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[活きる 特別版]
ネタバレは禁止していませんので未見の方は注意です!
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チャン・イーモウ監督、コン・リー主演による感動巨編、一大叙事詩。
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文化大革命へと激動する1940年代の中国を舞台に、博打に明け暮れ全財産を失った資産家と、妻、子供のたくましく生き抜いていく姿を描く。
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裕福な暮らしに甘えて賭博に興じる夫、福貴(グオ・ヨウ)を見限った妻、家珍(コン・リー)。やがて全財産を失った福貴は、影絵講談芸で身を立てながら戦火の中を生き抜き、やがて家珍や子供たちと再会し、新たな生活を始めるが…。
あまりにもわたし好みの演出だったので、いろいろと調べてみると、「山の郵便配達」のフォ・ジェンチー監督とこの作品のチャン・イーモー監督は、中国の遅れた恥部ばかり映画にすると批判されていたとか。お国柄、いろんな圧力はかかるのでしょう。
がしかし「活きる」は、大河ドラマのダイジェスト版的軽快な展開の中で、コメディータッチの演出もあり、笑いと涙を織り交ぜて美しい映像とともに感動させられる。私つのつぼを付いたのは、やはりトリックスター的に使われている影絵の効果だ。心を和ませて、なお悲しみの緩和効果を生み出してる。
「文革」時代に対する監督自身の思い入れは、深そうだ。私は30歳手前だけど、日本の安保闘争事件は興味があり、よく調べた。だからこの中国の文化革命の規模は、当時非常に大きかったはず。文革を最もポジティブに描いたチャン・イーモウ作品ではないだろうか。一日たてば立場が逆転してしまうという、なにが起きても不思議ではない時代。
そんな苦々しい時代を、このようにコメディータッチで振り返れる時代になってしまうとは、いや、現在の中国の大国としての目覚しすぎる発展を心から喜び微笑ましいと思った。まあ賛否両論で、庶民の日常、経済発展から取り残された地域の物語を描いた作品の方が好きだという方もいらっしゃるでしょうね。
「人の死」は身内や旧知の間柄の区別なく、実に唐突で呆気なく描かれていく。それは人生の流れの中のほんのひとコマに過ぎないとでも言いたげだ。
この映画のお父さんのように・・・息子や娘のために良かれと思ってしたことが、運命のいたずらか、彼らを死にいたらしめることになってしまう。
「あのときあんたがあんなことをしなければ」と妻に責められても、返す言葉も見つからない。
戦渦を共にした友人との再開は、まさかの交通事故で息子をひき殺した加害者だった事実、許しがたい現実は、いつ何時あなたの身の上に降りかかるかもという核心に迫り、またもや物語は展開してゆく。
もう一人の愛娘も、無事結婚したと思いきや、出産後の出血多量で死亡。革命闘争中、医師が追放され、町中探し回って連れ戻したが、憔悴しきった医師に親切で饅頭を与える。がこの、父の親切が裏目に出た。娘の命は絶えた。
ここがコメディ染みた一見ユーモラスでありながら結果的にはなんとも皮肉でブラックなエピソードが強烈である。饅頭をのどに詰まらせたのだ。
終始一貫して、リアルな表現力の父の間抜けさ加減に、母性本能をくすぐらせる。
これだけの人生模様を演じられるグォ・ヨウの俳優としての度量の幅が感じられる。
また共産軍と解放軍の戦争に巻き込まれた主人公らが逃げまどうシーンですが、登場する軍人の数は、中国ならでは、圧倒的な群衆の数で見ごたえがあった。
街中のシーンでもそうだが、あれだけのエキストラを集めるとなると、日本では、かなりの労力になるだろう。
「生きる」ではなく、やはり「活きる」というタイトルに大いに納得してしまう。数奇な運命を経て、それでもこれからも幾多のことがあって人生というものが流れていくということを暗示したラストに、爽やかな余韻を残して映画は終わる。
ひたすら正攻法で丁寧に、そして少しも深刻ぶらず決してユーモアを忘れない。こういう作品を撮らせたらチャン・イーモウ監督のまさに独壇場だと言っていい。
苦しいけれど、不幸じゃない。貧しいけれど、不幸じゃない。幸せとは決して言えないけれど、不幸じゃない。たとえどんなに辛くても、不幸じゃない。そんな生き方が、ここにあります。監督の全作品が見てみたくなりました。
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