伝記・ノンフィクションなど

s_book_b 伝記・ノンフィクションなど

NEWロンドン・デイズ(鴻上尚史)☆☆☆ /小学館・287P
劇団第三舞台の主宰者で、演出家、脚本家である著者が、ロンドンの演劇学校で孤軍奮闘した1年間の記録。おもしろい。今までやったことのない方法で、自分を見つめなおしたくなる1冊。見てくれは“今みっつ”だが、いいやつじゃないか鴻上!158P、先生が演出をしたミュージカル公演を、あまり評判がよくないからという理由で見に行こうとしない仲間の生徒に、「御前達、それは違うだろう」「こういうときに、人間が試されるんだぞ」と心でつぶやくところ、非常に共感。(2003.8.19)

Yosakoiソーラン祭り 街づくりNPOの経営学(坪井善明・長谷川岳)☆☆☆☆☆ /岩波アクティブ新書・209P
予想以上の知的な仕上がり。刺激にあふれた素敵な本。元気を出したら日本は変わるね。

失敗の本質 日本軍の組織論的研究(戸部良一・寺本義也・鎌田伸一・杉之尾孝生・杉井友秀・野中郁次郎)☆☆☆ /中公文庫・413P
アメリカ海兵隊 非営利型組織の自己革新(野中郁次郎)☆☆☆ /中公新書・212P
前者は、戦史、組織論の異分野の研究者たち(当時防衛大在籍)による、大東亜戦争史上の失敗に示された日本軍の組織特性の探求を目的にした共同研究。後者は、その研究中に、逆に水陸両用作戦で成功したアメリカ海兵隊に興味を覚えた筆者が、その秘密を探った本。どちらも、以前の仕事で人事に携わったわたしにはとても興味深かった。役所も会社も、日本によくある硬直化した組織はどんどん変えていかないと。ところで「形式知と暗黙知」で有名な野中先生、きっとこの方は、武器マニアに違いない(笑)。

決断するイギリス-ニューリーダーの誕生-(黒岩徹)☆☆☆ /文春新書・222P
イギリスの政治 日本の政治(山口二郎)☆☆☆ /ちくま新書・205P
前者は99年出版、首相となってぐいぐいと改革を推し進める“セクシー”ブレアの伝記。著者は新聞記者。
後者は98年出版、日本の二大政党制を目指した選挙制度改革(小選挙区制)の夢に敗れてへこたれた著者(北大教授)が、イギリスに渡り、97年ブレア率いる労働党が大勝利した総選挙を生で見聞きし、その経験をもとに日本の政治改革の道を探った1冊。どちらもブレア首相の誕生に感動し、書かずにはいられなかった、という思いのこもった熱い本。既得権益にしがみつき、保身に走るのはもうやめ!民主党は、この2冊を党員、議員への課題図書として、感想文を全員の宿題にしたらどうか?

アメリカの保守とリベラル(佐々木毅)☆☆☆☆ /講談社学術文庫・269P
20世紀最後の30年間のアメリカ政治思想史。1冊でかなり「アメリカ」がわかった気になる優れた本。もうちょっとこなれた文章で書いて、もっと派手なタイトルつけたら、売れるんじゃないだろうか?(東大総長にもなろうっていう方にそういうマネはできないか・・・)文庫書き下ろしでもまだ格調が高すぎて、たくさんの人に読まれないのはもったいない。

文明の衝突(サミュエル・P・ハンチントン)☆☆☆☆ /集英社・554P
ハーバード大教授の政治学者が、冷戦後の国際関係について著した有名な長論文。93年に発表した"The Clash of Civilizations?"への反響に答え、大幅加筆し98年に"The Clash of Civilizations and the Remaking of World Order"として出版されている。立場が偏っているきらいがあるものの、その分端的で明快な論理は、混乱した世界を整理して考えるのに非常に役立つ。海外に来て読むといちいちリアリティがあり、「だから大英帝国は没落すんのよ!」といった、儒教的勤勉さを誇りに思いつつ吐く自分のひと言にも妙に納得。日本がいかに孤立した困難な立場にあるかが認識できてよかった。

北朝鮮 米国務省担当官の交渉秘録(ケネス・キノネス)☆☆☆☆ /中央公論新社・501P
1992年から95年の北朝鮮核危機に際し、著者がアメリカの外交官として、最前線で奮闘した記録。もちろん北朝鮮を少しでも理解するのにすばらしい資料である一方で、読み物としても非常に面白い。「北朝鮮」という困った国と、アメリカのまさしく“お役所的”な官僚機構と、“文句言い”の韓国相手の仕事は、同情したくなるくらい細かくてやっかいな作業の積み重ね、愚痴と自慢の連続だが、それだけ人間味のあるリアルなやりとりが伝わってくる。著者はよくがんばった。しかし北朝鮮は、結局核を持ってしまった。95年以降、現在までの経過についても、同様の本の出版が待たれる。(2003.8.6)

アメリカが本当に望んでいること(ノーム・チョムスキー )☆☆ /現代企画室・164P
第二次大戦勝利以来、アメリカが自国(の一握りの支配層)の覇権を維持するために、いかに恐ろしいことをしてきたか、が書かれた本。著者は、アメリカの言語学者で政治活動家。背筋が寒くなる。無邪気でいることは罪である、と思わされる。冷静な姿勢で読むことが肝要。(2003.5.16)

経営革命の構造(米倉誠一郎)☆☆☆☆ /岩波新書・264P
イギリス→アメリカ→日本→アメリカと続く、近現代の経営の歴史についての本。わかりやすくて楽しかった。この方「歴史家」だったんだ。あとがき読んではじめて知った。ちょっと前、著者が世間を騒がせる事件があったけれど、そんなの屁とも思わずに、ますます愛たっぷりに、ダンディに突っ走ってほしい。たぶん全然心配いらないと思うけれど。

藁のハンドル(ヘンリー・フォード)☆☆☆☆☆ /中公文庫・245P
フォード自動車の創始者の自伝。産業社会のあり方について語られる単純で前向きで開けっぴろげな思想は、物事の本質にズバッと突き刺さる。「頭に鳥を飼っている」と言われた変人ぶり(天才ぶり)をもっと知るために、子供時代、エジソンとの交流、一次大戦時に試みて失敗する平和船の話など個人的な回想も読んでみたいが、よい本がなく残念。訳者(竹村健一)の訳注が差し出がましい。

毛沢東の私生活(李志綏)☆☆☆☆ /文春文庫・上532P、下537P
毛沢東の主治医を22年間勤めた医者が、渡米後に書いた回想。読んでよかった、すごかった。中国ってのはまったくもって圧倒的。中国について何も知らないということを思い知る。毛沢東や文革について、周囲の中国人と語ってみたいがちょっと怖くてできない・・・。ほかの中国の王朝(まさしく王朝なのだ、党中央は)や社会主義国についても知りたくなった。

中国 現代化の落とし穴 噴火口上の中国(何清漣)☆☆☆ /草思社・437P
今の中国がいかにひどいかということが、経済面、政治面、社会面(特に社会面がすごい)からこれでもか!というくらい書いてある。ほんとにそんなにひどいのか、この目で確かめたくなる本。著者は中国の女性経済学者、その後記者で、アメリカに亡命中。この本の一部は中国で発禁になっている。その前に今の日本がいかにダメかという本「日本再生論」by金子勝を読んだが、日本が力なくだらだらと衰亡の道を行くのに対して、なんと中国には力にあふれていることか!その「ひどさの凄まじさ」に敬服。(2003.6.5)

英国王室史話(森護)☆☆ /中公文庫・上409P、下356P
英国の始祖ウィリアム征服王から、先代のジョージ6世まで、900年の歴代の王様を順に紹介する年代記。詳細な系図がついているものの、ややこしい家系は追いきれず、人物名の羅列をわけもわからず読みつくした感・・・。筆者の専門分野「紋章」の話(わたしは興味がない)に少なくない紙幅が費やされていたのにもまいった。当時の出来事や社会の風潮を、合わせてもう少し詳しく書いてくれたらよかったのに。わかったこと3つ。1.英国はフランスの田舎だったこと。2.ちょっと前の王様はほぼドイツ人だったこと。3.やっぱり英国王室の男性は軒並みどうしようもない女好きだということ。

ローマ人への20の質問(塩野七生)☆☆☆ /文春新書・204P
あの出版ぶりからみて、きっと自分は塩野という人をあまり好かぬのではないかと、遠い昔に「マキャべり語録」を1冊読んだっきり遠ざかっていたが、夫が強く勧めるので読んでみた。やっぱり好かんかった。2ページに1回くらい、気に食わない言い回しが出てくる・・・。それにこれは「ローマ人の物語」全15巻(予定)のPR本じゃないか!たしかに面白くて、「ローマ人~」読みたくなっちゃうんだけどね。(2003.5.17)

ハーヴァード・ロー・スクール(スコット・タロー)☆☆☆ /ハヤカワ文庫・396P
映画「推定無罪」の原作を書いた弁護士(元検事、その前作家)による、ハーヴァード・ロー・スクール1年生だったころの、ほとんど神経症の日々についての回想。司法試験に挫折したことのある人、留学に興味のある人、アメリカのエリートに関心がある人、法と正義について考えたい人は読んだら面白いと思う。日本でもロー・スクール法案が可決されたなぁ。

アメリカン・ロイヤーの誕生(阿川尚之)☆☆ /中公新書・221P
作家・阿川弘之の息子で当時ソニーに勤めていた著者が、ワシントンDCのジョージタウン・ロー・スクールに入学し、3年間のつらい学業の後で司法試験にパスするまでの留学記。本の面白さはスコット・タローに及ばないが、人種問題や通商への興味など「日本人企業派遣留学生」の視点が面白い。昭和戦後の作家風の言い回しが多々見られ、あの親にしてこの子あり、と微笑ましい。

東大生はバカになったか(立花隆)☆☆☆ /文藝春秋・348P
何もそんな下品なタイトルつけなくたっていいじゃないか?せっかくいい本なのに。立花先生も文藝春秋も、ほっといたって売れるんだから、内容を端的に表しているとも限らないようなセンセーショナルな題をつけるのをやめよう(他の著書もよ!)。中身はいたって面白い。知と教養を積まなければ!日本のみんなが知と教養を積めるような国にしないと!という本。(2003.6.11)

庶民列伝 民俗の心を求めて(野本寛一)☆☆☆☆ /白水社・371P
明治後期以降に生まれ、静岡県各地に住み、伝統的職業に携わったおじいさん、おばあさん、30人あまりとの語らいの本。長い年月、土地とともに生きてきた人々の言葉は、なんと生き生きと温かいことか。海女、紙漉き、茶師、船大工、強力、糸引き、湯の国ガイド。そして苦しい農作業、戦争。100年もさかのぼらないのに、自分の育った静岡のこと、日本のことを何にも知らなかった。とても面白く、とてもよい本。(2003.7.20)



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