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山崎元の経済・マネーここに注目

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2011.02.18
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先般、スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン社(以下「S&P社」)が、日本政府の長期債務(簡単に言えば長期の日本国債)の格付けをAAからAA?まで一段階(「ワン・ノッチ」という)引き下げた。引き下げの詳しい理由は、 S&P社のホームページで同社のリリース文を読んで欲しいが、現政権の財政に対する取り組みが実効を上げそうにないという批判が背景にあると筆者は思った。

この批判には大いに共感するところがあるのだが、格下げの発表後、長期金利(日本国債の利回り)はほぼ変わらず、為替レートはやや円高という展開になっている。格下げが重大な意味を持つなら、長期金利は急上昇(国債価格は暴落)し、為替レートは円安になるはずなのだが、そうはならなかった。

S&Pだけではなく、格付け会社はサブプライム問題で大きく信用を損ねた。彼らが高格付け(AAAやAA+)を付けていたサブプライム・ローンの証券化債券の多くがその後にデフォルト(債務不履行)を起こしたのだ。今回のS&Pによる日本国債格下げが大きな影響力を持たなかったことの背景にも、格付け会社の信用失墜の影響はあると思う。

サブプライム・ローンの証券化商品は、多くのローンの債権を組み合わせてリスク分散したものになっていて、加えて、債務弁済の順位が高い「シニア」の部分は、多くのローンが同時にデフォルトを起こさないと毀損しない。

平時にあっては住宅ローンのデフォルトは、個々の債務者家計の別々の問題によって起こるからリスク分散が効くから計算上はかなり安全なのだが、全米の不動産市況が同時に悪化するような事態では、多くのローンが同時に悪化する可能性があり、この場合はその限りではない。直接的には、S&Pに限らず、格付け会社はこの点の想定が甘かった。

1990年代に不動産価格の全国的な大幅下落を経験した日本から見ると、これは「当然想定しなければならない可能性」に思えるが、プロであるはずの格付け会社はこの点を見落とした。見落としは人間なら誰にでもあることだが、この見落としには、うっかりや不運だけでは片付けられない背景があった。

それは、格付け会社が格付けされる対象債券の発行会社から手数料を貰うビジネスモデルを採用しているからだ。

森田隆大氏の著書「格付けの深層」(日本経済新聞出版社)によると伝統的な社債の格付け手数料は額面金額の3bp(ベーシスポイント。1bpは1%の百分の1)だが、証券化債券はその倍以上 6~13bpなのだという。そして、サブプライム問題が発生する前の時点で、格付け会社にとって証券化債券の格付けは重要な収入源だった。そして、債券の発行者やアレンジャーは、格付け会社を選ぶことができる立場にあった。

率直に言って、格付け会社には自分の商売を増やすために、格付けを甘くして、格付け対象債券の発行会社や証券化債券のアレンジャーに取り入ろうとするインセンティブ(誘因)がある。そして、より正確には、そのインセンティブが影響を及ぼすのは、格付け会社そのものよりも、格付け会社のアナリスト、営業マン、経営者といった「個人」だ。

格付け会社そのものは、甘い格付けを出して評判を落とすと長期的には困るかも知れないが、格付け会社の社員や経営者は、短期の業績に応じて報酬(特にボーナスやストックオプション)を貰うことができるので、時々の商売を得るために格付けを甘くする誘惑がある。この弊害が表面化したのがサブプライム問題だった。

そして、格付け会社のビジネスモデルの構造的な欠陥に対して、現時点では有効な修正案が見つかっているとは言い難い。格付けは「疑いながら参考にするしかない」というのが現状なのだ。しかし、疑いに対して有効な結論を持つことができる人は、能力的にプロないしプロ以上だろう。

ところで、格付け会社のビジネスモデルと同じ構造の問題が、個人の運用の世界にもある。たとえば、投信評価会社は相当程度格付け会社と似たビジネスモデルだし、新聞や雑誌に登場する評論家、マネーライター、ファイナンシャル・プランナー(FP)などの多くは金融商品を供給する金融機関のセミナー講師で報酬を得たり(一般に講演料は原稿料よりもかなり高い)、金融機関が広告を出すメディアに登場して報酬を得たり、していることが多い(筆者も同類であることを認める)。彼らをどの程度信用していいかは難しい問題だ。

一つには、彼らが、どこからどのような収入を得ているかという利害関係に注目することが有効だ。その意味では(たぶん、その意味でのみ!)、新聞や雑誌の「広告特集」の登場人物と内容は参考になる。

そして、結局は、投資家が自分で情報そのものの信頼性を判断しなければならない。しかし、自分自身がそれをできる投資家には、そもそも評論家やFPは必要ないことになる。

結局、お金の問題で他人を頼ってはいけない。自分が分かる範囲で、失敗しても納得できる範囲で、自分で決める、という以外に安心な方法はない。自分が間違える可能性まで含めると、それでも絶対の「安心」ではないが、他人を頼ってだまされることだけは避けて欲しい。

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楽天証券経済研究所客員研究員 山崎元
(楽天マネーニュース[株・投資]第92号 2011年2月18日発行より) ==========================================================





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最終更新日  2011.02.18 12:41:57



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