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カテゴリ:本
十数年前から、瀬名秀明という作家が気になっている。朝日新聞の日曜日の書評欄でも見る名前であるが、その名を知ったのは彼の著書『パラサイト・イブ』が第2回日本ホラー小説大賞(1995年)を受賞したときだった。彼は、東北大学薬学部を1990年に卒業しているので、比較的私に世代が近いということもあって親近感を持った。『パラサイト・イブ』は、私たちの細胞の核にあるミトコンドリアという器官(酸素呼吸の場・エネルギーを作り出す)が、もともとは別の生命体であったことをヒントに書かれたものである。小説の結末は大味な感じだったが、わたしたちの体の細胞が既に単体ではなく、ミトコンドリアという生命との共生(寄生?)によって生き延びて発展してきたという発端は興味深かった。生命体の複雑さに驚きをもちつつも、多様な生命体、多様な人間が生き延びる知恵が既に私たちの細胞を通して与えられているのではないか、とも思った。丁度、その本を読んだ頃、野村祐之さんという生体肝移植をアメリカでしてきた方のお話を教会で伺い、その中で肝臓と脳が「こんにちは、よろしくね」といって会話している夢を見た、なんて話を聞いて、別々な細胞が体として統合されていく不思議さを感じたものだ。『パラサイト・イブ』に続く『Brain Valley』という長編も脳科学から人間の行動学、神というテーマを扱っていて興味深かった。
さて、その瀬名氏は、現在、東北大工学部機械系の特任教授である。彼は生命体の不思議さを小説として描きながら、ロボットについても研究をしているところから、今のポストに任命されたようだ。彼はあくまでも小説家であり、その役割は機械系の宣伝担当ということのようである。ロボットと人間の境はどこにあるのか、ロボットのような機械が人間に近づけば近づくほど人間は嫌悪感・違和感を抱くのではないか、といったテーマについてこれまで講演や対談をまとめたものが『瀬名秀明ロボット学論集』である。特に人間型ロボットを扱うということは、同時に人間が何者であるかを扱うものではないかと興味を持ち、市立図書館で偶然見つけて手に取った。ミステリー小説、ファンタジーにおける作家の人間観にも触れられていて、瀬名氏が小説を書く際には、C.S.ルイスを参考にしたことなどが語られていた。因みに、彼は幼稚園がカトリック系だったこともあり、対談などにはキリスト教的な人間観が登場してくる(必ずしも賛成できるものではないのだが、ミッション系の学校を卒業した人がキリスト教をどう外から見ているのか、その一端を知ることができるだろう)。 という私はミステリーはほとんど読まない。昨年結婚された一人の方の趣味がミステリー読書である、とのことで、これをプレゼントしてみようかと買ったのが『ミステリの深層 名探偵の思考・神学の思考』(神代真砂実著)だった。しかし、軽く読める類ではなく、贈り物としては断念した。20世紀最大の神学者とも言われるカール・バルトがシャーロック・ホームズ好きだった、ことなども知り、ミステリー小説にも手を伸ばそうか、と思案中である。 お勧めのものがあれば、お教えいただきたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Mar 15, 2009 05:10:05 PM
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