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カテゴリ:忘備録
バクテリアが持久力を改善するベイロネラ・アティピカ
バクテリア アメリカの大学医学部付属する糖尿病センターの研究グループが、ベイロネラ・アティピカ(Veillonella atypica)というバクテリアが、持久力を改善する可能性があることを発見したのだそうで、長距離ランナーの便を調べたところ、あまり運動しない人の便と比べて長距離ランナーの腸内にベイロネラ・アティピカというバクテリアがとくに多く活動していることを見つけたのだそうです。 そこでマウスを使った動物実験で、ベイロネラ・アティピカを腸内に定着したマウスとそうでないマウスを比較したところ、ベイロネラ・アティピカを定着されたマウスの方が13%も長く走り続けることが確認出来たそうで、ベイロネラ・アティピカが乳酸を食べるバクテリアであることから、運動によって発生した乳酸をベイロネラ・アティピカが食べて削除していることが考えられるそうです。 その時、ベイロネラ・アティピカが乳酸を代謝する際にプロピオン酸塩という物質が発生し、このプロピオン酸塩が腸内に発生することで、マウスの持久力が高まることも分かってきたそうで、人間でも持久力を高めることが期待できそうです。 ならばアスリートがプロピオン酸塩を摂取すれば、持久力を改善することができるのかもしれませんが、その性質上、プロピオン酸塩が胃酸で消化してしまうため、薬のように飲んでも意味がないようで、ベイロネラ・アティピカを腸内に定着させる、最近流行の便の移植が一つの方法なのかもしれません。 ベイロネラ パルブラとは ベイロネラ パルブラは偏性嫌気性グラム陰性球菌で、ヒトや動物の口腔および腸管から広く分離されます。この菌は0.3 ~0.5 マイクロメートルで芽胞を作りません。運動性のない小球菌であり、短い連鎖状、双球菌状または塊状になることもあります。グルコースやフルクトースなどの糖を発酵せず、乳酸塩、ピルビン酸塩およびフマール酸塩などを利用して生息します。代謝産物として酢酸やプロピオン酸から炭酸ガスや水素などを産生します。この菌を分離培養する場合、嫌気性菌用の分離培地で48時間嫌気培養を行うと、直径1ミリメートル以下の透明~灰白色のコロニーを形成します。血液含有の嫌気性菌用分離培地ではより発育が良くなります。 歯垢の原因菌のひとつ ベイロネラ属菌は健康なヒトの口腔内の唾液、歯垢および歯肉溝などに生息しています。 同じ口腔内には歯垢の原因菌と言われているストレプトコッカス属やフソバクテリウム属の菌も存在します。 ストレプトコッカス属やフゾバクテリウム属のそれぞれの菌を一緒に培養すると歯垢が形成される量は少ないのですが、そこにベイロネラ属の菌を混ぜて培養することにより歯垢の量は格段に多くなったという研究報告があります。 毎日の歯磨きが不十分な場合には歯の周囲に歯垢が作られますが、ベイロネラ パルブラは歯垢の形成の初期段階から関与しています。 また歯周溝にもこの菌は生息し、歯垢同様に酸素濃度が低いところでも生息が可能であることがわかっています。ヒトや動物の口腔以外にも腸管の常在菌として認められますが、病原性は極めて低いといわれています。稀ではありますが心内膜炎、髄膜炎および椎間板炎の患者の検体から分離された報告があります。 運動能力を高める(?!)腸内細菌、エリートアスリートで発見 2019.6.25 , EurekAlert より: 記事の難易度 3 エリートアスリートの腸内には、運動能力を高める細菌が棲息しているようだ、という米国ハーバード大学、ジョスリン糖尿病センターなどによる研究報告。この細菌をマウスに投与すると運動能力が顕著に向上することもわかった。 これはベイロネラ属の細菌で、座位の多い人々の腸にはみられないという。ベイロネラは、運動したときに生産される乳酸を代謝してプロピオン酸に変える。ヒトの身体は、このプロピオン酸を利用して運動能力を改善するという。 「高められた運動能力を持つことは、全般的な健康と心血管疾患、糖尿病、早死に対する保護効果の強い予測因子である」と共同研究者のアレクサンダー・コスティック博士は語っている。「我々は、人々がそれを飲めば運動能力が高まり慢性疾患になりにくくなるようなプロバイオティックサプリメントを見据えている」 研究は、2015年のボストンマラソンにおける糞便検体の採取から始まったという。筆頭著者のジョナサン・シャイマン博士は当時、ハーバード大医学部のジョージ・チャーチ博士の研究室に所属しており、マラソンの1週間前から1週間後にかけて検体を集めた。同時に、座位行動中心の人々からも検体を集めた。シャイマン博士は検体をコスティック博士のところに持っていき、どのような細菌が含まれているかを分析してもらった。 「ただちに我々の注意を惹いたものの一つは、この単一の細菌、ベイロネラだった。それは明確に、マラソンを終えたばかりのランナーの腸内に豊富に存在していた。ベイロネラはまた、ランナーにおいて、座位中心の者よりも豊富に存在していることがわかった」とコスティック博士は語っている。 研究チームは、マウスモデルを用いて運動能力の改善との関連を確認した。その結果、ベイロネラの補給を受けた後でマウスのランニング能力は顕著に上昇したという。そこで次にチームはそれがどのように作用しているのかを検討した。 「我々はベイロネラが比較的ユニークな腸内細菌であることを発見した。それは乳酸を唯一の炭素源とする生物だったのである」と博士は語っている。 乳酸は、運動をしたときに筋肉が生成する。ベイロネラは、この運動の副産物を主要な食物源として使うのである。 「我々がすぐに考えた仮説は、乳酸の蓄積が筋肉疲労の原因となるので、それが乳酸除去のための代謝シンクとして働くのだろう、ということだった」とコスティック博士は言う。「けれども、サラ・レッサード(ジョスリン糖尿病センターの臨床研究者)のような運動生理学の研究者らと話しているうちに、乳酸の蓄積が疲労の原因となる説は現在では正しくないとみなされていることを知った。それで、もう一度考え直すことになったわけだ。」 コスティック博士ら研究チームは、再び運動能力向上の原因について考え始めた。チームはメタゲノム解析をして腸内細菌叢の全遺伝子を明らかにし、ベイロネラの乳酸代謝によってなにが起きるかを知ろうとした。そして、運動後には、乳酸を短鎖脂肪酸であるプロピオン酸に変換する酵素が増加していることを発見したという。 「そこで、問題は乳酸の除去からプロピオン酸の生成に移った」と博士は言う。「我々はマウスに浣腸を使ってプロピオン酸を導入して運動能力が向上するかどうか検証したところ、その通りであった。」 コスティック博士の研究チームは、レッサード博士らと共同でプロピオン酸が運動能力にどのように影響するかそのメカニズムについて検討する計画であるという。 腸内細菌叢は、我々の健康に強いインパクトを有している。運動は健康的な生活習慣の重要な構成要素のひとつであり、2型糖尿病などのリスクを低減するといわれている。しかし、代謝疾患の多くの患者が、有益とされるレベルの運動をすることができない。ベイロネラのプロバイオティクスサプリメントによって、彼らが効果的に運動できるようになる可能性はあるだろうということだ。というのも、短鎖脂肪酸であるプロピオン酸を服用しても、有効性を発揮する前に消化液で分解されてしまうと考えられるからだ。シャイマン博士は、このアイデアを実現すべくアスリートにターゲットを絞った会社を設立したという。 出典は『ネイチャー医学』。 これまでにも「私達は微生物にまみれて生きています。いやむしろ、微生物にまみれないと健康な生活はできないのです。」と紹介してきました。今回はこの話題を深読みしてみます。 腸内の微生物数 人間を構成する細胞数は諸説ありますが、38兆個位というのが最近の数字です。 あまりにも大きすぎて実感がありませんが、世界の総人口77億人の5400倍位です。 私たちのいる天の川銀河にある恒星の数は2000億~4000億個、全宇宙にある銀河の数は2兆個と試算されたりしています。 「星の数ほど」といいますが、38兆個という数は、星の数以上なのです。では私たちを取り巻く微生物数はどの程度でしょう。 皮膚表面には1平方cm当たり数万~数10万匹の微生物がいます。仮に10万匹とすれば、人の体表面積(1万5000~1万7000平方cm)から約16億匹と計算されます。 中国の人口に匹敵する値ですが、これも大した数ではありません。唾液なら、たった1mLに1000万~10億匹の微生物がいます。 さらに消化器官を下って、大腸に到着すれば、糞便1g当たり1000億匹以上という驚異的な数字になります。 人間の糞便量は1日当たり400~500g程度と言われますから、微生物数は40兆~50兆匹と見積もることができます。 しかも大腸の内容物が全て排泄されるわけではありません。まだ相当量が残っているはずです。つまり腸内微生物数は人間を構成する細胞数より多いのです。 細胞の数という観点からは、人間の半分以上は微生物ということもできそうです。 腸内微生物と健康 【腸内微生物のバランス】 「人間の半分以上は微生物」なのですから、腸内微生物が私たちの健康に係わっているのは当然です。 例えば理化学研究所の研究では、マウス実験で免疫系と腸内微生物バランスが双方向に影響し合っていることが分かっています。 免疫細胞の1種が腸内微生物のバランスを整え、一方でバランスの良い腸内微生物は腸管内の免疫細胞を増やす効果があります。 他にも連続的な抗生物質の投与などにより、腸内微生物のバランスが乱れると、難治性偽膜性腸炎という病気になることがあります。 そして、その治療法として健常人の便を患者の腸内に移植して腸内微生物のバランスを図るという研究が試みられています。 この様に「腸内微生物と健康」については多くの研究が世界中で行われているのですが、その多くでは“腸内微生物のバランス”が重要とされ、健康に良い微生物はこれという結論には至っていません。 腸内微生物の主要な種類は数100種類と考えられています。単純に「良い微生物と悪い微生物」がいるわけではなく、あくまでも数100種類の微生物が係わるバランスの整った状態が肝要なのでしょう。 【研究し辛い課題】 腸内微生物と健康の因果関係は大変研究し辛い課題です。 例えば、健康な人の腸内にA菌が沢山いても、単純にA菌が健康をもたらしているとは結論できないのです。 実は少数派のB菌が腸内で作る物質に健康向上作用があり、健康な腸内がA菌にとって増殖しやすい環境であったとも考えられるのです。 A菌はB菌のおかげで増殖しているに過ぎないのに、数の多いA菌が目立っているだけかもしれません。 このように因果関係が複雑に入り組んでいると解析は難しくなります。 腸内微生物の研究においては微生物の種類とその数に注目しがちですが、残念ながら数のみでは解らないことも多いのです。 しかし今のところ各微生物の作用にまで踏み込んで研究するには、研究手段も方法論も少ないようです。 どのような腸内微生物バランスが健康に良い状態なのかは、もっと多くの研究成果が集まらなくては、はっきりしないようです。 微生物についての研究例 それでも直接的に健康に影響する特定の微生物についての研究例もあります。 例えば体力を増進させる「アスリート強化微生物」です。ハーバード大学医学大学院の研究グループがボストンマラソンに参加したランナーの糞便から見つけた微生物です。 ランナー15名とそうでない10名にお願いしてマラソン大会の前後1週間の毎日、糞便を提供してもらい、これに含まれる微生物の遺伝子を調べました。 微生物の遺伝子を解析することで、どんな種類の微生物がどの位存在するのかを推定することができます。 ランナーではベイロネラ属細菌の割合がマラソン後に増えていました。 ベイロネラ属細菌はヒトの口腔内、呼吸器、腸管内等で普通に見られる嫌気性菌で、口臭の原因菌としても知られています。 しかし残念ながらベイロネラ属細菌の増加傾向は統計学的には有意な差とまでは言えませんでした。 それでもこの細菌に注目した研究者らは、ランナーの糞便から純粋培養したベイロネラ属細菌をマウスに経口投与しました。 トレッドミルという強制的ルームランナーのようなものでベイロネラ属細菌投与マウスを走らせると、運動時間が13%長くなり、持久力向上が確認されました。 さらにベイロネラ属細菌の遺伝子を詳しく調べると、乳酸をプロピオン酸にする代謝を行っているらしいことがわかりました。 世界中の研究者が日々膨大な種類の微生物の遺伝子を解析しているので、データベースには目的微生物がどんな代謝をするのかを推測するための遺伝子情報が沢山あります。 乳酸は激しい運動を行うと筋肉で生産され、疲労の原因となる有機酸です。通常は血流によって肝臓に送られて代謝されます。 それではとマウスの腸管内にプロピオン酸を点滴投与すると、やはりトレッドミルでの運動時間が伸びました。 これらのことから、ベイロネラ属細菌は、筋肉で生産された乳酸をプロピオン酸に変える働きをし、プロピオン酸は筋肉のエネルギー源として再利用されていると予想されたのです。 でも、乳酸をプロピオン酸にする代謝は微生物にとって珍しいものではありません。 どうしてベイロネラ属細菌のみがアスリート強化的な作用をもたらすのかは不明です。さらに残念なことに、人間でも有効なのかは検証されていません。 ベイロネラ属細菌のように健康全般のみならず、運動能力の向上にも腸内微生物が関与しているということは、驚きです。 でもこれも身体的な影響ですから、腸内微生物が関係していることも納得できそうです。では、感情や性格にも腸内微生物が影響を与えているとしたら? 次回は「腸内微生物と性格」についての研究例を紹介します。 技術顧問 博士(農学) 茂野 俊也(Toshiya Shigeno)https://www.preci.co.jp/20200914/ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年11月22日 19時04分34秒
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