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milestone ブログ

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ウソ -3

~手がかり~

私の目の前に不思議そうにしているエリカがいた。状況を説明したほうがいいのかも悩んだが、結局話すことにした。

「あの高見さんが事故・・・」

エリカは一瞬びっくりしていた。だが、それ以上に私はびっくりしていた。どうして、エリカは高見のことも知っているんだ。自分だけが取り残されているような気がした。
エリカはかおりを知っていた。
そして、
エリカは高見のことも知っていた。それは、知らないほうがいい事実なのかもしれない。
けれど、私の口は気がついたら動き出していた。

「なぁ、エリカ。
 どこでかおりと出会ったんだ?」

私が恐るおそる、聞くのに対して、笑みを浮かべてエリカは話してくれた。

「かおりさんとはジムで出会ったの。 私、ゆうと別れてから、もっと自分を磨こうと思ったの。
 だから、ジムで痩せようと思ってね。 ヨガコースでかおりさんと出会ったの。
 正直、不思議な人だった。 そう、どことなく、つかめない人。 ゆうと付き合っている話し
を聞いたときはびっくりしたわ。
 だから、思ったの。
 かおりさんと仲良くしていたら、二人が別れた時がわかるから。 私、その時をまっていたの」

私とかおりが別れることが当然のように言い切るエリカが怖かった。
いや、
もっと怖かったのはエリカ自身かも知れない。
エリカは更に話し続けた。

「でも、信用して。
 私はかおりさんを誘拐なんてしてないわよ。
 それに、私は知ってるのよ。
 ゆうが今仕事で困っている事も」

更に怖くなった。別れてから、エリカにどうしてかおりの事が言えなかったか。
それは、後ろめたさじゃない。怖かったんだ、話すこと自体が。
でも、どうして、今仕事で困っている事を知っている。会社の人以外には知らない事情。
そう、私はかおりにもそのことは話していない。いや、話せていたらこんなに悩まなかっただろう。そう、ここ最近、毎日家に帰ってまで資料を見つめていたのだから。
失敗してしまったら解雇されるのでは。そういう恐怖心しかもてなかった。いや、解雇はされないかも知れない。けれど、もう私は仕事を続けるのが難しくなる。そう感じていた。


携帯にメールが入る。
高見からだ。

「今すぐかおりのマンションへ来てくれ。 話したいことがある」

高見は病院を抜け出して、一体どうして、マンションへ。しかも、鍵も持っていないのに。
すぐに高見に電話をしたが、圏外であった。
まだ、エリカには聞きたいことはあるが、高見の容態もわからない。それに、今一番事情がわかっているのは高見のような気がする。理由はわからないがそう感じていた。いや、そう思いたいだけなのかも知れない。誰かに判断を委ねるほうがどこか安心してしまう。安心じゃない。ただ、楽なだけだ。
私は、かおりのマンションへ行こうと決めた。

「エリカ。悪いけれどこれからちょっと出かけるから。また連絡するよ」

まだ、エリカから知りたいことはあったが、今の私にはエリカよりも大事なものが、大事なことがある。私は後でエリカから話しを聞こうと決めた。
だが、今日のエリカはなんだか違っていた。

「私がいちゃなにかまずいわけなの?」

上目遣いでこういってくる。私はこの大きな瞳に何度恋をしたのだろう。
過去の思い出とともに色々なものがフィードバックしてくる。
私は自分の気持ちを整理するために深呼吸をした。1回、2回。

確かに、まだまだエリカには聞きたいことは多いのも事実であった。だから私は辞めとけばよかったのに、

「いいよ」

といってしまった。
そう、これはでも仕方のないことだったのかも知れない。



高くそびえるマンション。どこか威圧感を感じてしまう。何度このマンションを見ても、私にはどうも私を拒絶しているように感じてしまう。
いや、私は逃げたがっているだけなのかも知れない。
だからそう感じているだけなんだ。私は自分自身に言い聞かせた。
エントランスロビーを見る。鍵を持っていない高見は上には上がれない。
例え同じ住人と一緒に入ったとしても階が違うためだ。
鍵の平らな部分、ちょうど「S」や「b」と見間違えた部分をエレベーターの配電盤したにある場所にかざさない限り指定する階には止まれない。
電子キーとしても使われている鍵。おそらく簡単に複製できないためにこういう形にしているのだろう。
私は高見の携帯に電話をしてみる。
ずっと圏外。
高見がエントランスにいないため、私はマンションから出て周りを見渡した。
少し離れた所でエリカが暇そうにしている。時折携帯の画面を開いて何かをしているくらいだ。
私は歩き出してかおりの部屋、ベランダ付近が見えるところに来た。
ありえないと思うが、もし高見がかおりのマンションにいるのなら、場所によると確かに圏外になることもある。私はベランダ付近から誰か人がいないかを見ていた。
だが、エリカが変なことを言って来た。

「何かあそこ動いていない?」

横にいたエリカが指をさしてこういった。
そこは6階ではなく5階であった。今は何もない部屋のはずだ。
荷物も何も置かれていない場所。そんなところで何かが動くはずがない。

私はポケットから「S」の文字と見間違えた鍵を取り出して、エントランスとビーへ向かった。
入り口の分厚いガラス扉のところに行き、横にある鍵穴に鍵を入れた。
ゆっくりと扉が開く。
急いでいる時にこのゆっくり開く扉は少しわずらわしく感じてしまう。
ここの住人はそう思わないのだろうか?私は変な疑問に囚われてしまった。
扉が開いてエレベータに乗る。不思議と他の住人がいない時はエレベータはすぐ乗れるようになっている。
こんなこまかな配慮など必要なのだろうか?私はそう思いながらエレベータに乗った。

「なんかすごい設備だね。
 かおりってなんか変なの。なんで、こんなマンションに住めているんだろうね。
 よっぽど何かしていないとこんなところですんでられないとおもうけどな~」

エリカが周りを見ながらそう言った。

「親が金持ちなんだって。だから家賃も親が負担している。だからだよ」

私はなんだかエリカの顔がみれなかった。理由はわからなかった。いや、どこかでわかっている。
ただ、卑怯な自分を認めたくなかった。
私は早く5階につけばいいのにと思った。
思いが通じたのか、扉が開いた。
目の前にある501号室。変な門を開けて私は扉を開けた。
何もない部屋のはず。だが、そこには前と同じように、携帯があった。

シルバーアクセのついた携帯。まるで、少し前と同じ光景を見ている。
かおりの携帯なのだろうか?手にとって見ると、電源が入っていない。
電源を入れると、いつも見慣れた、

「マーメイド」の待ち受け画面。

かおりの携帯だ。
発信履歴には


高見の名前があった。ちょうど、事故にあう少し前の時刻。
一体、高見はかおりと何を話したのだ。いや、電話をかけたのはかおりとは限らない。

「ライヤー」

お前は一体何を考えているんだ。
携帯にメールが入る。見たいことがないアドレス。
メールの内容はこうであった。

「ゆう
 まだそんなところで足掻いているのかい。
 もっと、真剣になれるように時間を決めてあげるよ。
 今日中にかおりをみつけられなかったら、かおりは私のものにさせてもらうよ。
 君にキレイなかおりを特別に見せてあげよう
 ライヤー」


そう、ライヤーからのメールであった。そして、添付でついている写真。
両手を縛られて、口にはガムテープでふさがれている。写っているところから見て、ユニットバスの中に押し込められている。服は裂かれていて、なんだか少しだけエロティックでもあった。
こんな時にそんなことを思うのは不謹慎だと解っている。でも、なんかそう見えてしまった。
だが、この中で何か違和感があった。いや、違う。どこかで見たことのあるユニットバスと思ったんだ。だが、思い出せない。

「これって、前ゆうがいたアパートじゃないの?」

エリカが携帯を覗き込んで言ってきた。ほほが当たるくらいの距離。
甘酸っぱい匂いが広がった。だが、なぜかエリカの表情が青く見えた。どうしたのだろう。私は怪訝な表情でエリカに声をかけようとした。ただでさえ近い距離にいるのにエリカは顔を近づけてきて私にキスをしてきた。

一瞬何が起こったかわからなかった。エリカと別れてからキスをしたことがないと言えば嘘になる。いや、キス以上をしていないというわけでもない。
なんといっていいのかわからない関係。付き合っているわけでもない。でも、たまに会うと付き合っているかのような錯覚になる。そんな関係。だからかおりと付き合ってからはエリカと会わないようにしてきた。解らなくなるからだ。
長くなかったエリカとのキスは何であったのかも解らなかった。

「なんかゆうの顔が近かったからキスしちゃった」

エリカはそう言った後、何事もなかったように今までと同じように接してくる。
私はこういう時のエリカはわからない。
いや、わからないからこそ惹かれたのかも知れない。昔も今も。

「んでも、なんかそのユニットって昔ゆうがいたあのアパートを思い出さない?」

エリカがなんとなく言っているそのセリフ。確かにそうかも知れない。
だが、もう社会人になってから一度も行っていない場所。記憶が曖昧だ。
だが、あの場所は確かにエリカも半同棲をしていたからよく覚えている場所だ。
狭いアパート。木造で音が隣に音が漏れるため近隣から苦情を受けていた。
いつだったか、ひどく隣の住人が怒ってきたのを覚えている。そんなにしたいのならホテルへ行けと騒いでいたっけ。
確か横は浪人生だったはず。勉強の疲れからか何もなかった日にいきなり騒ぎ出したのを覚えている。ストレスだったのだろう。
それからエリカと話してホテルへ行く事を決めたんだった。
なんだかひどく懐かしく思ってしまう。

「久しぶりに行ってみようと」

エリカが腕に絡み付いてくる。甘酸っぱい匂いだけが広がっていく。
私はくらくらする想いを持ちながら、私はこの時に出来る現実の受け止め方をした。

「そうだね」

頭の片隅でかおりの顔がちらついた。その顔は笑顔では到底なかった。



~思い出の場所 アパート~

今いる駅から6駅離れた所。そう、この近辺である主要な駅にも近く、大学にも近い場所。
そこに私は住んでいた。
どちらに行くにも30分電車に乗る。
ただ、駅から15分歩く。遠いが家賃は安かった。共益費込みで月3万円。
ユニットバス付き。
バイトをしながら生活するにはちょうどいい家賃だった。
ただ、築年数が私と同じ年ということと、木造で隣のテレビの音が聞こえるくらいの薄い壁だった。外観も2階にあがる鉄パイプのさびたギシギシいう今にも朽ちてきそうだし、入り口付近も舗装もされていない砂利と生えたいように自由に生えている雑草というある意味敷居の高い感じだ。
ただ、内装はしっかりと改装されていてキレイであった。
キッチンも狭いが二口コンロだったし、トイレも洋式で真新しかった。
ただ、私が出る少し前に大家がなくなり、奥さんが大家になってからは放置状態になっていた。
今もまだあるのだろうか。
私は見慣れた町並みを歩いていた。エリカがふと私の手を繋いできた。
そういえば、何度も駅で待ち合わせをしてこの道をこうやって手を繋いで歩いたのを思い出す。
エリカがこのアパートに来る時はいつも駅まで迎えに行ってこうやって歩いたものだ。
懐かしい。
商店街を抜けて、住宅街に景色が変わっていく。
ほとんど変わっていない。
道が細くなって横道に私道である、舗装されていない砂利道の中に入る。
雑草は増えたかも知れない。
そういえば一度1階の住人が雑草に我慢できずに火をつけて問題になったのを思い出した。
私は除草剤をまいたことがあったのを思い出した。
今は誰もそういうことをしていないのかも知れない。
ただ、2階にあがる鉄パイプのさびた階段へ行く道だけは雑草がなかった。

「まだ、残っていたんだね。このおんぼろアパート」

エリカはそういって私を見つめる。テンションが上がっているのが解る。
学生時代の苦い思い出は全てこのアパートに詰まっているといっても、良いかもしれない。
社会人になって、引っ越した時、少し物悲しかったのを覚えている。その時はエリカはいなかったが。

「なつかしいね~ このアパート」
テンションが上がりきっているエリカは先に階段を上りだした。
私がいた部屋は201号室。階段を上がってすぐのところだ。
のぞいて見たが、誰も部屋にいる様子はない。いや、そもそもこのアパート。
今も入居者がいるのかも不思議だ。
前に住んでいたときもそうだったが、一見廃墟にも見えてしまう。
それくらい趣があるんだ。
そういえば、この部屋を出る時、部屋の鍵は全て家主に返してしまった。
試しに、ドアを開けようとしたが、鍵がかかっていた。

「あ~消火器の位置が変わってる」

気の抜けたようなエリカの声がした。
いわれてはじめて気がついたが、確かに前と違うところに消火器は置いてあった。
もとあった所には、まるくあとが残っていたからだ。誰かが最近きて動かしたのだろうか?
エリカが、消火器を動かす。

「よかった。消火器は動いていたけれど、ここにおいていた鍵はあった」

そう言って、エリカは201号室の扉を開けた。

部屋の中は何もなかった。うっすらと、白いほこりが床を覆っている。
だが、足跡はどこにもない。
ユニットバスをのぞいて見たが、そこにはかおりはいなかった。
いや、ライヤーからの写真と比べると、似ているけれど、シャワーの位置が違う。
ここではなかった。だが、どこかで見た覚えはある場所。

「かおり、ここにいなかったね。
 もう、いいんじゃない。時間はまだあるけれど、かおりのこと諦めたら~」

エリカが小さな声で囁いた。

「でも、ここなつかしいね~
 良く、私ここに来て料理つくったな。
 ゆう、覚えている?」

一人はしゃいでいるエリカを見て、なんともいえない気持ちになった。

エリカが近づいてくる。やたらと空気が重い。
空気を変えてくれたのは、携帯だった。画面を見る。着信だ。見たことのない電話番号。
出て見ると、先ほどの病院だった。

「高見さんが意識を戻しました。
 今、どちらにいますか?
 ただ、ちょっと、お話しをしないといけないことがありますので、至急、病院まで
 来て頂けませんでしょうか?」

高見は行方不明だったはず。なのに、病院から電話がかかってくる。
一体、何が事実なんだ。ひょっとしたら、今日の出来事全てが夢だといいのに。
しかもさっきとは違う番号。一体何が真実なんだ。
わからない。けれど、私はそう思いながら、私は病院へ戻った。



~4人目~

私は懐かしさをアパートにおいて、駅へ向かった。
この場所を離れて、あのアパートに来たのは初めてだった。懐かしさもあったが、それよりも私は違う世界を望んでいた。感慨に浸っている場合でもない。
エリカとの間にあった妙な魔法は解けていた。いや、私は思い出から抜け出したのかも知れない。
その雰囲気もエリカも感じたのかわからないが、駅へ向かうときは手を繋いでこなかった。
そう、これが普通なんだ。私にはかおりがいるのだから。
私自身は考えていた。
一体高見に何が起こっていたのか。
いや、高見だけじゃない。かおりについてもそうだ。
どこかで現実から逃げたがっている自分がいる。けれど、その自分じゃダメだって頑張っている自分がいることも事実。
いや、遠く離れた所でただ傍観をしているだけの自分がいたりもする。
不思議なものだ。
自分が一番わからない存在なのかも知れない。
気が付くと電車は目的地へ私を運んでいた。

病院へ向かう。
駅から見えるこの病院はこの地域では唯一の総合病院だ。
私は一階のロビーを過ぎて、エスカレーターで上に上がっていった。
緊急治療の受付で高見宛に来たことを伝えた。
薄いブルーのナース服を着た女性が診察室に通してくれた。
そこに高見はいなかった。
まだ若い医師はパソコンのモニターを眺めながらこう言って来た。

「高見さんは頭部に強い衝撃のため、記憶が混濁しています。
医学的に見れば特段脳に損傷は見られないため一時的なものかと思います。
あまり刺激的な話しは控えていただければと思います。
現状は診察用のベットで横になってもらっていますが、当人が希望すればこのままお帰りいただいてもかまいませんし、入院していただいてもかまいません」

との事であった。

それと、私はもう一つの疑問を投げかけた。

検査途中で、高見が行方不明になったとの連絡を受けたことを伝えた。
だが、そんな連絡をしたものはいなかったし、ずっと高見は病院で検査をしていたという。
一体何が起きたというのだ。
見せた電話番号はこの病院のものとは違っていた。
とりあえず、私は誰かに翻弄されているのかも知れない。
ライヤーなのか。お前はずっと私をどこかで見物して楽しんでいるのか?
わなわなと手が震えるのだけが解った。

高見との面会だが、短めにと言われた。それと、もう一つ、今先客が着ている事も教わった。

その人物は、

「小林 朋美」

であった。そう、かおりの友人で私が知っている人物。そして、私が昼にメールをした人物であった。
実は、私は小林さんが苦手である。いや、なんともいえない独特の空気を持っている女性。
いつも凛とした雰囲気があるけれど、少し離れて世界を見ているかのように感じてしまう。
まるで誰にも心を開いてくれていない。けれど、別に無視をされているわけでもない。
正直、私にはまったくわからないのだ。
それが小林さん・
同年代の女性なのに、どうしてか、この人の前では敬語になってしまう。
一言で言うならば、

「威圧的」

なのかもしれない。

私は高見の病室へ向かった。途中喫煙室があった。
喫煙室に女性が一人いた。
黒いショートヘアにシャープな顔立ち。赤い口紅にきりっとした眉。シャツにジャケット。まるで休みなのに仕事にでもいっていたかのような服装。
そう、そこに小林さんは立っていた。
手には、細いタバコと、タバコに付いた赤い口紅が目にとまった。
タバコをゆっくり消して、喫煙室から小林さんは出てきてこういった。

「話したい事はあるのはわかるけれど、後で。ここで待っているから」

そう、付け加えて、また喫煙室へ戻っていった。
表情からは何も読み取れなかった。いや、感情の起伏すらあったのかもわからなかった。

病室に入ると、ベットに高見が横たわっていた。
頭に巻かれた包帯が印象的であった。

「大丈夫か?」

私はいったい高見になんて問いかけて良いのかわからなかった。今は落ち着くまで待つ。
それが重要なのかもしれない。問いただしたい気持ちは大きかったが、口から出たセリフは、


「とりあえず、無事でよかった」


だけであった。そう、ただ、それだけ。
それと、沈黙。
けれど、この沈黙を破ったのはエリカだった。


「高見さん、携帯はどこにあるんですか?」


甲高い声が病室には似合わなかった。けれど、どこか、消毒液の匂いと、エリカが付けている、香水-エンジェルハート- は似合っていた。少なくとも、私にはそう感じた。
確かに、エリカの質問は的を得ていた。

「いつも、携帯はズボンの右ポケットに入れている。
 そこになかったら、わからない」

それだけであった。そこには、高見の携帯はなかった。

「また、来るよ」


私は、そういって病室を出た。
いつもと違って、呆けている高見を見るのははじめてだった。
病室を出て向かいの壁に寄りかかるように小林さんが立っていた、

「で、何なの話しって?」

吐き捨てるような言葉がぶつかってきた。。
私は、かおりがいなくなったことを伝えた。そして、これまでの事を伝えた。
小林さんは一瞬、固まってそれからふと、横にいるエリカを見て言った。

「ゆう、この子誰?」

私が話すより前にエリカが自分で話し始めた。

「はじめまして、エリカといいます」

エリカの声を聞いてすぐに小林さんは私の腕をつかんだ。

「エリカちゃん、ちょっとゆう借りるね。 すぐ戻ってくるか、そこで待ってなさい
ちょっとこの人と話しがあるのすぐそこで話しをするから」

小林さんはそういうと、私を病院の外へ連れて行った。
エリカをその場所において。

「ゆう、私にとって、かおりはあなたが思っているよりも大切な人なのよ。
 いい。 私は男なんて誰一人認めていないし、かおりがゆうと付き合っていることも認めてな
いの。 でも、かおりを助けるためよ。あなたを助けるためじゃないから。
 話しだけじゃ、解らないから、今からかおりのマンションに行きましょ。
 何かひっかかるのよ」

小林さんはそう言って、歩き始めた。

「まだ、病院にエリカがいるけれど、どうするんだ」

私は、病院ですぐに私が戻ってくると思っているエリカの事を考えた。

「よっぽどのバカじゃなかったら気がつくわよ。それに、私あのタイプの子嫌いだから」

そう小林さんは言い捨てて、タクシーに乗った。

確か、かおりから聞いたことがある。小林さんはちょっとの距離でもタクシーに乗るという事を。
歩くことが一番嫌い。だからいつもタクシーで移動。
それが小林さんのポリシーだと。

タクシーの中で聞かれたことは、6階で何を見たかという事だった。私は、悩んだ末、小林さんに「指」の話しをした。
だが、思ったより、小林さんは冷静だった。

「おかしいと思わないの。 どうして、ライヤーは指をふっとばしたの?
 指を切断した時点で、メッセージは残せているのに。 そこまでする理由なんて、あるのかし
ら?」

小林さんのセリフに確かに納得した。今まで「ライヤー」の行動なんて考えたことはなかった。
何か意味がある行動なのだろうか?

「ちょっと止まって」

小林さんが、マンションに着く少し手前で、タクシーをいったん止めた。

「ゆう、高見が事故にあった場所はどの辺? 見てたんでしょ」

小林さんがすごい剣幕で話しかけてくる。

確かにこの付近だ。

「降りましょう」

660円を払って、私と小林さんはタクシーから降りた。
降りたところは、普通のT字路。

「ここで、高見は何かを見たはずなの。
 いや、何かに気がついたはず。 そして、ひき逃げにあう。
 でも、どう考えてもおかしいの。 このまっすぐな道で、どうして車にはねられたのか。
 おそらく、高見はゆうを待っているため、たばこを吸っていたはず。 この電信柱の近くで」

小林さんが言いながら、確かに、そこには高見が吸っている「CAMEL」の吸殻があった。
壁を背にしていたとすると、高見には死角はない。

そして、気になるのが、高見の携帯の着信。

「そう、この時、高見の携帯にはかおりの携帯から着信があった。 そして、何かがあって、こ
の場所を動いた。 その後にはねられた。
 そういう事なのかな?」

確かにここからはかおりがいたマンションが見える。だが、正面側ではない側面だ。
ここからは部屋の様子は見えない。ここからはマンションの近くに植えられている木々と、その奥にある非常階段。そしておくにある駐輪場がかろうじて見える。
聳え立つマンションは相変わらず私を威圧していた。
いつのまにか私は空を見上げていた。どこかでヘリコプターが飛んでいるのか音が聞こえていた。
空を見上げながら私は小林さんの話を聞いて思った事を言った。
かおりの携帯から高見への携帯の着信。
だから、高見は

「かおりの携帯に電話しろ」

と言ったのかも知れない。一体何を聞いたのか。この場所に誘導されたというわけじゃないだろう。だったらここに吸殻があるのがおかしい。おそらくここでタバコを吸っていて、携帯がなったのではと思うからだ。
それと、もう一つ。メモの。

「答えはそ・・・」

後、ここから見えるものって言ったら、かおりのマンションくらいだ。
私と、小林さんは悩んでも仕方がないので、かおりのマンション。
601号室に行く事にした。



601号室。血のむせ返る匂いがしているはずなのに、違った。
机には前と同じように箱が置いてあった。そして、机の周りには、さっきエリカが見せてくれた赤い香水。
エンジェルハートが並べられていた。

そして、箱の上にはまた前と同じように手紙が置いてあった。


「また、多くの人を巻き込んだね。 ふふふ。
 よっぽどかおりを切り刻んで欲しいんだね。
 リクエスト通り、もうちょっとキレイなものをプレゼントしてあげるよ。
 今度はちゃんとキレイに洗ってあげたからね。
「ライヤー」より」

小林さんも手紙を覗き込んでいた。
そして、私より先に小林さんが箱に手を伸ばした。

箱の中には。
眼球が入っていた。

血の匂いはない。
ただ、エンジェルハートの匂いだけが部屋には広がっていた。



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