カテゴリ:ある女の話:サキ
「カトサキちゃんのとこに泊まりに来てる彼氏ってイケメンなんだってねー?
写真無いの?見てみたぁ~い♪」 朝の満員エレベーターの中で四大新卒の女性社員が私に言った。 私の部署に配属されたこの女は、どうやら私の元彼キジマカズユキと付き合ってるって噂がある。 明らかな悪意を感じる。 エレベーターの中にいる人たちの耳がダンボになってる気がする。 大体、同じ歳だってわかった途端タメ語で話してくる学生ノリが抜けて無いとこからして嫌だった。 同期の女の子同士でクスクス笑ってる。 スルーした。 ムカつくことを言ってくる人が多過ぎて、スルースキルが上がってきた気がする。 いちいちまともに聞いてたら、社会人なんてやってられないってことに気付いた。 疲れる。 エレベーター、早く着いて欲しい。 降りた途端、男性社員がつぶやいた声が聞こえた。 「オンナって怖ぇ。。。」 頭が痛いことに、キジマカズユキが務めてるデパートが私の担当先なので、 今日も顔を出しに行かなければならない。 カズユキと話すことは無いんだけど、本当に冗談じゃ無い。 「よぉ、カトサキ!朝から何怒ってんだよ。眉間にシワができるぞ~」 そんな私の心中もしらず、バイヤーのオヤジ、キジマタツヤ、通称キジタツがいつのまにか横にいた。 「はあ、どうも、おはようございます。」 「オマエ、彼氏と同棲してんだって?捨てられないよう気をつけろよ~ 女は男と違って、同棲なんて勲章にならねーからな。」 「同棲してません!それにそのうち結婚するんで、心配しなくても大丈夫です。」 ったく、なんてこと言うんだよ、このオヤジ。 全国の同棲してる女性に謝れ! とりあえず顔に呆れた表情だけ出して言葉にしない。 「そのうち結婚するのか?そっか!まあ、それなら安心だな。」 「いや、しばらくしないですけどね。。」 「え?なんでだよー?子供産むなら若いうちがイイぞ~」 バツイチのキジタツ、、、子供はいないはずだけど。。。 壁を突き破って入って来るこの年代には、まともに返したくなるけど、 そもそもこの年代とは人生の価値観が違うんだって最近気づいた。 思い返せば高校時代、姉は産んだばかりの姪を連れて、しょっちゅう実家に帰ってきていた。 義兄が赤ん坊の泣き声がうるさくて眠れず、仕事に支障があるから、、、と言っていたけど、 泣きながら義兄と電話をする姉の姿を同じ部屋の私は知っている。 ちゃんと働いてよ、だとか、私一人でこの子育てるなんて無理、だとか、 深刻な話をしてる中、姪っ子が泣き出す。 オムツ替えて、ゴメン!って動作をして姪を私に渡してくるので、仕方なく私が替える。 こっちだって、うるさくて勉強できない。眠れない。 受験勉強をしながら思った。 だけど、泣いてる姉に、そんなこと言えない。。 この小さいカワイイ生き物をうるさいと思う自分が人で無しに思えてくる。 この家を出たい。この家を出たい。この家を出たい。 だけど親は大学に行くなら短大へ行って欲しいと言い出した。 私は家を出るのを条件に寮付きの都会の短大を選んだ。 そして今、離婚した姉は姪を連れて実家に戻り、 上げ膳据え膳で気楽なバイトをして生活していて、家を出た私は都会で就職している。 「おかーさんたちはうるさいけど、夜も安心して出かけられるし、実家に戻って良かったよ~」 こんなことを帰省する度に言う姉がいて、どうして結婚したいと思える? 義兄は遊びに来ていた彼氏の時は優しくて気がイイ人に見えた。 結婚したシンちゃんが変わらないって、誰が保証できる? 週末になると就職したシンちゃんがうちにやってくる。 私の会社はマンション一棟が独身の社員寮として借りられていたから、 会社で噂になるのも当然なんだけど。。 玄関で待たれると目立つからスペアキーを渡したのがマズかった。 帰りにしょっちゅうやってきて、待ってる間に冷蔵庫のモノを悪気無く飲み食いするシンちゃん。 シンちゃんの安い社員寮は、私のマンション寮と違って本当に寮らしく、 申し込み制の食堂、共同風呂と台所、泊まり禁止、面会はロビーのみ。 自炊をしたことの無い自宅暮らしのシンちゃんは、私の家が実家かのようにやってくる。 マンション社員寮がいくら安くても、短大卒の私のお給料なんてたいした額じゃ無いだけに、 外出デート代や食費が痛い。 寮だから転がりこんで来ないけど、私が本当の一人暮らしだったらどうなんだろう? だけど、まだ結婚するには早いと思ってるし、結婚しても会社を辞める気は無かった。 今の仕事、私がふとした時に企画したデザインが商品に通ったのがきっかけで面白くなってきていた。 総合職の仕事もさせてもらえる今の仕事状態が好きだった。 働きながら家事と育児までさせられたら死んじゃうよ。。 姪の世話を少ししただけでウンザリしていた私は、どうしてもシンちゃんのこの言葉に頷けなかった。 「俺が就職したら結婚しよう、サキ。俺、子供がいるあったかい家をサキと作りたいんだ」 続く 前の話を読む サキ1:目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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