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milestone ブログ

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小説 「君に何が残せたのかな」-3

~回想 綾との出会い~

日比谷に言われたから、私は過去の手帳を見ていた。
私が手帳をつけるきっかけをくれたのは綾だった。

7冊の手帳。
3つの携帯。
綾との記録など今更残す必要もない。
けれど、こうやって過去を見つめなおすなんて今までなかったな。
私は一番古ぼけている手帳を開いた。
そう、この手帳に出逢ったその時を。


大学生になって私は後悔をしていた。
元々理系を志望していたが、どうしても物理が苦手だった。
そのため、文転したのだった。
別に興味がないわけではなかった。
ただ、高校時代の友達から実験の授業の報告やらメールが来るとやはり、うらやましく思っていた。
そう、私は大学生活をどう楽しんでいいのか見失っていたのだ。
だから、なんとなく授業に出て、たまにサークルの連中と会ってたわいもない話しをしていた。
輪を乱さず、こういう流れに身を任せるのもいいのかも知れない。
そう、私は目標を見失っていたのだ。

校内にあるベンチに腰掛けて空を見上げていた。
都心部から少し離れた所にあるこの大学はまるで世間から隔離してくれとでも言わんばかりだった。
私はもっと空を見たくなって横になった。
気持ちよい風。
桜は散ったけれどまだ5月。
こう日陰で心地よく空を見上げるのもいいのかも知れない。
ベンチに横たわって、初めて気が付いた。
すぐ近くのベンチの下に手帳が落ちていた。

近寄って手にとって見た。
まだ、新しいのに使い込まれている感じがした。
中を開くと、かわいらしい文字で予定がいっぱい書かれていた。
プリクラはなかった。
珍しいって思った。
普通にスケジュール帳として使っている。
しかもかなり解りやすく書かれている。
後ろを見たら、名前が書いてあった。

「遊馬 綾」

丁寧にそこにはアドレスまで書いてあった。
私は校内の誰かだろうと思って学生課へ向かった。
変わった苗字だからすぐに見つかるだろう。
私は学部内検索で調べてもらったが、該当者はいなかった。
不思議に思った。
私はこれだけ丁寧に予定を入れているのならば当人はかなり困っていると思った。
だからだと思う。
手帳に書かれていたアドレスにメールをしたんだ。

「遊馬さん
はじめまして。結城といいます
 あなたの手帳を拾いました。
 届けたいのですがどうすればいいですか?」

私は多分何かを期待していたのかもしれない。
そう、閉塞感のある世界が変わることを。
返事はすぐに来た。

「結城さん
 手帳拾っていただいてありがとうございます。
 もう見つからないかと思って実は新しい手帳を買ってしまいました。
 それと、申し訳ないついでなのですが、今日の私の予定は何か書いていますか?
 思い出せなくて。。。
 ホントに申し訳ないです。
 後、私は自分の苗字が好きじゃないので、名前で、綾でお願いします」

返事を見て私は手帳を見た。
5月のスケジュールを見る。
今日、5月18日。
予定は
10:30 マーケティング総論
13:00 定例訪問
18:00 青山Bookセンター バイト
と書かれていた。
一瞬、13時からの定例訪問というところに引っかかったが、この内容をメールした。
すると返事が返ってきた。

「ありがとうございます。
 今度開いている日にお礼がしたいのですが、
 実は最近のスケジュールが良くわからないので。
 だから、そこにある手帳で開いている日と結城さんの開いている日を
メールしてもらえませんか?」

そう、これが綾との出会いだった。

思えば、私はこの時何かキッカケが欲しかったのだと思う。
そして、確実にこの出会いから色んなことが私の周りで、いや、私自身が変わっていった。
私にとって綾は特別だったんだ。
そして、綾にも同じくらいに。

その週末私と綾は初めてあった。
表参道のよくわからないカフェだった。
場所は綾が指定してきた。

「はじめまして」

私は綾に出会ったとき、赤色のめがねと白い肌が印象的だった。
美人だな。
私はそう感じた。
けれど、冷たさは感じなかった。

「なんだかいい人そうでよかった。
 実は内心こわい感じの人だったらどうしようかと思っていました」

そう、笑いながら綾は話していた。
たわいもない話しをしているなか、私は手帳を返そうとした。すると綾は

「あ、ちょっと写させてください。
 もう、新しいの買っちゃたから。
 それに新しい手帳のほうがちょっとかわいくて気に入っているんです」

そういって、見せてくれた手帳は赤色のかわいい感じの手帳だった。
確かに、私が拾った手帳は黒色で今日の綾のかわいらしい服装から考えると合っていない感じがした。

「実は、その手帳貰ったんですけれど、あんまり気に入っていなくて。
 でも、もらいものって捨てるのも勇気がいるし。
 だからなくしたときは、その手帳は私の手元にいるべきじゃなかったんだ
 って、思うようにしました。
 でも、全ての予定がわからなくて困っていたんです
そしたら、結城さんからメールが来て助かりました。
本当にありがとうございます。
あ、それと、もうこの手帳は必要ないのでもし良かったら使って下さい」

笑いながら綾はそう話していた。
手元に手帳だけが残っていた。
正直、不思議な人だという印章が第一印象だ。

そして、気になっていたことを話した。
いや、本当は気になっていたことは二つあった。

一つ目は、どうしてあの大学じゃないのに、大学に来ていたのか。
二つ目は、定例訪問という変な表記だった。

私はでもこの時聞けたのは一つだけだった。

「どうしてあの大学にいたの?」

というほうだった。
綾は少し困った表情をしてこういった。

「実は人を探しているんです。
 その人を探して大学にいってたんですよ」

私は何か、どこかに違和感があった。
そう、この時は理由なんてなく、ただどこかに異物を感じただけだった。

「もう、行かないと」

綾は時計を見て、その場を去っていった。
私は残された手帳を見て、もう一つ気になっていた「定例訪問」のなぞを探していた。
手帳には癖なのかわからないがレシートもいっぱい入っていた。
私はそのレシートを見ながら綾が定期的に行っている場所。
そして、その日が手帳に書かれている「定例訪問」と書かれている日だということがわかった。
そう、私は「定例訪問」と手帳に書かれている日に綾を探してみようと思った。
場所は、私が行っている大学だからだ。

~ブログ作成~

手帳を見ているとずっと思い出してしまいそうになるので、私は一旦閉じた。
でも、私は気が付いていた。
近いうちにこの手帳と携帯を全て読み返すことを。
だって、そうでないと綾を傷つけずにこの真実を乗り越える道が浮かばないから。
ただ単にわかれたいといって簡単にいく関係でもない。
だからこそ、振り返りながら探していかないといけない。
私にはやることもたくさんあるのだから。
その代わりに時間だけが限られている。
残りの時間で私は思っていることすべて出来るだろうか。
とりあえず、私はブログを作ろうと決めた。

作る時に紹介がいるmixiはさけようと決めた。
私という存在が他にわかられることなく、そして、この真実を吐露し続ける。
そんな場所を作ってみたい。
確かにその気持ちはあった。
日比谷は多分、私に思いとどまらせたかったのだと思う。
その気持ちが痛いほどわかるが、私にも決めたことがある。
6ヵ月後に全てに謝罪をすることが出来たら私は謝罪をしたいと思うのかも知れない。

私はブログは悩んだ末、「楽天」でブログを書くことに決めた。
タイトルは

「死までの残り6ヶ月を綴って」

その下に、こう書いた。

「私は余命6ヶ月を宣告された27歳です。
 死に向かってこれから出来るだけ更新を続けて生きたいです」

そして、私は記事を書き始めた。
テーマを選択する。
もちろん、死に至るなんていうテーマなんてない。
仕方がないのでテーマは選ばずに書いていった。
私はブログの中では「鈍器ほーて」とした。
死というでかい風車に立ち向かうからだ。
多分、私のことは今後「鈍器」さんとか「ほーて」さんと呼ばれるんだろうな。
なんて、ちょっと思っていた。
ま、名前なんてどうでもいい。
ただ、確実に賛成なんて得られないだろうな~
私はそう思って、ブログにこう書いた。

【タイトル 残り180日】

みなさま、始めまして。
 鈍器ほーてといいます。
 私は今日病院で余命6ヶ月 つまり180日を宣告されました。
 これから毎日一日ずつ記録をしていきます。
 更新が止まりそうなときは友人にログイン、パスワードを預けます。
 
 ドラマや映画では見ていたけれど、まさか自分が宣告されるなんて思っていませんでした。
 前向きに何かを成し遂げようなんていう英雄には私はなれないかも知れません。
 けれど、残りの人生をどうにか過ごしていければと思っています。
 
 ちなみに、会社勤め
 彼女がいます。
 まだ、会社にも、家族にも、彼女にも言えていません。
 タイミングがわからないからです。
 
 出来るだけ周りには何も変わらない自分で接していければと思っています。
 彼女とは多分わかれると思います。
 彼女を泣かせたくないですから。
 それでは、また、失礼します。

そう、これだけをブログにまずはアップした。
いきなりただ書いただけ。
そう、コミュニティーとか何かに入るつもりもない。
多くの人に知られたら、綾が誰かから聞いて気が付いてしまうかも知れない。
私はその心配だけさけたかた。

気が付いたら9時を回っていた。
曜日を見る。
昨日までプロジェクトの最終だったからほとんど曜日の感覚などなくなっていた。
今日から1週間は休みなのだ。
携帯をみて今日が月曜日だったことがわかった。
ここ最近は曜日の感覚すらなかった。
そう、ほとんど会社に泊まりこんでいたからだ。
狭い空間でコンビニ弁当だけを食べている。
椅子を並べて仮眠を取って、また再開をする。
つかれてきたら、ドリンク剤やビタミン剤でごまかしていた。
ああ、プロジェクトが終わったんだ。
綾にメールしなくては。

私は普段通りに綾にメールした。

「今日、ようやくプロジェクトが終わったよ。
 1週間の休みを貰ったけれど、月曜日からだから時間とりにくいよね。
 週末くらいに会わないか?」

私は毎回プロジェクトが終盤になるとメールも出来ないことを綾に伝えている。
もう、3年もこの会社で勤めていると綾もそのことを何も言わない。
いや、綾自信も忙しい仕事をしている。
広告会社で働いているため、急に締め切りが来ることもある。
時間だって不規則だ。
ただ、私と違って週末だけはきちんと休めているが。

返事はすぐに来た。

「ゆうくん
 お疲れ。今日はクライアントからOKがすぐに出たから早く帰れてます。
 もう少し早く知れたら会えたのにね。
 今週はまだ締め切り前の原稿があるから、週末かな。
 土曜日あけておいてね。
 この1ヶ月全然連絡が来なかったからその分覚悟して頂戴ね」

相変わらずの綾のメール。
綾は知らないかも知れないけれど、私はずっと綾のメールをフォルダーに入れている。
そう、この手元にある古い携帯にも綾フォルダーは存在している。
今となってはこのメール一つひとつも思い出。
後、この携帯に何通綾からのメールがたまるのかな。
なんて思ってしまった。

私は週末綾と会って何を話すのかを考えていた。
私はどうにかして綾との距離をあけることを考えていた。
そして、綾だけは涙をさせない結末をずっと模索していた。
ただ、思いつくことは私のエゴの塊だけだった。

こんな方法しか思いつかなくてすまない。
私は窓から空を見上げた。

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