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何もない01 ー今度こそは、自殺せずに済む人生を送る。 男は、生まれ直した。 生まれ直しても男はまだ屑だった。 だが、屑ならば。 喪うものがない今ならば、重圧もなく動ける。 もう一度人間の心を学び直せる。 そう思い、男は動き始めた。 己と、他の人間の違いは何だ? 俺はどうしたら人の為に動ける? ……簡単なことだ。 俺一人しか拘らないことを、捨てればいい。 前世と違って、今世は共働きの普通の家庭暮らし。 この際前世での拘りなど捨ててしまえばいい。 腐っていくであろうあの家の死体など、あれを支えた人生など、 あの死体に握らせた遺書に全て押し込めて捨ててきたのだから。 己が家に相応しくない行動を取るたびに心労を強調してくるあの父も、 そんな父を見下しながらも依存している母も、 要領よく家を全て捨ててどこかに行った弟も。 ……問題は、俺が今度の人生では女として生まれてしまったことだ。 ……そして、生まれた場所もーーー 「ねえねえ××ちゃん、あのお化け屋敷行かない?」 「……えー…ほんとアンタそういうの好きだね」 あの家のすぐ近く。 俺が死んですぐおれを生んだ母は、俺の最期の話を他所の母親から聞くたびに顔をしかめる。 俺に同情しているんじゃない。命日と誕生日が同じおれに同情しているんだ。 「あんな奴の死んだ日に生んでしまうなんて…あの子が可哀想で」 想い出してみれば、母は俺の被害者だった。 俺がバイクでひっかけて歩けなくなった女。 金を融通して、黙らせた女。 あの頃は高校生だった筈だ。 何も分かっていなかった。 周りの命より自分の急用の方が大事だと思っていた。 だから、今度は彼女を助ける。 彼女にはありがたがられるが、これは償いでしかない。 ろくな力がないのに重いものを持ち過ぎた。 人間として大事なものを代わりに捨ててきた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.09.06 17:57:17
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