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カテゴリ:オーディオ
戦後になり三菱電機が自社のラジオに、
”ダイヤトーン”という名称を付けて発表したのが1946年だった。 翌年の1947年にはラジオ局のモニタースピーカーユニットとして、 三菱電機の開発責任者だった市村聡明さんと、 NHKとの共同開発で生まれたのがPー62Fという、 口径6インチ半の通称ロクハンと呼ばれた16cmのフルレンジユニットだ。 ダイヤトーンのモニタースピーカーの音作りは、 このP-62Fの頃に決定された。 それは、あらゆるジャンルの音楽から朗読などまでカバーする、 余計な癖や色付けの無い忠実な再生というものだ。 この1947年という年は、 海外でもイギリスではタンノイの同軸スタジオモニターユニット、 ドイツではノイマンのU-47マイクロフォンという、 P-62F同様に基本構造は変える事も無く、 後に繋がっていく名作が誕生しているのは注目したい。 ダイヤトーンではTV放送が開始された1953年に、 無響室が作られ芝電気の歪率計と池上通信の自働記録計を導入し、 他社に先駆け科学的にスピーカーの分析開始。 その後、振動状況を観察する為のレーザーホログラフィーまで導入して、 放送局用のモニタースピーカーで一般市場のイメージまで作り上げていったのだ。 ダイヤトーンの原点であるフルレンジユニット 三菱ダイヤトーンのスタジオモニター用ロクハン・ユニットの元祖であるPー62F。 後のP-610系はここから始まった。 TV放送開始の1953年頃に登場したPー60Fは、 次のベストセラー名作ユニットのPー610系へ直接繋がるものだ。 2つのユニットを見ると、既に後のPー610系に繋がる、 整合共振型という独自のコルゲーションを施したお馴染みの振動板が使われていて、 実質的にP-610は殆ど80年前のP62-Fの1947年に誕生したと言って良い。 初代モニターユニットのP-62Fは、 アルミのフレームにOP磁石という、 1932年に日本で開発された永久磁石が使われていた。 アルミフレームに鋳込まれたDiatone Speakerの文字がカッコいい。 形状から見てバッフルの裏側に固定するリアマウント専用なのは、 元々ラジオ用のスピーカーが叩き台だったからだろう。 因みにOPというのは磁鉄鉱と亜鉄酸コバルトを成形して焼成した永久磁石で、 今日のフェライトマグネットの元祖と言えるものだ。 ついでに世界初の永久磁石だったKS鋼を開発したのは日本で、 1917年に発表され翌年に特許を取得している。 裏側から見るPー60Fは殆どPー610と変わらない。 マグネットヨークから見たマッチングトランスの取り付け位置が違う位で、 お馴染みの鉄板フレームにコの字ヨークのアルニコマグネット。 良く分からないけど元祖のPー62Fが登場した頃かそれ以前には、 フィールドコイル仕様のD-62Fというタイプもあった。 どうも”P”は永久磁石を使ったパーマネントスピーカーで、 ”D”はダイナミックスピーカーを表しているのではないか。 このD-62Fユニットを搭載した49-Kというダイヤトーンラジオは、 他社のラジオとは一線を画す良い音がしていたらしい。 何せ当時のラジオはフィックスドエッジでレンジの狭い、 マグネチックスピーカーが主流だった。 更にHF-73というダイヤトーンラジオには、 口径20cmのP-82Fと口径5cmのTW-21が使われていて、 これは音の良さで他を圧倒したらしい。 国産初のスタジオモニターユニットを生み出した、 ダイヤトーンの拘り具合が良く分かる。 所で初期の62系ユニットのフレームが、 プレス加工による量産が容易な鉄板ではなくアルミ製というのも、 終戦後の国内における鉄の需要がインフラ整備優先だったせいではないかと思われる。 まだ良質な輸入鉄鉱石が入ってくる前であり、 諏訪鉄山のような国産鉄鉱石と鉄くずが頼りだった日本では、 どうしても使わざるを得ない磁気回路には何とか鉄を回してもらい、 他は航空機への需要が無くなったアルミを使ったという所だろう。 何せ三菱と言えば、 アルミ材の扱いとかキャスティング技術は、 ゼロ戦をはじめとする軍事技術でお手の物だ。 やがて1953年になるとTV放送が開始され、 1955年には放送局用モニタースピーカーとして、 20cm2ウェイのダイヤトーン2S-660がデビュー。 3000人を集めて世界中のスピーカーと比較試聴して高評価を得る。 これは、次に低域を40Hzまで下げた2S-205に改良されて、 以降206~208と改良されていった。 1958年には30cm2ウェイの名作モニターである2S-305を発表。 1957年にFMラジオの実験放送が開始されて、 翌年の1958年にはP-60Fを改良した、 初代のPー610(¥1950)が登場する。 トランスを装備して6Ωと600Ωのインピーダンスに対応。 f特は80~10KHz±5dBだった。 1963年になるとFMラジオはステレオ放送を開始。 1968年にBTS規格でインピーダンスが16ΩのP-610A(¥1700)と、 インピーダンスが一般的な8オームのP-610B(¥1500)に改良され、 f特も80~13KHz±5dBになった。 1974年にはパイオニアからBTS規格に準拠した、 ライバルのPE-16(¥2530)が登場。 これの実測データ付きのPE-16Sは¥3450もしていた。 その後、40年前のP-610誕生25周年の1983年には、 エッジが対候性のある発泡ウレタンのロールタイプに変更されて登場。 フェライトマグネットのP-610FA/FB(¥3980)(A=16Ω/B=8Ω)と、 アルニコマグネット(¥6500)のP-610DA/DBの4種類がある。 公称のf特は70~20KHzとなり音圧レベルは92dB/m。 FA/FBとDA/DBのスペックは先代のA/Bとあまり変わらないけど、 あり得ないf特をみても内容は元のスタジオモニターから切り離されて一般向きとなり、 1982年10月1日に発売されたCDを意識したものになっていると思われる。 次にダイヤトーン誕生50周年の1995年になるとPー610は再登場。 P-610MA/MB(¥10000)という2種類が限定復刻され、 エッジがエクセーヌという人口皮革に変更。 公称のf特は変わらないけど音圧レベルが90dBに下がったのを見ても、 輪を掛けて元のモニター系から路線を変えたユニットになっているのではないか。 個人的にスピーカーの自作を始めたのも、 モノラルFMラジオの音(スカイセンサー5800)をもっと良くしたいのだけど、 カネが無いので廃棄されたTVから外した、 16cmとか20cmのユニットや5cmのツイーターを使って、 ラジオのイヤホン端子から音声を取り出して、 ベニヤで作った後面開放型の箱に入れて聴いていたのだ。 当時の大きくて重くてがっしりとしたキャビネット型TVのスピーカーは、 奥行きのあるブラウン管のお蔭でゆったりとした後面開放型で、 高級な奴には16cmフルレンジ2発+5cmツイーターの2ウェイとか、 20cmウーファー+16cmフルレンジ+5cmツイーターという3ウェイまであって、 モノラルとはいえ、今時の薄型TVなんかよりも遥かに人の声が自然で、 音楽プログラムでも深みがあって厚みのある良い音がしていた。 その後、個人的に初めてP-610に接したのは70年代のP-610Bで、 友人宅で放送局でも使われている良い音がする有名なユニットがあるからと見せて貰い、 それから別の友人の為にP-610Bのバックロードホーンを自作して良い音だなと思った。 以来、P-610Bはずっと気にはなっていたけど、 例のスポンジのようなエッジがボロボロになるのを見て、 実際に買う事はしなかった。 更に言えばPー610Bの一番の問題はエッジではなく、 Q0(ゼロ)が高くてF0(ゼロ)も高い古典ユニットは、 ゆったりした大きめの箱のバスレフでダクトのチューニングも高めにしないと、 低域が出て来ないので扱いが厄介だったからだ。 古典的なフルレンジユニットマニア御用達の平面バッフルなんか論外だし、 同じ様に一般家庭では設置が難しくて、 ある程度大きくしないと低音が出ない後面開放型も全く興味がない。 直球ド定番のバスレフでフルレンジらしい鳴りっぷりの良さを生かした、 シンプルなスタジオモニターサウンドを狙わなければ、 わざわざ使う意味が無いではないか。 このブログを書いたのは常に頭の片隅に、 オーディオの原点となったローコストのロクハンユニットを使ったスピーカーの音を、 ミニコンポでいいので再現出来たら楽しいだろうなという思いがあったからだ。 昔TVから取り外したロクハンユニットは鳴りっぷりの良さが印象に残っているし、 同じく5cmのコーンツイーターにぶら下がっている一個のコンデンサーから、 ネットワークの基礎知識を勉強したのは良い思い出となっている。 21世紀になってラジオ局のモニターが原点の新しいP-610は出そうにないけど、 ダイトーボイスを代表するロクハンユニットのDS16シリーズも、 ⅢFへと進化してロングセラーになっているを見ると、 P-610系の音に対する潜在的な需要は大きいように見える。 今時の小口径の低能率でフラットな特性が主流のユニットと違い、 殆ど終戦直後にラジオ用ユニットから派生した古典的ユニットである、 名作のP-610系を掘り起こしたブログだけど、 ずっと気になっていた基本的な生い立ちを知るだけで一旦区切り、 来週の夜には(Part.2)で具体的な使いこなしを考察したい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.02.06 20:38:36
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