慶応大学でメディア講義スタート
慶応大学メディア・コミュニケーション研究所での講義が今学期も始まった。私が教えるのは、映像制作実習を含めた「メディア・リテラシー論」。2006年末にカナダでの研究を終え帰国して以来、日本の「メディア・リテラシー」教育の実践現場をあちこち見て歩いた。だが、しっくり来るものがない。それらの現場で行なわれている授業の多くは、「ビデオ作品づくり」である。生徒にカメラを持たせて撮影や編集を体験させ、それで終わりである。しかし、拙著『オトナのメディア・リテラシー』で述べるように、メディア・リテラシーとは単に「メディアを使って表現する能力」だけを指すのではない。「メディアの特質、手法、影響を批判的に読み解く能力」こそが最も重要だ。つまり、メディアが発する情報に含まれる「メッセージ」を見抜き、そのメッセージが自分の「価値観」にどのような影響を与えているかを理解する目を養うこと。ここまでやらないと、本当のメディア・リテラシー教育とは言えない。私の授業は、13回ある講義の前半でメディアに込められたイデオロギーやジェンダー観、プロパガンダなどを解説し、メディアを読み解くための基本理論を身に付けてもらう。後半は、「映像リテラシー」に焦点を当てる。生徒たちは、自身の問題意識を投影するドキュメンタリーを制作。先の理論に基いて作り手の「意図」を自ら体感し、分析する。私が考える「メディア・リテラシー教育」に共感する学校へは、出張講義も受け付けている。写真は、雨にけぶる慶応大学正門。