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山崎元の経済・マネーここに注目

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2009.11.13
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日本航空(以下「JAL」)の再建問題が連日報道されている。この中で、公的な支援を行う前提として、特にJALのOB(退職者)の企業年金の給付減額の可否が注目されている。現時点で正式決定ではないが、政府は特別立法でこの強制削減を可能にすることを選択肢の一つとして検討中だと報じられている。

本稿では、年金減額の是非や現在の政府の対応の良し悪しを論じるのではなく、JALの年金問題を題材に、個人がお金について認識しておくべき教訓を探る。

企業年金は多くの場合、退職時に将来もらえる金額が確定する(これを年金額の「裁定」と呼ぶ)。年金は老後の生活設計の基本になるものなので、いったん裁定された年金給付額を後から減額するための条件は非常に厳しいものになっている。基本的にはOB全体の3分の2以上の賛成がなければ減額できない。JALのケースで問題になっているのもその点で、現時点では、年金引き下げに必要な減額への賛成は得られそうにない情勢だと報じられている。

退職者の年金積立金は、これを貯金として眺めると「給付利率」と呼ばれる利率で運用される(正確には預金というよりも保険だ)。JALの場合、給付利率は4.5%だ。会社によって制度が異なるが、年金積立金の一部ないし全部を、退職時に退職一時金として受け取るか、年金として将来にわたって受け取るかを選択できる場合が多い。近年の金融情勢なら、4.5%の運用利回りは魅力的なので年金払いを選択する人が多いだろう。

しかし、年金を支払う側から見ると、将来の給付支払いのために積立金を運用する利回りとして、現在の金利情勢で4.5%はいかにも苦しい。現在の金利情勢を前提として将来の年金給付を支払うためにはざっと7千億円程度積立金がなければならない計算なのだが、現実の積立金は4千億円程度しかなく、3千億円の積み立て不足がある、というのがJALの年金の大まかな現状なのだ。そこで、OBの年金積立金に適用する給付利率を引き下げる形でOBへの年金支給額を再計算して減額しようというのが、現在の政府の再建計画で検討中の内容だ。ただ、そもそも年金は給料の後払い的な性格を持っているし、しかも高齢ですでに裁定を受けたOBの年金額を事後的に引き下げると、彼らの老後の生活への影響が大きい。OB年金額の事後的な引き下げには、財産権上問題あるがのではないかとの意見も少なくない。

このケースから、個人が学ぶべき教訓の第一は、長期間にわたる金利のリスクの大きさだ。給付利率、あるいは年金の積立金の利回りとして想定される「予定利率」は、かつて5.5%や4.5%といった当時の金利水準によって決められた場合が多いのだが、それから年月が経った今、この利回りで資産を運用することは容易でない。これは、そもそも、昔の年金の制度設計が金利変動の可能性を十分想定していなかったことに大きな問題があった(これで良しと考えた企業も、こうした制度を認可した監督官庁も、両方迂闊だった)。個人の場合も、将来の運用利回りを高く見積もりすぎた場合に、将来金利が下がって予定が狂う場合があるし、住宅ローンなどを変動金利で借りていて、将来金利が上昇して返済が苦しくなる可能性もある。金利のリスクは甘く見ない方がいい。

投資家として、現実的に重要な教訓は、企業年金の負担に苦しんでいる企業がJALだけではないということだ。JALよりも大きな金額の積み立て不足を企業年金に抱えている企業が何社もある。OBの年金を事後的に削減できるなら楽だと思いつつ、JALのケースに注目している企業は少なくないはずだ。

たとえば、総合電気メーカーなどは年金が手厚く従業員数が多いので、数千億円単位の積み立て不足を抱えていて、これが収益を圧迫しているケースが複数ある。株式を買っているということは、投資対象企業の企業年金の損得のリスクにも投資しているということだから、将来の給付が確定した大きな企業年金を持っている会社の株を買うと、企業年金のリスクがまるで投資信託のセット販売のようについてくる。株式の投資家は、自分が投資している企業の企業年金の状態をよく把握しておくべきだ。

最後に、JALを巡る今後の推移にも影響されるが、サラリーマンは自分の会社の年金がどのような状態になっているのかに注意しておきたい。個々の企業年金の財政状態、あるいは企業の業績によっては、あてにしていた企業年金が将来減額される可能性がゼロではない。嬉しいことではないが「年金にもリスクがある」という認識が必要だ。

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楽天証券経済研究所
客員研究員 山崎元
(楽天マネーニュース[株・投資]第62号 2009年11月13日発行より) ==========================================================

 






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最終更新日  2009.11.13 14:40:41



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