「十二夜」千穐楽
「十二夜」の千穐楽になんとかすべりこめた。はじめに見たときにくらべて、ずっとよくなっていた。初回は、どうしても、舞台の仕掛けや、ともかく全体がどう味付けされているかに目がいっていた。こんどは、落ち着いて芝居を楽しむことができた。鏡があるという演出も、前回は「わーすごい」でおわっていた。今度は、鏡に映った自分自身の姿を見つめながら、鏡に映したような双子の兄妹に託された意味にも思いを馳せることができた。そんな慣れを差し引いても、三週間のあいだに芝居はよくなっていた。前回は、やや手探りで少々の戸惑いを隠しながらだったのが、自信をもって堂々と演じ楽しんでいる感じが伝わってくる。演技のメリハリが効いてきた。セリフが粒だってきた。シェイクスピアのことば遊び、どこをどう訳したのかは知らないが、ぱっと聞いてわかるようなせりふ使いで、よく伝わっていた。そして、菊之助。A(双子の兄=男性)、B(双子の妹=女性)、C(男装したB)。三者の微妙な違いの演じ分けが、明らかに向上していた。Cの感情が昂ぶってくると、Bが出てくる。そこで、言葉遣いだけでなく、声じたいも変えている。しぐさも。で、はっとしてCに戻る具合がまたよい。前回は、C基調で、Bがちらちら見える感じだった。今回はBとCを自由に行き来していて、そこに不思議な感覚が立ち上がっていた。さらに、AとCの演じわけ。同じオトコでも、Cは柔らかい声で、宝塚の男役の声みたいだ、と思った(見たことないが。)Aは凛々しい男の声。脇役もそれぞれに活躍度を増していたなかでも、いちばん弾けていたのは、亀治郎。さて、最終日の最終回ならではのお楽しみ。役者もアドリブや遊びを入れてくれた。あるシーンではかなりくだけてはじけても、要所要所ではきちっと演技を戻すあたりの呼吸も、さすが。最後、菊五郎は、黄色いヘルメットをかぶって登場。本来は烏帽子だったと思う・・・それを見た共演者は笑いをこらえながら、あるいはこらえきれずにふきだしながら演技を続け、客席もつられて笑いがとまらず。最後の幕が閉まり、菊五郎が花道を入っていく。ひと呼吸の間をおいてもう一度開いた幕。花道からは蜷川と菊五郎が連れ立って登場して本舞台にかかり、カーテンコール。やがて緞帳がおりてきても止まぬ拍手。緞帳がいま一度あがり、にぎやかに送り出してくれた。一幕目がおわっての休憩時間に、白いシャツ姿の蜷川をロビーで見かけて、「これは、あるかも」と思っていた予想通りのカーテンコールではあった。今回の「十二夜」については、いろんなヒトがしたり顔であれこれ言っていることだろう。新しい試みということで、観客として楽しめた。これだけで自分には十分。