包丁を研ぐ
家の包丁は父が研いでいた。母によるとその前は父の父(つまり祖父)が研いでいたが、父が転勤で祖父から離れてからは父が研いだ。祖父も父もすでに亡くなっており、今は母の包丁は私が研ぐ。 父も祖父も私に包丁の研ぎ方を伝授しなかったから、私は研げる人間ではなかった。チェロを自作するプロジェクトを始めたとき、刃物が研げないと困ることがわかり「木工(道具の仕立)」という本を読んで勉強をした。平鉋や平鑿は真っ平らに研ぐ必要があり素人には難しい。ぐらつかないように保持する道具を使ってなんとか研いでいた。砥石は同じ砥石を2枚づつ揃えて平面を出していた。 丸鑿や小刀など真っ平らに研がない刃物もあり、平面が狂ってもよい砥石も用意した。これを包丁研ぎに使っても良いと気づいた。木工用の刃物を真剣に研いでいるから、料理に使う包丁が切れないと気になる。それで包丁も研ぐことにした。 包丁の研ぎ方の本は買わなかった。よく見かける研ぎ方の説明は簡単なことしか書いていない。新品の包丁を買って定期的に研ぎ続け10年以上好調を維持する、という観点では書かれていない。結局試行錯誤しながら自分で考えて研いできた。完全に自己流なので正しく研げているかどうか自信はない。月に一度くらいの頻度で研いで、トマトを切っていらいらしたり、玉ねぎを切って涙が出たりすることは無いので良しとしている。大根なども気持ちよく切れている。 父は亡くなる前の数年を病院で過ごしていおり、母が包丁が切れなくて困ると言うので、私が研ぐことにした。車で母の家に行くときに砥石のセット(荒砥、中砥、仕上げ砥の3枚)と砥石の台を積んでいき、3,4本の包丁を研ぐ。母は祖父、父の研ぎを覚えていて、父より祖父のほうが上手だったという。私の研ぎは父と祖父の間くらいというところのようだ。