カテゴリ:ある女の話:ユナ
今日の日記(「任侠ヘルパー」「オルトロスの犬」の感想と日焼け止めの効果☆ )
<ユナ38> 今の電話聞かれた? 「人が来ないから早めに閉めちゃった。 明日から休みでラッキー。」 ヨシカワは笑顔で、重そうに手提げカバンをドサッと置いた。 「さて、どうするよ? 終電に乗るの?帰る?」 あ、聞かれてない。 ホッとしたような、聞かれてたらどう思うか聞きたかったような、 残念な気持ちと混ざり合って、 複雑な気分になった。 でも、とりあえず、今日は健康センターに泊まろうと思った。 このままここにいると、 どんどん気持ちがおかしくなる。 ズルズルひきずられて、 だらしないヤツになっちゃいそうだ。 「じゃあ、服返してくれる?」 「あれ?帰るんだ?残念。」 でも、ヨシカワはそう言って服を出そうとしない。 「この格好のがイイじゃん。 そのままでいれば?」 「ふざけて無いで返してよ。」 「返さないよ。」 笑ってたと思ったら真面目な顔になって、強引に押し倒してきた。 手首を押さえつけられて、 片手で、ボタンをはずして行く。 「泊まっていきなよ。 最後なんでしょ?」 ヨシカワの囁きが悪魔の囁きに聞こえた。 返事をしようと思うのに、 口を塞がれて、 体に触れられると何も考えられなくなってしまう。 流される。 こういうの、マズイんじゃない…? そう思うのに力が抜けていく。 思ってた通り、ヨシカワの虜になってしまった気がする。 「ん… 帰らない…」 ヨシカワが満足そうな顔をしたのが見えた。 そのままヨシカワの体に抱かれて、気付くと朝になっていた。 起きると何だか妙に不安な気持ちに包まれた。 本当に私、独りになれるんだろうか? やっぱり別れたくない。 まだ離れたくない。 そう思うと、まだキチンとしてないのに、 ここに来てしまったことを後悔しないではいられない。 かと言って今更、 やっぱりヨシカワの側にずっといさせて欲しいって、 言って受け入れてもらえるんだろうか? 最後だから、あんなことしたんじゃないのかな… そんな気持ちが強い。 ヨシカワの気持ちを確かめたいのに、自分で言った言葉で、 自分で首を絞めているような状態。 訂正したら、どうなるんだろう…。 ヨシカワの顔を眺めていたら、 眠そうに目を開けた。 「ん…今…何時?」 「え?えっと10時15分。」 「あ~何かイイ抱き枕があったから、良く眠れた。」 ヨシカワは私を後ろから抱き締める。 「ねえ、今日はいつ帰っちゃうの?」 嫌なこと言うなぁ…。 そんなことつい思ってしまう。 「今日から休みだから送ってってあげるよ。」 本気で言ってるんだろうか? 「いい。一人で帰れるから。」 「そっかぁ。ふーん。」 ヨシカワは起きてTシャツを着ると、 ハラ減ったぁ~と言ってお湯を沸かし始めた。 私はその様子をついボンヤリ見てしまう。 朝ご飯にトーストを焼いてもらって、 コーヒーも淹れてくれた。 「ね、まだいいならバッティングセンター行こうよ!」 何となくヨシカワが楽しそうに見えた。 服もようやく返してもらえた。 着ると、やっぱ実家に帰らなきゃいけないんだよなぁ… って、名残惜しい気持ちになった。 まあいいか。今日一日位楽しんでも。 以前と同じように遊びまくったら、 やっぱり楽しかった。 日が落ちるにつれて、離れるのが嫌になる。 事情を話せば、置いてくれないかな…。 そんなことを思う。 久しぶりに外で飲みたいとヨシカワが言うので、 初めて会った日に行った居酒屋に行った。 すごく懐かしくて、 あの頃に戻ったみたいなのに、 密着する距離が違う。 話してることは似たようなことだったりするのに、 楽しくて、時間だけが過ぎて行く。 実家に行くなら、もうそろそろ出ないといけない。 でも、まだもう少し、 もう少しだけヨシカワといたい。 そう思うと、 今夜も健康センターに泊まって、 朝に実家へ行けばいいかな…って思った。 「そろそろ行かないと。」 私が言った。 「そっか。じゃあ駅まで送るよ。」 「え?ここでいいよ。」 「いや、最後なんでしょ?送るよ。」 もう、最後最後ってうるさいなぁ~。 やっぱりそう思ってるんだ? だからこんなに優しいの? ヨシカワが駅までついて来る。 うあ~。 どうしよう。 来ないで! いやもう、意地を張らなきゃいいのか。 でもでも、何て言ったらいいんだろう? 私はちゃんとしてからまた会いたいと思ってる。 そう言えば、いいのか? そしたら重たくない? いや、かえって重いか? でもでも、このまま別れていいの? とりあえず言ってみる? そうだよ。それが大事じゃん。 「あの…さ。」 「ね、やっぱ送ってあげるよ。 切符買ってこようか?」 ヨシカワが言う。 「いや、いい。いいから。ホント。」 いや、そうじゃなくて… ああ、もう! 言えばいいのよ! 「ごめんなさい! ホントは、家を出てきちゃいました。 だから、送らなくていいの。ホント。 あ、引いたよね? うん、引くよね。 いいの、ホントに。 私重たいの嫌いだし、 でも、シュウさんに軽く付き合われちゃうのも嫌だし、 いい思い出にさせてもらいます。 だからここで帰って!」 ヨシカワがポカンとしている。 「あ、でも、私がちゃんとしたら、 またここに来るから。 その時にちゃんと付き合ってもらえるなら、付き合って下さい。 付き合って欲しいです! ああもう、何言ってるんだか…。 それじゃあ。 それじゃあね。」 恥ずかしい。 もう逃げたい。 私は後ずさりしながら、 コインロッカーに行こうと思った。 すると、ヨシカワが私の腕を掴んで、 笑い出した。 「待ってよ…ちょっと… ハラ痛ぇ~!」 ヨシカワがオナカを抱えて笑いだした。 「ごめん、知ってた。 昨日電話聞いちゃった。 ドコに帰ろうとしてんのかな~って思って。 オマエ何考えてんだか、わかんないんだもん。 ずーっと後ついってってやろうと思ってた。 そしたら観念するかな~って。」 「嘘! 信じらんない! 何で聞いてないフリなんてするのよ! めちゃくちゃ意地悪じゃない! うっわ、カッコ悪。 消えてなくなりたい!!!」 私は地面にしゃがみこんだ。 「これ位イジワルしないと気が済まないよ。 何でも勝手に決めて、 勝手にやってきて、 勝手に出て行こうとするんだから。 で?これからどこに行こうとしてたの?」 「健康センター…」 ヨシカワがまた爆笑する。 「やるねえ。 戻ってきたって、今度こそ俺に誰か相手がいたらどうすんだよ?」 「その時は… あきらめる。 でも、老人ホームにいっしょに行くって言ったじゃない?」 「バッカじゃないの~。 今決心したんだから、俺のとこいればいいじゃん。 大体、そんなに簡単にあきらめが付くなら、今更来んなよ。」 「だって、まだちゃんと離婚できてないし、 そんなの失礼だし、 そういうの、嫌だと思ったし、 でも…」 「でも…?何?」 「あきらめられなかったんだもん。」 「早くそう言えばいいのに。」 ヨシカワが笑って私を立ち上がらせて、 ギュッと抱き締めた。 「オマエ真面目過ぎんだよ。 バカじゃねぇの。」 「もう!バカバカ言わないでよ。 だって、そういう女イヤでしょ?嫌いでしょ? 真面目だったらココにいないよ。 私は悪い女なの!」 ヨシカワがまた笑い出した。 悪い女だって!悪い女! って、ヒーヒー笑ってる。 「イヤな男! ムカツク!」 私がヨシカワの腕から逃れようとしたら、 痛いだろって更に強く抱き締めた。 「オマエってほんとバカ…。」 ヨシカワの息遣いが聞こえる。 温かい腕の中で、私ももう何も言えなくなって、 そのまま涙が出てきた。 ヨシカワが帰ろうって言ったので、頷いた。 何とかなるよ。 何とかするから。 ヨシカワがそう呟いた。 幸せ過ぎて、めまいがしそうだ。 私は思い出して、コインロッカーから荷物を出す。 ヨシカワは片手でその荷物を持って、 もう片方の手で私と手を繋いだ。 この手をもう離さなくていい? 明日目が覚めたら、夢じゃないよね? 空から雪が降ってきた。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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