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台湾役者日記

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2004年03月02日
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※ 以前、メールで知人に配信した「通信」をここに再録します。日付は、メール配信当時の
「タイトルにある日付」としました。が、この日の分はすでに1本別のがあるので、1日ずらしました。

はやしだ台湾通信        2001年9月30日(日)23時
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★ ラジオCMに出演!(その5) これじゃ「大原社主」だッ!(後編)
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「清淡爽口(チンタンスヮンコウ)」

「清」は「清朝(チンツァオ)」の「チン」、「淡」は「淡水(タンシュイ)」の「タン」、「爽」は分からないので総経理に教えてもらい、「口」は「口水(コウシュイ=よだれ)」の「コウ」、……という具合に、まずは1文字ずつ確認します。

「口(コウ)」なんて、日常会話で何回も使っているのに、最初の子音の「クッ」が違うといって、何度もダメが出ます。この「クッ」は有声音ですから、「コウ」は思い切って発音しなくてはいけないのです。

やっと各文字の発音を覚え、この4文字分が言えるようになると、次の「取材新鮮(ツーツァイシンシェン)」です。それが言えるようになったら、今度はこの8文字分を、一気にしゃべれるようにしないといけません。なにしろこのCMは全部で30秒しかないのです。

総経理の「陳さん」なんか、むちゃくちゃ早口です。陳さんはそれでいいのですが、日本人の「林さん」がこんなに早口で中国語をしゃべるなんて、ありえないことだと思います。それでも、なんとかやりきらないといけません。

それにしても、このセリフ……。

「清淡爽口、取材新鮮、還融合中華料理精髄」
「あっさり味でさわやかな後口、食材も新鮮だし、その上に中華料理の精髄をうまく採り入れてるね」

これじゃまるで、マンガの『美味しんぼ』に出てくる「大原社主」だろう!

「美食倶楽部」会員のジイサンでもない限り、こんな料理の誉め方をする人はまずいないでしょう。普通はひょうきん者の「富井副部長」みたいに、「山岡~、このエビ、なんてうまいんだ~! いくらでも食べられるゾ~」とか言うのが関の山だと思います。

それでは台湾人は、料理をこんな風に誉めるでしょうか?

どうもそうは思えません。彼らは、うまいものは「好吃(ハオツー=美味い)」と、はっきり言います。で、どんどん食べるのです。どううまいかを形容するのに、こんなにたくさんの文字数を使ったりしないでしょう。せいぜい「這個鹹味很很好(ツェカシェンウェイ・カンカンハオ=この塩味、ちょうどいい)」というくらいなもんで、これだと7文字です。

いや、そもそも、この「清淡爽口、取材新鮮」の対句、さらに「融合中華料理精髄」という、なんとも大掛かりな文語調が、身近なところでは聞くことのない、大時代なものに思えます。

いやいや、よく考えてみると、身近にもこういう「漢文調」の表現はありました。TVのCMです。CMでは、限られた時間に強い印象を与えなくてはなりませんから、いきおい、「漢文調」が幅を利かすことになってしまいます。

この「福之屋」のCMも、30秒でいろいろ言い切らなきゃならないんですから、「漢文調」でしのぐのは、CMづくりのセオリー通りということなのかもしれません。

それにしても、それを日本人の「林さん」に言わせるとは……。

今さら嘆いてみても仕方がありません。これをやりきれば、今回のセリフの分だけは、完璧な中国語がマスターできるというものです。

悪戦苦闘が1時間半も続き、ようやく最後の、

林桑 :好吃的東西要和好朋友分享、下次公司聚餐就到福之屋!
林さん:おいしい料理はみんなでいっしょに食べなきゃね。今度の会社の飲み会は福之屋で決まりだな!

まで収録が完了しました。「福之屋(フーツーウー)!」と叫んだあと、総経理の「陳さん」と一緒に、「アッハッハッハ!」と笑います。ここはもう、思い切って、心の底から楽しそうに、はじけるように、笑いました。もうやけくそです。

「はい、OKです。お疲れさん(辛苦了・・シンクーラ)!」

やっと終わりました。総経理は調整室に指示して、録音を再生させます。

隣の調整室には青いTシャツを来た茶髪のお兄ちゃんが入っていて、ガラス窓越しにその動きがよく見えます。彼は、わたしたちのセリフの使えるところを拾い集め、つなぎ合わせ、1本にまとめて再生してくれます。

総経理は、「そこ、『林さん』もうちょっと前へ詰めて」とか「『林さん』声の調子もうちょっと上げて」とか指示しています。

自分のパートは完璧なのか、「陳さん」!

やがて、「こんなもんかな」という完成版が出来上がりました。「聞いてみましょう」と総経理。

日本の伝統音楽(のつもりの怪しい東洋音楽)
陳さん:林さん、福之屋へ日本料理食べに行きましょう!
林さん:【疑い気味に】台湾にオイシイ日本料理なんてあるの?
陳さん:まあ食べて見てよ!
林さん:【賛嘆の念をこめて】ん~、あっさり味でさわやかな後口、食材も新鮮だし、その上に中華料理の精髄をうまく使ってるね。(台湾語で)なるほどみんなが食べに来るわけだ!
            【音効:笑い声】
陳さん:(日本語で)デショ!福之屋じゃ日本式の宴会料理や各種定食もやってるよ。今なら開店1周年で、全品2割引のサービス中!
林さん:おいしい料理はみんなでいっしょに食べなきゃね。今度の会社の飲み会は福之屋で決まりだな!
            【音効:両人、うちとけた笑い声】
女OS:福之屋日本料理
      桃園中正路××號
      電話3××-××××

いや~、笑った笑った。これはおかしい。普段聞きなれない自分の声がおかしい上に、しゃべっている内容が怪しいわ、最後に腹の底から笑っているわ、まるでわたしに何かが憑りうつったとしか思えません。しかも、いちばん最後の「女OS」が、まるで男どものバカさ加減を冷笑するかのように、これまたわざとみたいに冷静・沈着にデータを読み上げています。

最高です!

「これ、コピーをくれませんか?」
「いいですよ。CDに焼いときますから、明日取りに来てください。ちょっと、まだ帰らないで、待っててくださいね」

総経理は、調整室になにやら指示を出しています。

「あなたは、名刺で見ると『総経理』ってなってますね。この会社、自分でやってるんですか?」
「そうです」
「景気はどう?」
「まあ、ぼちぼち(還好…ハイハオ)ですね」
「それはうらやましい。うちの業界は大変ですよ。パソコンのパーツ(電脳零件…デイエンナオリンヂエン)の貿易なんだけど、今月はなかなか売れなくて」
「この業界は、むちゃくちゃいいというのもなければ、ゼロになるということもない。ま、いつでも誰かが広告を出そうとしてるわけだから」
「いいですねぇ。あなたはまだお若いようですが、おいくつですか?」
「42になります」
「あ、それならわたしといっしょですね」

これは奇遇だ奇遇だ、というので、総経理、熱烈に握手を求めます。

「とすると、1959年生まれですね?」と総経理。
「ん? 1957年生まれですが・・・。あ、そうか、おれ、もう43歳だったんだ! あと少しで44だ!」

なんとも間の悪い沈黙が流れます。録音室は完全防音ですから、会話が途切れると恐いような静けさに包まれるのです。

そこへ調整室から連絡が入ったのでしょう。わたしには聞こえませんが、総経理はヘッドホンに耳を傾けています。

「林田さん、もうちょっと待ってくださいね。ラジオ局のOKは取りました。あとはスポンサーの方です」
「どうやって聞いてもらうんですか?」
「電話で。スポンサーはちょうどクルマで家に向かってるとこらしいです。あと5分で家に着くから、家の電話で受ける、って言ってます」
「なるほど(就是這様子オ~…ヂオシーヅェヤンツオ~)……」

やがてスポンサーのOKも取れ、わたしは晴れて解放されることになりました。

「これ、些少ですが」

総経理は、白い定型封筒を差し出します。

これこれ、こうこなくっちゃいけません。

あとでエレベーターに乗ってから封筒にフッと息を吹き込んで覗いてみたら、500元札が1枚、入っていました。台湾では、水餃子15個とスープ1品の食事を、普通の食堂であれば、5回食べられるくらいの金額です。まあ、かなり特殊な条件を満たす出演者のギャラとしては多いとは言えませんが、面白い経験をさせてもらった上のおこづかい、と考えれば、悪い金額ではありません。

玄関ホール横のフリースペースでは、入ってくるときにやっていた打ち合わせを、まだやっていました。かなり大掛かりな企画でも立てているんでしょうか。

出口まで送ってくれた総経理は、「林田さん。こんど一回、飲みに行きましょう! 日本人の小林老師(ラオシ―)にも紹介しますよ」などと言ってくれます。

「小林老師」ってだれだ?

しかしその答えを得ることもなく、わたしは、「ほんじゃまた~」と別れを告げて、エレベーターに乗り込んだのでした。





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Last updated  2004年03月13日 20時04分57秒


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