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Atelier Mashenka

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2006.06.25
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カテゴリ:アート
「没後30年 高島野十郎展」を見に三鷹市美術ギャラリーへ。


「没後30年 高島野十郎展」


高島野十郎は、
東京帝国大学の水産学科を首席で卒業しながらも、画家の道を選び、
小さな個展を開くのみで地位や名声とは無縁の画家だったそうだ。
晩年は特に人との交わりを絶って
質素な生活の中で、ただただ自分の世界を追求し、
彼の死後やっとその名が知られ始めたという。


まずは、初期の自画像4点に圧倒されてしまう。
この自画像群には、彼の物言わぬけれど、低いたぎる声が感じられる。
力と、不遜なほどの視線がある。
後に続く、初期の花や静物画はすべて自画像に見えた。
暗く重く、息苦しいほどだ。


ヨーロッパ旅行を経て、そのエネルギーが外界へ解放されるのを感じる。
世界は野十郎を受け止め、野十郎も世界の風を受け止めたのだろう、
せわしなく街から街へ流れつつも、彼の中に新しい風が行き渡ったかのような
明るく筆の走るような作品を描いている。

帰国後は、万物に等しく慈悲の光を、視線を注ぐ、
彼が傾倒した仏教的な視線の感じられる幾多の風景画が花開く。


「流」、"川の流れが止まって岸辺の巌が動くのを見た"という
キャプションがついているけれど、確かに流れそのものよりも、
両側の岩肌が生々しく、マッチョな肉体さえ連想させてしまう。


「春の海」、有明の干潟。
遠くにかすみがかったように淡い山の稜線。
手前の若草のやわらかな緑が美しい。


これら、ヨーロッパから帰国後の一連の風景画、
"慈悲としての写実"のなされた風景画は、黒がほとんど使われていない。
密度の濃い、赤紫、茶などが基調となっている。
全てが赤みを帯びている。雪でさえも、空でさえも。
非常に細かく、丁寧な仕事ぶりが伺える。


後期の静物群は、初期のものと違ってあたたかみがあり、
重さ、深刻さは払拭され、なんともみずみずしくおいしそう。
「桃とすもも」のしっとりした桃の肌。
また、さくらんぼ、からすうり、すももなどは配置のセンスの良さが際立つ。
すももなどは色鮮やかなビリヤードの球の集まりのようにも見える。
色が心地よく踊っている。



その後、最終章とも言える作品群が非常によくて、その世界に吸い込まれる。
ずっと見ていても飽きない。
ずっと見ていたい。


「秋陽」、秋の大きな日差しと、
光に打たれているやわらかい草々。

赤茶の塊にシルエットになっている草むら。
鈍色(にびいろ)の空。
黄から橙へとグラデーションする光。
しかし、ここではもはや色は意味をなさない。
光と光を受けるもの、その存在だけでいい。

光まぶされた草は、太陽の慈悲を浴びている小さな人間たちのようにも見える。
あまりの光に、草々は驚きと畏敬にこうべを垂れ、
そしてまた光のほうへ腕を伸ばしているようだ。



「月」、初めてくらいに赤みを帯びていない作品を見た。
今回のちらしに取り上げられている作品。
いくつかの月の作品があったが、ちらし掲載のこの「月」が一番好きだと思った。
闇がさやかな深い碧だ。さやけさと静けさ。

「闇と光が拮抗している」とキャプションにはあったが、
私には拮抗しているようには感じられなかった。
月の光がもやめき、闇に溶けいる。
もの言わぬ世界。





「ろうそく」、目に焼きつく炎のまわりの赤。
ゆらめき上昇する炎。
逆に下降への意識を感じるろうそくと、影。
ささやかなほむらが、吸引力を放つ。
心の静けさ。
光を見ながら、闇を深く感じる。
ただひとり。
静と動。
ミクロの宇宙。
生命よりも先立つ"存在"。


ろうそくのシリーズは、晩年、繰り返し繰り返し描かれている。
最後の小さな展示室をあえて暗くして、
それら小さなろうそくの作品をぐるっと並べ、
ひとつひとつの作品に小さなスポットライトを当て、
闇の中でろうそくと向き合うことができるよう、心憎い演出がされている。


太陽と、月と、ろうそく、それら光と闇の世界。
ここには無言の問いと、宇宙がある。向き合う存在。
中期に花開いた風景画のような、細かい事物を超越してしまったように感じられる。
事物を超えて、光、闇、こうしてひとり"在る"こと、
そんな"現象"そのものを抽出し、向き合っていたのではないだろうか。


ひまわりを描いた作品の裏にこんな言葉を残していたという。

「色不異色 空不異空 色即是空 空即是色」

彼は世間から遠く離れ、ひとり内面の宇宙を見つめ続けていたのだろう。
その一端に触れることができたが、
果たして私は、彼の言葉にならない深いものを
その井戸から汲むことが真にできただろうか・・・
彼の作品に問い、自分に問う。



「高島野十郎展」は三鷹市美術ギャラリーで、
2006年6月10日(土)~7月17日(月)まで。
またまたアップするのが遅くなったので、もう終了ですね。ゴメンナサイ(>_<)
でも、高島野十郎の作品はおすすめです!






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Last updated  2017.02.15 22:30:23
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