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長押 綴

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2012.11.06
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カテゴリ:.1次メモ





5.5




「……高橋先生?」
「何を言っている!ワレはそんな者の名など知らん!!」
「いや、高橋先生だろ?ミョウジ高校の日本史担当で、よく彼氏ができては振られてを繰り返してた」
「知らんったら知らん!!!」

 突っ込み田中は容赦がない。


 助けに来てくれたのは嬉しいが、ドゴォドゴォとやつが何か言う度に地形が変動していくことに冷や汗がにじんで堪らないから頼むもう少し穏便にしてくれないかと思う。が、口を塞がれている俺はもごもごとしか喋ることができない。


 突っ込み田中の切っていない少し伸びた髪が、怪人タカハシの攻撃を不規則に避けるごとに揺れる。

「知らねーって言い張るのはいいけど、あんまりそればっかやってると『怪物』になっちまうぞ」
「!?」
「アンタ、まだ誰かを殺しちゃいないんだろ?」
「……そ、そうだが、……そうだ、別に殺すつもりはないのだ!愚かなあの男ども女ども、じゃない人間どもを支配できれば!」
「私怨じゃねーか!!!」

 どうやら振った男だかその浮気相手の女だかを思い出したのか、怪人タカハシ……高橋先生の鬼の形相が更にいかつくなる。日本史の教科書に載っていた鬼の面を連想させる。

「……ぅぐっ」

 同時に俺を握り締める大きな手にも力が加わり、高橋先生の大きな人差し指は俺の息さえも奪おうとする――……

「やめろ!!」
「ふ、ふん、別に貴様ら死ぬわけではないのだろう?こいつから聞いたぞ、『俺は不死身だから、無駄な攻撃はやめとけ』とな。ならばこいつを盾にして、まずは警察官のあいつに恨みを晴らしに行くまでよ」
「発想が教師のそれじゃねえ!!!」


 突っ込み田中は焦りつつも突っ込みまくる。なんかギャグ漫画の突っ込み役みたいだ。
 俺達も少しのダメージならすぐ直るから、ギャグ漫画っていう喩えもあながちおかしくはないか――……

 でも。
「……フー」
「っ!?」
 渾身の力で高橋先生の指に息を吹きかけると、ちょっと怯んだ様子で鬼の面がこっちを見る。あ、ちょっと可愛い。
 指が一瞬離れた隙に、またしても渾身の一撃。つまりは舌戦。

「……高橋先生、警察官より、俺の事覚えてないんですか?」
「……出席番号10番田中君だろう。何故二人になっているのかは知らないが……大方、どこかの研究員に涙目で献体を頼まれて承諾して、分裂する薬でも飲まされたというところか……絆されやすい奴だったな、昔から貴様はそうだった。委員長にされた時は嫌がっていたが、なんだかんだ言って頑張って仕事を成し遂げていたしな」

 先生すげえ。涙目じゃなくて気付いたら拉致されてたって所以外当たってる。おっと、感心してる場合じゃない。

「そうです。その時、俺、本当は先生の事……す、好き、で……っだから、仕事……頑張ったんです」

 我ながら何を言っているのだろう。
 恥じらいつつもぺらぺらとホストか妹の乙女ゲームの登場人物のようによく回る口を、突っ込み田中が呆れた目で眺めているのが分かる。そうだな、お前なら分かっているだろう。これが嘘八百だということを。


「な、何を言っている!貴様の言っている魂胆などお見通しだ、私っ…ワレをたらしこんで逃れようと言うのだろう!」
「違います、いつも高橋先生が誰かとまた付き合い出したって聞くたび、もやもやした気持ちを抱えていました。」
「そんっ……う、く、……」

 確かに毎回毎回懲りずに変な男に引っ掛かっては振られを繰り返しても、生徒に一切それを悟らせまいとしていた(まあクラスの鋭い女子にはバレバレだったようだが)高橋先生が少し心配にはなっていたが、それ以上でもそれ以下でもない。
筈だったが。

 元から真っ赤な鬼の面を更に火照らせ、おまけにぷるぷる震えだした高橋先生は、そのウルトラマンとタメを張れる身長とのギャップと相俟って、なんだか本当に……撫でてみたくなるような雰囲気を醸し出していて。

 そっと、俺は撫でてしまった。高橋先生の、今ではもう大分力が緩んでいるけれど代わりに汗でじっとり湿ってきている指を。

 びくりと高橋先生の全身が揺れる、あともう一息か。

「……高橋先生が俺の事覚えていてくれて、嬉しかったです」



本音だった。


















「……本当にお邪魔してもよいのか?」

 普通より少し大きいサイズまで自身を縮小した高橋先生が、恐る恐るというようにして問いかけてくる。

「はい、一緒に怪物や怪人を更生しましょう」
「…仕方ないな、田中は流されやすいから怪人や怪物にも必要以上に同情してしまうだろうしな、だが別に決して私は絆されたわけじゃないぞ、その、き、貴様と付き合う気も別にない。私はそんな…」
「分かっていますよ」

 そう言うと、高橋先生の顔がまたぼんっと赤くなる。
 高橋先生はもうすっかり鬼の顔から、いつか見た素の顔を更に大人っぽくした顔になっていて、話しやすいかと思ったけれど逆にちょっと話しづらかった。


 その理由が何かは、……取り敢えず保留にしておこう。



「あーあ、お前もついにリア充か」
「別に付き合っているわけじゃないんだから……」
「はいはい、お前も暫く見ない内に大きくなって…!」
「あのなぁ……まあ、いいや。俺がリア充かどうかはさておき、お前もあいつに対して素直になればいいんじゃないか」
「ば、は、はぁ?」


 この記憶も、いつかまた分裂したら、それぞれの脳みそに渡るのだろうか。
 この灰色の空を見上げた記憶も、桃色の皺の一つになって……


「しかしき…お前らは似ていないな」
「そうか」
「そうだろ」



 まあ、じきにそうなるんだったら、いいか。





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最終更新日  2015.06.13 10:24:59
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