。

「どうして、これだけ私を喜ばせる事を言う君が、
 私のものじゃないんだろうね?」

少しの翳りを帯びた声は、それでも優しげで愛し気にセリフを紡いでいく。
もっとも、囁かれ捧げられた相手は、既に夢の住人になってしまっているようだが。

それに少しだけの落胆と、大きな安堵。
そして、こんな時にしか捧げれない自分へのやるせなさ・・・。
それを解消する為に、ロイは意識の無くなった身体を抱き上げ、
ゆっくりと慎重にベットへと運び込む。



ベットに横たえた後は、慣れた手順でバスローブを脱がせてしまう。
エドワードが起きていれば、手際の良さに悪態を盛大についただろうに、
今の彼は気持ちよさ気に眠っているだけだ。
ロイは眠り姫宜しく横たわる相手に、気持ちが現われているような性急な行動で、
エドワードの頬を軽く叩いて、覚醒を促す。
前回同様に見開かれた瞳には、意志を示す光はない。
どこまでも、けぶるように霞んでいる光が湛えられている。

ロイはゆっくりと指に摘んだ錠剤を見せながら、囁く。

「ほら、覚えているだろ? 気持ちよくなる薬だ、口を開けて」

時忘れの薬は、催淫剤ではないから、目覚めたからと欲情してくれる事は無い。
ゆっくりとその気にさせる事は出来ない事はないだろうが、
薬の効果の時間から考えると、時が惜しいのだ。
抱き合ってそのまま眠りにつけるなら、薬などに頼らずその気にさせたいが、
次の目覚めまでには、全てを覆い隠さなくてはならないとなれば、
隠滅する時間も考慮しての行為になってしまう。

ぼんやりとした様子ながらも、素直に口を開けて薬を飲み込むエドワードに、
褒めてやるようにして、髪やら滑らかな頬を撫でてやる。
こんな風に穏かに愛してやりたいと思う気持ちと、この先を早く早くと急かせる感情とが交じり合い、
誤魔化すように、あちらこちらに口付けを落としては折り合いをつける。
そうこうする内に、体温が上がってきたのか、風呂上りの石鹸の香りが強く香ってくる。
そして、ロイの小さな口付けにも、吐息のような強請るような鼻声が混じり始める。
「んっ・・・ はぁ・・・」

「気持ちよくなってきた?」

そう耳元で囁けば、それさえも感じたのか、フルリと身を震わせて応えてくる。
見開かれた瞳には、普段なら絶対に見られない艶が浮かんでおり、
強請るように薄く開かれた唇からは、熱く甘い催促の吐息が吐き出される。

「君は・・・」

エドワードの醸し出す色香に絶句したようにロイが吐息を吐き出す。
天才とは、男を誘う術さえも常人よりも遥かに効果ある方法を見せるものだ。

★ パソコンの不調か楽○のブログが不調なのか、
  これ以降アップが出来ない状態です~!(ヒィ~!!)
  折角、1章で仕上げたと言うのに・・・。
  お手数ですが、「忘却の枷 3、4」は拍手のお礼分1、2へと
  飛んで行って頂けます様に。m(__)m
  もう、最悪のアップの仕方で、本当に申し訳ありません!!

    ↓「忘却の枷 3、4」はこちらへ
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