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テーマ:今日の出来事(287899)
カテゴリ:小説
「火事よっ」
「出火元はどこだ」 自動非常ベルが鳴った。 「出火元はどこだーーーー!」 煙を吸わないように、ハンカチで口を押さえながら、非常階段を下りていく。 「火元はどこだーーーーーー!」 火災報知器が、水を撒きだしたので、事態は収束に向かっていった。 少し時間を戻して。 タバコを吸っていた社員が、筒状のごみ箱に吸い殻を入れたら、火の粉が上がったという。 これが今回の騒ぎの発端であるが、吸い殻の取り扱いに、充分気を付けるよう、訓辞がなされた。 分煙化などされてない現在は、どこででも吸える。それだけに、火災の危険度も高くなるわけだが、それを考えると、やはり分煙化をするべきである! 場所は屋上のみ。それ以外での社内は総て禁煙。 即断即決らしい社長のやり方で、抵抗する間もなく喫煙派は閉め出された。 火事騒ぎまで出しちゃ、こうなったのも仕方ないか、斗嘆く一方、まだまだ、鶴の一声に賭けるものはいた。 とは言え、分煙化は世の流れ、歴史に逆行して、再び喫煙派が蘇ることはなかっただろう。 そして秘書課。 秘書課にも何人か喫煙者がいるのでチェックが入っている。タバコを吸っている時間は労働時間にはならないという声が、吸わない方からは上がっているのである。美咲などはこれを由としているが、1日8時間働いて、この間10分ずつ喫煙すると、年間で335時間になると言うデータがある。ほぼ単純にしても、1日80分は働かなかった時間があるというわけだ。 休日を外した一日の労働時間は年間300日。その間タバコを吸った時間は、24,000時間となる。いくら何でも、吸い過ぎじゃあありませんか? 一回の喫煙で、移動で5分、吸って5分、戻るのに5分、トータル15分というデータもあるんですけどね。 一体、どれだけサボってるんですか。 吸わないとストレスが溜まるというのは、立派な中毒症状。どうすれが脱却できるか判るんじゃないですか。 吸わない治療もあるし、辞めようと思えば辞められるはずだ。と言うより、入り口の方を止めた方がいいのでは? 吸い始めた頃に辞めてしまえば、症状は軽くて済む。趣味でたまに1本ならともかく、早い段階で喫煙を辞めた方が、後々楽になっていく。 とは言え、中毒にかかってしまえば、もはや吸わずにいられない。 治療薬に背を向け、吸い続ける男女たち。 こういってやろう、 バカに付ける薬はない、と。 上層部の会議で発言された言葉がある「タバコの煙より、エスプレッソの方が芳醇だ」と。こんな言葉が出るようでは、喫煙派は目の敵にされるただのサボり屋。 営業はまだ良い、外で吸えるから、と言っても、分煙化が進んだ今では禁煙のところも多い。 タバコを吸うべく場所を求めて、彷徨っていた。 そして、決定的な事件が起きた。 歩きタバコをしていた社員が、向かって歩いてきた幼児にタバコの火を押し付けてしまったのである。 幼児は泣き叫び治療を受けたが、顔に跡が残るそうだ。 男性社員は訴えられた。会社名入りで紹介されていた。 これだけ見ても、タバコは受け入れられない害虫だ。 屋上で吸わせてもらえるくらい、有り難いと思え、と言うことだ。 営業部では密かに、タバコリングを作り立てて置いておくという作戦に出た。 短くなった分、だるま落としのように短くしていくのである。 だが、これも長くは続かなかった。空気の質が、あまりにも違いすぎるため、誰でも喫煙していると判ったからだ。 「どっちにしろ、分煙化は世の流れ、禁煙にまでならないでマシなくらいよ」 「空気が綺麗で、さわやかで良いですよね」 「臭いも移らないし、良いことづくめですよ」 新型・秘書自動システムには、喫煙のあるなしも入れようかしら。査定になるわけだし。これを聞いた営業部は、人権侵害だと訴え始めた。 自分たちは、自由にタバコを吸う権利があるというのだ。 だが、世の中の趨勢により吸っている煙から逃れたいという流れの方が強くなっている。 タバコが自由に吸える時は無くなったのだ。 とある映画館では、喫煙室があるが、煙たくて仕方ないから出たという。 煙に巻かれたいのは自分ひとりであって、他人の煙には興味がなかった証拠だ。 そんな中、世の中に表れたのは喫煙タクシー。ぐるぐると流しているので、近場で降ろしてもらえるのも好評だ。流行るのかと思いきや、特に何事もなくすぐに廃れていった。 タバコはもはや、受け入れられないものなのだ。 辞めた途端家健康になったとかご飯が美味しくなったとか言うが、何のことはない、タバコのせいだったと認めたようなものではないか。 タバコには、一害あって百利無しといわれるほど、毛嫌いされるようになった。 屋上で吸っているのは、もはや営業部だけになってしまった。 美咲は、喫茶室のエスプレッソを出前で取り、観覧質で飲んでいた。 空気は美味しいし、エスプレッソの香りも良いし、あとは髪の臭いくらいかな? などと頓珍漢な考えに浸っていた。 -おわり- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年09月12日 19時05分34秒
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