『私はヒトラーの秘書だった』 著:トラウデル・ユンゲ
ヒトラーが、1945年4月30日に自殺でその生涯を閉じる、
最後の2年半、彼に仕えた秘書トラウデルの手記。
映画『ヒトラー~最後の12日間~』の原作となった本。
映画のコピーは、「世界震撼。全てを目撃した秘書が今明かす、
衝撃の事実」となってますが、ある意味、ほんとに衝撃です。
ナチ党員でも、ヒトラーに傾倒しているわけでもなく、
ほんの運命のいたずらで、ヒトラーの最後の秘書となった、
トラウデル。
本書の原稿は、ヒトラーがピストル自殺を遂げてから3年後に、
記憶が色褪せてしまわないうちにと、彼女が書きとめておいたもの。
総統官邸や山荘や移動中の列車や、
そして退避壕でヒトラーと過ごした日々が、綴られている。
それが、50年の時を経て、日の目を見た。
秘書とはいうものの、口述筆記の仕事は数えるほどしかなく、
昼食、午後の散歩、夕食、そして夜のお茶会に、
ヒトラーと共に歓談するのが、主な仕事のような感じ。
ここに書かれているのがヒトラーだと知らなければ、
思いやり溢れ、非常に人間味のある、とても洗練されたホスト。
やり手ワンマン社長というよりかは、中小企業の、
気のいい社長さん、というイメージ。
私たちが思い描くヒトラー像とは似ても似つかない、
ちょっと神経質だけども、普通の、ほんとに普通の、おじさん。
正直、あまりに普通すぎて、前半は眠たくなってくるくらい。
いつ、衝撃のシーンでも出てくるのかと、待てども待てども、
描かれているのは、「どこにでもいるおじさん」ヒトラーの姿。
ヒトラーは、常に女性たちには礼儀正しく、
そしてその中でも一番若いトラウデルを、特に優しく気遣っていた。
末っ子の娘を、いたわるように。
トラウデルの結婚を心から喜び、そして、
彼女の夫が亡くなった時にも、我がことのように悲しんだヒトラー。
そんな彼が、なぜ、彼が迫害した何百万という人々にも家族がいて、
愛する人がいて、その死を悲しむ人がいるということを、
どうして思いやれなかったのか。
どうしてそれらから、目をそらすことができたのか…。
追い詰められ、敗戦の色が濃くなってからのヒトラーは、
体も思うように動かず、トラウデルの目には、
かわいそうなくらい弱々しい、おじいさんのように映っている。
そんな、鬼のようでもなく血のない人間でもない、普通の、
弱いところもあるおじさんだったからこそ、多くの人が、
彼の間違った魅力に惹き付けられてしまったのかもしれない。
まだ若かったトラウデルも、例外ではなかった。
「雄弁と暗示力で人々を虜にし、彼ら自信の意志や確信を
押し黙らせることができるような一人の人間の力が、
いかに大きな危険を秘めているか」に、気づかなかった。
あまりにヒトラーの近くで、彼の人間くささを見ていたばかりに、
彼の組織が、いかに非道なことをしているのか、
彼の側を離れるまで、気づけなかった。
「冷血の独裁者ヒトラー」の側にいることが、歴史的に、
どのような意味を持つことなのか、考えもしなかった。
ヒトラーのしてきたことは、決して許されることではない。
しかし、そんな彼も、血も涙もある「普通の人間」であった、
ということに、衝撃を受けた一冊でした。
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【参考】
草思社 ←本の一部が読めます。
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