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ナラティヴ ひとり語り

ナラティヴ ひとり語り

・・・『約束の国への長い旅』杉原千畝伝

 娘が「どうしてユダヤ人ってあんなにいじめられなきゃならなかったんだろう」とつぶやいた時から、私は何か良い本はないだろうかと探していました。そして、この本に出会いました。篠輝久=著『約束の国への長い旅』 この本は、第二次大戦のリトアニアで1500人におよぶユダヤ人にビザを書いたといわれる杉原千畝さんを子ども達に初めて紹介した本です。
 子ども達は夢を見ることによって生きています。けれど、歴史の悲惨に向き合う時、その夢は打ち砕かれてしまいます。ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺は、キリスト教徒によるユダヤ人迫害の長い長い歴史の上に成り立った出来事であるということを私たちは知っています。そして、この本は子ども達をその事実へと向かわせます。私たちは過ちに向き合わなければなりません。けれど、私たちは子どもに限らず、誇りを傷つけられては生きてはいけないのです。日本人としての誇り。クリスチャンとしての誇り。自分自身の基盤となるものに誇りを見出せないでは生きていくことは出来ません。けれど、この本には書かれています。杉原さん夫妻がクリスチャンだった、と。多くのキリスト教徒が、又、杉原さん以外の日本人軍人がユダヤ人を助けていた、と。
 杉原さんがビザを出した動機を追って、ユダヤ系アメリカ人のヒレル・レビンが『千畝』という本を書いています。けれど、それを追っていくほどに分からなくなっていく様子が記されています。幸子夫人も『杉原千畝物語』(金の星社)の中で「毎日、神にお祈りをしたり、教会にかかさずでかけたりするような、深い信仰の持ち主ではなかったのですが、それでも、人間にとって一番たいせつなのは『愛と人道』だと、いつも思っていました」と書いておられます。杉原さんがユダヤ人を助けたのは、キリスト教の強い信仰に因るのではなかったかもしれません。もっと素朴で人間的な思いからだったかもしれません。けれど、幸子さんは続けてこう書いておられます。「私たちは、こういうことをするために、神さまにつかわされたのではないかと思ったものです」。私たち人間のささやかな信仰を神さまは用いて下さるのだと思うのです。
 ヒレル・レビンの『千畝』にはもっと生々しい千畝の姿が証言されています。娘が大人になった時には、この本を読むようにすすめるかもしれません。けれど、私は篠輝久さんが子どもに向けて、この『約束の国への長い旅』を書かれたことに注目したいのです。平和を本当に願うなら、子ども達が希望の光を見出すことに心を配るはずだからです。そして、そのことを神さまは喜んで下さると思うからです。
 「平和をつくり出す人たちは、さいわいです。彼らは神の子と呼ばれるでしょう」(マタイ5:9)この聖書の言葉を、杉原さんご夫妻と篠輝久さんに捧げたいと思います。

篠輝久=著『約束の国への長い旅』(リブリオ出版)
娘は6年生の夏に、私が熱心に薦めてこの本を読みました。読んで、「良かった」と言ってくれました。


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