テーマ:心の病(7318)
カテゴリ:☆英国びっくり体験記!
日本では、近年自殺件数が急増していることが社会問題化しています。
このニュースはBBCニュースでも取り上げられたほどでしたので、イギリス人にも関心をもって伝えられたようです。 毎日新聞の伝えるところによると、昨年の人口10万人当たりの自殺者数は約27人となり、これは先進国で最悪の水準なのだとか。 ではイギリスではどうなのだろう。また世界は・・・、と思い調べてみると、ちょっと古いですがドイツのヴュルツブルグ大学が行った世界82カ国の自殺率の国際比較(87年~97年のデータ)をみつけました。 そこで、その男女平均と日本の最新のデータから、ちょっと大雑把ですが以下のような自殺率(人口10万人当たりの年間自殺者数)の順位表をつくってみました。 結果は以下の通り。 1 リトアニア 48人 2 ロシア 44人 3 ラトヴィア 43人 4 エストニア 40人 5 ハンガリー 37人 6 スリランカ 33人 6 ベラルーシ 33人 8 スロベニア 29人 9 日本 27人 9 フィンランド 27人 11 ベルギー 25人 11 カザフスタン 25人 13 クロアチア 24人 13 ウクライナ 24人 15 オーストリア 23人 16 フランス 21人 16 スイス 21人 18 ルクセンブルグ 19人 18 チェコ 19人 18 モルドバ 19人 21 デンマーク 18人 21 ブルガリア 18人 23 中国(一部地域のみ) 16人 24 ドイツ 15人 24 スウェーデン 15人 24 ポーランド 15人 27 カナダ 14人 27 オーストラリア 14人 27 キルギスタン 14人 30 ノルウェー 13人 30 ニュージーランド 13人 30 スリナム 13人 33 アメリカ合衆国 12人 33 オランダ 12人 33 シンガポール 12人 33 香港 12人 33 モーリシャス 12人 33 ルーマニア 12人 33 トリニダードトバゴ 12人 40 アイルランド 11人 40 ウルグアイ 11人 42 アイスランド 10人 42 韓国 10人 42 プエルトリコ 10人 42 エルサルバドル 10人 46 ポルトガル 8人 46 イスラエル 8人 46 ジンバブエ 8人 49 英国 7人 49 イタリア 7人 49 スペイン 7人 49 アルゼンチン 7人 49 セントルシア 7人 54 ウズベキスタン 6人 54 トルクメニスタン 6人 54 バルバドス 6人 57 マルタ 5人 57 チリ 5人 57 エクアドル 5人 57 ベネズエラ 5人 61 ギリシャ 4人 61 コスタリカ 4人 61 タジキスタン 4人 61 グルジア 4人 65 ブラジル 3人 65 メキシコ 3人 65 トルコ 3人 65 バーレーン 3人 65 パラグアイ(一部地域) 3人 65 パナマ 3人 65 アルバニア 3人 65 アルメニア 3人 65 コロンビア 3人 65 ニカラグア 3人 75 クウェート 2人 76 ジャマイカ 1人 76 ペルー 1人 76 アゼルバイジャン 1人 76 バハマ 1人 76 ベリーズ 1人 81 エジプト 0人 81 セントビンセント アンド グレナディーン 0人 82カ国平均 12人 さて、これを見ると、日本は82か国中9位、とかなり自殺率が高いことが分かります。 日本より高い国を見ると、旧ソビエト連邦(特にロシアやバルト3国)が際立って多いのが目に付きます。 また、ハンガリーなど東欧諸国は比較的自殺率が高いようです。 先進国だけで見ると、日本がトップですが、フィンランド、ベルギーはほぼ同水準と言っていいでしょう。 この表から一定の傾向を見出す、というのはちょっと難しい気もしますが、いくつか言えることはありそうです。 まず、所得の多さ、というのはあまり関係なさそうに思われます。 近年の日本における自殺の増加には、不況による経済苦が原因としてよく挙げられていますが、日本より経済難な国のほうがよっぽど多いわけですから、それを必ずしも第一の要因に挙げるのは適切でないように思います。 一方で、例外もかなりありますが、高緯度ほど自殺が多い、というのは傾向としては正しいように見えます。 これは、やはりよく言われるように、日照時間が少ないことが精神状態に大きな影響を与えるということを示しているのではないでしょうか。 また、宗教も含めた地域的な文化の違いによる面も大きそうです。 というのも、聞いた話によると、ハンガリーなどでは身寄りの無い老人が自ら山に入って命を絶つ、という風習が古くからあるのだそうです。 一方でイスラム諸国がそろって少ないのも、イスラムが自殺を禁止している、という宗教的理由によるようです。 ちなみに、BBCニュースでは、日本の自殺が多い要因として、失敗したときに命を絶つことで責任を取ることが美徳とされている、と解説されていました。 確かにそれも否定できない部分もあるかもしれませんが、100年以上前の1900年の自殺率は13人、8年前の96年においても14人と、それほど多くなかったことを考えると、ここ数年の顕著な増加は文化的な風習とはいえない要因があるのではないでしょうか。 この自殺問題は毎日新聞の社説にも取り上げられていましたが、そこには以下のように書かれていました。 ーーーーーーーーーーーーーーー ・・・「勝ち組・負け組」といった流行語に象徴されるように、いつの間にか人生を勝負事や他人との競争とはき違えるような風潮が広がっていることが、人々の失意や挫折感を増幅している面も否めない。 (中略) 自殺者の多くが心の病気におかされていることを踏まえれば、精神科医療の充実はもちろん、精神科の患者に対する偏見を一掃し、精神科の敷居を低くする工夫なども求められている。 (中略) 自殺は弱い者の選択、といった考え方は捨て、自殺願望者をこの世に踏みとどまらせられない非力さを省みよう。何よりも若者までが絶望感を抱き出している社会の現実を問い直したい。 ーーーーーーーーーーーーーーー 確かに、近年の日本はアメリカ型の競争社会の原理を導入して不況を乗り切ろうと懸命になっていましたが、その一方で弱者に対するケアはなおざりにされてきたことが背景にあるのではないでしょうか。 よく「自殺するのは勝手だけど中央線にだけはどびこまないでほしいよ」なんてコメントを耳にしますが、日本があまりにも弱者に冷たい社会になってしまった、という気がします。 さて、一方でイギリスの自殺率は、イタリア、スペインなどと並んで82か国中49位。 世界全体の中で際立って低いわけではないですが、82カ国の平均値12人よりはかなり下回って7人となっています。 これは周辺国のフランスやドイツよりもかなり低いばかりでなく、先進国の中では最も低い水準ですし、日照時間が多いとはいえない国にしてはかなり健闘しているといえるのではないでしょうか。 筆者はこの要因を断言できるほどイギリスに詳しいわけではないのですが、なんとなく納得できるような気もします。 というのも、少なくともイギリスにはフラワーレメディなどのように心を癒す、ということにとても力を入れる文化がありますし、仕事よりも生活を中心に生きている人が多く、比較的ゆとりある暮らしをしているように見えるからです。 さて、BBCニュースによると、イギリスではもう一つ、自殺件数の増減に大きく関わっているファクターがあるそうです。 なんでも過去のデータを調べてみると、なんと保守党政権のときより労働党政権の時のほうが自殺率が減る傾向にあるんだとか。 シドニー大学のテイラー教授は、これについて、 「英保守党政権は市場重視の政策をとるのに対し、労働党政権のほうが社会的弱者に希望を与える政策をとる傾向があるためですな。」 と解説していました。 イギリスは日本に比べて、ストライキ権など労働者の権利を重視する社会なので迷惑を受けることも多いですが、こんな隠れた効用もあるのかもしれませんね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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