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FFいれぶんのへたれな小説とか

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February 27, 2005
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「あら」
 扉を開けた老婦は、以前と同じ笑顔でナギサを出迎えた。居間に通され、ウィンダスティーをご馳走になる。
「何度も足を運んでもらって嬉しいですねぇ。この年になると、訪ねてこられる方も少なくて」
 老婦は前にも増して機嫌が良いように見えた。不思議ともう、その姿に嫌悪感は無い。
 だが、認めるわけにはいかない。
 これはもう、意地だ。
「リクレールさん」
「はい?」
 名を呼び、テーブルの上にカップと小袋を置く。その姿を認めたとき、老婦の表情が、変わった。
「これに、見覚えはありませんか?」
「……」
 亀裂の入った笑顔。固まったように、カップと小袋を交互に眺めている。
 やがて目を閉じると、老婦は呟くように、言った。
「……知りません」
「え?」
「そんなものは、知りません」
 今度はきっぱりと、老婦は言い放つ。笑顔の中に見え隠れする、拒絶。それは過去に対してのものなのだろうか。
「知りませんって、そんなはずは――!」
 勢いよく立ち上がったせいで、椅子が音を立てる。
「これでも苦労して取ってきたんですよ。ほら、あなたには見覚えがあるはず――」
「帰ってください!」
 思わぬ老婦の大声に、ナギサは言葉を失った。
 半分開いた窓から吹き込んだ風が、小袋から覗くウィンダス茶葉を、静かに揺らす。
 ぎゅっと両手を握り締め、うつむく老婦。それは、触れてはならない何かだったのか。
 倒れた椅子を引き寄せ、音を立てないように座る。肩肘をつき、窓の方を見やる。老婦は何も言わなかった。
 春の風に静かに揺れる、スィートウィリアム。そう言えば、この部屋には絵が無い。真新しい家具。手入れの行き届いた、簡素な部屋。過去を想起させるものは、何も無い。
「・・・・・・帰りませんよ」
 今更ながらに、ナギサは呟く。トントンと、左手の指でテーブルを叩く。
「・・・・・・」
 老婦は何も語らない。それならば、こちらにも考えがある。
「過去を捨てたからって、どうなるんです」
 静かに余生を過ごす、穏やかな日々。
「このまま全てを忘れたまま、何も無かったことにして」
 それは、偽りの仮面だ。
「あたしはクリスタル大戦の時、まだ母のお腹の中にいました。だから、どれだけの悲劇が、苦しみが、涙があったのか、想像もつきません。そして今も、ただの冒険者です」
 歴戦の英雄に、自分などが説法をするとは思っていなかった。だが・・・・・・。
「でも、祖母や母は、私に聞かせてくれました」
 言っておかないと、気がすまない。
「それはサーガでした。誇り高き騎士が、勇気ある市民が、種族を超え、たった二年の間でも、自分達や周りの人々の生活を守るために戦ったと」
 思い出す。サンドリアから離れた、小さな村。風が静かに本のページをめくり、それを見た祖母は、優しく微笑んでいた。
「あたしは、それを誇りに思っています。憧れも抱きました。騎士団には入れなかったけど、冒険者として、先人の遺志を継ぐのがあたしの理想。いなくなった人のも、全部、背負えるだけ背負って」
 忘れることのできない過去がある。忘れたくない過去がある。だから。
「それなのに、あなたが過去を捨てたら、あたし達はどうすればいいんですか……っ」
「……」
 時に、放たれる言葉は、どんな矢よりも残酷だ。一度言ってしまえば、それはもう、拾い集めることはできない。
 既に射手を放れた言葉は、老婦に何かを伝えることができたのだろうか。
「それは……この、ティーカップは、夫のものです」
 ゆっくりと、老婦は口を開く。いとおしげに、そのカップを撫でながら。
「夫が生前、仲間達に手向けた……龍王様の墓がモンスターによって荒らされ、もう見えることは無いと思っておりました……」
 老婦は何かを諦めたかのように、嘆息する。ナギサはじっと、カップを撫でる手を見つめていた。
「そして、私が備えた茶葉。もう、とうに香りも失せて……」
 ……そうか。
 過去はいつも、遠ざかっていく。しかし目を閉じれば、色鮮やかに蘇る。
 だが、薄らいでいく香りだけは、残酷に時の流れを思い起こさせる。
 老婦が逃げていたのは、そんなものからだったのだろう。
 老婦は、声も上げずに泣いていた。吹き込む風が、静かにその髪を撫でていく。
「龍王の墓で、説教くさいタルタルに出会ったんです」
 その言葉を、思い出す。伝えるべき相手は、目の前にいる。
「時として、過去は辛く何よりも重い。しかし、自分を過去のものにしてはいけない。そう、彼は言ってました」
「……」
 老婦は答えない。だが、慟哭は、風の中に掻き消えるように。
「……言いたいことは、それだけです」
 そう言い残し、席を立つ。
 人の心を変えることは、どんな敵を倒すよりも難しい。それに、自分もこの老婦もかたくな過ぎる。
 それでも、もし、何かを伝えることができたのなら。
「あ、それと」
 扉に手をかけ、ナギサは思い出したように告げた。
「お茶、ご馳走様でした」
 静かに扉の閉まる音。強い花の香りの中、薄れゆく、風の香り。
 老婦はいつまでも、手の中のカップを、じっと見つめていた。





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Last updated  March 7, 2005 04:19:41 PM
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