『日の名残り』 カズオ・イシグロ
『日の名残り』 カズオ・イシグロ/土屋政雄訳/早川書房英国の古き良き時代を生きた執事の物語。長年離れることのなかったお屋敷から、仕事から離れ短い旅に出る───。イギリスの美しい風景を巡る旅、そしてまた過去への旅。「品格」「偉大さ」をかたくななまでに持ち続けた執事としての輝かしい日々。そんな誇らしい日々の裏側に、どこかで大事な何かを見過ごしてきたのではないか、という思いが見え隠れします。「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。脚を伸ばして、のんび りするのさ。夕方がいちばんいい。わしはそう思う。みんなにも尋ねてごらんよ。夕方が一日でいちばんいい時間だって言うよ」 (本文より)桟橋で出逢った男は言います。執事は、暮れていく夕方の日に、真の執事としての自分を肯定し、新たな道を歩むことを見出したのでしょう。あまりにも格調あるお話に堅苦しいことしか書けませんが、執事の執事たる姿と、新しいアメリカ人雇主へのジョークという手段での試み…など、真面目さゆえに、、笑っちゃいけないけど笑っちゃう、そんなおもしろさも味わえます。夕方を楽しむように、いつか来る「お休み」を迎えたいものですね。