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りらっくママの日々

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2009年07月05日
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カテゴリ:短編小説
今日の日記
( 「コールセンターの恋人(新番組)」「Mr.BRAIN(ミスター・ブレイン)」「魔女裁判」の感想)



「歩く男と犬と猫」

あるところに、歩く男がいた。

男は必ず犬を連れて歩いた。
この犬は大きくて力強くて、歩く速度も丁度良く、
時々適度に話しかけてきた。
男は犬がいることが当然なことだと思っていた。

だが、
ある日、その犬は死んでしまった。
寿命だった。

男は歩きたかった。
それでまた犬を手に入れた。

次の犬は美しく、歩く速度も丁度いい。
けど何か物足りなかった。
こちらから話しかけないと話してこない犬だった。

以前の犬ならもっと話してきてくれたのに。

仕方なく男は自分から会話を作る努力をした。
美しい犬はそれでも心を揺さぶるような返事をしなかった。
男はそのうち、それが普通のことと思うようになった。
無駄に口をきかないのも悪くない。

だが、ようやくそんな日常に慣れたのに、
美しい犬も死んでしまった。
寿命だった。

男は歩きたかった。
それでまた犬を手に入れた。

次の犬はとにかく外に出たがる犬だった。
小さくてチョロチョロとして、走れ走れとうるさい。

以前の犬ならこんなに疲れなかったのに。

仕方なく男は犬に合わせて走った。
でも疲れてヘトヘトになってしまった。
会話を楽しむような余裕はなかった。

男はそのうち、その散歩が普通のことと思うようになった。
走って相手に振り回されるのも悪くない。

だが、ようやくそんな日常に慣れたのに、
小さい犬は死んでしまった。
寿命だった。

男は歩きたかった。
今度はどんな犬と歩こうかと思った。

が、
男の隣で猫が鳴いた。

猫でもいいかと男は思った。
猫は家で眠りたがっていた。

「散歩?私の散歩にアンタついてこれるの?」

猫は男のペースなんかにお構い無しで、
勝手に壁に上り、屋根に上り、
そのままどこかへ去ってしまった。

男は仕方無く一人で歩いた。
家に帰ると猫が待っていた。

「どうしていっしょに歩いてくれないんだよ?」

「仕方無いじゃない?
私猫なんだもの。
いっしょに歩きたいなら犬と歩きなよ。」

男は諦めてまた犬を手に入れた。
その犬はよそ見ばかりしている犬だった。
蝶をみつけては追いかけ、
他の犬をみかけては吠えた。

楽しそうに見えたけど、
これでは男といっしょに歩けない。

男は要求した。
同じペースで歩いてくれ。
たまには話しかけてくれ。

「はい、わかりました。」

犬はそう返事をして、
男の要求に忠実に従った。

男は満足した。
そしてそれが当然のことだと思うようになった。

犬はよそ見がしたかった。
だけど男のために我慢した。
男が喜ぶ顔が見たかったから。

「ねえ、アンタそれでいいの?
ホントは違う歩き方したいんじゃないの?」

猫が犬に聞いてみた。

「いいんだ。
彼が嬉しそうだと、私も嬉しいから。」

猫は溜息をついた。

「私はそんな生き方まっぴら」

でも猫は忠実な犬を好きになった。

男も忠実な犬が好きだった。
忠実な犬と歩くと居心地が良かった。
けれど、忠実な犬は病気になった。

「ほーら、アンタこんな最期で良かったワケ?」

猫が犬に言った。

「いいんだ。
私は彼が好きだから。」

犬は幸せそうに男の腕の中で死んでいった。
猫は溜息をついた。

「アンタはいいわね。犬だから。」

男は歩かなくなった。
そんな姿を猫は今まで見たことがなかった。

私が犬なら良かったのかもしれない。

猫は男を見てそう思った。
そして、男の隣にくっついて眠った。
猫がそんなことをするのは初めてだった。

以来猫はずっと男の隣で眠った。
男は猫の頭を撫でた。
月を見て、
死んでいった犬たちのことを思った。

暖かい朝、男は靴紐を結んだ。

「あら?今日は一人で歩くんですか?」

猫が聞いた。

「うん。なんとなくね。」

「私がいっしょに歩きましょうか?」

「いや、キミは猫だからついて行けないよ。」

「じゃあ私と何でいっしょにいるんですか?」

「キミが家にいると思うと帰ろうと思うから。」

猫は微笑んで丸くなり、眠った。

猫は猫のままでいいのだと思った。


男は歩いた。

隣に何もいないことが物足りなかった。

犬をまた手に入れるべきなんだろうか?

男はまだ歩きたいし、
まだこれから先も歩かなければならない。

「どうするかな…」

男は考える。
犬を手に入れるべきかどうか。

そして猫のためのエサを買った。







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最終更新日  2009年07月05日 19時37分42秒
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