チェストへの憧れ
トルコの「チェイズ」の習慣は以前ほどではないにしても、現在も継続していると言ってよいだろう。チェイズとは結婚の準備で用意される生活用品、身の回り品のこと。私は普段、嫁入り持参品と訳しているが、男性側も花嫁さんのために用意するので、結婚準備品と言うのが正解なのかもしれない。現在は電化製品一式、家具一式と大荷物になることが多いだろうが、本来はサンドゥックと呼ばれる、日本でいう長持ち、チェストに当たる箱型の入れ物に、手作りした衣類、寝具用品、装飾用品、食器類などを結婚生活に必要な生活品、身の回り品を詰めて持参する。古い映画などを見ると庶民の場合サンドゥック1つで嫁入りする姿があったりする。身の回り品はサンドゥック1つに収まる程度だったのであろう。サンドゥックは嫁入り道具が詰められている箱であり、そのまま収納具として使われた。そしてそのサンドゥックの中身の一部は自分の娘が嫁ぐ時に新しいサンドゥックに入れて贈ったりもする。ただしサンドゥック自体は自分のモノとして一生大切に持ち続ける。つまり、お嫁さん本人の財産であり、自分自身の結婚の証でもあるのだ。私も仕事でサンドゥックの中身を開いて見せてもらう機会が今までもたくさんあったけれど、どんな年齢の女性にとっても、結婚時の想い出と共にあり、それらチェイズ品を見る女性本人たちの脳裏には当時の花嫁になる若い時の姿や気持ちが蘇っているのだと感じる。その目はそれほどにキラキラと輝くのである。キリムや絨毯に描かれるサンドゥックのモチーフの意味もまさにそれである。結婚への憧れ、その後の子供の誕生。サンドゥックの形に合わせて、正方形、長方形の四角のモチーフなのでわかりやすい。そこに詰められているのは髪飾りだったり、星だったりそれぞれではあるが、いずれも女性の結婚したい、子供を授かりたいなどの願いである。女性本人が織ることもあっただろうし、嫁に行く娘に母や祖母など身内が贈ることもあったと思う。現在は女性にとって結婚はひとつの選択に過ぎないが、かつては若い男女であれば、年頃になれば気になる相手がいたり、漠然とした異性への恋心を抱いたり、そして時期が来れば誰かと結ばれるということがごく自然なことだった。そんなシンプルかつ重要な意味を持つのがこのサンドゥックのモチーフである。画像のジジムのように、サンドゥックのモチーフが並んでいるのを見ると、織り手の女性が本人であれ、母親であれどんな気持ちでこれを織り、どんな人生を過ごしたのか考えてしまう。年代から言えばもうこの世にいないと思うが、このジジムの持ち主の人生が幸せであったことを願うばかりである。------------------------------------------------------------------YouTubeに「ikumi nonaka」チャンネルを開設しました。トルコの伝統手工芸、食文化、生活、牧畜などをご紹介していきます。新着のお知らせがいくように、チャンネル登録をぜひお願いします❤ikumi nonaka チャンネル------------------------------------------------------------------ミフリのショッピングサイトはコチラ↓ミフリ&アクチェにほんブログ村にほんブログ村 その他・全般ランキングへ