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そういちの平庵∞ceeport∞

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山之口貘

金子光晴経由だったか?

高田渡経由だったか?

定かじゃないけど

琉球生まれのこの詩人

以前フリーページにも貼り付けた

「底を歩いて」

なんのために
生きているのか
裸の跣で命をかかえ
いつまで経っても
社会の底にばかりいて
まるで犬か猫みたいじゃないかと
ぼくは時に自分を罵るのだが
人間ぶったぼくのおもいあがりなのか
猫や犬に即して
自分のことを比べてみると
いかにも人間みたいに見えるじゃないか
犬や猫ほどの裸でもあるまいし
一応なにかでくるんでいて
なにかを一応はいていて
用でもあるみたいな
眼をしているのだ

山之口獏の詩である
何事か僕はわからなかったのだが
琉球という島で生まれ
明治に沖縄県となり
様々な時代の波にもまれ
彼の詩は残った

まるでホーボーソング(浮浪者の歌)みたいだ
要するにだ
北海道と沖縄にだけは開発庁があり
植民地化と民族差別の問題でもあったのだ
実際、琉球の言葉は日本語とはかけ離れ
明治以降の植民地化教育で日本語が彼の地に定着したのだ
これはアイヌ語にもそのまま当てはまる

本当に謙虚に彼は小文で書いている
自分が茨城出身の女性と結婚しようとしたら
行きつけの喫茶店のお姉ちゃんで
住む家の無い彼はそこで一杯のコーヒーを注文して詩作に励んでいた
自分が沖縄出身だと中々言えない
言ったらどう思われるのか?
大阪の工場には朝鮮人、琉球人お断りの求人広告があったとか・・・
そんな事がさりげなく書いてあり
彼の数少ない著作を読むとさりげない言葉でさりげなく
削りに削った言葉の宝石

考えてみりゃ
こりゃ黒人ブルースみたいなもんだよな
だけど底を歩くのも悪くない
僕など一生底を歩いていたい
その方が人間的だし
自分らしいのだ
同じ星で生まれた我々なのに
何故か違いを見つけては
あいつの方が上だとか下だとか出来るとか出来ないとか
持ってるだの持って無いだの、綺麗だの汚いだのと
比べてばかりで疲れ果て
そんなくだらない所で生きるくらいなら
底を歩いていた方が良い
ああそうだとも

こんことを以前書いた

まだまだ良い詩は沢山ある・・・・

何篇かご紹介

「生きる先々」

僕には是非とも詩が要るのだ
かなしくなっても詩が要るし
さびしいときなど詩がないと
よけいにさびしくなるばかりだ
僕はいつでも詩が要るのだ
ひもじいときにも詩を書いたし
結婚したかったあのときにも
結婚したいという詩があった
結婚してからもいくつかの結婚に関する詩が出来た
おもえばこれも詩人の生活だ
ぼくの生きる先々には
詩の要るようなことばっかりで
女房までがそこにいて
すっかり詩の味をおぼえたのか
このごろは酸っぱいものなどをこのんでたべたりして
僕にひとつの詩をねだるのだ
子供が出来たらまたひとつ
子供の出来た詩をひとつ


「座蒲団」

土の上には床がある

床の上には畳がある

畳の上にあるのが座蒲団でその上にあるのが楽といふ

楽の上にはなんにもないのであらうか

どうぞおしきなさいとすすめられて

楽に坐ったさびしさよ

土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに

住み馴れぬ世界がさびしいよ


「夜景」

あの浮浪人の寝様ときたら

まるで地球に抱きついてゐるかのやうだとおもつたら

僕の足首が痛み出した

みると、地球がぶらさがつてゐる


「生活の柄」

歩き疲れては
夜空と陸との隙間にもぐり込んで
草に埋もれては寝たのです
ところかまわず寝たのです
歩き疲れては
草に埋もれて寝たのです
歩き疲れ
寝たのですが
眠れないのです
このごろは眠れない
陸を敷いては眠れない
夜空の下では眠れない
揺り起こされては眠れない
歩き疲れては
草に埋もれて寝たのです
歩き疲れ
寝たのですが
眠れないのです
そんな僕の生活の柄が夏向きなのでしょうか?
寝たかと思うと寝たかと思うと
またも冷気にからかわれて
秋は秋からは
浮浪者のままでは眠れない
秋は秋からは
浮浪者のままでは眠れない

引用文献「山之口貘詩文集」(講談社文芸文庫)


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