[読書案内（？）] カテゴリの記事

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• 非選抜アイドル

  ツーことで、今日は久々の「読書案内」で仲谷明香「非選抜アイドル」（小学館101新書）です。この本は今月2日に発売されて、その日のうちに書店に行ったら「届いていない」と言われ、数日後に行くと「売り切れです」と言われ、ネットで見てみるとあちこちで「手に入らない」という声が上がっており、先週末から3刷が書店に並び始めたようですが、小さな書店ではほとんど入荷してないようで、ようやく昨日出かけたついでに大きめの書店に行ったら20冊近く平積みになっていました。けど、特にPOPがついてるわけでもないのでこのまま気づかれずに売れ残ったりしないかと要らぬ心配しちゃってます((+_+))　ちなみにこれまでは発行部数の多くない本とかでも発売当日に手に入らないことってほとんどなく、半月もまたされるってのが初めてで、こういうのが地方では当たり前で、東京は恵まれているんだって感じました。で、早速読んでみたんですが、ケッコウ読みやすいのに、ハッとさせられるところもケッコウありましたね。自叙伝的なものなので「あらすじ」というか、アウトラインは軽めに(^^ゞ　仲谷明香は1991年10月15日生まれの二十歳。岩手で生まれたものの7歳の時に両親が離婚して母親と一緒に母親の実家のある千葉に移り住む。この環境変化に馴染めずにアニメ好きの引っ込み思案の少女となり、中学のころには不登校気味になっていた。中学2年の頃に声優の養成学校に通いだすが、母子家庭でレッスン料が払えずに半年で辞めることになる。ところが、同じクラスの自分と同じように引っ込み思案で目立たない女の子がアイドルになり、しかもデビューシングルでセンターに立ってることにビックリしてあれこれ調べてみた。そのクラスメイト、前田敦子が所属するAKB48はアイドルになるのが目的でなく、その先の夢に向かって進むための場所であり、それゆえ、レッスン料なしで声優の勉強もできることを知ってオーディションを受けることにする。だが、アイドルになる気もなく受験したため、黒い服に眼鏡というアイドルとしてあり得ない格好で行ったものの、声優になりたいという明確な夢があったからか合格してしまう。そしてAKB48の一員となったが、何か売りがあるわけでなく、かといってアイドルとして必須である「人気集め」ができなかった仲谷が取った行動とは…正直、AKB48に詳しい人が読むと物足りなく感じるかもしれないが、AKB48についてあまり知らない人にとってはケッコウ面白い読み物になっている。もちろん、ケッコウあからさまなことは書いてるものの、書かれていない闇もあるはずだが、著者の筆致のせいかのほほんと受け入れて触れていないことなど気にせずに一気に読める。何箇所か時系列的に「勘違い」してる箇所もあったが、説明の簡素化のためにそういう風にしたのかなって？まぁ、誰だって記憶の齟齬ってありますからね(^^ゞ＜AX2009の「初日」と組閣の関係　でも、そういうのは抜きにしてもなるほどと感じることがいくつかあった。1つ目はメンバー同士の関係です。女性が集団になれば仲良しグループができたり、対立だのいじめだのがあるだろうと誰しもが思いますが、誰かの足を引っ張ってしまうと却って自分の評価を下げてしまうらしい。これはチームでパフォーマンスする際に誰か一人がミスするとチーム全体の質が劣ってると見做され、そのチームの一員である自分はもちろん、AKB48全体の質が悪いと思い込まれるので、むしろ誰一人劣ったメンバーなどいないと見せないとイケないんです。このため、巧いメンバーが下手なメンバーに教えて全体のレベルを上げるのが当たり前で、誰かの足を引っ張るなんてとんでもない。もちろん、激しい競争に曝されているものの、その競争の場面以外では敢えて競争する必要などないし、そんなパワーも気力も残っていない。それほど一生懸命だってことらしい。もう一つは競争に臨む態度です。著者は選抜に入れない「非選抜アイドル」だけど、選抜アイドルは「非選抜アイドル」がいるからこそ光り輝くのだと言う。多くの「非選抜アイドル」を凌駕するから選抜に入れるのであり、その選抜の中でセンターポジションにいられるのはまっとうな勝負に勝ったからだろう。勝てば官軍だが、負けてもそれでお終いじゃない。選抜メンバーが輝くのは、正々堂々と戦って華々しく散っていく敗者がいるからだという。それも敗者のレベルが高ければ高いほど勝者が輝く。つまり、選抜メンバーをより強く輝かせるためにも「非選抜アイドル」が懸命にスキルアップして行かないとイケなくて「非選抜アイドル」がヘボだったら選抜メンバーもくすんでしまう。強い奴を倒したから強いのであり、弱い奴を倒しても強いとは言えないでしょ？そういう選抜メンバーを輝かせる存在になることが自分を輝かせることになり、自分の夢に通じる道を歩むことになるのだろう。判官贔屓という言葉があるが、勝って当たり前のものが勝っても面白くもないが、勝つか負けるかわからない手に汗握る状況で勝てば興奮するし、負けても次こそはと奮起するだろう。つまり、勝者にとって必要なのは「良き敗者」なのかも。「良き敗者」であれば時には勝者以上に称えられることもある。…ってことは今のプロ野球がつまらないのは…(^^ゞ＜おひおひ！！

  2012年04月19日

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• 新三河物語

  ツーことで、今日も暑いですね((+_+))　ホントいつまで続くんでしょう？ゆうべも寝苦しくて寝付けず、夜明け前には寝汗びっちょりで眼が醒めてしまうというありさま((+_+))　屋内でも熱中症になることもあるらしいんで気をつけないとイケませんよね？昨夜ちょいと頭が重かったんで熱測ってみたら37度をちょいと超える微熱でしたし、今も36度9分と微妙（？）な感じ((+_+))　朝風邪薬飲んだから多少良くなってことかしら？((+_+))　夏に風邪引くってどうなんだろう？((+_+))　こよみのページによると、今日は「函館夜景の日…1991年（平成3年）のこの日、美しい夜景の街への愛着を高めることをねらって制定。夜(ヤ)の「8」と景（ケイ）はトランプの「Ｋ」で「13」という理由から」、「左利きの日…提唱した人(おそらく左利き)の誕生日。 この日とは別に、2月10日が日本独自の「左利きの日」となっている。こちらは0(レ)2(フ)10(ト)の語呂合わせ」、「女神ヘカテに捧げる日…出産時の女性の家に宿る女神。 元々は産室の女神として崇められ、多産のシンボルである蛙が捧げられていた。キリスト教の布教以降は蛙をシンボルとする魔女の女王とされた」だとか。ところで、昨日は何もする気になれずに、けどちょいと浸りたい気分になって、宮城谷昌光「新三河物語」（上・中・下巻、新潮文庫）を最後まで読みました。「一心太助と彦左衛門」といって「ああ、あの」って閃く人も減ってきてると思うんで、ザックリと(^^ゞ大久保彦左衛門忠教（ただたか）は三河の大久保一族である平右衛門忠員（ただかず）の八男として生まれ、嫡男が生まれるまで平助と名乗っていた。大久保一族は岡崎松平家の柱石の一つともいえ、家康が今川の人質であったころもひたすら「いつの日か」のために滅私奉公を続けており、桶狭間の後、一向宗との争いの時も防波堤として家康を守った。その際に惣領だった忠俊の嫡男・忠勝が負傷して戦勤めができなくなり、忠員の嫡男・忠世の下に一族が結集するようになる。幼少のころから文武をともに修めていた平助は一種独特の何かを有しており、長兄・忠世は平助を自分の下において、ともに家康のために尽力する。が、忠世は信長の信康（家康の嫡男）への難詰に抗することができず、家康からは「忠世が讒言した」と秘かに恨まれてしまう。このことを自覚しながらも尽力するしかない忠世を筆頭とする大久保一族。時には密かに、時には陰湿に、家康は忠世の一族に復讐していく。そんな中で平助は…家康が今川の支配から脱し、武田と争いながら遠州、駿河へと延びていこうとした時期、三河の中では一功宗徒との親兄弟が敵味方に分かれるような争いに曝されることになる。この時期は同時に信長の同盟者として耐えなければならない時期でもある。武田の猛威に曝されても耐え、武田を滅ぼしても信長の顔色をうかがわなければならず、本能寺で信長が斃れたら、今後は秀吉との闘いになる。秀吉に備えて同盟した北条は世間智に欠けて滅ぼされ、徳川家は関東移住を命じられる。この秀吉が病没すると漸く頭をもたげて天下を睥睨するようになるんだけど、同時に「積年の恨みを晴らす」べく、大久保一族に理不尽な扱いを始める。まぁ、概観するとざっとこんな感じですが、三河武士とはどんなものであり、三河武士であるためにはどうしなければならないかを身をもって示したのが大久保一族であり、その言行を記したのが彦左衛門が書き残した「三河物語」と言われている。したがって、家康が天下人になることよりも、その基礎を固めた大久保一族の話がメインって感じですかね？このため、天下分け目の関ヶ原などはさらっと流されており、どこか違和感を感じる人も少なくないかもしれません。けど、人としてどうあるべきか、出処進退をどうするかなど、学ぶべきことが一杯詰まっていると言えましょう。正直、あまりうまく紹介できていませんが、大久保彦左衛門の眼を通した戦国末期というものは読み応えがあり、決して不平不満を漏らさず、世を正すありようがその後の講談などで「一心太助と彦左衛門」みたいに取り上げられたのかもしれません。ツーか、物凄い人物なんだって実感しましたね。…再読しようかしら(^^ゞ

  2011年08月13日

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• AKB48ヒストリー

  ツーことで、今日は眼科の検査があるんでちと早めにアリバイ的にってことで、昨日（第２別館）でも触れた「AKB48ヒストリー　研究生公式教本」（集英社）についてです。（第２別館）でも書いたように、あっしはAKB48関係についてあれこれ書いていますけど、実際にAKB48関係のものにお金を払ったのはこれが初めてです。お金を使わなくてもネットやメディアなどで入手できる範囲の情報であれこれ書けるもんです。で、今回初めてお金出して買ったのは値段が５８０円と手ごろだったのと、過去のセットリストなどの記録がついているってことと、立ち読みで済ますにはちとボリュームがあり、眼の負担にもなるから家でのんびり読もうかなって思ったからですね。これで今後あれこれ購入するって訳でもなく、お財布と相談してって言うか、基本は使わないで手に入る範囲内でってスタンスは変えないつもりです。で、内容はというと、AKB48の結成から今日までの記録であり、いろいろなトピックスに対してメンバーたちが当時どういう風に感じていたかを語る形式になっています。これは今年の初めにNHKで放送されたドキュメントや映画になった部分の前段階とも言える部分で、国民的アイドルとして認知されるまでの先の見えない中での暗闘のような、不安と焦燥に苛まれながら耐え続けてきた記録なんだって言えるかもしれません。つまり、AKB48の研究生やそれを目指して今後オーディションに応募しようと言う人向けの基礎知識だってことなんでしょうね。2005年7月の1期生募集から始まった物語は様々な紆余曲折を経ている。24人の合格者のうち初日のレッスンに遅刻したために首になったものなど4人が脱落して20人が初日の舞台を踏んだこと。客席にはほとんど客がいないのに笑顔を振りまいて踊り歌い続けなければなかった日々を1期生も2期生も経験している。お荷物と言われ、次々と新しいメンバーが入ってくる中、逞しくなっていった3期生。…この辺りまでは出入りも含めて詳しく書いてあるんだけど、4期生以降は本文中はあまり出てこない。オリジナルメンバーがどんどん抜けていく中、アンダーとして舞台に立ち、やがて正規メンバーとなっていくルートしかない彼女たちがどんな思いであったかなどはそう詳しくは語られていない。研究生公演が始まったこと、研究生公演でアンコールがかからなかったこと、後輩がどんどん追い抜いていったこと、逆に先輩を追い抜いていったこと、正規メンバーに昇格しても選抜という壁にぶつかったこと、チーム研究生オーディションが始まったことなど、いくらでも膨らませられそうなことも「直接光のあたる場所じゃない」からなのか、研究生にとっては目の前にあることで、目指すべきところだけを示したのかもしれませんね。（第２別館）にも書きましたが、普通の女の子がオーディションを経てAKB48として栄光を掴むまでは書いてあるものの、AKB48の本来の目的である「卒業」して独り立ちした後については全く触れられていない。SDN48に「移籍」してまだグループ内にいるメンバーの発言はあるものの、「卒業」して巣立っていった元メンバーについては名前は出てもその当時どういう思いだったとか全く述べられていない。メンバーが選抜漏れなどで「今度ダメだったら辞めようと思った」けど、どうにか踏みとどまった話はケッコウあるけど、実際に「卒業」した人がその後どうなったかを含めて全く触れられていない。また、「卒業」でなく事実上の解雇っぽい「辞退」ってシステムについても全く触れていない。一旦首になって研究生から正規メンバーに戻ってきたメンバーだの「出戻り」についても全く触れられていない。敗者復活もあるんだって書いても良いと思うんですが、なぜか触れていません。「卒業」後は十人十色で、自分で考えるしかないってことかもしれませんが、「闇の部分には手をつけない」だけなのかもしれませんね。多分もっと分厚い「裏教本」があるんじゃないかって…(^^ゞ

  2011年04月27日

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• 独り群せず

  ツーことで、北方謙三「独り群せず」（文春文庫）です。これは大塩平八郎の乱を描いた「杖下に死す」（文春文庫）の続編で、おおよそ２０年を経た幕末のきな臭い時代を描いています。とはいえ、歴史上の人物が主人公という訳ではなく、大阪の市井に住む料理人を中心とした物語です。とはいえ、普通の料理人ではなく、かつては武士であり、大塩平八郎の乱ののち武士を捨てて料理人となった男です。それも並みの武士ではなかったがゆえに料理人としても並みでない、頭抜けた技量を持つ料理人になっています。光武利之は代々お庭番を統率する家柄である村垣家の庶子で、弟の村垣範正が家督を継ぎ、今では幕府の要職についている。利之は探索のために大阪にやってきて大塩平八郎の息子の格之助と親しくなり、されど、大塩親子が「乱を起こして死ぬ」のを止めることはできなかった。その裏面にある複雑さゆえに、大阪西町奉行所の与力内山彦次郎も格之助を援けるために尽力したのに「先頭に立って追い詰めた」ように言われていたが、彦次郎は敢えてその「汚名」を雪ぐことはしなかった。利之は刀を捨て、料理人として修業をし、料理屋の板前になった。時は流れ、昔を知るものは徐々に減り、利之の妻のお勢も亡くなり、利之は店を養子の直治夫婦に任せて隠居することを考える。隠居と言っても馴染み深い人が住んでいた場所で隠居の気ままな料理の店を出すというものだった。独り気侭にと思ったものの、直治は利之が独りになることに賛成せず、手伝いをつけ、息子の利助の修業を願い出る。利之はこれを受け入れ、穏やかな暮らしとなるはずだったが、幕末の不穏な状況はやがて利之の周りにも及び始め…という感じですが、利之はとてつもなく強い剣豪であり、いくら刀を捨てたとはいえ、包丁を手にしていることで自然と剣の腕も鍛えることになっていたらしく、刀を持たなくても他を圧倒するものがあった。争いごとになど首を突っ込むまいとしながらも、ついついフェアでないことには眼を背けることもできず、降りかかる火の粉は降り払ってしまい、争いごとに巻き込まれたりもする。彦次郎の方は格之助が本当にやりたがっていた庶民のための真っ当な商業の維持に努め、不当な買い占めや売り惜しみをする店などを取り締まっていた。が、大塩の乱の時もそうであったように単純な「悪徳商売」ではなく、その裏側には入り乱れた暗闘があり、その利害得失ゆえに人の命など軽いものになっていた…まぁ、隠棲しててもスゴイ奴とその周りに集まる面々のハードボイルドと言ってしまえばそれまでですが、料理を極めるってのがどういうものなのかって面でも凄いんですよね。孫の利助を鍛える場面などは何とも言えないものがありますね。利助の真摯さというものがカッコよく感じたんですが、この真摯さを引き出したのは利之の卓抜した腕なのかもって気もします。つまり、子供たちが尊敬してやまないような背中を見せ続けることが大人たちのしなくてはイケないんじゃないですかね？もちろんすべてにおいて完璧でいることなどできないけど、何か一つでも誰にも負けない誇れるものを持たないとイケないんでしょうね。そういう気持ちになれるくらいカッコイイ物語です。できれば「杖下に死す」から続けて読んでみてください。

  2010年12月30日

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• 活路・余燼

  ツーことで、北方謙三「活路」（上下巻・講談社文庫）および「余燼」（上下巻・講談社文庫）です。一応は全く別の話なんで別々にネタにしても良かったんですが…(^^ゞ　この二つは前々から読もうとしてたんですが、どちらも絶版になっていたみたいでＧＥＴできず、「活路」が昨年末に新装刊したんで、「余燼」も新装刊するかなって待っていたら今月出たんで、これにあわせて両方読んだんですよね。どちらも江戸時代を舞台にしたものだからいいだろうって思ったんですが、読み始めたらドップリハマってしまいました(^^ゞ　どちらもラストでは涙が…(T_T)「活路」旗本小普請組（無役の旗本）の春気竜行は胞輩の堀田兵庫が自分の身代わりのような形で田辺藩の藩士と斬り合いになり、罪に問われて囚われの身になったのを救い出すために田辺藩の城代家老と田辺藩主の叔父を標的とする刺客を引き受ける。死地を切りぬけて江戸に戻ってみると堀田兵庫は切腹したと知らされ、信じられずに墓を暴くと切腹でなく槍で突き殺されたことがわかる。自分は使命を果たしたのに堀田兵庫は何故殺されたのか？謎を探るうちに様々な剣豪とあいまみえることに…「余燼」旗本小普請の影井誠一郎はふとしたことから甲府勤番に左遷されて２年が経ち、特に江戸に帰りたいとも思わずにひたすら剣の修練に励んでいた。そこに江戸での胞輩の北原平七がやってくる。が、上司から平七を斬れと命じられ、きわどい勝負ながら斬ることが出来たが、平七が自分に斬られに来たように感じた。平七を斬った腕を買われたのか江戸に戻り、元白河藩士の沢井小平太の護衛をするように命じられる。時は老中田沼意次が失脚し、将軍の実父である一橋治済と老中就任を目指す松平定信の暗闘が行われており、田沼意次派の巻き返しもあり、三つ巴、四ツ巴の闘いの渦中に飛び込むことになり……ってことで、どちらも剣豪が陰謀に巻き込まれてそこでもがきながらもとりあえずに決着を見るまで突き進むんですが、剣豪同士の立ち会いが凄いし、多人数相手の斬り合いも迫力があります。でも、どちらかと言えばその場に行くまでの心身ともの修練も鬼気迫るものがあり、樹齢数百年もの大木と向き合い、それに打ち克つシーンがあったり、名刀を身命を賭して砥ぎ上げる刀砥が出てきたりします。この打ち込み方が何ともいえず心に響きましたね。まぁ、実際あれこれあっしが書くよりもとにかく読んでもらいたい本ですね(^o^)丿　どちらも時代物だけどハードボイルドなんですよね。そして剣を極めるってことは親友同士でも最後は斬り合うことになっちゃうんですよね(T_T)　そこに行くまでの過程も何とも言えないんですよねぇ…　この辺りも実際に読んで楽しんでいただきたいですね(^o^)丿

  2010年12月26日

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• 蒼穹の昴

  ツーことで、浅田次郎「蒼穹の昴」（講談社文庫・全４巻）「陳妃の井戸」（講談社文庫）「中原の虹」（講談社文庫・全４巻）のシリーズを読み終わりました。「蒼穹の昴」は今日中合作ドラマやっていますが、あっしは見ていません(^^ゞ　中国の歴史ものが好きでよく読みますが、ドラマとか映画とかだと字幕なら読むのに一生懸命で演技がほとんど見れないし、吹き替えだとやたらクサイと言うか、元々演技がクサイ（一種独特？）から余計に違和感というか、馴染めないんですよね(^^ゞ　まぁ、目も耳もよくなくて、テレビとかも一度では聞き取れないとか理解できないことが多いせいなんですがね(^^ゞ　とにかく、中国の清朝末期についてある程度の知識がないと読みづらいかなって思うけど、逆にそれまで抱いていたイメージを覆すようなお話でしたね。清朝末期、寒村の貧窮農家の四男坊に生まれた春児こと李春雲は今は亡き兄の義兄弟で素封家の次男である梁文秀が科挙の会試・殿試を受験するので、そのお供として首都北京に行くことになった。普段は馬糞を集めて口に糊する暮らしぶりで、いつ一家して死に絶えるか時間の問題だったのだが、流れの占い師に「いずれはすべての富を手中にする」と告げられたので、その手段を北京にいる間に見つけようと目論んでもいた。しかし、貧しい自分には宦官となって仕えるしかないと知り、しかも、その準備金やらすら用意できないため、故郷に戻ってから自分の手で去勢してしまう。再び北京にやってきた春児はふとしたきっかけでかつて宮中に仕え、ちょっとした不始末から厳しい罰を受けて廃疾となった元宦官たちと知り合いとなり、そこで宦官としても作法やしきたり、京劇の役者としての訓練などを受け、数年の修養の後宮中に上がることになる。そこで西太后の気紛れから宦官たちに求められた難役を見事に演じたことで西太后のそば近く仕えることになる。他方、梁文秀は科挙に状元で合格し、エリート官僚としての道を歩み始めるが、故郷に置き去りにしたような春児のことが気にかかって戻ってみると、春児は去勢して故郷を去っており、その家族は幼い妹を除いて死に絶えていた。義兄弟の家族を救えなかったことを悔い、梁文秀は春児の妹を北京に連れて行き、家の下働きとして使うことにする。…って感じで話が始まる訳ですが、この時代は政治を顧みない皇帝であった夫と息子を相次いで若くして亡くし、彼らに代わって政治を行っていた西太后が甥で幼少時に即位した光緒帝との政治的な駆け引きが行われており、最終的には光緒帝が政争に敗れて幽閉され、光緒帝の側近たちは粛清され、あるいは日本に亡命したと言われています。つまり、春児は西太后のそばにいてその一般的に言われているようなものとは違う生の西太后の姿やその悲しみを垣間見ることになり、光緒帝の親政を推進しようとして失敗してしまうのが梁文秀ということになります。まぁ、呂后や則天武后などと並び非難されるような西太后がそんな単純な人物ではないってのがこの作品で一番に感じたことですね。とはいえ、そんな西太后でさえ正確な情報が与えられなければ誤った判断を下してしまうって実例もあったりします。とにかく読んでとても勉強になった気がしますね。「蒼穹の昴」は光緒帝の親政が破れてしまうまでが描かれており、「陳妃の井戸」は義和団事件当時の話についてのミステリーっぽいもので、「中原の虹」は日露戦争後から清国滅亡、中華民国の草莽期あたりの話で、これは張作霖が大きな存在として出てきます。で、この張作霖の爆殺から満州事変、満州国樹立までも書かれるのかと思ったらそこまでは行かないみたいで、オンラインの本屋で見てみたら「マンチュリアン・リポート」（講談社）ってので「張作霖爆殺事件」について書いているみたいです。これは今年出たばかりの四六版らしいのですぐには読めそうもないけど、「陳妃の井戸」に近いものになっているのかな？で、ちとネタバレっぽくなるけど、「蒼穹の昴」や「中原の虹」では父祖の霊があれこれ出てくるんですよね。この他に清国草莽期の話やら乾隆帝の時代の話やらがインサートされているんで、ちょいと混乱しそうです。また、視点となる人物がころころ変わるから、映画かドラマのような感覚になると言うか、２～３行読んでどこの部分か分かるようなこともあったし…(T_T)　とはいえ、かなり楽しめるものでしたね(^o^)丿　ドラマを見てる人も興味をもたれたらちょいと読んでみてはいかがでしょうか？

  2010年12月10日

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• Ｏｐ．ローズダスト

  ツーことで、福井晴敏「Ｏｐ．（オペレーション）ローズダスト」（上中下巻・文春文庫）です。福井晴敏と言えば「終戦のローレライ」や「亡国のイージス」などが有名で、最近では「機動戦士ガンダム」のシリーズのノベライズ（？）もしてるようです。で、この「Ｏｐ．ローズダスト」は自衛隊の秘密特殊部隊「ダイス」という、これまでの作品にもよく出てくる部署に所属する青年が主人公です。まぁ、もうちょいとじっくり読むつもりでしたが、寝苦しくて寝つけないならいっそ耽読しちゃえってことで一気読みしちゃいました(^^ゞ丹原朋希は自衛隊特殊部隊「ダイス」に所属する24歳の青年だ。朋希は4年ほど前に日朝関係の特別任務「オペレーションＬＰ」に参加して唯一自衛隊に残ったメンバーだ。残りの12人は「オペレーションＬＰ」の終結時の「事故」で5人が死亡、そののち2人も死亡、残る5人は朋希の訓練キャンプの時の同期で頭抜けた能力を持つ入江一功をリーダーに「ローズダスト」というチームを組んで4年余りの雌伏を経て帰国した。そして「オペレーションＬＰ」が中止になった後の「事故」を誘発した3人の士官に「復讐」を開始する。それは3人がの防衛省から天下りした「アクトグループ」の関連施設で強力な爆弾で爆死させると言うものだった。この3人は「オペレーションＬＰ」のメンバーを生贄にするのと引き換えに高性能爆弾・Ｔｐｅｘ」を手土産として「アクトグループに天下りしたのだ。「ローズダスト」は裏の裏まで緻密に計算された計画通りに一人一人殺害していくとともに、より大きな計画の準備を着々と進めていく。朋希は入江の作戦の裏の裏まで読み解き、計画を阻止しようと奔走するが…正直人間関係が錯綜しており、下手に書くとモロネタバレになるんで自粛します(^^ゞ　で、主人公ですが、能力は高いものの基本的にヘタレで、見ていてイライラすることもしばしばです(^^ゞ　むしろ朋希の「相棒」になる警視庁公安4課、通称「ハムの脂身」である中年の並河警部補の方がアグレッシブですね。もちろん戦闘能力は話にならず、しばしばボコボコにされるものの、頭の回転は物凄く、「地雷を踏みまくり」ながらも力強い行動力で突き進み、真実に近づいていこうとするんです。時折ヘタレてる朋希のケツをけっ飛ばしたりする。酸いも甘いも権謀術数もその中でいかに生き延びるかってことも十分に分かっていながら、魔が差したように「地雷を踏む」んです(^^ゞ　それでもなお前に進むんです。年齢的には朋希よりも並河の方が近いからか、並河に共感しちゃうんですかね？まぁ、読み物としては面白いんですが、敢えてこれを紹介するのは今の日本の状況をどうするんだって突き付けてくるものがあるからです。「北」に翻弄されて日米安保や独自の軍事力の保持など、あれこれ騒がれたことを想起し、それが如何に「実のないもの」一部の人間が企図しただけのものって感じたりしました。昨日の核兵器廃絶関連の話もついついここから派生したような気もします。閉塞感の中でどうすればいいのかの処方箋もありますし、お時間のある人には是非！けど、多少ウザい主張（セリフ）があったりするんで、そこさえ我慢できれば…(^^ゞ＜おひおひ！！

  2010年08月07日

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• 魔物

  ツーことで、大沢在昌「魔物」（角川ノベルス・上下巻）です。大沢在昌と言えば「新宿鮫」をはじめとする「悪い奴らと戦う漢のハードボイルド」ですよね？この「魔物」もその一種と言え、主人公は暗い過去を引きずっている麻薬取締官の大塚で、立ち向かう相手が普通の悪と違うサスペンスホラーっぽい作品です(^^ゞ　ツーか、普通の悪い奴だと刺激にならないって訳じゃないと思いますが…(^^ゞ＜おひ！大塚は17年前の暑い夏、中学3年生の時に起こった事件が心に突き刺さって、大学受験の際に東京から北海道に飛び出し、大学卒業時に一度東京に戻ったが、今では麻薬取締官の北海道地区事務所に勤務している。北海道に赴任してまだ3年と日が浅いこともあり、広域指定暴力団とロシアンマフィアとの薬物取引について内偵していた。そんな大塚の下に協力者から薬物取引についての密告が入った。末端価格で1億円にもなる2ｋｇもの薬物をロシアから持ち込む取引があると言う。取引相手は大塚が探っていた広域指定暴力団と対立関係にある小樽の暴力団のようで、密告が入ったのはこの広域指定暴力団が対立する暴力団を官憲の手で潰してやろうと言う策謀の臭いがする。実際取引を抑えるべく張り込んでいると北海道警が大々的に捜査員を動員していた。麻取と道警の両方に密告があったようで、そこには作為が見えている。麻取や道警の裏をかこうと言う取引の裏を読んで、大塚らは薬物は押収したが、ロシアからの運び屋は押さえることができなかった。そのころ道警は暴力団の事務所にガサ入れしており、そこにロシアからの運び屋がやってきたので道警は身柄を押さえようとしたが、急に暴れ出し、数人の死者や重傷者を出していた。大塚は広域指定暴力団の策謀に恨みを抱いて密告者に報復をするのではないかと考え、協力者に情報を提供した男の下に同僚とともに向かうが、その男を保護しようとした時にロシアからの運び屋が現れ、男と大塚の同僚を殺した。大塚は数発の銃弾を運び屋に喰らわせ、一発はこめかみに突き刺さったのに、運び屋は血を流すこともなく、姿を消した…銃弾を喰らいながらも平然としているのはなぜか？ロシアから来た運び屋はあるものを持っていた。イコンという聖人などを描いた絵だ。このイコンには曰くがあり、4年に一度の閏年の2月29日にこのイコンに描かれた聖人がイコンを抜けだし、悪い考えに心を占められている人にとり憑くのだが、心清い人ばかりでとり憑くことができない時には「悪い風」を吹かせて1日で伝染病をまき散らすなどの災厄をもたらすのだと言う。このイコンはシベリアのある教会で封印されていたのだが、封印されて却ってイコンの聖人の遺恨が募り、深い海の底に沈めたりしないと拙いとその教会の司祭が考え、友人に頼んだのだが、この友人が殺され、薬物とイコンが件の運び屋に奪われたのだった。この運び屋にイコンの聖人がとり憑いて撃たれてもびくともしない超人的な怪物になってしまったらしい。大塚も当初は信じる気にもならなかったが、同僚を眼の前で殺され、超人的になる薬物でも喰っていないならあり得ない状況で、闘いに挑むのだが…まぁ、かつてはエンジェルダストというトンデモない薬物について取り上げられることもありましたが、今ではエンジェルダストも影を潜めているみたいですね。したがって、現在ではその手の薬はほとんどないようです。よりリアルにとんでもない奴らと戦うとしたら、超常的な存在ってことになったのかもしれませんね(^^ゞ　銃で撃たれてもびくともしない、とり憑いたものが死にそうになったら次の人にとり憑くってのはホラーですよね？しかも心清くないと自分にもとり憑く危険性があるんだから怖いですよね？それでも戦わなきゃいけないのはなぜか？…この辺りはぜひともこの本を実際に読んでもらいたいですね(^^ゞ　よく「耐えられない試練は与えられない」「耐えきれるからこそ試練が与えられる」って言われますが、「試練が与えられるのには意味がある」ってのがテーマのように思います。神様は理不尽なことを見逃すとよく言われるけど、そこには見逃すだけの意図があるのかもしれません。アクションが苦手という人でも大塚の心のありようについてだけでも読んでみてはいかがでしょうか？(^o^)丿

  2010年07月27日

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• フェンネル大陸　偽王伝・真勇伝

  ツーことで、高里椎奈「フェンネル大陸　偽王伝」（講談社ノベルス・全7巻）「フェンネル大陸　真勇伝」（講談社ノベルス・全5巻）です。「偽王伝」の方は何冊か文庫化されており、順次文庫化されると思いますが、「真勇伝」の方は今月最終巻が出たばかりなので全部文庫化されるのは数年先でしょうし、9月には短編集も出るみたいですね。最初の本は6年前に出ており、最初の方はさすがに記憶が曖昧になっていたんで、最終巻が出たのに合わせて最初から読みなおしました。12冊で2週間ですから、まぁまぁですかね？大陸の東端にあるストライフ王国の国王には3人の妃と7人の王子、5人の王女がいた。この末の王女、フェンベルクは同腹の兄で元帥のギルフォードの役に立ちたいと思っていたが、フェンベルクはストライフでは珍しい銀色の髪をしているために文官・武官ともに忌み嫌われたりしていた。そこで、ギルフォードの勧めもあり、13歳でグールという悪鬼とも呼ばれる獣を兵とした獣兵師団を率いる将軍となっていた。グールは鋭い牙と爪を持ち、驚異的な身体能力を持ち、牛馬の代わりに農耕や鉱山開発にも従事させられていたが、知能は低く、言葉も使えないと言われていた。ところがある日、盗賊の女頭目のワイザーが騒乱を起こそうとした現場に居合わせ、ワイザーからグールは世間で言われているようなものではないと教えられる。ストライフ王室でも一部のものしか知らされていない事実を突き付けられて困惑するフェンベルクはワイザー捕縛に来たギルフォードによって捕縛され、流刑に処せられる。ストライフの流刑は海の藻屑になることも少なくなく、どうにか大陸の西端にある港の国、ラークスパーに辿りつき、フェンベルクは競売にかけられ、テオという男に落札された。テオはストライフからラークスパーに逃れてきたグールで、グールを迫害しているストライフ王室に恨みを抱いていると言う。しかし、ストライフに残った兄・ノウェインから「フェンベルクはグールのことを虐待したりせずに大切に扱っている」旨の手紙が来ていたので、すぐに復讐するのではなく様子を見ることにしたようだった…王国の秘密について何も知らずにいたフェンベルクはストライフを追放され、初めて自分が何も知らなかったことを知り、異邦の地で様々な出来事に巻き込まれ、悪戦苦闘し、徐々に世界を知るようになっていくと言う「成長譚」と言えるでしょう。具体的にどんな人物とどういう関わりになっているかってことになるとネタバレになるんで触れませんが、最終巻に戦争に関する気になるセリフがあったんで引用しますね(^^ゞ「戦をすると国は痩せる。民は疲弊し、土地は荒れ、勝利した国が敗北した国に賠償を求めるという謎の決まり事が行使される訳だ。ところが、戦がなくなると豊かになった国で民は緩慢にその恩恵を享受する。飽和した生活に人は次第に感謝を忘れて怠惰に耽り、やはり民は疲弊して国は荒れていく」（中略）「人は共通の敵を持つと結束を固める」これはこのファンタジー世界だけのことではなく、今のこの地球でも当てはまることですよね？常に繁栄を享受するために「仮想敵」を設定して適度の危機感を抱き、時には実際の戦闘を行ったりすることは、今もアメリカを中心に行われていますよね？そう考えるなら、適度の緊張感を生むために敢えて「テロリスト」を再生産してると言うのも頷けますよね？「ウサマ・ビン・ラディン」がＣＩＡでもおかしくないのはこういう理由なのかなって(^^ゞ＜おひおひ！！えっと、話がそれちゃいましたが、「フェンネル大陸」のシリーズは単に楽しむもよし、今の世界に当てはめて読むもよし、9月の短編集を待つのもいいかもしれませんが、適度の長さで好い感じです。人は元から悪なのではなく、魔が射して悪に手を染めたりもするし、一種の諦観が偽悪的に行動させたりします。そういう人の弱さとその弱さゆえの優しさというか、そういうのが丁寧に描かれているように思います。唯一の難点というか、あっしの感覚的なものですが、イラストがどうも違和感があると言うか、あっしのイメージとは違うんですよね(^^ゞ　まぁ、ライトノベルっぽいし、仕方ないのかな？(^^ゞ＜おひ！

  2010年07月20日

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• もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

  ツーことで、岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 」（ダイヤモンド社）です。この本は「ビジネス・ライトノベル」という範疇にあるモノみたいで、本やタウンで見てみたら、週間のベストセラーでは総合1位、月刊や上半期でも単行本ビジネスの分野で1位であるだけでなく、総合でもそれぞれ3位に食い込んでいます。ちなみに上半期の総合1位は村上春樹「１Q８４（３）」ですから、ビックリするほど売れているってことですね(^^ゞ川島みなみは東京西部にある都立の進学校の2年生だ。みなみの幼馴染で親友の宮田夕紀が体調を崩して入院し、しかも病状が軽くなくて長期の入院が必要となるらしい。夕紀は幼いころから病弱で入退院を繰り返していたが、中学に進むころから健康に暮らしており、高校では野球部のマネージャーをしていた。みなみは夕紀が元気になるようにと、夕紀の代わりに野球部のマネージャーとなり、野球部を甲子園に連れていくと決意する。ただ、マネージャーとは何かよくわからなかったので辞書で引いてみると「支配人。経営者。管理人。監督」とあり、すぐ隣には「マネジメント…管理。処理。経営」という言葉が載っていたので、「マネージャーとはマネジメントする人だ」と理解し、大型書店でマネジメントに関する本を尋ねると、ドラッカーの「マネジメント（エッセンシャル版）」を薦められ、中身も見ずに購入する。実際に読んでみると「野球部の女子マネージャー」とは無縁な「企業経営」に関する内容だったが、2100円ものお金を払ったのだからと読み進めていくうちに「企業経営」にとどまらず企業を含めた「組織」の経営全般について書かれており、野球部も組織と考えたらと発想を切り替え、「マネジメント」を参考に甲子園を目指すことにするが…正直「ビジネス・ライトノベル」なのでさっと読める内容です。1680円とちとお高めですが、軽く読める割にためになることも書かれているから十分元がとれる本じゃないですかね？まぁ、ビジネス書なのに表紙はライトノベルのようなイラストで、書店で見かけるたびに首を傾げていたんですが、テレビでのブックレビューなどで「流行っている」と聞いたので、試しにプロローグを読み、次の時にはエピローグを読み、購入を決めました。あっしも昔は高校球児でしたし、どういうことをすれば甲子園に行けるのかって興味があり、ひぐちアサ「おおきく振りかぶって」（アフタヌーン連載中）なんてのも興味深く読んだりしています。「おおきく振りかぶって」は埼玉を舞台に公立高校の生徒たちが甲子園を目指すお話で、最初の夏は頑張ったけど敗れ去り、そこからどうしていくかって段階が今描かれていたりします。それと比べると、若干リアリティに欠ける面があるのは否めませんが、この本の目的がドラッカー「マネジメント」の紹介であるという意味では十分それを果たしていると思います。実際無名の都立高が甲子園に行くのは不可能ではないにしろ、確率は限りなくゼロに近いのは確かです。それが一つの方法論で成功に導かれるってのはありえなく感じられるでしょう。もちろんそこはフィクションだからってことで捨象し、「マネジメント」に書かれていることを如何に自分の身近に引き寄せるべく「翻訳」して工夫していく過程がわかりやすく描かれていることは評価できると思いますし、これを参考にして工夫することは何もしないよりもずっとマシな結果を導くように思われます。あっしもドラッカーなんて名前も「マネジメント」なんてものにも飛びつく気持ちなんて全くありませんでしたが、こういう形で「翻訳」してくれたから読む気になったも確かです。実際この本を読むだけでも自分が上手くいかない時の指標となりそうな気にもなりますし、直接ドラッカー「マネジメント」を読むきっかけになればいいのかもしれませんね。この本はあくまでもフィクションであり、悪意のある人が出てきていないなど、実際の世の中とは違う面もあるので、直接「マネジメント」をテキストにするのも好いんでしょうね。

  2010年07月06日

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• 勝海舟

  ツーことで、子母沢寛「勝海舟」（新潮文庫・全六巻）です。ケッコウボリュームがあったせいで、読み終わるのにひと月ちょいとかかってしまいました(^^ゞ　この「勝海舟」は昭和16年10月から戦争をまたいで21年12月まで「中外商業」（今の日本経済新聞らしい）系の新聞に連載されたものですから、60～70年も前に執筆されたもので、表記やら言い回しやらが異なるので読むのに若干の違和感がありましたが、それでも十二分に楽しめましたね(^o^)丿　6巻巻末の解説によると、敗戦後の時期は新聞や雑誌の連載小説がほとんどすべて中途で打ち切りになった中で、21年末まで連載が続いたのは特筆されることだろう。関係者の話によると「終戦後、「中外商業」（日経）に「勝海舟」を連載していたが、たまたまＧＨＱから、新聞に小説をのせてはいかん、といわれた。ところが、「これは、江戸城明け渡しにかこつけて、アメリカ軍の進駐をわかりやすく解説しているような小説だ」と説明して、掲載をつづけることが出来た、というエピソードがある」とのこと。あっしは子供のころに「父子鷹」という時代劇を見た記憶があって、勝海舟と言えば子母沢寛の「父子鷹」だと思って、今回あちこちの書店を廻ったけど、どこにもなく、「おとこ鷹」はあったけど勝麟太郎よりもその父勝小吉のエピソードみたいだったので見送り、この「勝海舟」にしたんですが、これも一か所にしかありませんでした((+_+))　したがって入手は楽じゃないかもしれませんが、入手できるなら是非ＧＥＴした方がいいのかもしれませんね。勝麟太郎（のち海舟）は本所の禄高四十俵の御家人・勝小吉の嫡男として生まれる。父親の小吉は剣術家でもある男谷家から勝家に養子に入ったが、小普請（無役）なために役料の加算がなく、赤貧の暮らしで、食っていくために任侠に近いこともしていたので、惣領の麟太郎はやむを得ないが、麟太郎の三人の妹は男谷の実家に取り上げられてしまい、親子三人で暮らしている。麟太郎は7歳の時に十二代将軍家慶の五男初之丞のお相手として出仕し、後々初之丞の側近として出世していくと期待されたが、その初之丞が夭折したために立ち消えとなってしまう。13歳の時に本家男谷の門下の島田虎之助の門人となって武道の修業を始め、21歳で免許皆伝を受けて代稽古を始めるものの、洋学を学んでいたために稽古を嫌われるが、洋学の勉学にも励む。24歳の時に本所から赤坂田町に転居し、4年後には私塾を開くようになる。ペリーの来航後に長崎伝習所で航海術などを学び、日米条約批准のための渡米使節の護衛の名目で咸臨丸艦長としてアメリカまで往復する。その後、幕府が瓦解に向かう中、徒手空拳で奔走し、未来の日本のために尽力するが…まぁ、おおよそは前にも津本陽の「勝海舟」でもふれたので重複になってしまいますが、同じ題材について書かれているのに印象はかなり違うように感じましたね。まぁ、津本陽の作品がどうもあっしにはなじまないからだと言えばそれまでですが、勝小吉のいろいろなエピソードも書かれていておもしろかったですね。もちろん「勝海舟」を読もうと思ったのは「龍馬伝」を見てて坂本龍馬だけでなく他の幕末のころの人たちについてもあれこれ読んでみようと言うのの最初だったんです。まぁ、北方謙三の幕末のころの小説も読んでいたので全くなじみがないと言う訳ではありませんが、北方謙三の小説に出てくる勝海舟もケッコウ感じが違ってましたね(^^ゞ　大河ドラマの勝海舟も一昨年の「篤姫」の北大路欣也と今年の武田鉄也では全く違いますよね？一応子母沢寛の勝海舟はべらんめいで武田鉄也の方に近いかも(^^ゞで、「勝海舟」は「耐える小説」かなって思いましたね。周りに碌な人間がいないためにより広い視野に立った言動ができずに迷走してしまっている中で麟太郎だけが的確に対処していくんですよね。幕府の側よりもむしろ西国雄藩の志士と呼ばれるような人たちの方が話がわかるから誤解されることも多く、命を狙われることもしばしばだ。折衝の実務者として麟太郎しかいないから不惜身命で折衝を成功させても讒言されたりして労をねぎらわれることもなく、むしろ煙たがれる。それでもやることをやったから江戸の無血開城が出来たのに、ホントに報われない。実際今年は坂本龍馬ブームだけど、その龍馬を育てたのも麟太郎だし、成し遂げたことからすれば麟太郎の方が評価されて好いと思うけど、どうも脇役にされちゃいます(^^ゞ　でも、今必要なのは麟太郎みたいな人材じゃないのかな？まぁ、言葉が悪くて誤解されやすいけど、こういう人物が活躍できる世の中はあまりよい状態じゃないにせよ、きっとよりよいものにしてくれそうに思うんですがねぇ…(^^ゞ　とにかくチャンスのある人は読んでみてください(^o^)丿

  2010年05月06日

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• うわさの人物

  ツーことで、加門七海「うわさの人物　神霊と生きる人々」（集英社文庫）です。津本陽の「勝海舟」と子母沢寛の「勝海舟」の間に気分転換（？）に井上祐美子「朱唇」（中公文庫）と「うわさの人物」の2冊を読んだんですが、「朱唇」は物凄く読み易くて楽しめたんですけど、中国ものの短編集でしかも妓女を題材にしたもので、艶っぽい表現とかはないけれど、ヤッパ誤解を招きそうだってことでパスしました(^^ゞ　とはいえ、中国ものが嫌いでない人ならケッコウ楽しめると思うので気になった人は試してみてくださいm(__)m　で、「うわさの人物」の方ですが、加門七海には同じ集英社文庫から「うわさの神仏（１～３）」ってのが出てまして、神霊とかそういうものを面白おかしく（？）エッセイにしてるんで、「神仏」を「人物」にひっかけているんでしょうね(^^ゞ　ツーか、あっしの脳内では「人物」が「神仏」になっていたようで、本文を読もうとしてびっくりしたと言うのは事実です((+_+))で、普通ならここであらすじを書くんですが、小説じゃないんで概要を(^^ゞ　加門七海はホラー小説などを書いている作家で、上記したように神霊関係のエッセイ（紀行文？）をケッコウ書いているんですが、過去の読書記録眺めてみたら小説よりもエッセイとかの方が多かったくらいで、物凄く読み易くて面白いんです(^o^)丿　加門七海もあれこれ「恐ろしい目に遭って」いるそうで、そのつながりもあり（？）かなりの研究家でもあるみたいです。そんな加門七海が9人の霊能者（ではないと言っている人もいる）とのインタビューをまとめたのが「うわさの人物」です。神霊関係の人を扱っているとはいえ、全面的に肯定するのが目的ではなく、とりあえず読んだ上で肯定するのも否定するのも読んだ人に委ねる立場で書かれているので比較的フェアです。まぁ、あっしは無宗教で信仰に薄く、神の存在など実感できないとここでも何度か書いていますし、霊能力者が胡散臭く感じてもいます。それでいてホラーとかを好きで読んでいるんだから不思議なものですが、これを読んでみて「気付いた」のは唯一絶対の神を至高とする一神教的な意味では無宗教だけど、日本的な八百万の神々への信心がないわけではないってことですね。正直「苦しい時の神頼み」レベルですが、あれこれ頑張った上で最終的には「神に祈るしかない」ってことはよくありますからね(^^ゞ　草花とかが「上手く育ちますように」というのも一種の神頼みですよね？実際神様を意識しないうちに自然を畏敬するように手を合わせたりすることは当たり前のことですよね？あっしの場合は金縛りに遭うこともあるし、ごく稀にあるはずのないものが見えたり聞こえたりしたような気分になったりもしますし、瞬間的に悟りに達したように感じることすらあります。こういうのはどんな人も一度や二度はあるようなことで、それを神霊に結びつけるか、単なる勘違いってことにするか、科学で究明できると思うかの違いでしょ？自分では説明できないようなことに出遭った時にたまたま神霊とかで説明する人もいるんだって考えるならそんなに目くじらを立てることもない気がします。霊能力者って考えようによっては超能力者と同じようなものって読んでて思いましたね。超能力もケッコウ否定したがる人もいるわけで、目くじら立ててまで否定する意味があるのかって思うことないですか？あっしはそういう人って手酷く騙されたことがあるか、騙された人を知っていて、ホントは信じたいのに信じたらイケないんだって頑なに拒絶してるのかなって思います。逆に霊能力者などに心酔して生命財産のすべてをつぎ込んでしまうってのは大間違いだって思いますね。「うわさの人物」の中にも「マガイモノ」の話が出ていて、こちら側が何も知らないのをよいことに不安を煽ってしまったり、誤ったやり方で却って「魔を呼び寄せる」マネを引き起こしたりもするのだとか。そういった意味で、端から否定する必要はないが、最低限の知識を持っていないと心が弱っている時には付け込まれ、金品を搾取されてしまうことになりかねません。分からないことがあるのが怖くて大昔の人は全知全能の神様を創造して「神様のお陰、神様の怒りのせい」などとして安心してて、それが時間の経過とともに形骸化することもあれば、科学に取って代わられることもあります。一種の「方便」である神様やら精霊やら悪魔さえもいつしか独り歩きし、「生命が宿る」こともあるのかもしれませんね。けど、今ある世界は自分が感じたものを再構成したインナースペースに過ぎないとするなら、当人が思うがままに無意識に世界は構築し直されるから、「どんなこともありうる」のかもしれませんね。それが霊能力なのか統合失調症なのかは線引きが非常に難しそうですよね？ツーか、当人が納得するのであればそれはそれで構わないんじゃないですかね？そういった意味で参考文献として「うわさの人物」を読むのは害にも毒にも損にもならないと思います。全部を信じろと言うのではなく、自分の琴線に触れたものだけ大事にすればいいって程度ですが(^^ゞ　心の平穏の一助になればって思いますが、ならなくても怒らないでくださいね(^^ゞ＜おひ！

  2010年04月03日

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• 勝海舟

  ツーことで、津本陽「勝海舟」（幻冬舎文庫・全2巻）です。坂本龍馬関係で、知ってるようで知らなかった人物の小説を読もうってことで選んだんですが、坂本龍馬との絡みはあまりなく、ちょいと拍子抜けというか…(^^ゞ　あるいは「龍馬」で書いたものは除外して書かれているんですかね？勝海舟と坂本龍馬ってケッコウ濃密な関係にあり、勝自身や勝が仲介して会わせた相手に触発されて思想を形成していったわけで、それが明治維新の原動力になったのに、なぜ坂本龍馬にそういうことをしたのかとかってのもそうですが、坂本龍馬を育てたって部分がほとんど記述されていないんですよね(^^ゞ　そういった意味では「期待外れ」だったかも(^^ゞ＜おひ！勝麟太郎は貧しい御家人勝小吉の息子で、剣術を修めた後に蘭学も修め、やがて自分で蘭学の塾を開いたり、大砲の鋳造などを手がけたりしていたが、ペリーの浦賀来航を機に麟太郎の知識が頭角を現し、長崎伝習所の一期生としてオランダから蒸気船の操縦技術を学んだりした。やがて咸臨丸の艦長として太平洋を横断してアメリカの文物に接し、日本があまりにも遅れていることを嘆き、それを口にするため、周囲からは嫌われた。とはいえ、外交、国防、海運などについては麟太郎の右に出る人物はなく、見識の高さから十四代将軍家茂からは絶大な信頼を受けていたが、自負心の強い十五代将軍となる慶喜からは遠ざけられ、譜代大名、旗本などからは嫉視され、讒言されることもしばしばで、必死の思いで成し遂げたものも水泡に帰す羽目に陥ったりもした。幕末維新の時期に如何に徳川家を存続させるかに腐心し、西郷などとも必死の折衝を行い、江戸城の無血開城にこぎつけるが…えっと、正直読みにくいと言うか…(^^ゞ　「龍馬」の時にも愚痴りましたが、史料の使い方がちとあっしに合わないと言うか…(^^ゞ　ある意味客観性の確保のためだろうと思いますが、史料をたくさん並べているんですけど、それを咀嚼して物語として再構成するってことを避けているって感じなんですよね(^^ゞ　史料を原文のまま使ったり、現代語訳したり、原文を使った後現代語訳を書いたり、重複したり、どうなんだって？(^^ゞ＜おひ！　回顧文などはそれを元にその当時の様子を描写すればいいのに、回顧文のままでは物語としてどうなんでしょう？まぁ、勝海舟の人となりはわかったから無意味ではなかったと思いますが、物語として読む感じじゃなかったから、今一つというか…(^^ゞ　今も感想書くのが辛いです((+_+))＜おひ！　解説では「勝海舟を描いた作品は多い」って書いてあったけど、今のところこれと子母沢寛のしか見つかっていません((+_+))　で、子母沢寛の作品は昭和16年ころから新聞連載されたものらしく、半世紀以上前のものですから言葉遣いとかも読むのは楽じゃないのかもしれませんね。だから津本陽のを先にしたんですが、ケッコウ消耗したと言うか…((+_+))　普通読んだものの「悪口」とか書くもんじゃありませんが、文語調の勉強とかでもなければツライかなぁ…((+_+))＜おひおひ！！　とりあえずひと休みで軽めのを読んでから子母沢寛の「勝海舟」を読む予定です(^^ゞ　まだ「冬眠モード」が抜けきらないから変かもしれませんが、どうか御寛恕をm(__)m

  2010年03月30日

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• 竜馬がゆく

  ツーことで、司馬遼太郎「竜馬がゆく」（文春文庫・全8巻）です。先月末に津本陽「龍馬」を紹介した後、読み始めて20日かかっています(^^ゞ　2～3日で1冊ですからケッコウじっくり読んだ感じですかね？ヤッパ大河ドラマ「龍馬伝」と3つ比べて読んじゃいますから、ここはこっち、そこはそっちと納得したり首をひねったりしつつですからついつい「じっくり」に(^^ゞ　それに読みながら「この人物についてはあまり知らないな」ってのがケッコウあって、具体的には勝海舟、西郷隆盛、桂小五郎、高杉晋作、岩崎弥太郎などですが、時間見つけては彼らのことについて書いた小説を探しているんですが、意外と多くありません。一応次は勝海舟にしようってことで、大昔に見た覚えのあるドラマの原作の子母沢寛「父子鷹」を探したんですがいまだに見つかりません((+_+))　同じ子母沢寛の「おとこ鷹」や「勝海舟」（新潮文庫・全5巻）は見つかったんですが、前者は勝海舟の父親の勝小吉のお話なんで、後者をＧＥＴし、読み比べ用に津本陽「勝海舟」（幻冬舎文庫・全2巻）も手に入れました。これらを来月半ばくらいまでに読むつもりです。で、あらすじですが、割愛します(^^ゞ＜おひ！　具体的には2月28日の「日記」とほぼ同じなんでそちらを読んでもらえばいいんじゃないかってことです＜おひおひ！！　その時にも「竜馬がゆく」と「龍馬」ではケッコウ違うって書いていますが、どちらもたくさんの史料を読み込んで、それらに血肉を与えて物語にしているんですよね。けど、同じ資料をもとにして書いているのに印象がかなり違います。焦点がどこに当たっているのかということもあるし、あえて触れなかったこともあるし、それに全く同じであれば後発の人が書く必要などもないってこともあるのかもしれませんね(^^ゞ　で、かなりのネタバレになってしまいますが、ちと比較してみましょう。　以下ネタバレが厭な人は読まないようにしてくださいm(__)m「龍馬」に触れた時も書きましたが、龍馬が最初に江戸に向かう時の同行者は「龍馬」やドラマでは溝渕広之丞でしたが、「竜馬がゆく」では単身土佐を出て途中で「寝待ノ藤兵衛」という泥棒が龍馬に惹かれて同行するんです。この藤兵衛はしばしば龍馬の使いっパシリをしたりしていますが、恐らくは架空の人物でしょう。「竜馬がゆく」の架空の人物と言えば坂本家の上司に当たる福岡宮内の妹・田鶴もそうでしょうね。「龍馬」やドラマでは平井加緒にあてられている役割を田鶴にあてていますが、もしかすると「龍馬」やドラマの方がフィクションなのかもしれませんね。ツーのは、田鶴と恋仲になりながらも身分違いで結婚できないと言うのがケッコウ分かりやすかったからでしょうか？まぁ、その後の消息のありなしで判断するなら田鶴の方がフィクションみたいですがね(^^ゞ書き方の違いと言えば岩崎弥太郎の扱いも違いますね。ドラマであった父親・弥次郎の取水権をめぐる争いや受牢中に商売について眼が開かれるってくだりは「龍馬」ではでてこなかったけど、「竜馬がゆく」では描かれていました。けど、龍馬は弥太郎と肌が合わず、困っていたと言うところはドラマと違いますね(^^ゞ　ドラマでは上士と下士の身分の差を強調していますが、坂本家は知行も上士並みでなおかつ本家が裕福で、上司に当たる福岡宮内も坂本家を蔑ろにはできなかったというから、ちと違いますし、加緒の兄の平井収二郎は実は上士であり、このため相応の役職を与えられて活躍できたらしい。ドラマでは下士のように描かれていますからこの辺も違いますね(^^ゞで、一番大きいのはドラマではまだまだ先の話ですが、龍馬が海援隊を興し、いろは丸という蒸気船を運航していた時に紀州藩の蒸気船に衝突され沈没させられた時の話です。一般的に言われているのは、龍馬は国際公法に基づく海難事故の調停を行ったとされていて、「竜馬がゆく」でもこのように描かれていますが、「龍馬」では海援隊側に非があるのを覆し、半ば恫喝で賠償金を勝ち取ったと描いています。これは海援隊側と紀州藩側のどちらの史料を正しいとみるかの違いで、いずれも「自分たちが正しい」という内容で書き残しているわけですから仕方ないのかもしれませんね(^^ゞ　今日でもいくら物的証拠があっても、事実とは全く異なる「公式記録」が残されることもありますし、後世の人から見れば「史実」も曖昧模糊としているんでしょうね(^^ゞ　そういったことも含めていろいろ考えさせられる読み比べでしたね。まぁ、普通に言われている龍馬像が読みたい人は「竜馬がゆく」を、少し斜めから見たい人は「龍馬」を読んでみると好いのかもしれません。他にもいろいろ龍馬関係の本は出ていますので、読み比べると面白いと思います。

  2010年03月20日

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• 龍馬

  ツーことで、津本陽「龍馬」（集英社文庫・全五巻）です。去年は幕末を扱ったものとして北方謙三「草莽枯れ行く」「黒龍の柩」、近衛龍春「坂本龍馬を斬れ」などを読んでいて、そこでの坂本龍馬は重要な脇役で、主観的な姿が描かれるわけでもなく、それでいて今年の大河ドラマが始まるとケッコウ知らないことばかりで早く勉強しなきゃって思っていたんですよね。で、津本陽と言えばケッコウ前に「下天は夢か」を新聞連載で読んだ覚えがあり、司馬遼太郎の「龍馬が行く」（文春文庫・全八巻）とどっちを読もうか悩んで、冊数の少ない方を選んだんですが…(^^ゞ　まぁ、一昨年の「篤姫」の時の西郷、小松、大久保などの顔を当てはめたり、今回すでに出てきてる人を当てはめたりして楽しみながら読みました(^^ゞ坂本龍馬は土佐藩郷士・坂本八平の次男として生まれ、幼少のころは愚鈍と見られていたものの、母親を喪ってから数年後くらいから徐々に剣術道場で頭角を顕しだした。次男坊だけに他家の養子に行くか、剣術道場などを開くか、部屋住みとして燻って生きるしかないので、剣術修行のために19歳の時に江戸に行き、千葉定吉道場の門を叩いた。また、佐久間象山の知己を得て、吉田松陰、桂小五郎などとも会ったりしている。このころペリーが黒船で浦賀に来ており、土佐に閉じこもることなく、世界に雄飛することを思うようになる。しかし、江戸から土佐に戻り、父親に了承を得たものの、その父親が物故し、兄が家督を継いだために独立の資金を出してもらえなくなり、部屋住みで雌伏するしかなくなり、武市半平太らと尊王攘夷の一派に加わるがやがて脱藩して勝麟太郎の下に転がり込み、航海術などを学ぶが、麟太郎が失脚すると薩摩を後ろ盾に亀山社中を結成し、これがのちの海援隊の母体となるのだが…まぁ、ドラマとの関係もあるのであらすじはちと誤魔化し気味ですが、龍馬の概観は知ることができたように思います。で、ちと悪口気味になるんですが、正直読み難かったですね((+_+))　実は津本陽の「乾坤の夢」を読んだ時にやたら書簡などの史料を多用するばかりでそれが今一つこなし切れていないなって印象があったんですが、この「龍馬」の場合は１～２巻は史料の残っていないころの話なんで読み易かったものの、後半は史料の紹介が主になっているような感じでちと辟易でしたね((+_+))　もちろん史料が物語を補強してよりリアルになることもあるんですが、史料やら研究結果などをそのまま紹介するんでなく、これをこなして物語の血肉としないなら小説と言えるのか首をひねりたくなります。キチンとした引用の手続きを経ないと「盗作」の疑いを抱かれかねませんが、「いろいろな説があって分からない」は小説ではＮＧで、「いろいろな説があるが自分はこの説に基づくお話を紡ぐ」態度でないと物語が成立しない気もします。というのは、いろいろな史料もそれぞれの筆者の思惑やら伝聞による事実誤認やらの影響もあり、客観的な証拠と言い切れるのか疑問ですね。歴史というものは勝者によって都合の好いように改竄されるのが常ですから、真反対の記述も不思議じゃなく、その中からどれが最も妥当かを取捨選択して記述するのが歴史小説だとするなら、これらを列記するだけのものはもはや小説と言えないような？他方ドラマはドラマで史実としてあり得ないものでも「面白そう」ということでケッコウ「改竄」されますよね？去年の「天地人」なら信長と会うはずなどないのにそういうシーンを入れたりしますよね？今年の「龍馬伝」では母親の死の原因は「フィクション」ですよね？龍馬の父祖は豪商で、その分家が郷士の身分を買ったらしく、本家は上士などにお金の融通などもしてるから坂本家を蔑ろにすることはなかったようです。ドラマでは裕福ではないように描かれていますが、士分としての禄高は低いものの、相当の家産を持っていたみたいですし、親戚には交易で栄えている家もあり、そこで世界の大きさなどを子供のころから知っていて不思議ではないんですよね。そういうバックボーンに様々な人脈が補強し、人格が形成されたように思われます。ツーか、これも津本陽の描いたフィクションかもしれず、判断に苦しみます。けど、龍馬ってケッコウ形振り構わずに突き進んでいる印象で、必ずしも正義の味方とも言えないような？この辺りは別の本でも読んで判断しようと思います(^^ゞ

  2010年02月28日

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• おたふく

  ツーことで、昨日まで夕刊に連載されていた山本一力「おたふく」です。日曜祭日を除く毎日の掲載で308回ですからほぼ丸一年という感じでしょうか？あっしはケッコウ時代物とか好きなんで喜んで読んでいたんですが、多分スケジュールの関係とかもあったとは思いますが、もう少し延ばしてほしいなって気持がありました(^^ゞ　脇役のセリフ回しだの、心情表現だの、時には手に汗握る展開だのがあって、もっと楽しめるんじゃないかって思っていたんですよね。けど、終わりにさしかかった雰囲気ってのがあって、最後は端折り気味でしたからねぇ…(^^ゞ　もうちょいと加筆してから上梓するならケッコウ期待できそうな…＜偉そうに！時は江戸時代の寛政初年のこと。田沼意次が失脚して松平定信が老中になって、それまでの賄賂政治を改め、奢侈贅沢を戒める改革に着手した。旗本御家人の台所が逼迫しているのに、その扶持米を扱う札差連中は贅沢三昧をしていたので、これを懲らしめないといけないと考え、札差たちに百万両を超える借金棒引きさせるを命じた。棄捐令である。旗本や御家人の借金が棒引きとなり、彼らの暮らし向きが良くなると思われたが、札差連中が「借金棒引きをさせられて貸す金がない」と旗本御家人への融通を拒絶してしまったので、旗本御家人の暮らし向きは火の車となってしまった。また奢侈贅沢を咎められた札差連中が急に財布の紐をキツク締めたものだから、その奢侈贅沢の恩恵を受けていた料亭などでは閑古鳥が住みつき、奉公人などに暇を出したりしたので江戸中に不景気風が吹き荒れた。料亭などに一流の品物を納める大店の特撰堂ではそれまで水難事故などで入手できなかった人気商品の鱶鰭が漸く入荷でき、それを堪能してもらった直後に棄捐令が発布されたのだ。それまで矢の催促を受けていた商品がぱったりと動かなくなっても主人の太兵衛は奉公人に暇を出さず、捌く当てもない商品を仕入れ続けることで産地が廃れることを防いでいた。太兵衛の弟の裕治郎は太兵衛からポンと五百両の独立資金を渡され、妻のみのりとともに特撰堂から出て新しい商売をすることになり、みのりの父・駿喜と職人相手の握り飯弁当売りを始めた。これが評判を呼び、火消し人足たちにまとまった数の弁当を作るという話が持ち上がり…とまぁ、かなり端折ったあらすじですが、特撰堂のボンボンである裕治郎が不景気の最中に何をしたら多くの人に喜んでもらえるかを考え、特撰堂の商売とは全く異なる庶民的な弁当づくりを思いつくんです。そこまでにもあれこれ紆余曲折があり、他方、まとまった数の弁当作りに金の臭いを嗅ぎ付ける輩が登場し、あれこれ裕治郎たちに妨害工作を仕掛けたりもするんですよね。捨てる神あれば拾う神ありで、裕治郎の知らないところで強力な協力者たちが動き出し、裕治郎たちの危地を救ったりもします。ここらのせめぎ合いや駆け引き、それぞれの立場にあった物言いもあれば、立場を超えて理解しあえるものもあったりします。一応は主人公は裕治郎みたいなんですが、太兵衛の芯の太さや懐の深さの前に印象が薄いというか…(^^ゞ　もしかすると主人公ってものは最初からいなかったのかな？＜おひ！で、普通に楽しい小説であるけど、これから考えたことと言えば、今の不景気からの脱し方ですね。景気が悪くなり、業績が悪化すると大企業などはリストラと称して多くの従業員の首を切ったりしますが、ホントにそれでいいのかって思えてきますね。もちろん従業員を切るのは簡単ですけど、一旦切ってしまったら元に戻るのは容易じゃないというか、その従業員が行っていた消費が失われ、結果として不景気を長引かせることになるんじゃないかってことですね。どんなに売り上げがなくても踏ん張って従業員を養うことで、彼らの消費がやがては自分のところの売り上げとなって帰ってくるという仕組みが忘れられているように思いましたね。最後の方で札差たちの奢侈贅沢よりも一般庶民の消費の積み上げこそが景気回復につながるんだって趣旨のことが書かれていたんですが、今の日本にも当てはまるんじゃないですかね？いつリストラされるかわからない状況では消費もできるだけ切り詰めようとするだろうし、これが不景気を長引かせる原因とも言えますよね？かといって公共事業で全く利用価値もないものを赤字を増やしながら造るってのは札差たちの奢侈贅沢みたいなもので、効果はあっても広がりがあまりない、あっても時間がかかるんじゃないですかね？無駄遣いでなく、必要なものを倹約しないってことで景気回復を図るのが健全ってものじゃないですかね？いろいろな登場人物を今の人に当てはめると誰になるかとか考えながら読むのも面白いかもしれませんね。出版の予定についてはまだ分かりませんが、出版されたらとりあえずパラパラ見てみてくださいね(^o^)丿

  2009年11月08日

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• 落照の獄

  ツーことで、小野不由美の「十二国記」シリーズの新作の短編「落照の獄」です。前回の「丕胥の鳥」と同様、新潮社の雑誌「yom yom」に掲載されており、この短編を読むためだけに「yom yom」を買ったようなものです(^^ゞ　恐らくは何年かしたら短編集として出るんじゃないかとは思いますが、全く目処が立ちそうもありませんからね((+_+))　実際ＣＤか何かに収録されていたらしいものは全く読む機会がありませんしねぇ…((+_+))　チャンスの前髪はしっかり掴まないと絶対後悔しそうですし。仕方ないですね(^^ゞ　で、普通ならここであらすじを書くんですが、短編であらすじってどうなのって気持もあるし、しかも今日は時間的な余裕もないので登場人物などの難しい字を探しながら書くのも無理なんで、「解説」みたいなものにしますね(^^ゞ舞台は雁国と恭国の間にある柳国です。柳国については「帰山」で風漢と南国の公子が様子を見に来ていましたし、楽俊と祥瓊が出会い、捕縛された祥瓊が賄賂で難所を切り抜けた場所です。ただこの時、柳国は在位120年になる王の下、法治国家としてまとまっていたはずなのに官吏が賄賂を受け取るなど腐敗が進んでおり、傾きかけているのではと楽俊が呟いていたように思います。「落照の獄」は恐らくはこの前後の時期に起こったことでしょう。残虐な刑罰による恐怖という厳罰主義で臨んでいた祥瓊の故国・芳国と比べて柳国では犯罪者の更生に力点を置いており、「死刑廃止」の勅命を出し、やや残酷な刺青と懲役刑などとを組み合わせることで犯罪発生率は著しく低かった。しかし、名君がやがて政治に倦み、熱意を喪うとともに以前よりは犯罪の発生率、特に凶悪な犯罪に関しては多くなった印象があった。そんなとき、これまで「強盗殺人」で3度捕縛された男が刑期を終えて出所した後の2年ほどで16件23人の命を奪う「強盗殺人」を犯しており、とりわけ国都・芝草で8歳の少年の小遣い銭を奪うために殺害したという残忍な事件のために民衆は極刑を求めていた。しかし、王が「死刑廃止」を決めているのに「死刑判決」を下してもいいものだろうか？この事件を担当する「判事たち」は苦悩し、そして…まぁ、実感としては「十二国記」っぽくないというか、現実の死刑廃止論や裁判員制度を連想しちゃいましたね。もちろん「十二国記」独特の世界観の制約があり、国王が政治を顧みずに国を傾けつつある中で、国王の施策を否定するような死刑判決は赦されるものなのかってのはこの一例ですね。まぁでもかなり「十二国記」の世界と言うよりリアルな世界の出来事のように感じましたね。「死刑廃止」がＥＵなどでも叫ばれていますが、仮に国連が「死刑廃止」を打ち出したってことになれば「落照の獄」に近付きます。そんな中で裁判員として極悪非道な輩を裁かなくてはいけなくなったらどうかって感じですね。一応検討するポイントはいくつかあって、「死刑を行うな」とされている時に死刑判決を出してもよいのかってこと。被告が微塵も反省しておらず、「死刑にできるならしてみろ」と挑発してる時に死刑判決を出してもよいのかってこと。世論が死刑を望んでいる時に死刑判決を出さないでもいいのかってこと。そして死刑判決を下すことは判決を下した人物が人を殺したことになるのではないかってこと。さらに犯罪者を「ケダモノ」として見下し再犯を助長したりしていないかってこと。他人を殺したら自分が殺されるというのは犯罪抑止のためには有効なもののひとつです。他方で「社会的制裁」という名のバッシングが酷いことで、犯罪者の更生が妨げられているのも事実です。刑期を終えて罪を償ってまっとうになってシャバに出てきたはずなのに、まともに人づきあいもできなければ就職も住む場所も容易には見つからなかったりします。見つかったとしても周囲の態度は針の筵に座らされているように感じるんじゃないですか？もちろん罪を犯したのは悪いことであり、相応の罰は受けるべきですが、エンドレスの非難に曝されることで犯罪以外に生きていけないように追い込んでしまっているようにも感じます。そんな時死刑は犯罪者にとって救いになるんでしょうかね？まぁ、こういうことをあれこれ考えながら自分が裁判員として凶悪犯罪者を裁くことになった場合、はたして死刑判決は出せるんだろうか？ホント悩ましいですよね((+_+))

  2009年09月27日

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• 前田慶次郎と直江兼続

  ツーことで、近衛龍春「前田慶次郎と直江兼続」（PHP文庫）です。近衛龍春は「直江兼続と妻お船」（PHP文庫）を紹介していますが、これまでに「直江山城守兼続」（講談社文庫・上下巻）や「片倉小十郎景綱」「前田慶次郎」（ともにPHP文庫）なども読んでいて、ケッコウ読みやすい人ですね。ちなみに片倉小十郎景綱は独眼竜伊達政宗の傅役であり、側近であった人で、直江兼続と匹敵するような人と言われていて、実際「欲しがり」の秀吉に引き抜かれかけたこともあるとか。で、「前田慶次郎と直江兼続」ですが、これもケッコウ面白く読んだんですが、惜しむらくは、上に挙げたような「直江兼続と妻お船」「前田慶次郎」などを読んでいないと話の展開についていけないところがあります。筆者もあとがきで上述の書物で書ききれなかったことを書いたと述べているように、前田慶次郎が前田慶次郎になるまでなどが丁寧に描かれています。その分、一般にいわれるような部分は端折ったりされています。そういった意味で単独で読むにはマニアックな作品かもしれませんね(^^ゞ前田慶次郎は前田利家の兄・利久の養子に入り、前田家の跡取りとなるが、その前は甲賀の滝川氏宗家の嫡男としてその家督を継いでいた。滝川一益は父の弟で叔父にあたるが、目端が利いて甲賀を出奔した後信長に仕え、外様の武将としては三本の指に入るほどになっている。甲賀の滝川家は小豪族にすぎず、近隣の氏族と小競り合いをしたり、主筋の戦で使いまわされている。慶次郎の生家は宗家とは言いながら一益に圧迫され、分家の下風に立たされそうになっていた。そんな中で慶次郎（この当時は違う名前だが）は傾奇者として我を曲げずにいたものの、信長の威風を背景にした一益には逆らうことができずに宗家を出て前田家の養子に入ったのだ。信長も利家もかつて世に出るまでは奇妙ななりで非常識なことをする傾奇者と呼ばれており、今では「卒業」してまともななりをしているが、叔父の利家よりも年長の慶次郎が堂々とした傾奇者ぶりを示すので利家などはあからさまに苦々しく思っていた。慶次郎は傾奇者でも頭が弱いのではなく、教養もあり、先を見通す術にも長けているが、それゆえに阿諛追従することができないためにチャンスを逃していたのだ。信長直属の利家と違い、ほとんど戦闘と縁のなさそうな織田家筆頭家老の林秀貞の与力で、しかも養父の利久が戦に熱心でないこともあり、慶次郎には活躍の場があまりない。このため、あれこれ工夫して活躍しようとするが、これが却って悪目立ちとなり、家督を叔父の利家に奪われてしまうことになる。その後、一益の配下にいたこともあるが、信長の死後は利家の配下に組み入れられても傾奇者が鳴りをひそめることもなく、やがて出奔してしまう。なんてのが前田慶次郎の略歴です(^^ゞ　直江兼続については何度も書いているので端折りますが、慶次郎の傾奇者ぶりが何と言っても面白いんですよね。あっしは読んでいませんが「花の慶治」というコミックで有名になった人らしく、「天地人」の原作にもちゃんと登場しています。けど、ドラマの方ではホンのチョイ役くらいか、あるいはまったく登場しないこともあり得ますね(^^ゞ　正直兼続と慶次郎のやり取りなどはそれだけで一本映画が撮れそうな感じですもの。とはいえ、今回の「前田慶次郎と直江兼続」は慶次郎の滝川家や前田家との関わりあいに重点が置いて書かれているから兼続とのやり取りはそう多くありません。近衛龍春の描くお船もケッコウ格好いいんでもう少し出番が欲しかったんですが、ホンの少ししか出てきません。そういう意味からすると「前田慶次郎と直江兼続とお船」というテーマで5～6冊くらいでまとまったものを書いてほしいような気分になってきますね。とはいえ、こういうのってかなりのビックネームでもない限りはそうそう長いものって書けないみたいですからね((+_+))　てな訳で、「直江兼続と妻お船」「直江山城守兼続」「前田慶次郎」「前田慶次郎と直江兼続」って順番で読むしかないのかもしれませんね。どれも読みやすいので、ケッコウすんなり読めると思いますから、お時間があり、興味をもたれた方は是非！(^o^)丿

  2009年07月09日

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• 獣の奏者

  ツーことで、昨日は帰りが遅かったので「日記」の差し替えをしないですませちゃいましたが、その差し替えで使うつもりだったネタが上橋菜穂子「獣の奏者」（全4巻：青い鳥文庫）です。上橋菜穂子と言えば「精霊の守り人」シリーズが有名で、アニメになり、コミックも出ていますが、シリーズ全部が文庫化されていないので出揃うまで「積読」です(^^ゞ　この「獣の奏者」は四六版で出てたんですが、こちらもアニメになり、コミックも出始めていて、先日コミックの1巻を読んで気に入って、その翌日には廉価版の青い鳥文庫全4巻をGETし、ほとんど丸一日くらいで読了しました。最近は週に一二冊というペースだったんで、一日で4冊というのは、読みやすかったというのはあるものの、ケッコウすごい勢いだったような？ちなみにあっしはアニメは見ていないんですよね(^^ゞ　コミックは「精霊の守り人」とは違ったテイストで、かなりほのぼのとした絵柄でよかったと思いますし、コミックを描いている人が文庫の挿絵も描いているのでなじみやすかったというのもありますね(^^ゞ神々の山脈の向こうからやってきた始祖によって築かれたリョザ神王国は争いごとを厭う始祖の一族の真王（ヨジェ）を外敵から守る盾として大公（アルハン）がいるが、血の穢れを真王に近づけぬため、大公は真王の治める場所から離れた地で国境を守っている。大公の軍隊の主力は闘蛇と呼ばれる角を持ったワニのような獣で、兵士たちは闘蛇の背に乗って敵を駆逐するのだ。この闘蛇は決して人に慣れることはないので、音無し笛という人には何も聞こえない笛を吹いて闘蛇の動きを凍りつかせている間に背に乗り、角をつかむことで闘蛇を操ることができた。闘蛇の世話をするのが闘蛇衆と呼ばれる人たちで、エリンの母も闘蛇衆の一人として最も戦闘能力の高い「牙」と呼ばれる闘蛇の世話をしていた。女性が闘蛇の世話をするのは稀なことだが、エリンの母は「霧の民（アーリョ）」と呼ばれる一族で医術に詳しかったので特別に世話をしていた。エリンの父は闘蛇衆の長の息子ですでに他界している。そんなある日エリンの母が世話をしていた「牙」が皆死んでしまうという事件が起きた。責任を問われたエリンの母は、野生の闘蛇の群れの中に放り込まれて食い殺されるという刑に処されることになる。これを知ったエリンは何とか母を助けようと切れのよいナイフを咥えて闘蛇の群れの真ん中に放り込まれた母のもとへ泳いでいく。「霧の民」の禁忌を犯さぬように自らの命を差し出すことを覚悟した母もエリンを助けるために「大罪」を犯してしまう。母は闘蛇を操り、エリンを群れの中から逃がし、自らは闘蛇に喰われてしまう…母の処刑の場から逃れたエリンは大公領から遠く離れた真王領に流れ着き、そこで蜂飼いのジョウンに拾われる。まだ10歳のエリンは母を見て育ったせいか聡明で、生き物に対して好奇心が旺盛で、その観察力や洞察力にはジョウンも驚かされることもあった。そんなある日、誤ってがけから転落したジョウンを助けようとした時、エリンたちは王獣と呼ばれる前足が翼になった獅子のような獣の雛が闘蛇に襲われそうになり、それを見た雛の親がかつてエリンの母がやって見せたような鳴き声を出して闘蛇を大人しくさせた上で屠る様を見てしまった。エリンがジョウンの下で暮らし始めてから4年ほど経ったころ、ジョウンは胸に激痛を感じ、自分がさほど長くないのではないかと思い、かつての学友で王獣保護場で教鞭をとっているエサルの下へエリンを送ることにする。エリンはそこで傷ついた王獣の幼獣・リランと出会う。かつて野生の王獣を観察した経験を生かし、エリンはリランを回復させることに成功する。が、それは過酷な運命の扉を開けることになった……ってケッコウ詳しく書いちゃいましたが、この程度ならネタバレには抵触しないですよね？まぁ、あれこれ言うよりもとにかく読んでいただければいいかなって思います。天高く聳える神々の山脈の向こう側からなぜ始祖たちがやってきたのかとか、音無し笛で闘蛇を硬直させることをなぜ母が厭ったのかとか、真実が明らかにされるたびに心が痛くなったりしますが、他方俗な権力争いに狂奔する連中の薄っぺらい思想のなさには哀しくなってしまいましたね。「よらしむべし、知らしむべからず」って言葉の意味の大事さと虚しさも感じます。それくらい「人は度し難いもの」なのかもしれませんね。なぜあっしがこんなことを感じたかってのもぜひとも読んで実感してみてくださいませm(__)m

  2009年06月30日

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• 上杉鷹山

  ツーことで、堂門冬二「小説上杉鷹山」（上下巻・人物文庫）です。堂門冬二の作品は前に直江兼続の読み比べの時に初めて読んだんですが、先日新聞で上杉鷹山についてのインタビュー記事があり、興味を惹かれて読んでみました。その直前に海音寺潮五郎の「伊達政宗」を読んだんですが、晩年まで描かれていなくて、しかも直江兼続との絡みが全くないんで、ちと食い足りない気分だったんですよね。あっしは誰がどんな特徴のある文章を書くかってことよりもどんなふうに楽しませてくれるかって方に力点を置いているというか、誰の文章かを読み比べができないだけなのか、とにかくその時に面白ければそれで構わないっていういい加減な奴です(^^ゞ　そういった意味では面白い部類に入ります＜偉そうに！上杉治憲（のちの上杉鷹山）は日向高鍋の小藩から上杉米沢十五万石に養子に入り、十七歳で十代目の藩主となった。上杉家は景勝の代に越後から会津百二十万石に国替えとなったが、関ヶ原の戦いの折に家康に叛旗を翻したために米沢三十万石に削封されたものの、藩士を減らさなかったために藩財政は破綻した。さらに四代藩主が急死し、急遽養子をとって断絶は免れたものの、領地は十五万石に半減させられてしまった。なのに五代目藩主の実父、吉良上野介が藩政に干渉し、「誰からも馬鹿にされないように大盤振舞」させ、家臣の給与総額が十三万三千石と収入の８８％が人件費、その上昔通りの格式を守るための出費も莫大で、農民への税をいくら増やしても、藩士の上知（給与返上）を五割にしても、江戸・大坂の商人からの借金は膨れ上がるばかりで、治憲が藩主になった時には誰からも金を融通してもらえないようなありさまだった。藩の重役たちは版籍を返上してはどうかとまで言う始末である。治憲は養子に入る時に幸（よし）姫と結婚していたが、幸姫は生まれながら身体の動きが不自由で、脳の発育も止まっており、通常の結婚生活などできなかった。版籍を返上したらこの幸姫はどうなるのか？治憲はどうにかして藩財政を立て直すしかないと決意する。が、重職などはしきたりに縛られ、悠長に事を進めるばかりで改革など不可能だし、この体制の中に組み込まれているものも上に倣えで動かないだろう。そこで治憲は重職などに睨まれ、江戸藩邸で冷や飯を食っている藩士を抜擢し、改革の中心に据えることにしたが…金がないといえば上杉、鍋や釜の金気を抜いて使いやすくするには上杉と書いた紙を貼っておけばよいなどと揶揄されるまでに零落していた上杉家に対し、世は田沼意次を頂点とする賄賂政治の風潮に染まっており、質素倹約などと言う改革を進め、惨めったらしいことをするくらいならば、田沼意次に賄賂を贈り、領地を増やしてもらうようにお願いした方がマシだと重職たちは思っている。そもそもそれまでの格式やら何やらを一切合財無視するような、藩士やその家族も農作業や手工業に従事させようというのは武士を侮辱するものではないかと反発するものも少なくない。下級の藩士たちは夜なべして内職をしても口に糊することも容易ではない状況にあるので、治憲が積極的に方向性を示して職業意識を植え付けていくとむしろ嬉々として働くようになった。もちろん反対派は根強く、治憲の改革を捻じ曲げて喧伝し、農民たちが治憲の改革に反発するように仕向けていたので、改革はなかなか思うように進展しているわけではなかった。領民たちにしてみればそれまでに散々疑心暗鬼を植え付けられており、さまざまな通達を額面通りに受け取ったりすると散々な目に遭わされていたりしたので、治憲の改革の通達も額面通りに受け取ったらダメだと受け止めていた。そんな中で治憲は…まぁ、詳しいことはぜひとも読んでいただく方がよろしいかと。ツーか、今の政治家の人たちにこれをぜひ読んでどういう感想を持つか聞いてみたいですね。今の日本と言うのは治憲が藩主になった時の米沢藩そのものじゃないですかね？格式ばかりを気にして借金を増やし続け、領民が愛想を尽かして逃げ出してもどうしようもないって感じですね。治憲がやった改革というのはそんなに目から鱗というものではなく、直江兼続の残したものの焼き直しだとさえいうことも可能でしょう。でも、それを実行したことに意味があるのであり、危機的な状況にあるのに内部の権力抗争だの無駄なことに精力を使い果たしている者たちを改革に向かわせたから偉いんじゃないですかね？今に引きうつしてみれば、景気対策だと大言壮語しつつも天下り先を増やしたり、自分たちの支持者たちの懐が温まることに終始した予算を税金や借金を費やしてばらまくことをしている政府与党と、同じ穴のムジナながらも政権に手の届かないことに切歯扼腕して根本的な改革に手を出そうともしない野党でしょ？守旧派の重職たち、甘い汁を吸い続ける村役人たちとどこが違うんですかね？抜本的な改革のために何がホントに必要なのかを明確に情報開示して議論してほしいですね。今みたいに時間稼ぎのようなアリバイ以上の意味のない国会審議などとっとと改めないのなら「国会議員など不要だ」って叫びたくなりますね。不要じゃなく害毒だって言いたいくらいですがね(^^ゞ　国民に範を示す立場の政府閣僚やら国会議員などなどのおエライさんがアホだから困るんですがねぇ…(^^ゞ＜おひおひ！！

  2009年05月29日

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• 血涙　新楊家将

  ツーことで、北方健三「血涙　新楊家将」（上下巻・PHP文庫）です。これは2006年09月03日の「日記」で触れている北方健三「楊家将」（上下巻・PHP文庫）の続編とも言えるもので、こちらをまだ読んでいない人は、こちらを読んでから続きを読むようにしてくださいね。「楊家将」読みましたね？続編は前のものの結末を前提としますから、あらすじさえもネタバレになっちゃいますから(^^ゞ　まぁ、結末を知った上で読むのが好きという人はご自由に、ということですが、そうでない人はご注意を。と、繰り返し注意は喚起しましたので十分ですよね？楊業と７人の息子たちは遼と必死に戦ったが、結局は味方のはずの宋の将軍の裏切りによって楊業は壮絶な戦死を遂げ、７人の息子のうち生き残ったのは下の二人、六郎と七郎だけだった。二人は宋という国に不信を抱きながらも武将としての矜持を胸に隠密裏に兵を養っていた。やがて帝の命により騎兵のみの精強の軍を組織することになる。六郎は楊家の頭領となり、かつて楊業が丹精込めて打ち上げた名剣、吹毛剣を佩くことになる。母の死後、二人の妹のうち上の八嬢は開封の楊家の屋敷で夫と大学を開き、下の九妹は楊家軍に加わる。長兄の息子である延光も楊家軍の将となっていく。死んだと思われた五人の兄たちのうち、四兄の四朗は楊家軍であることを隠しながら遼の耶律休哥と戦い、敗れて瀕死の重傷を負うも九死に一生を得たが記憶を失い、楊四郎ということも知られぬまま、石幻果という名をつけられ、耶律休哥の下で遼の武将として頭角をあらわすようになる。宋軍の無名の将の振りをしていたころに知り合ったじゃじゃ馬な遼の皇太后の娘と記憶を失くしたまま惹かれあい、許しを得て結婚し、一男をもうけた。やがて石幻果は耶律休哥を父と皇太后を母を思うようになる。そして耶律休哥に並び立つほどの武将となる。遼の耶律休哥軍と宋の楊家軍は最も精強で機動的な騎兵部隊であり、万を超えるような兵もあっという間に潰走させられてしまう。したがって、主力の大軍を守るには耶律休哥軍に楊家軍をぶつけるしかないのだ。そして、七郎や九妹は耶律休哥軍の幻の旗を掲げる武将が楊家軍の兵、いや、四郎ではないかと感じた。そこで六郎は四郎のかつての副官を遼に潜入させ、真偽を確かめようとする。四郎の副官だった漢は石幻果と呼ばれる武将が四郎に間違いないと確信し、直接声を交すものの、記憶を失っている四郎に斬り殺されてしまう。副官だった漢を斬り殺されたことで六郎は「石幻果は四郎ではない」と見做すことを決める。他方、副官だった漢を斬ってしまった石幻果の失われていた記憶が蠢動をはじめ、戦場で六郎の持つ吹毛剣と干戈を交えたとき、ついに記憶が…かなり詳しく書いてしまいましたが、まぁ、実際に読んでもらうのが一番じゃないかと思います。できれば「楊家将」を再読し、「血涙」を続けて読むと何とも言えないような気持ちになると思います。能力があるのに、いやむしろ能力があるがゆえに報われない、悲劇的な結末を迎えなければならない一族、それなのに最後まで武将としての矜持を捨てずに名を残したということなのですかね？ちなみに「水滸伝」の続編「楊令伝」の主人公楊令は楊業の子孫楊志の養子で吹毛剣を佩いている。「楊令伝」はまだ続いているんでしばらくは「待ち」ですが、今から楽しみですね(^o^)丿

  2009年05月06日

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• 風の墓碑銘（エピタフ）

  ツーことで、乃南アサ「風の墓碑銘（エピタフ）」（上下巻：新潮文庫）です。これは「凍える牙」「鎖」という長編と「花散る頃の殺人」「未練」「嗤う闇」という三つの短編集の主人公である音無貴子のシリーズ文庫最新刊です。機動捜査隊の刑事として登場した「凍える牙」では大型バイクで「凶暴な獣」を追いかけたりした長身で美人だけどバツイチで人との接し方がぎこちなく、ちょっと頑固な貴子とコンビを組んだのが貴子よりも背が低くて腹が出っ張って歩く姿が皇帝ペンギンのような立川中央署の中年刑事の滝沢保である。この本では巡査部長昇進に伴い隅田川東署に配属になった貴子と警視庁捜査一課特殊班を経て警部補昇進とともに金町署配属になった滝沢がコンビを組むことになるんですが…　まぁ、ちょいと読みさしになったまま積読化してたのを久々に読み始めたら止まらなくなって結局明け方まで耽読しちゃいました(^^ゞ　その興奮冷めやらずって程ではないものの、印象の強いうちにってことで(^^ゞ東向島の込み合った住宅地の古い木造家屋が解体され、地面が掘り返された時に何やら人の骨のようなものが見つかった。警察が捜索すると住居の床下だった辺りから白骨化した男女と幼児または嬰児の3体の遺体が発見された。10年以上は経過していて、15年の時効に引っ掛かるかどうか微妙な死体である。身元を示すようなものは何もなく、この古い住宅の持ち主に誰が住んでいたのか尋ねたが、すでに80歳を越えてまだらボケになった持ち主はまともな情報を与えてくれない。あっせんや仲介をした不動産屋にも記録が残っていない。それでもどうにか持ち主から訊き出そうと貴子は持ち主の入っている老人ホームに日参するが、無為なままひと月以上が経ってしまった。事件は暗礁に乗り上げ捜査体制も大幅に縮小され、もしも大きな事件が発生すればお蔵入りへと向かうかもしれないと思われた頃、この持ち主が撲殺される事件が発生した。これに伴い捜査本部が置かれ、滝沢は応援に駆り出され、貴子と再びコンビを組むことになる。殺された老人の入っていた老人ホームの聞き込みをしているうちにアリバイが不確かでこの老人から疎まれていた男性職員が浮かび上がる。この男性職員の過去を調べてみると意外なことに…まぁ、ミステリーですからあらすじは控えめにって感じですかね(^^ゞ　正直老人が殺される前の捜査が停滞しているところで読みさしにしてたんですが、何も展望が見れない状況だっただけに放り投げてしまった感がありますが、やがて滝沢が登場した途端にすらすらと進んじゃいました。ツーか、そこまでがやたら暗かったというのもありますね(^^ゞ　貴子は椅子職人の昂一と付き合っていてそろそろ結論を出そうという時に、昂一がいずれ失明する恐れのある網膜色素変性症に冒されいることが分かり、関係がぎくしゃくし、やがて昂一は眼が見えなくなる前にとイタリアへと旅立ってしまう。これが貴子の心に刺さった棘となり、何かに打ち込んで忘れてしまいたい気持ちに駆られている。こんなことを下手に打ち明けることもできないし、じっと秘密にしている貴子が打ち込んでいるのがまだらボケの老人の相手で全く実りがない。それなのに家庭持ちの男性と略奪愛の末に内縁関係になった同年代の同僚のくだらない愚痴とも惚気ともつかないものを聞かされる羽目になり、終いには「あなたはいいわね」と言われても曖昧な返事をするしかない自分に苛立っているっ状態でしたからね。あまり先を読み続けたいって感じない場面でしたから、ついつい読みさしに…(^^ゞそれが滝沢が出てきたらあっという間に先に進んでいくんです。かつて皇帝ペンギンと見做された滝沢は今度は「ずぶ濡れで立ち歩きするアザラシ」と貴子に見做されます。二足歩行のアザラシって皇帝ペンギンよりも評価が下ってことですかね？かつては女性蔑視からか貴子を見下したところがあったものの、貴子の能力を認め、評価しており、それゆえに貴子とコンビを組みことになり「普通に」接しているのだが、貴子の方は滝沢に評価されていることなど知らず、女性蔑視の権化という印象が拭えず、それでも滝沢が優秀な刑事であることはわかっていて、同じ刑事として尊敬できるし信頼に足る人物だと承知してるものの、滝沢のあからさまな蔑視を感じない態度に逆に不信感を抱き、隙を見せまいとしている。実際貴子のことなど鼻もひっかけずに滝沢にしか愛想を見せないような年配の警察官も出てきたりするから強ち貴子の態度も責められない。そんな警戒感や嫌悪感を貴子が抱いており、滝沢に打ち解けようとしないからか滝沢の方もついつい棘が出てくる。それでも貴子を評価している滝沢は「女だから」なんてことで切り捨てたりせずに貴子のことを相方として扱う。けれども「毒トカゲ」のような容貌のせいか最後まで会話がかみ合わないというか…(^^ゞで、読んでいてショックだったのは貴子が36歳くらいで滝沢が49歳だってことです。頭髪が薄くてずんぐりむっくりの体形、脂ぎっていて汗をだらだら流しており、目脂や耳垢が目につくような厭ったらしい中年というのが、あっしとほとんど年の変わらない年齢って…((+_+))　あっしも下の世代から見たらこんな感じに捉えられるのかって思ったら相当に凹みました((+_+))　まぁ、個体差が激しい年代ですが、基本的にキモイってことですかね？生理的に受け付けないってことかもしれませんが、ホント滝沢って報われないというか…(^^ゞ　あっしの中では「凍える牙」のころと比べるとケッコウいい人物に感じられただけに貴子が滝沢を酷評している箇所などは哀れに感じたりしましたね(^^ゞ　もしも次があるのならもう少し正当な評価をしてもらえるように期待したいですね(^^ゞ＜おひ！

  2009年03月04日

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• センゴク

  ツーことで、昨日に引き続き（？）コミック関係で宮下英樹「センゴク」（全15巻：講談社コミックス）です。今は続編「センゴク天正記」が連載中でコミックスも3冊出ているし、外伝として今川義元の生涯を描いているらしい「センゴク桶狭間外記」の2冊目が来月出るとか。このコミックスですが、正直絵が上手いとは感じませんが、迫力がありますね(^^ゞ　で、タイトルの「センゴク」ですが、戦国時代のお話であると同時に主人公の名前が仙石権兵衛秀久というからみたいです。仙石権兵衛は美濃斉藤家の家臣で、漸く前髪が取れるくらいの時に織田信長による稲葉山城の攻撃を受け、主君斉藤龍興や幼馴染で城仕えしていたお蝶らが城から逃れた後に、城を枕に切腹するのではなく、一騎槍を振り回して攻め方に突っ込み大暴れするが、結局は捕えられてしまう。他の捕虜とともに信長の前に引き出され、斬首させられるところをなぜか命長らえ、木下藤吉郎の配下に加えられる。権兵衛は比叡山の焼き打ちや朝倉攻め、徳川と武田の決戦だった三方ヶ原の戦い、浅井攻めを経て土地持ちの武将となるが、武田との決戦、長篠へと向かうことになり……ってかなり端折り過ぎのあらすじですが、「～天正記」の連載では丁度長篠の戦が終結した辺りです。大河ドラマ「天地人」とほぼ同じ時期の話ですが、徒手空拳から這い上がっていく姿はなんとも言えませんね。「センゴク」15巻がとりあえず終わる時、すなわち浅井攻めが終わった後の祝宴の場面で徳川家康、明智光秀、柴田勝家らの錚々たる武将たちから「まだ生きておったか」と言われるほどの無茶ぶりをしながら生き延びている「奇跡」とも言える漢（おとこ）と言えるかもしれません。ちょいとアラ探しみたいになりますが、実在の人物をそれなりに描くということで、有名な武将の顔を見ると「いつも同じ顔？」って感じるかもしれませんが、そこはスルーしましょう(^^ゞ　トンでも歴史本みたいに定説ではない歴史が描かれていることが多いんですが、こっちの方は実地の地形や史料を調査した上で「実際にはこういうことがあったのではないか」としているのでフェアに感じます。その上でフィクションとして描くのだからケッコウ大変でしょうね。これは読む方にも言えることで、歴史の行間を埋めるような部分は素直に楽しみ、それでいて鵜呑みにはしないってことですかね？史料に残らない市井の人などは完全なフィクションだろうし、歴史上の人物も会話がキチンと残っていることすら稀ですからね。ツーか、史料自体がいろんな思惑で歪められていたりもするので絶対に信用できるとは限りませんし…　事実だったかどうかよりも素直に楽しむレベルであるべきかもしれませんね(^^ゞ上にも書いたけど上手というよりも純朴で迫力のある描き方で、それが戦国時代の雰囲気にマッチしているからなのか、ケッコウ心地よく読むことができます。稲葉山城を逃れた龍興やお蝶らが権兵衛と絡み合っていくのは哀しい運命故なのかって思うこともあるし、どんなに無茶しても最後には生き残っているのは権兵衛の運の良さというよりも命ぎりぎりまで頑張った証なのかなって感じたりします。正直好き嫌いはあるだろうと思うけど、あっしは面白いと思いますね。コミックスだからなかなか先に進まないのは仕方ないけど、ちともどかしいこともありますね。とはいえ、歴史的に有名なことでも局地戦ではどういうことがあったのかなど知りようがなく、権兵衛がどういう風に乗り切るかもわくわくしながら読み進める感じですね。とりあえず騙されたと思って読んでみてはいかがでしょうか？あっしは騙しません＜ホントか？(^^ゞ

  2009年02月25日

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• 昴－スバル－

  ツーことで、曽田正人「昴－スバル－」（全11巻・小学館コミックス）です。続編の「MOON」が連載中でコミックスの3巻目が来月にも出るらしい。「昴－スバル－」はもう何年も前に一旦終了し、その後数年の沈黙を経て再開したわけですが、なんでも黒木メイサ主演で映画化され、来月にも公開されるそうだ。先日たまたまこの予告編を見てちょいと印象的なセリフがどういう場面で言われたのか、実際のコミックスの方にもあるのか気になって漫画喫茶で読み返ししたんですよね。曽田正人には「め組の大吾」「シャカリキ！」「Capeta」などの作品があるんですが、どれも読み始めたら辞められないタイプで、もう何度も読み返していたりするんですが、それでも途中で読みさしにできない「魔力」があるのかもしれませんね。映画の方は関連サイトで見てもらうとして、まぁ、原作とはちと違うものってのはあるけど、雰囲気は十分伝わるような気がします。実際問題としてどこまで表現できているかは見ていないんでなんとも言えませんが(^^ゞ＜おひ！　で、映画の方で気になったのはメインテーマが東方神起で、主題歌が倖田來未って…どう違うんだ？主題歌とメインテーマの違いが分かりません((+_+))　あ、それからあらすじで映画のネタバレになるかもしれないんで、気になる人はご注意をm(__)m宮本すばるには双子の弟の和馬がいる。引っ込み思案のすばるに対して和馬は明るく人気もあったが、脳腫瘍に侵され、記憶障害を引き起こし、すばるのことさえ忘れてしまいそうな自分と闘っていた。和馬の治療費のために懸命に働く両親に代わって和馬の傍らには常にすばるがいて、和馬をこちら側に繋ぎとめようと必死だった。懸命に話しかけたり、思い出の黒猫のマイムをしたり…　少しでも失敗したら和馬が逝ってしまうという恐怖にかられながら、和馬の笑顔を引き出そうと時には一晩中踊ったりした。けれども和馬の病気の進行を食い止めることはできず、そのことを宣告された母親はすばるが和馬のために懸命に踊ったりしてることも知らないので辛く当たってしまう。母親の無理解にすばるは心にもないことを言ってしまう…「和馬なんていなければよかったのに」…いつもなら無反応に寝ているだけの和馬がその言葉に反応するように申し訳なさそうにすばるを見つめる。すばるは酷いことをしたと後悔し、どうやって謝ろうか悩んでいるのを同級生でバレエ教師を母に持つ真奈に「バレエで表現したら」とジゼルの場面を練習しているうちに…和馬を亡くし呆然とするすばるは黒猫に導かれるままにキャバレー「パレ・ガルニエ」に入り込む。そこで出会ったオバちゃんにバレエを習うようになる。時にはキャバレーの舞台に上がり、踊りを披露したりしながら、すばるは中学生になっていた。真奈の母親のバレエ教室には週に2回くらいしか行かない、夜の街をふらつく不真面目な生徒のすばるはずっと踊っていられればいいと思っていた。そんなとき、バレエ公演で「白鳥の湖」の群舞（コールドバレエ）に欠員が出て真奈にどうかという話があり、たまたま一緒に踊っていたすばるも補充の候補として呼ばれることになった。が、周りと合わせられないすばるは振付師に「もう来ないでいい」と言われ「一週間で踊れるようになる」と言い返す。そしてオバちゃんのアドバイスを受け、無茶苦茶な行動を経てすばるはあることを思い出し、凄惨な群舞を成し遂げてしまう。そしてバレエで生きていくためにローザンヌのコンクールに出ることを決意する…まぁ、かなり端折ったけど、ケッコウ詳しく書いちゃいました(^^ゞ　正直曽田正人って「天才を描く」人なのかもしれませんね。上に挙げたどの作品も常人を越えた一つの才能に特化した人物を描いたもので、その常識に囚われない生きざまがもの凄い迫力で迫ってくるんです。だから、その才能とは無縁のところではまるで無関心と言うか、常識の欠如とと言うか、時には傲慢にも見えるような感じですね。すばるの場合はローザンヌまでを描いた5巻まで、アメリカでのプロダンサーとしての11巻まで、そして拠点をヨーロッパに移した「MOON」と読み進めると一種の「狂気」なのかもしれないと感じます。ローザンヌを目指す時すばるはまだ15歳なんですが、どれほどの経験を経てきているのか分からないくらいの精神のありようがその踊りを鬼気迫るものにする…　そして、何度かの転機で現れる黒猫。それはその時喪った人の魂であるのか、すばる自身の本能なのか、すばるのあるべきところへとすばるを導くんですよね。それがなんとも言えず印象的というか…　ある意味ゾッとする場面かもしれませんね。てな訳で、映画の方は良く知りませんが、少なくともコミックスは絶対にハマります。バレエの漫画と言えば槇村さとるの「DoDaDancing」なんてものありますが、もちろんこれもあっしは好きなんですが、努力を積み重ねて成功するという「普通のお話」なのに対して、曽田正人のは人の努力などとは無関係のZOONに行ってしまった状態を描いている気がします。普通の人とは違う天才であるがゆえに、時間の流れすらも違ってしまうのか、新たな刺激がないと死にそうになってしまうくらい退屈…だから周りにいる人々は激流の中で翻弄されているようなものです。それでもその翻弄に恍惚としてしまうから性質が悪のかもしれませんね(^^ゞ　そういった意味で「肌が合わない」と感じる人も多いかも。それでもとにかくコミックスだけでも読んでみてほしいってあっしは思いますね(^o^)丿

  2009年02月24日

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• またまた読み比べ(^^ゞ

  ツーことで、数日前に読み比べについて触れたばかりなのに、それから柘植久慶「直江兼続　北国の獅子」（ハルキ文庫）、風野真知雄「われ、謙信なりせば　上杉景勝と直江兼続」（祥伝社文庫）、井口朝生「完本　直江山城守　愛と鬼謀の軍師」（河出文庫）の三冊を読みました。多分これで打ち止めになると思いますが、確証はありません(^^ゞ＜おひ！　大河ドラマも幼少期から青年期に移り変わりつつありますが、今描かれている天正元年と言えば兼続は数えで十四歳、今で言うなら中学校に入ったくらいの年ころからなのか、目から鼻に抜けるような俊英さとは無縁の小賢しいばかりで粗忽な印象しか受けません。ここから五年ほどで大変なことに巻き込まれていくわけですが、それまでに俊英と呼ばれるほどあれこれ学び、身につけるのかっていうと疑問というか…(^^ゞ　ドラマの与六は焦ってばかりでどうなんだろうって気持ちになっちゃいます。まぁ、男子三日会わざれば括目して見よというように急激に成長するんですかね？ところで、個々の作品についてあれこれ言うのは避けたいんですが、井口朝生の「直江山城守」は元本が昭和三十年代に書かれており、今回読み比べた中では最も古い作品のようで、そのせいか最も自然に読めたように思います。まぁ、一番最後に読んだから、いろいろな情報が頭に入った上でそれをどういう風に料理するのかを楽しむようなだったから読みやすかったのかもしれません。この辺りは読む順番の妙かもしれませんね。つまり、最初に読むのでなければ一番楽しいかもってことですね(^^ゞ　時代が違うからなのか、兼続の妻の名前もお船でなく、子供も平八景明のみで娘もいないように描かれていますが、その方が自然に感じます。本多正信の次男を養子に迎える経緯もあっしとしてはこれがもっともすんなり読めましたね。とりあえず「天地人」を読んで、同門冬二や藤沢周平を経て、柘植久慶や風野真知雄の本を読んでから井口朝生に辿り着くのが良いかもしれませんね。ちなみに近衛龍春も悪くはありません。で、どの本でも直江無礼状から会津討伐、家康の反転を目の前になぜ上杉が追悼戦を行わなかったのかは描かれていますが、意味合いがケッコウ違います。景勝が「闘わずして背を向けた敵を討つのは上杉の義にはあらず」と頑として動かなかったというのが定説のようですが、後の最上領からの撤退戦で兼続が見事に退いてみせた場面と引き比べると、単に撤退していく敵を追撃しても確実に斃せるわけではないくらいは兼続にもわかると思うんです。特に結城秀康が二万の将兵を宇都宮にでんと構えている状態で正面からぶつかってこれを突破し、さらに江戸の家康を討てるのかと言えば疑義があります。実際に上杉と徳川がぶつかったらという架空戦記を書いている人もいますが、現実味がありません(^^ゞ　で、ある本では景勝が義を唱えるのではなく、上杉に十二分に備えながらの退却だからむやみに突っ込むんでも打撃を与えられないと言っています。考えてみれば上杉側の作戦は「負けた振り」をして相手をおびき出して叩くというものであり、徳川の撤退戦も同じようなことをする余地があるわけですから、兼続が交戦に拘る意味があるとは考え難いんですよね。三成との密約の有無もそうですが、家康が反転したところで勝負ありだと察してもおかしくないのに、なぜかこの時だけは判断がおかしいんですよね。まぁ、この辺りをドラマではどういう風に描くのかも興味深いですね(^^ゞあと、謙信死後のごたごたですが、これも描かれ方がいろいろですね。兼続が何もかもやってしまうのもあれば、アドバイスを受けて行動を起こすというのもあります。この時兼続は十九歳、今で言うなら高校3年生になったばかりですから、いろいろな謀略などを一人で作り上げるのはどうかなって気もします。この時期には既に立派な参謀になっていたというよりも参謀格の人物が次々と斃れ、兼続のみが残ったと考える方が自然のような気がします。で、謙信の死によって国が揺らいでいる時に継嗣を巡って争い、それに隣接する有力大名の干渉を許してしまうってのはどうなのかなって。ツーか、これを今の世相と重ねるなら、経済がどうしようもなくなって一刻も早くどうにかしないといけないのに、能力のない人がトップに居座り、あるいはこれを引き摺り下すために姑息な真似をしたりしています。権力争いをする暇があったら国民のためになることをしろって言いたいけど、聞く耳持っていませんからね。権力争いしている間に足元がすべて失われてしまうって考えないんですかね？権力争い、派閥抗争などの無意味さを感じないほどのアホなんですかね？…ってことを読みながら考えちゃいましたね(^^ゞ

  2009年01月25日

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• 直江兼続　読み比べ

  ツーことで、直江兼続ブームってわけなのか、すでにここで紹介した「天地人」や「直江兼続と妻お船」に続いて、童門冬二「小説　直江兼続　北の王国」（合本または上下巻、集英社文庫）、藤沢周平「密謀」（上下巻、新潮文庫）、南原幹雄「謀将　直江兼続」（上下巻、角川文庫）などを読みました。いずれも歴史小説の範疇にはいるとは思うんですが、歴史に重きを置いているのもあれば小説の方に重きをおいて完全なフィクションだなってのもあります。どれがどうというのは書いちゃうと面白みに欠けるかもしれないんで触れないで(^^ゞ　読み比べてみるとどれがホントのことかわからなくなるってのはありますね。で、直江兼続の「略歴」を書いてみようと思いますが、これってネタバレになりかねないのでご注意ください。直江兼続は後の主人上杉景勝と同じ越後上田で生まれ、景勝の母に見出され、幼少のころから景勝の小姓となり、やがて頭角を現し、謙信のそば近くで参謀的な働きをするまでになった。謙信が急死した後、景勝と景虎の継嗣争いが勃発し、この内乱の鎮静化に尽力し、家老に取り立てられる。内乱の恩賞を巡る斬り合いに直江信綱が巻き込まれ落命し、信綱の継嗣がいないため兼続が直江の家に養子に入り、直江兼続となる。妻は信綱の妻であったお船である。武田勝頼が滅ぼされ、信長の軍に攻め立てられて危機に陥っていた頃にその信長が光秀に討たれ、その継嗣争いのために信長の軍が退いたので窮地を脱するが、後継に名乗りをあげた秀吉に臣従を強いられ、秀吉の晩年には領地も越後から会津へと移される。秀吉の死後、秀吉の側近の石田三成は徳川家康と対立、家康の強引なやり口に兼続は反発し、中央の政争から身を退いて領国経営に専念したが、これが家康の背後を脅かすことになり、家康から詰問を受ける。家康からの詰問に兼続がいわゆる「直江状」を返したために会津討伐の軍が起こされる。上杉と徳川の激突の直前に三成が家康に反旗を翻したので、家康は軍を反転させて関ヶ原で三成を討ち、天下を手中にする。上杉は徳川と和解し、会津百二十万石から米沢三十万石に減封される。兼続は大幅な減封への対処に忙殺された。家康は大阪冬の陣、夏の陣を経て豊臣家を滅ぼし、徳川の政権基盤を固めてから他界する。兼続はその数年後に他界、妻のお船は景勝の継嗣・定勝の養育を担うなど、直江後室として引き継ぐが、お船の死後は直江家は断絶したという。かなり端折りましたが、それでもかなりの波乱万丈な人生です。テレビの「天地人」もかなりの脚色があるようで、信長と対面というのは…(^^ゞ　5種類も読むとあれこれ設定などにも違いがありますね。兼続の弟妹も弟妹一人ずつとか、弟二人に妹三人とか、違いがありますし、子供の数はあれこれですね(^^ゞ　戦国で活躍する前提としてはやはり情報収集力の差があると思いますが、この情報収集を担う「忍び」が作品によって違うのは明確な記録が残っていないからなんでしょうね。「天地人」では真田家の姫・初音（小説では幸村の姉で、ドラマでは幸村の妹みたい）が忍びであれこれ兼続を援けることになっていて、上杉独自の忍びが出てこなかったりします。それ以外のは直江家が忍びを統括していたりするので、真田の存在はかなり軽いものになっていたりします。人間関係では石田三成との関わりでしょうか？同年の生まれでどちらも目から鼻に抜けるような駿英で思考パターンなども近いことから惹かれあったりします。義の精神で「民人が平和に暮らせるようにする」ためにどうすればいいのかで、戦国の世を終わらせ、統一政府にすることが望ましい、というところまでは一致したようですが、それが豊臣政権かというところではちょいと引っ掛かりがあります。秀吉は朝鮮出兵、秀頼への強引な権限移譲など、民人のためになる状況だったか疑問であり、三成が秀頼に固執したのか、家康への嫌悪が強かったのかのも良く分かりません。兼続は三成と似た考えだったにせよ、豊臣を見限り、新たな政権を見ていたのなら、三成と共謀して家康を挟撃することは考えにくいものがあります。むしろ家康と組んで三成をおびき出す方があり得そうです。家康が会津討伐を切り上げて反転した時に上杉が追い打ちをかけなかったのは、景勝が義を唱えたからというよりも、「出来レース」だったからという方が納得しやすいですね。あるいは家康とも三成とも距離をとっており、家康に利用されただけだから処罰が軽かったとも考えられます。まぁ、この辺りは「闇の中」ですから忖度するしかないんですけど、どうなんですかね？＜おひ！歴史小説も小説には変わりないので、記録に残ってない部分については自由に描けているようです。が、変にいろいろな史料を引き合いに出して全部が全部史実であるかのような印象を与えるのはどうかって思いますね。フィクション性が高いものならば誤解を与えてしまいますもの。ツーか、読む順番が違ったらかなり混乱していたかもしれませんね(^^ゞ＜え？　いずれにせよこんだけあれこれ読んだというのはどれも帯に短し襷に長しというか、一貫した形で描ききれていないような気がしたんですよね。ボリューム的に一生を描くにはサラッと流すしかないし、詳しく書きこむなら時代を限るしかないですからね。だから読み比べたりしたんだけど、それで分かったこともあれば余計にわからなくなったことも…(^^ゞ　とりあえずドラマでも見ましょう(^^ゞ＜おひ！

  2009年01月21日

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• 直江兼続と妻お船

  ツーことで、近衛龍春「直江兼続と妻お船」です。これは「天地人」絡みで直江兼続に関する書物を書店で見てみるとケッコウあれこれあったんですが、その中で読む気になったものです。まぁ、「天地人」のイメージからちと外れた冒頭のものはとりあえず…(^^ゞ　兼続を紹介する意味で「私が樋口与六です」と自己紹介するのは仕方ないと思うんですが、謙信やお船に元服後の兼続がするのは違和感がありますから、慣れるまではパスってことで(^^ゞ　同じ人間を扱うにしてもいろいろな描き方もあるし、設定をあれこれ弄ることもあるし、全く別物のこともやむを得ないんですが、とりあえずは幼少のころから与六兼続は謙信やお船と知り合いだというのが「天地人」とも違和感が小さくて済むというか…(^^ゞ越後の上杉家を妻の実家の山吉家とともに二大巨頭として支える直江景綱は、義を唱え清廉な政治を目指す上杉輝虎（後の謙信）の陰の部分、すなわち忍びの軒猿を統括して情報収集やそれを基にした後ろ暗いことなど、泥をかぶるような仕事、諜報を司っていた。山吉と直江という後ろ盾があるから輝虎も義を唱えて邁進できたと言える。還暦をとうに過ぎた景綱の悩みは後継ぎのことだった。軒猿は諜報力などの資質を備えた直江の当主にしか従わないのだが、景綱には嫡子がなく、娘が二人だけで、上の娘は輝虎の側室にと近づけ、思惑通りに相思相愛になったようだが、毘沙門天に生涯不犯を誓った輝虎の妨げになってはと出奔して尼になり消息不明になってしまった。下の娘のお船に婿を迎えて直江家を継がせようと思うが、適材が見当たらないのでお船を次期当主として育てなければならなかった。お船は男子であればというほどの才を持っていたが所詮女であり、適材がいれば婿に迎えて当主にするが、いない場合は婿を迎えても実質的な当主をお船とするしかない。婿の候補には上野出身の長尾景孝と樋口与六が上がっていたが、前髪の残る与六ではどうかとも思う。景孝は小田原の北条氏の一族に父や弟を謀殺された疑いがありながらも、その一族の縁戚の娘と恋に落ちていた。輝虎は小田原北条氏と同盟を結んだ時に人質として三郎を得たが、その人品を見て気に入り、己の旧名の景虎と姪の華姫を与え、養子として上杉の姓を名乗らせることにした。生涯不犯で実子を持たぬ輝虎の後継としては甥の長尾顕影（後の景勝）がいたが、当時はまだ養子ではなく、上杉の姓を名乗ることも赦されていなかった。樋口与六は顕影の小姓にして近従、股肱の臣といえ、無口で表情に乏しい顕影の真意を酌むことのできる唯一の存在だった。輝虎が景虎に傾きかけていることに譜代の家臣たちは「越後が北条に奪われる」という危惧を抱いており、華姫や顕影の母で輝虎の姉の仙桃院もその一人であるし、景綱もそうであった。景綱は頭脳明晰で武勇にも秀でた景孝が北条の一派に組み込まれ、その先兵とも言える景虎に与することを阻止するため、北条の縁戚の娘と引き裂き、お船と結婚させることを輝虎に願い出て許される。主命とあれば景孝には否やはなくお船と結婚し、直江家に入って信綱と名を改めるが…ケッコウ詳しく書いちゃいましたが、この小説はお船が主人公という感じですかね？タイトルに挙げられている兼続の方はどちらかと言えば背景の方に控えている感じですね。信綱も兼続も謙信の薫陶を受けており、直江家の果たすべき諜報のような「汚い」ことに忌避感もあったようだ。諜報よりも武勇を重視する信綱は軒猿らに当主として認められず、お船が陰の当主として努めざるを得なかった。そのお船は今で言うならツンデレといえるかもしれず、直江家の娘としてしなければならないことを果たすため懊悩し、娘心を素直に出すこともできず、惹かれていた信綱との関係も冷えたものがあったりもした。そして山吉の当主と景綱が相次いで斃れ、上杉の屋台骨が揺らいでいた時に謙信が卒中で倒れ、帰らぬ人となり、景勝と景虎の壮絶な家督争いが勃発する。これを陰から操っていたのは景勝の母であり、景虎の義母である仙桃院であり、その共犯者がお船の母であると考えられ、お船は苦悩することになるが…この謙信の死に関わる謀や信綱の一族の死に関わる謎も明確な答えは示されません。きっちりと割り切れる答えが欲しい人には物足りないかもしれませんが、真相などはそう容易に手に入るものではなく、ほとんどが闇の中に朽ちるものです。そういった意味で現実的ですが、他方、経済的なことはどうかなって感じです。「天地人」では越後の経済的有利さがあったから謙信が闘い続けられたと書かれていますが、こちらでは後に伊達政宗が金を見せびらかしたのを兼続が冷ややかに切り捨てるような対処をしたと書かれているくらいで、経済的な優位さはあまり感じられません。むしろ人がいるから強いのだって感じですね。この辺りは描き方の違いってことでしょうか？そういった意味では兼続が凄いというよりもそれを支えたお船が偉いってことでしょうかね？こういう読み比べも面白いかもしれませんね(^o^)丿

  2009年01月10日

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• ラブファイト　聖母少女

  ツーことで、ネタ切れです((+_+))　朝起きて頭に何も浮かばない状況だったので、以前に書こうとして書けなかったのにしましょう。まきの・えり「ラブファイト　聖母少女（上下）」（講談社文庫）です。あっしはGyaOで新曲のPVとか映画の予告編とかよく見るんですが、そこで見た「ラブファイト」の予告編が物凄く印象的で、なのにどうもうちの近くでは上映しそうもなかったので、原作本を本屋に見に行ってパラパラと読んでみたら読みやすいのでGETして、その時読み止しだったのを読み終えた勢いで耽読しちゃいました(^^ゞ　それくらいのことをさせるような予告編は元旦の創作にも影響を与えています(^^ゞ　3人の男子学生に絡まれている気弱そうな少年に向かってセーラー服の少女がにこやかに「稔ちゃん、見ぃ～～っけ」と言いながら近づき、3人をあっという間にぶちのめす…　そう、小林進君が佐藤君を瞬殺するシーンはこのイメージでしたね(^^ゞ　この美少女を北乃きい、ヘタレの少年を林遣都が演じています。音だけですが、今村の兄の健人と同じ名前ですね(^^ゞ立花稔は幼稚園のころから苛められっ子で、そんな稔を苛めっ子から守っている（？）のが幼馴染の西村亜紀だ。亜紀は醜いあひるの子が美しい白鳥に成長するかのようにお転婆娘から成績優秀スポーツ万能の美少女に変化し、男子生徒のあこがれの的でもあるのに、いまだに稔を苛める奴を成敗するという趣味があるからか稔のそばにいることが多く、稔は亜紀と付き合っていると勘違いされ、これが苛めの原因になったりしている。稔は苛めの原因である亜紀の存在が疎ましく、けどどうにかしないといつまでも付きまとわれると悩んでいるうちに、自分が強くなって亜紀を必要としなくなればいいんじゃないかって思いつき、亜紀には内緒でボクシングジムに通うようになる。亜紀はカムフラージュに成績も良くてスポーツもでき顔も良いという同級生と付き合い始めたが、物足りない。稔の通うボクシングジムを突き止め、ジムの会長と手合わせをしたが、歯が立たなかった。亜紀は自分よりも強い男を求めていたのかもしれない。亜紀もジムの通うようになった。ジムの会長の大木はかつてチャンピオン寸前まで行きながら急にやる気をなくして惨敗続きの挙句に眼を痛めて引退したボクサーだった。どん底まで落ちたけどそこからジムの会長まで這いあがってきたが、失くしたものは大きかったのかもしれない。その失くしたもの…三杉順子というボクシング好きの夫を持つ人妻はいつしか大木と恋仲になり、その子供を宿したが、真実を告げられずに大木の前から去った。順子は産んだ子供を交通事故で亡くし、神経を病み、離婚した後行き倒れになっていたのを流行作家の瀬戸純一に拾われ、感情もないロボットのような秘書として生きていた。瀬戸の新しい小説の資料集めのため、順子は大木のジムに行くことになる。そこで稔を見た順子は「もしもあの子が生きていたらこんな風になっていたのか？」という気持ちに陥る。そんな懊悩が順子に感情を呼び戻し、それを瀬戸は訝しみ、やがてその原因を突き止める。他方、大木が順子を失ってから腑抜けのようになっていた時期も見つめていたスナックバーのママ、恵美は大木が順子とよりを戻しかけていることを客の瀬戸から聞き、憎悪を募らせる。瀬戸は恵美と組んである計画を…かなり詳しく書いちゃいましたが、稔と亜紀がメインですが、大木と順子、瀬戸や恵美という四角形も、メインといえるような展開になります。稔と亜紀は多分相思相愛なのにツンデレと鈍感という困った間柄で、たがいに別の恋人（？）を作り、初体験さえも変なことになってしまう不器用な関係とも言えます。大木、順子、瀬戸、恵美という関係も良くわからない展開になるというか、大木と順子が普通の恋愛小説の登場人物らしくない（？）んですよね。相思相愛で子供もできた関係だけど、10数年という離れていた時間が二人を昔と同じ関係にならなくても気持ちが満たされる、それが傍からは元の鞘に収まったように見えるけど、決してそうじゃない。けど、傍はそんなの信じられないからあれこれ策を巡らせる。正直ストーリーを追っていっている時は大木や順子が素直に元の鞘に戻らないのが不思議でしたが、現実は恋愛小説とは違うんだって考えれば当たり前の展開なのかもしれません(^^ゞまぁ、読んだ直後は登場人物の心境が全く理解できなくて混乱しており、だからここに書けなかったんですよね(^^ゞ　わけわかんない本をいいとは書けないでしょ？でも、時間をかけてあれこれ考えると、ケッコウ理解できるんだって…(^^ゞ　亜紀の行動も思春期の揺れ動く感情を念頭に置けばそういうこともあるのかなって気分になります。まぁ、稔はヘタレであれこれ流されてしまうけど、それがどういうことか、ホントに何がしたいのかを最後には気づいているから救われます。ですが、主人公が誰だったのかはよく分かりません。上記の6人のうちの何人かが絡み合ってとりあえずの決着を見ますが、まだまだひと波乱もふた波乱もありそうな、けどそれ以上書くと蛇足になりそうなところでラストです。セリフ回しが軽快なんですらすらと読めちゃいますが、時間をおいて読み返すともっと深いものを感じるのかなって作品です。映画の方は設定がちょいと違っていて、それでもまぁハッピーエンドかなって感じていますがどうなんでしょう？映画を観た人がいたら感想をお聞かせ下さい＜おひ！

  2009年01月06日

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• 天地人

  ツーことで、ちとミーハーな感じですが、明日からの大河ドラマの原作だという火坂雅志「天地人（上中下）」（軽装版・NHK出版）を読みました。去年からかなり番宣してたので気にはなっていたけど、上下巻の四六版しか出ていなかったので躊躇していたら、書店で軽装版を見つけたんで即買いしちゃいました。去年の「篤姫」の時も原作読もうかと思って、ぱらぱらと試し読みして「読み難い」って感じたんで辞めましたが、「天地人」は最初の数ページをすらっと読めたんでその時に読みさしになっていたのを読み終えたら読もうと思っていたのに、結局年越しになってしまいました(^^ゞ　で、元旦から読み始めて2日で読了しましたが、正直な話、主人公の直江兼続について全く知らなかったから癪な気分もありましたし、越後の上杉がなぜ会津を経て米沢に行ったのかというのも知らなかったんで、歴史好きとしては拙いと思って慌てて読んだってのもあります。まぁ、あっしは歴史好きとはいえ、結末が分かっているのは興味が湧き難いし、日本物よりも中国モノの方が知らないことが多いからどうしても中国モノを優先しちゃってます。まぁ、あれだけ番宣してなかったら読む気にもならなったかもしれません(^^ゞ　とはいえ全く知らない話だけに面白かったのは確かですね。直江兼続は1560年、桶狭間で織田信長が今川氏を破った年に越後に生まれている。当時の越後は上杉謙信の統治下にあり、甲斐の武田信玄と川中島を巡って闘いを繰り返している時期だった。兼続は幼少の頃に、生涯不犯を誓い実子を持たない謙信の養子の景勝の小姓となり、景勝と机を並べて学問を修めたりしたらしい。小柄で表情に乏しくて無口な景勝と比べて、兼続は身の丈六尺の美丈夫で、女性にも騒がれるほどであったが、謙信の薫陶を受けているためか女性には晩熟だった。謙信は利に走りがちな戦国の世において義を重んじ、私欲を捨てて戦い続けていた。それを可能にしていたのは越後が肥沃な土地で米や麻の一種であるカラムシの生産が豊富であり、金銀が産出するなど経済的に恵まれていたからでもある。その謙信のライバルである信玄が物故し、信玄の後継である勝頼が長篠で信長に敗れ、その信長が担いでいた足利将軍を追放して独裁を強めようとしていたのに謙信は激怒し、信長を討つべく立ち上がった。が、謙信は信長に掣肘を加える前に卒中で倒れ、他界する。謙信が景勝ともう一人の養子・景虎のいずれを後継にするかを言い残していなかったために越後を二分する戦いになり、甲斐の武田や小田原の北条につけ込まれることにもなった。兼続は景勝の側にたち、景虎側に打ち勝つために尽力するが…まぁ、あらすじは大河ドラマもやるのであまり書かない方が良いと思うので辞めておきます(^^ゞ　読みながら大河ドラマの配役とかも頭に浮かべたりしたんですが、景勝のキャストは原作とは違うなって感じましたね(^^ゞ　景勝に対して景虎は美丈夫で口も達者、表情も豊かで受けの良いタイプで、いささか軽薄な印象もありますが、景勝は容姿容貌ともに劣るし口下手で、華やかさにも欠けるけど、その心情は粘り強くて忍耐強く、戦乱の世を乗り切るにふさわしい人物として描かれているんです。それがドラマのキャストではどちらが景虎か分からない美丈夫ぶリというか、才色兼備の兼続と比較されたら霞んでしまうほどなのにドンと構えて兼続の自由に仕事をさせる懐の広さとのギャップが出てこないというか、どうも違和感があるんですよね(^^ゞ　見た目も大事というのとは違う、人の本質を見極めるという大事な部分が欠けちゃった気分ですね(^^ゞ　読んでいる最中は「風林火山」の時の御館様が景勝に近いなって思い、それを重ね合わせていましたね(^^ゞ　まぁ、この辺りは瑣末なことですが(^^ゞで、上にもちと書きましたが、謙信の義を貫くためには経済的な背景が必要であったということから、衣食足りて礼節を知る、が根本にあるのかなって感じましたね。義という言葉も難しく、謙信自身が謙信と兼続の義はそれぞれのもので違うのだと諭していますが、兼続の義はより多くの民が不幸にならないようにすることだったように感じます。このため、多少の卑怯な真似も仕方ないというのが兼続の行動の原点にあったように思います。主君の景勝は兼続に全幅の信頼を置き、己の義を損なわない限りにおいて兼続に好きなように政治を行わせ、失敗しても己が責任をとればいいと考えていたようですね。だから、兼続も景勝の言を尊重し、己の言と異なる時は己の義に間違いがあるのだと察して行動を改めたりします。原作では景勝はほとんど口をきかずに眼で兼続にすべてを悟らせていますが、ドラマではまず無理な表現なので、無口でなくしゃべる景勝をキャストしたんですかね？番宣のいろいろなセリフとか見てると原作とはかなりの違和感があります。兼続の情に脆くて泣き虫というのも原作からはあまり感じられませんでしたし、幼少のころの景勝とのエピソードなども無口な景勝ではありえない感じですからね。あ、またドラマ非難になっちゃった(^^ゞ原作とドラマは別物で、そこに出てくる人物の描写も異なって当たり前だってことからすれば、どんな風に描かれるのかってのも興味の一つになりますね。他方原作の方も「もう少し書きこんでもいいんじゃないのか？」って印象もありましたし、これを補うのがドラマでもいいのかなって気がします。謎の女・初音よりも千利休の娘の方が兼続の心に深くあるようですし、そもそも信長とは対面する機会はなかったみたいですから、ケッコウあれこれオリジナルの描写があるんでしょうね。まぁ、原作もフィクションですからどっちが正しいってこともないかもしれませんが(^^ゞで、「天地人」を読む前に元旦の単発の創作を書いたんですが、どうも読んでいる最中にどっか似てないかって気分に襲われました。何が正しくて何が卑怯でそれでもなお何をすべきかってことですかね？うまく書けないんですが、兼続のやっていることは一貫性があるようでそうでもないような印象があっしにはあります。人の世に生きていれば揺れるのが当たり前だと言えばそれまでですが、頑迷な石田三成の一途さが愚かに見えるはずなのに止められない、流れを読むのに優れていながら誤った方向に導いてしまうなど、いろいろあります。参謀としては優れているけど上に立って最終決定するには相応しくない人物として三成も兼続も同じだけど、それを制御する主君がどうかで大きく結果が変わったと考えるべきなのかもしれません。つまり、能吏は使いようによっては毒にも薬にもなるということでしょうか？まぁ、原作の解説などにこの平成の世にも直江兼続のような人物が求められているのではないか、などと書かれていましたが、会津120万石から米沢30万石に減封された時の対処などは企業経営をしている人たちに是非とも参考にしてもらいたいものです。禄高が4分の1になっても士分のリストラはせずに乗り切っています。この手法は今も通じるものがあるんじゃないですかね？これができないのは義を知らぬ利己的な人物ってことかもしれませんね。企業経営者に限らず、一国の政治を担う人間であればこの程度のことが容易にできるくらいでないと拙いですよね？生中に生なく死中に生あり、という謙信の教えが生きていないのが今の世のすべてかもしれませんね(^^ゞ

  2009年01月03日

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• 望郷の道

  ツーことで、去年の8月から朝刊に連載されていた北方謙三「望郷の道」が今日完結したので触れることにします。これは北方謙三の母方の曽祖父に当たる人をモデルにした立志伝で、これについて宮部みゆきとの対談で語っている部分を引用しましょう。＊＊＊＊＊以下引用です＊＊＊＊＊北方：（省略）うちはお袋の家系がすごいの。宮部：確か侠客の家系だったと…。北方：曾祖母が博徒の家の娘だった。父親を早くに亡くして女親分になって、ずっと博徒の家をやっていたんだけど、女親分だといろいろと都合が悪いというので婿養子をもらった。でも、その婿養子は博徒の生活になじめなくて家出しちゃったんだ。で、ひいばあさんは彼を追いかけていって台湾で捕まえた。宮部：それだけでひとつのドラマですね。北方：それで台湾で所帯を持って和菓子をつくり始めたんだけど、これが結構売れたらしくて。で、会社がどんどん大きくなっていって、「新高ドロップ」という会社になった。＊＊＊＊＊以上引用でした＊＊＊＊＊小添正太は福岡木屋瀬で水運業を営む侠客の家の三男坊に生まれ、家を継ぐことも船頭になることも許されていなかった。ある日、正太は父の名代で佐賀に使いに行く途中の露天風呂で、肩に緋鯉の刺青をした女性と出会う。この女性は佐賀に三つの賭場を持つ一家の一人娘の藤瑠韋（韋の字には王偏がついている）で、父親を亡くして家業を継いでいた。とはいえ、女が頭では舐められたりあからさまに縄張りの横どりを狙う輩も出てくるので婿養子を取ろうという話が出ていた。その婿として白羽の矢が立てられたのが正太であったが、このことを正太も瑠韋も知らずに見合いの席が設けられ、再会を果たす。そして互いに意識し合い、やがて正太は瑠韋に結婚を申し込み、藤家に婿養子に入る。大らかで物事にあまりこだわらない瑠韋に対して、隅々まで目配りをして工夫を凝らす正太は賭場の改革に乗り出し、着実に成果を上げていく。他人の不幸は蜜の味だが、他人の成功は妬ましく、できることなら横取りしたいとつけ狙う輩が暗躍し、理不尽なやり口で藤家が窮地に陥った。正太は自分一人で形をつけようとするが、小添から正太についてきた仙吉の機転でどうにかまるく納まった。しかし、正太は九州ところ払いとなり、台湾へと去ってしまう。藤家を救われた瑠韋だが、一家の者にすべてを委ね、二人の子供を連れて台湾へと正太を追っていく。すべてを捨てて追ってきた瑠韋とともに正太は台湾で菓子屋・七富士軒を始めるが…かなりネタバレなことまで書いちゃいましたが、台湾で菓子屋で成功したってことは上の引用にもあるからまぁいいかなってことで＜おひ！　で、北方謙三のルーツに当たる曽祖父母の話ですけど、ここから北方謙三に至るまでが描かれるのかなって思ったんですが、新聞連載だからなのか、九州からところ払いになった正太と瑠韋が再び九州の地を踏み、さらに前に進もうってところでお終いになってしまいました。あるいはこの先別の作品か続編で描かれるのかなって気もしますが、タイトルにある通りに望郷が果たされるという意味では完結でも当然かなって気もします。他にもあれこれ連載を抱えているから続きが書かれることはないのかなってちょいと残念に思います。もっともっと続きが読みたいんですよね。二男二女のそれぞれがどのように育っていくかも面白そうですし、大正昭和と激動の時代にどうなるかも興味がわきます。まぁ、あらすじは知っていても十二分に再読に耐える物語だ、と言うのがあっしの感想ですね。連載が終わったんでやがて本になると思いますが、出たら絶対に読み返すと思いますね。それくらい正太や瑠韋がカッコいいんですよね。生きざまに一本筋が通っており、理不尽な目に遭っても他人に頼るのではなく、自力で覆そうというパワーは物凄いですね。もちろんいくつか失敗もあるわけで、二人の最大の危機（？）となる正太の浮気の発覚した場面は瑠韋のカッコよさを感じましたね。女ですけど好漢って感じでしたね。芯が太いのいうのが当たっているのかもしれませんね。とにかく、新聞のバックナンバーで読むのも大変ですが、そうやって読んでも損はないものですから、本が出たら是非とも読んで頂きたいって思います。そしてもしも実写化されるとしたら瑠韋はちょいと誰が良いか分かりませんが、正太は本木雅弘かなって思います。…ってのはさすがに先走りですが、昨今の情けない政治家の皆さんに精読して貰って、自省を促すとともに漢としてどうあるべきかってじっくり考えてほしいですね。そうすればちっとは世の中も良くなるんじゃないかしら？＜言い過ぎ？

  2008年09月29日

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• 二十面相の娘

  ツーことで、今日は小原愼司「二十面相の娘」（全8巻＆more：メディア・ファクトリー）です。この作品は今アニメやっているらしいけど、あっしはまだ見たことがありません(^^ゞ　ツーか、これって変な風に知ったというか…　あ、今日の「日記」はケッコウネタバレが含まると思いますので、未読で何も知りたくないという方はご遠慮ください。あっしの場合は本編でなく外伝的な「二十面相の娘　うつしよの夜」（コミックフラッパー連載中、コミック2巻目がまもなく発売？）の1巻をたまたま漫画喫茶の棚で見かけて手にとって読んだのが始まりで、本編の8冊の方はあっしの行く何軒かの漫画喫茶には全く影もなく、ほとんど忘れていたんですが、先日ブックオフに行ったら何と！8冊が並んでいるじゃないですか！それでついつい時間忘れて読んでしまいました(^^ゞ＜もちろん立ち読みですが、何か？美甘（みかも）千津子は資産家の一人娘だが、両親を早くに亡くし、叔父叔母が養父母として育てている。千津子はまだ11歳で、いずれ成人すれば資産を受け継ぐことになるが、後見人でもある叔父叔母は千津子を亡きものにして資産を手に入れようとしている。聡明な千津子はいつからか叔母が自分の食事に毒を入れていることに気付き、食事を拒むようになっていた。そんな美甘家にとある財宝を盗みに入った二十面相は何を思ったのか千津子を攫って行く。千鶴子も攫われることを望んでおり、自らのことをチコと呼び、皆からもそう呼ばれるようになる。チコは二十面相のことを「おじさん」と呼び、二十面相の一党とともに暮らしていくうちに様々なことを学んでいく。一方二十面相は戦時中に関わったものを密かに集め、二度と陽の目につかぬようにしているらしく、その目くらましとして美術品を奪ったりしてるようで、せっかく奪ったものを街中に放置することもあるらしい。そんな二十面相の過去、二十面相の遺産を巡って怪しげな連中が二十面相の一党を狙い続ける。そしてチコが13歳の時、二十面相の一党は壊滅的な打撃を受け、チコは美甘家に戻ることに……ってのがおおよその話です。「うつしよの夜」はチコが二十面相の一党とともに暮らし、再び美甘家に戻るまでのエピソードが描かれているものです。あっしはこっちを先に読んだからか、二十面相の一党が壊滅的な打撃を受けてしまうシーンはビックリしました。味のあるキャラとかが死んじゃったりするんですからね。で、チコが日本で二十面相の遺産を巡るあれこれの事件に巻き込まれつつも二十面相に近づいていくって展開になります。そしてすべての謎が明らかになった時、そしてそれに正面から立ち向かうためにチコが踏み出した一歩とは…まぁ、正直な話「二十面相の娘」のコミックも外伝を連載中の「コミックフラッパー」もマイナーですからほとんど目にすることもないかもしれません。だけどすべてを書いちゃうわけにもいきませんからね(^^ゞ　ただ、この「二十面相の娘」の世界というのは敗戦後から10年くらいって感じで、戦争の影を引き摺っている時代みたいで、人と世界がまだ近い時代だったように思われます。この世界と近いというのは「世界征服」という言葉がまだ現実に達成可能なものとしてあったという意味ですね。まぁ、「世界征服」については森博嗣のブログで面白い考察がされていますが、基本的に今日では支配よりも破壊の方が現実的ですね。すべてを壊してしまってから自分のやりたいように造り直すことで世界を自分のものにするってことですね。今生きている人間をすべて自分の前に跪かせるのは、可能性としては治癒不可能の死に至る病と定期的に投与することで病を抑えるワクチンの独占ってことくらいで、これも管理その他がややこしいことになりそうですね。これは柴田昌弘「サライ」の世界観に近かったりしますね(^^ゞ細かいことは書けませんが、間違った今をやり直すためにすべてを壊してしまうってのは短絡的だけど、よくある発想ですよね？本来あるべき自分を取り戻すために足掻くってことですが、足掻く方向性を間違うと周りの人たちにはいい迷惑ですよね？まぁ、自己中な誇大妄想狂には何を言っても無駄ですが(^^ゞ　ところで、「二十面相の娘」はとりあえず完結してるんですが、その後はどうなるんでしょう？目的を達成した（？）二十面相はどういう生き方をし、チコはどういう人生を歩むのかちと気になります。が、この辺りは自分の頭で補うしかないのかもしれませんね(^^ゞ＜おひ！

  2008年09月17日

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• ホーリーランド

  ツーことで、ヤングアニマルに連載してた森恒二「ホーリーランド」が完結しました。今までコミックスが17巻でており、最終18巻は7月に発行予定みたいですね。あっしは絵が綺麗なのが好きなんですが、どっちかと言えばシンプルというか、正直綺麗といった感じじゃないんですが、たまたま漫画喫茶でパラパラと読んでいるうちに気にいっていつの間にか連載の方まで追っかけるようになっちゃいました(^^ゞ　まぁ、こういう風に気に入った作品って続きが気になるんだけど終わってしまうとちょいと寂しいというか…　先日触れた「しおんの王」なんてのもそうですね。連載ものって人気がなくなればあっという間に切られてしまうわけで、コミックスで気に入って読み進めていくうちに「何でここで終わるの？」ってのが多いですよね？あっしの趣味がマイナーだって言えばそれまでですが、ちょいと残念だったりします。そういった意味では「しおんの王」もこの「ホーリーランド」も行くところまで行って終わった感じですね。神代ユウ、高校一年生。ひょろっとした体躯におどおどとした表情は草食動物を連想させ、ある意味苛めを誘発する存在で、実際中学時代は苛めから不登校に陥ったりしていた。そんなユウは自分の居場所を探していた。自分がここにいてもいいという場所、自分が苛められるだけの存在でない場所を求めて夜の街に向かった。夜の街は弱肉強食の世界である。満腹な最強の肉食獣以外は常に自分よりも弱い生き物をいたぶり、いくばくかの金を巻き上げ、自分よりも強い存在から逃げ回るのだ。そんな夜の街で不思議なことが起きていた。見るからにひ弱そうな奴に不良が叩きのめされているという。やられるのは不良だけということで、いつしか「不良（ヤンキー）狩り」というあだ名までつけられたが、それが誰であるのかはわからない。不良がやられるというのは別にどうということはない。しかし、噂が独り歩きすると街のカリスマと呼ばれる最強の肉食獣たちも動かざるを得なくなる。ひ弱な奴にやられたとなればメンツがないので報復に躍起になる奴もいれば、確実にしとめるために武術の心得のあるやつに協力を求める奴もいる。そういう騒ぎを収めるためにカリスマと呼ばれる伊沢マサキが動き出すが……てなのがイントロダクションでしょうか？見るからにひ弱そうな少年ユウは苛めから逃れるために不登校になった時に偶然知ったボクシング、それも左ジャブと右ストレートのワンツーだけを毎日数百回、数千回繰り返しているうちに、力任せに拳を振り回すだけの不良たちを打ち倒すものを身に付けたのだ。しかし、フットワークもステップも知らずに、ただ自分の身を守るためにワンツーをくりだしていただけなのに、いつしか不良たちから追われる立場となり、武術を身につけたものと闘ううちに徐々にいろんな技を身につけていく。それは自分が強くなりたいからでなく、自分がここにいてもいいのだという証を手に入れるためであり、だから、たとえ負けたとしても同じ相手に続けて負けることはできない。勝って得られるのはまだここにいてもいいのだという一時の安堵でしかない。負け続ければここにいることができなくなるという切迫感がユウの原動力なのだ。柔道、空手、レスリング、ボクシング、剣道、キックボクシング、総合格闘技などなど、様々な武術を身につけたものとストリートで闘い、時には相手に教えを請いながらユウは強くなっていく。そして行きついた先は…まぁ、これは苛めとかそういうものへの対抗策の一つなのかもしれません。最低限自分を守るだけの力がなければより強いものに狩られるだけ。肉体的な痛みが精神的な苦痛を産み、それが新たな闇を作っていく。そんな闇を打ち払うのは自分だけで、そのための力を持っているかどうかであり、またその力を間違わずに使えるかということだろう。間違った方法でしか自分の闇を払うことができず、闇に囚われたままだったのはマサキであり、ユウもまた闇の中で足掻いていた。正しい方法などどこにもなく、足掻いているうちにいつしか道が開けるというものなのだろうか？不良という存在もまたこういう闇に囚われただけであり、そこから逃れるすべを知らないから、新たに闇に落ちるものがいるからいつまでもいなくならないのかもしれない。何かを求め、その光の射す方向に向かえばどうにかなるというものがあれば抜け出せるのかもしれない。その抜け出すための光こそがユウだったのか？しかし、結論は提示されない。されていたのかもしれないが、街は変わらない。街が変わるのではなく、街にいる自分自身が変わるしかない、という意味なのだろうか？陰影の中でどうすれば光を目指せるのか、というシンプルなことを語った物語は終幕を迎えたが、実際にどうするかという一人ひとりの物語はまだ終わってはいない。ではどうするのかということを見つめ直すきっかけとして、相応しいものかもしれません。青春真っ盛りの人だけでなく、子育て中の人にも何らかの答えを導くものとして通読されてはいかがでしょうか？

  2008年05月24日

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• メグとセロン

  ツーことで、ネタに入る前にちと困ったことというか、最近ネット重くないですか？あるいは特定のサイトだけかもしれないんですが、特に酷いのがここのトップにリンク貼ってあるイーココロ！クリック募金ですね。もう一つのdffのクリック募金は普通にできるんですが、イーココロの方は通常なら10分もあれば全部のクリックができるのに今朝などは1時間近くかかりました((+_+))　アクセスが集中してるせいかとも思ったんですが、イーココロはスポンサーサイト数こそdffの倍ですけど、1日当たりのクリック数は1サイト当たりでは4～5分の1程度なんですよね。つまり総クリック数でも半分程度ってことなんですが、これだけ重いってことでここ数日はクリック数の方も減っているみたいですね。いったいどうしたんでしょう？一日も早く前と同じ程度に軽くなってほしいものです。で、時雨沢恵一「メグとセロン」（電撃文庫）です。これは「アリソン」（同：全4巻）「リリアとトレイズ」（同：全6巻）のスピンオフ作品ということになります。あとがきによれば、この「アリソン」と「リリアとトレイズ」がアニメ化され、「アリソンとリリア」ってことでBSで放送中なんですけど、いずれも完結してるのでスピンオフとなる「メグとセロン」が出たってことのようです。で、サブタイトルが「3305年の夏休み」となっていて、序章が「終わりと始まりと」で世界暦3306年のことが書いてあります。あ、ちなみに「アリソン」以下の物語はこの地球とは異なる星で紡がれており、詳しいことは既刊の方をざっと読んでみてください。一応ロクシェとスー・ベー・イルという二大国が長い対立の果てにとりあえずの平和を謳歌している時代で、ロクシェとスー・ベー・イルはお互いに相手のことを「川向う」と呼んでいるってことですね。シュトラウスキー・メグミカはスー・ベー・イルからロクシェに引っ越してきた。二大国は言葉が違うのだけど、同じクラスのリリアはスー・ベー・イルの言葉であるベゼル語が流暢であっという間にメグミカと仲良しになった。その様子を見ていたのはセロン・マクスウェル。セロンはメグミカに一目惚れしたものの、如何せん「宇宙語」のようなベゼル語が分からず、すぐ近くでおしゃべりしてるリリアとメグミカの声は聞こえるけど何を話しているのか分からず、会話に加わることもできずに一学期を過ごしてしまった。セロンは成績も優秀だし容貌も悪くなく、女子からもてる存在だったけど、これまでずっと告白されてもお断り続けていたくらいなのに、いざ自分が恋に落ちたらおどおどするばかりで、親友のラリーに背中を押されても進展など全くないまま夏休みに入ってしまった。夏休みに入っても勉強か読書くらいしかやることにないセロンはラリーから演劇部の合宿の手伝いに誘われ参加することになる。演劇部の助っ人はラリーやセロンだけでなく、オーケストラ部やコーラス部などにもおよび、そのコーラス部の助っ人の一人がメグミカだったのだ。という感じで全くメグミカの眼中に入っていなかったセロンがラリーなどの協力によって徐々にメグミカと親しくなっていくってことですね。まぁ、この3人の他にナタリア、ジェニー、ニコラスを加えた6人で謎に立ち向かうってことになるようです。ツーか、この6人でまだまだいろいろなエピソードがありそうなんですが、この「3305年の夏休み」は顔合わせのイントロダクションって感じですかね？全く関係なさそうな6人がどういう風に仲間になっていくのかってところですね。詳しいことは書きませんが、時雨沢恵一って会話が面白いですね(^o^)丿　あとセロンの内面と外見のギャップにも笑わされましたね(^^ゞ　ツーか、軽く読める本なんで気分転換にはピッタリかもしれませんね。「アリソン」などと併せて読むのもいいかもしれませんね(^^ゞ

  2008年05月21日

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• 替天行道

  ツーことで、うちのIEだけが文字化けするのかどうかって調査も兼ねて漫画喫茶に行ってきました。結論から言うとXpのIEでも文字化けするようで、しかも昨日の「日記」に書いた文字化けしてる文字数が違っていたのに気づいて慌ててそこだけ修正しました(^^ゞ　いやぁ、外でログインするのはあまりよくないことですけど、過ちを正すのに躊躇わず、アダルトな宣伝を削除するのも躊躇われないので仕方ないですよね？で、そこそこ楽しみつつ明け方に帰ってきたんですが、丁度雨が一番厳しい時間だったようで、傘をさしていても意味なく、道路も雨水でほとんど川のような状態で、全身びっちょりでした((+_+))　2～3時間前か後にすればこんなことにならなかったんですが、読みが浅いというかアホというか…(^^ゞ　その雨ももうすっかりあがったようで、東北や北海道の方が今度は大雨になるみたいですね。土砂災害なども起きているようですのでお気を付けください。てな訳で、いまだに「水滸伝」から抜け切れておらず、これと言って新しいネタがあるわけでもなく、「BECK」や「はるか１７」などの最近ネタにしたばかりのを読み返したりしたから相当なネタ切れ状態ですね((+_+))　んな訳で、一昨日ちょいと触れた「替天行道－北方水滸伝読本」を取り合えずのネタ代わりにしようってことですね。ツーか、「水滸伝」についてもあまり語っていないのでそっちもついでにってことですね。で、「北方水滸伝読本」ですが、「水滸伝」の掟破りなことについてだとか、北方謙三の素顔がうかがえるようなものだとか、あれこれ盛りだくさんにできているんですが、いくつか不満というか、どうしてこれについて触れていないのか疑問に思うことがあるんですよね。まぁ、時間がなくて出来合いの素材でどうにかしたってことかもしれないけど、それでもどうしてってのがある。一番の不満は人物紹介です。「水滸伝」の108人の好漢はそれぞれ宿星というか星の名前が付いています。一応はこの星の名前が章の名前になっているわけなんですが、その一つ一つの星が誰のことを現わしているのかがどこにも書いていないんですよね。「北方水滸伝読本」にある人物紹介は北方謙三が「水滸伝」でどういうキャラに再構成したのかってのを書いているものであって、原典でどうだったかということは意味がないって言われればそれまでですが、名前だけは原典に忠実というのならそれぞれの星の名前を付けてほしかったですね。あと、108人の好漢の他は楊令しかないってのもどうなんでしょう？108人には入らないけど好漢たちに協力したもの、敵対関係にあるもの、巻き込まれてしまったものなどについても触れてほしかった気がします。王進とその母親、好漢たちの家族、そして朝廷に巣食う者たち、青蓮寺の面々などざっと数十人はいると思うんですよね。まぁ、この辺りは「楊令伝読本」でも創られる時にでも入ってくれればいいんですが…(^^ゞあとあった方が面白いだろうなってのは好漢たちの使う武器とかですね。まぁ、これは人物紹介の一種かもしれませんが、イラストで主な人物を並べて背の高さや体格を比べるとともに武器を手にしていればそれがどのような感じのものか分かりやすいと思うんですよね。普通に立つだけでなく馬に乗った時とか、愛馬が他の馬と比べてどうだったかとか、実際に騎馬で戦う様子なども面白いと思うんですよね。図解としては陣形などもあったらわかりやすいというか…(^^ゞ　この辺りになると「水滸伝」だけでなくあらゆる歴史もの、時代ものに共通するものになっちゃうけど、この戦闘の時にはどういう陣形でぶつかりあったのかとかそういうのがあるとわかりやすくないですか？騎馬隊が陣形を崩していく方法とか横槍の入れ方とかいわゆる解説書になっちゃうけど、「読本」ってそういうものじゃないんでしたっけ？もちろんこういうのって手間も時間もかかるから難しいってのはあるけど、次の時はやってほしいなってことですね。「水滸伝」そのものについていうと数量的なものが今一つ理解できなかったんですよね。銀の小粒の経済的な価値とか、闇塩の利益がどの程度かとか、兵としての調練がどの程度かってことや、それによってどの程度のことができるのか、死傷した兵の補充が容易にできるのかってあたりですかね？まぁ、「読本」の年表を見ると最初のころと後半とで時間の流れが違うというか、前半と後半で時間の濃縮度が3倍くらい違うようで、後半ではいつの間にか時間が過ぎ去っていたりするんですよね。その間に兵を育てたってことだろうけど、規模がどんどん膨れ上がっているんですよね。これは淡々と時が過ぎて行ったということだろうと思うんですが、どうもすっきりしないというか…(^^ゞ　この辺りは時間が経ってから読み返したらそうでもないのかもしれませんが、どうなんでしょう？この辺りも次で解説してくれたらって思うんですが、自分で調べろってことですかね？(^^ゞ

  2008年05月20日

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• 水滸伝

  ツーことで、前々からちょいと触れていた北方謙三「水滸伝」（集英社文庫：全19巻）および「替天行道－北方水滸伝読本」（集英社文庫）です。で、最初にお断りですが、以下では原典である中国の「水滸伝」やその他の作品などのかなりのネタバレを含みますので、一切のネタバレが厭だという人はご遠慮ください。ツーか、北方「水滸伝」の解説などであれこれ書かれていることをもとにしてるだけですが、完訳や吉川英治「新・水滸伝」、柴田錬三郎「われら梁山泊の好漢」などの翻案した作品を読んでない人には興趣を殺ぐ形になるかもしれません。ちなみにあっしはいずれも読んでなくて、北方「水滸伝」を読んだ後にこちらを読むかと言えばすぐには絶対無理で、時間をおいてなら絶対ないとは言えないだろうって程度ですから、これらの作品に対する「営業妨害」になるかもってことですね(^^ゞ＜大げさな！12世紀初頭、中国の北宋末期（宋王朝がいったん滅んだ後南方で再興される前）徽宗皇帝は政治よりも文化に傾注し、その度が過ぎて全土の奇岩を集めるのに夢中になっていた。王朝の役人たちの腐敗は著しく、王安石の改革は挫折し、宰相の蔡京を頂点に末端に至るまで賄賂を求め、私腹を肥やすのが当たり前の状態になり、庶民は法外な税や理不尽な処罰により塗炭の苦しみに喘ぎ、この暮らしから逃れて賊徒になったものに襲われてすべてを奪われることさえ珍しくもなかった。このような世の中の有り様に疑問を抱き、どうにかしないといけないと思い、同志を募ろうとしたのは?（ウン）城の役人の宋江であり、?城の近くの東渓村の保正（名主）の晁蓋であった。宋江は呂智深、林冲、武松、花栄、戴宗、雷横らと人集めに奔走し、晁蓋は柴進、魯俊義らと叛乱の資金作りを企てていた。宋江と晁蓋が手を結び、思想と闘争の二つの首魁となってこの周りに同志が集っていくことになる。宋の国都である東京開封府で禁軍をはじめとする軍隊の情報を探っていた林冲は叛乱の嫌疑をかけられそうになった王進の逃亡に手を貸すが、林冲自身も疑いをかけられており、高?（キュウ）の罠にかかって捕縛され、林冲を救おうとした妻が高?に懇願するも凌辱の末自害してしまう。林冲は高?に恨みを抱くが、叛乱についての明確な証拠がなかったので滄州の牢城送りとなる。他方、林冲の手助けで老母とともに逃亡した王進は史家村にて史進という若者に武術を教え、その後子午山に隠棲する。というのがイントロダクションになります。原典では宋江と晁蓋を中心に梁山泊に江漢が集まり、宋と対峙することになるんですが、闘争の中心である晁蓋が斃れた後、宋江を首魁とする108名は宋の和解勧告（招安）に応じ、以後は宋の走狗として各地の叛乱鎮圧などに尽力するが、方蝋の乱で多くの江漢が死に、それとともに宋も滅んでいくということになります。この原典は北宋末期にあった宋江と36人の賊徒が叛乱を起こし、その後に招安され宋のために働いたという史実をもとに様々な説話がごちゃごちゃに入り混じり、それが一つにまとまったものらしい。全部を通して読むというよりもその一部を劇として見たりするのが主だったために主要人物の活躍伝みたいなものの寄せ集めであり、部分部分は面白いものの、全体としてみると矛盾だらけで一貫性も何もないって感じだったようですね。上にあげた吉川英治や柴田錬三郎の作品はできるだけ一貫性を持たせようとはしたものの、原典に忠実なものであり、完全には原典の破綻とかそういうものを克服できていなかったとか。それを北方謙三が根本的に換骨奪胎して、素材は同じだけど全く違うお話に作り替えたのだそうだ。正直な話、北方「水滸伝」と原典の関係を抑えるくらいで、その他のことは全て自分の目で確かめてほしいって思います。何を書いてもネタバレになるし、ネタバレによって興趣がそがれるってどうなのってのがあります。ツーか、原典など関係なく、一つの独立した作品として北方「水滸伝」を楽しめばいいんじゃないかってことですね。ただ舞台が中国なために名前が覚えにくい、似たような名前が多くて紛らわしい、姻戚関係などもややこしいというのがありますが、これは巻頭にある人物紹介を見返しながら進むことでどうにかなると思います。現代日本と大きく違うのは結婚しても夫婦で同じ姓にはならないってことですが、○氏（○夫人）と呼ばれる時だけは夫の姓が使われます。子供は基本的に夫の姓ですから母子では姓が違ったりします。他方、張や李、楊など同じ姓で全くの他人も少なくありません。日本でいうなら鈴木、佐藤、田中って人ばっかだということですね。同じで区別がつかないから仇名がついたりするわけですし、姓の代わりに氏が呼ばれたりするんですよね。日本でいうなら武士はみんな源氏で区別がつかないから足利だの松平だの名乗ったりするんですよ。中国の場合は氏でも区別できなくなったりします。上にあげた張や李、楊などもホントは姓じゃなくて氏らしいです(^^ゞ　それだけ人が多いってことなんですかね？あと、先のことを言われたくないという人は本編を全部読み終わるまで巻末の解説を読まないことをお勧めします。「北方水滸伝読本」は絶対に19巻読了前に読まない方がいいですね。だって年表などで最初から最後まで全部書いてあるわけで、筋だけだったらこれでわかっちゃうんだから、この先どうなるかワクワクする楽しみが失われちゃいますよ。逆に全部読み終わった後に読むと抱腹絶倒というか、北方謙三と編集者の山田祐樹氏の掛け合いは本編の林冲と公孫勝を想起させます。ホント読んで損はしません。読み出したら絶対途中で投げ出すことはないでしょう。ツーか、今は最後まで出てるので「次はまだか！」とイライラすることもありませんから一気に読むこともできますからね(^o^)丿　そういう意味ではラッキーかもしれません。が、「水滸伝」の続編の「楊令伝」が3カ月に1冊のペースで5冊ほど出ており、今のところ全10巻と言われているので早ければ来年の夏ごろに完結するようですが、こっちはどうなんだ！って気分になるかもしれません。正直あっしも嵌められた！って気分ですね＜え？　まぁ、あっしの場合はまだ「三国志」とか読んでいないからそっち読むことで気を紛らわすことができるかもしれませんがね。もの凄く蛇足なんですが、「水滸伝」に浪子燕青という人物が出てきます。見た目は優男ですが体術の達人で梁山泊の資金源の創始者・魯俊義の後継者でもある謀略も胆力も抜群の若者です。で、燕青と聞いて何か思い出しませんか？そう、「彩雲国物語」に出てくる浪燕青です。頬に十字の刀創があり、むさくるしい髭だらけの大男だけど、髭を剃るとケッコウ見られた顔になるという人物です。そのすっとぼけた言動と北方「水滸伝」の燕青の挙措とがどうもねぇ…(^^ゞ　単なる名前の一致というだけで他意はないのかもしれませんが、他にもあるかもしれませんね(^^ゞ＜おひ！

  2008年05月18日

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• はるか１７

  ツーことで、山崎さやか「はるか１７」（講談社コミック：全19巻）です。いやぁ、マジでネタが苦しいってのもありますが、連日「水滸伝」じゃ飽きるかもってことで先日紹介した「東京家族」も描いている山崎さやかの作品で、昨年完結したばかりです。ちょいと画風が弘兼憲史を思い出すような感じですけど、表情がキラキラしてるというか、見てて気持ち好い絵なんですよね(^^ゞ　実は筒井康隆の「家族八景」を原作にした「NANASE」というのも描いているんですが、こっちは未読なんで、今度辺り読んでみようと思っています。宮前遥は上京して大学に通う4年生。就職活動に奮戦しているが内定が一つも得られていないうちにいつの間にか求職票は3年生が対象のものとなっていた。何としても東京で就職したいと思う遥は藁をもすがる思いで零細の芸能プロダクション、童夢企画の門をたたく。面接に臨むと正面には口髭の中年の男。スリーサイズがどうのとセクハラまがいの質問もされるし、振り向いて「好き」と言ってみてなどといわれて思わずキレた遥は「大っ嫌い！」と叫んで飛び出してしまう。実はこの口髭の中年男が童夢企画を設立した社長の福原であり、遥のことをタレント希望の面接に来たと勘違いしていたのだ。パッとしない容姿容貌だけど、内から溢れる輝きにピンときた福原はマネージャー希望だという遥をなだめすかし、ほとんど騙すようにしてタレントとして売り出すことにする。それも17歳としてだ。化粧っ気もなく野暮ったいだけの遥がヘアメイクの尾倉が手を入れると見違えるようになったからでもある。とりあえずの二足のわらじということで芸能活動を始めた遥はあるオーディションでかなりいいところまで行ったが最終的には大手芸能プロダクション、ファインプロのタレントに敗れてしまう。それが自分の力不足のためではなく、大手プロの力によって決まったことであると知り、遥の負けん気に火がついて…てな感じで、4大卒の遥が17歳と年齢詐称しながら芸能界で奮闘していくことになるわけです。短気で負けん気が強く、曲ったことが大嫌いだけど、芸能人として成功するなんて気持ちなどさらさらなかった遥があれこれ失敗し、挫けたりしていくうちに逞しく成長していくんです。もちろん零細の弱小プロダクション所属の遥のことが目障りな大手プロは潰しにかかることもあれば、甘言を弄して引き抜こうとしたりもする。そういう逆風が吹きまくる芸能界で叩かれつつも徐々に光を放つようになるわけです。スキャンダルで干されることもあれば、芸能界の重鎮にいたぶられることもある。それでも挫けずに進むことで認められ、実力も付けていく。どこにでもいそうだけど、どこにもいない、生命の輝き溢れる遥だからこそ光るのかもしれませんね。確かこれって去年くらいにテレビドラマになったような記憶がありますが、テレビではニュースや天気予報くらいしか見ないから、どうだったかは知りません(^^ゞ　でも、ドラマになっても十分楽しめるくらいの波乱万丈さはあると思います。これって○○だよなって一目でわかるようなキャラも出てくるし、そのキャラ一人ひとりが人情味あふれていてなんとも言えないんですよね。新人いびりするのだって相応のわけがあるわけだし、そこを乗り切ればきっちり評価もする。根っからの善人も悪人もいなくて、ちょっとしたことで善人にも悪人にもなっていき、理不尽や不条理を嘆いてもそこで立ち止まるのでなく突き進むものもいれば、目的のためには手段を選べなくなったものもいる。誰もが不器用に生きているんだってことを思い出させてくれるというか、そんなに気張らなくてもいいんだという気持ちになるというか、不思議なものがありますね(^^ゞ　もちろんこれはあっしの感じるところであり、他の人は違うように感じるかもしれませんが、ちょいと長めですけど、十分楽しめるんじゃないかと思います。興味とお時間のある人は是非どうぞ(^o^)丿

  2008年05月13日

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• しおんの王

  ツーことで、かとりまさる＆安藤慈朗「しおんの王」です。今のところコミックスが7巻でていますが、先日「月刊アフタヌーン」での連載が終了、来月にも完結編の8巻が刊行されるらしい。あっしはテレビをあまり見ないので詳しくないのですが、先日の「BECK」もそうだけど、この「しおんの王」もアニメになっているのだとか。自分としては意識したことないんですが、あっしが読もうってものはアニメになるくらいのクオリティがあるってことなんですかね？あるいはコンテンツ不足でいろんな作品を漁っていてあっしの読むようなものまでアニメになってるのかな？この辺りはみなさんがご覧になって判断してみてくださいね(^^ゞ安岡紫音は中学生。7年前に両親を惨殺され、一人生き残ったものの、その時の記憶も言葉すらもショックからか失ってしまっている。紫音は隣に住む将棋の安岡八段に養女として引き取られ、棋士を目指している。女流棋士としては中学生としてかなりの実力を持つ紫音はやはり女流棋士である二階堂沙織と斉藤歩と知り合い競い合うようになる。沙織は名人の羽仁真と兄妹弟子で「羽仁兄」と呼び合うような間柄だ。歩の方は実はある事情から手っ取り早く金を稼ぐために女流棋士となったのであり、それが果たされるまでは女流棋士でいなくてはならないのだが、その秘密を紫音に知られてしまう。が、紫音はその秘密を公にすることなく、純粋に棋士として歩と接したりする。そんなとき、羽仁名人の弟であり、青年実業家である羽仁悟がスポンサーの一人となる将棋のオープントーナメントが開かれることになる。プロアマ関係のないトーナメントには羽仁名人、安岡八段などのほか、紫音、沙織、歩も参加して勝ち進むが、紫音の周囲では7年前の事件を巡る不穏な動きも起きていた…というのが大まかなあらすじです。最初のうちは不幸な生い立ちの少女が言葉を失っても明るさを失わずに将棋に打ち込むだけのものかと思っていたんですが、この少女が巻き込まれた惨殺事件がなぜ起きたのか、一体誰が紫音の両親を殺したのか、なぜ紫音が生き残ったのか、ということが次第に明らかになっていくんですよね。とはいえ、最後まで読んでもどうしてなのかは今一つすっきりしません＜え？　一応は紫音の両親が殺された事件が「解決」し、紫音がそれを受けて新たな段階に進むというところでお終いですけど、もう少し先があってもいいかなという気もします。とはいえ、今まで以上に大きな事件が起きるというのはリアルじゃないし、オープントーナメントもやってしまったからこれも二番煎じみたいで大きなイベントになり難い。ラスボスの正体が明らかになるとその次ってどうもねぇ…(^^ゞ　ミステリー色の弱いものにするってのもどうかと思うし…　ここでお終いで丁度よいのかもしれませんね(^^ゞ＜おひ！この「しおんの王」は言葉で語るよりも実際に体感する方が面白い気がします。あっしとしては最終巻が出た後に一気に読みなおしするつもりです。そうすればまた何か見えてくるかもしれませんからね。実際、囲碁や将棋のようなものを題材にした物語というのは楽しむのはいいんだけど、その楽しさを人に伝えるのが非常に難しいんですよね(^^ゞ　まぁ、あっしの表現力不足だと言えばそれまでですが、勝負の駆け引きとかそういうのが見た目ではあまり分からない内面のものだから、そこまで踏み込んでしまうと完璧なネタバレでしょ？(^^ゞ　だからヤングジャンプに連載してて今度実写化されるとか言う「ハチワンダイバー」は色物っぽいところがあるからそういう意味で楽しみやすいかもしれないけど、リアルさには欠けるというか…＜おひ！　勝負ものって次々に強い奴が現れ、それを倒して進むんだけど、その度に必殺技とかでて一気にリアルさがなくなるんですよね。単純に楽しむ分には面白いけど、なんかゲーム感覚というか、完璧なフィクションって気がしてしまう。そういった意味では「しおんの王」はフィクションっぽさのあまりないところが良かったのかもしれませんね。設定としてちょいと現実離れしてるところもないわけじゃないけど、それでもまだリアルさが失われていないような…＜偉そうに！てな訳で「しおんの王」が最終回だというので漫画喫茶に行ったんですけど、今回はついていないというか、なかなかうまくなくて何軒か梯子したりしたんですが、それで感じたのはあっしが読みたいと思うものが揃っている店ってないってことですね。帯に短し襷に長しってところもあれば、箸にも棒にもかからないところもあります。コストパフォーマンスもあるのでケッコウ難しいものもありますが、シリーズもので抜けがあったり、新刊が出てるのに何冊も前のが「最新刊」とされていたりするとちょいとがっくりきちゃいます。とはいえ、それぞれのでき得る範囲内で頑張っているんだからどうこう言っても詮ないことですが(^^ゞ　客の方も元あった場所に戻さないとかいろいろあるし、仕方ないのかもしれませんね。楽しめる範囲内で楽しむってことかもしれませんね(^^ゞ

  2008年04月27日

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• 東京家族

  ツーことで、山崎さやか「東京家族」（双葉社コミックス：全5巻）です。山崎さやかと言えば去年まで「モーニング」で「はるか１７」（講談社コミックス：全19巻）を連載しており…って「はるか１７」についてここではまだ触れていなかったですね(^^ゞ　まぁ、これについてはまた後日ってことですが、「東京家族」の方はおよそ10年前に描かれたもので、前から知っていたけどなぜか読まずに済ませていたのをようやく読んだんで取り上げようかなって感じですね(^^ゞ＜おひ！原田壮、38歳独身。流行作家で週刊誌に女遊びについて掲載されたら、昔付き合っていた女性がやってきた。20代のころは金もなく、甲斐性なしで出ていかれてしまったのだけど、これまで壮との間にできた子供を女手一つで育ててきたという。今まで自分が育てたんだからこれからは壮が面倒を見ろと子供を押し付けていく。その子供は力、19歳の浪人生だ。これまでしてきたことを考え、女性の言い分を当然だと受け止めた壮は力を引き取ることにするが、そこにまた来客が…　そう、次の同じ境遇にある女性が来たのだ。その女性も栄子という18歳のニートの娘を壮に押し付けていく。そこに母親の手紙をもった少年、城太という15歳、中学3年生のやはり壮の息子がやってくる。壮は城太も引き取ることにするが、そこにまた別の女性が…　この女性とも壮は付き合ったことがあるが、この女性が連れてきた少年、12歳で小学校6年生の勇はどう見ても外国人とのハーフだけど、女性は壮との子供だと言い張る。壮は自分の子供でないことは承知の上で勇のことも引き取ることにする。そこにまた男女の双子、のぞみとのぞむという8歳で小学2年生の姉弟を連れてきた女性がやってきて、やはり子供を引き取って育てろと求め、壮はやはり二人を引き取ることにする。こうして一軒家での優雅なひとり暮らしがあっという間に6人の子供との同居生活になってしまった……っていうとんでもない設定の漫画です。壮としては二股をかけたりとかそういうことではなく、愛想を尽かされて出て行かれたので次の女性と付き合っただけで、でも子供ができるとやはり出て行かれるということの繰り返しで、それでもまぁ流行作家になったのだから不思議な巡り合わせってことでしょうか。もちろん壮にとっては青天の霹靂でしょうが、つれてこられた子供たちにとっても自分の他にも同じ境遇の子供がいて、兄弟として一緒に暮らす羽目になるなんて想定外なわけですが、それでもどうにか自分なりのポジションを見出して共同生活に馴染んで行ったりするわけです。もちろん、一筋縄にうまくいくわけではなく、1巻で10話、全50話で壮も40歳になるわけですけど、そこまであれこれとすったもんだがあり、家族としての絆ができて行ったりするんです。まぁ、コミックですから現実とは違うんですが、この壮は流行作家だけど金銭感覚がしっかりしているというか、子供たちに無駄遣いとかさせないんですよね。たまたま壮の預金通帳を見ちゃって受験へのモチベーションを失ってしまった力に自分の親が親の脛かじりで嬉しいと思うのかと問いかけ、自分の親が金持ちだという不幸を乗り越えろと叱咤するシーンが印象的でしたね。逆説的に考えるならば親が金持ちでないというのはおのずと奮起するという意味で幸福なのかもしれないって考えちゃいました＜おひ！　まぁ、ステレオタイプな金持の子供というと親が金持ちなことと自分が偉いってことを直結させてしまい、自分がまだ何もしていないってことを失念してえばりくさっていて、周囲のものもそれが当然というように取り巻きを形成して媚び諂ったりしています。こういう親の成功の余禄を自分の成果だと勘違いすることって子供にとっては不幸なのかもしれませんね。子供たちにクリスマスのプレゼントをねだられ、その気になればそのすべてを叶えられるのにあえてそうしないで、自分なりのプレゼントを用意したりするのはカッコいいんですが、子供たちがその価値に気付かないってのもそれはそれでいいんじゃないかって気もします。価値に気づいてしまうとなんか子供たちが可哀想な気もしますが、どうなんでしょう？＜微妙？まぁ、いろんな騒ぎが起きてその度にすったもんだするんですが、壮はどこか一本芯が通っており、傍から見るとどうなんだろうって気もしなくはないんですが、結果としては正解なのかなって思います。まぁ、状況が状況だけに一見まともでない方法の方がいいのかもって気もしないでも(^^ゞ＜おひ！　でも、子供が6人もいるのに月30万円でやりくりするってのは金銭感覚として妥当かもって思います。最後の方で壮の年収についての記述が出たりしますが、ほとんどそういう風に見えないってのが人としていい感じですね。他にも色々感じることもあるんですが、書いちゃうとケッコウネタバレになって楽しみが減っちゃうから遠慮しますね(^^ゞ　漫画喫茶とかそういう場所でないとあまりお目にかかれない作品ですけど、もしも機会があったら読んでみてくださいね(^o^)丿

  2008年04月22日

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• BECK

  ツーことで、ハロルド作石「BECK」です。月刊少年マガジンに連載中で、コミックスが32冊、ファンブックも2冊出ている長編ですが、あと連載2回で完結だということらしい。ケッコウ癖のある絵柄だけど、ハマるとクセになるってことかもしれません。ロックを題材にしてるけど、漫画だから演奏も歌も聞こえないんですが、それでも別にどうでもいいというか、自分の中でいろんな曲を流してそれが実際にプレイされていると思って読むのが面白いというか…＜はぁ？　何せボーカルのセリフというか吹き出しが付いていないという、ある意味画期的な手法だから、読み手の側が自分の中で補完しないと物凄く薄っぺらくなりかねないんです。田中幸雄はごく平凡な中学2年生。勉強は並、スポーツは苦手、人付き合いも得意でなく、要望も容姿も平凡で、いわゆる苛められっ子の典型とも言える。小学生のころ習い事先で同姓同名の子と比較して小さい方だったから「コユキ」というあだ名を一つ年上の泉ちゃんにつけられたりした。その泉ちゃんに憧れているものの、何一つうまくいかないコユキはふとしたことから水泳の元オリンピック候補だった中年のおっさん…斉藤さんから水泳やギターを習うことになる。ギターを習おうとしたきっかけは継ぎ接ぎだらけの不気味な犬を子供たちがいじめているのを辞めさせた時に知り合ったロン毛でイケ面の少年、竜介との出会いだった。竜介は帰国子女で、アメリカに住んでいた時に今では世界的に有名なロックグループ「ダイイング・ブリード（ダイブリ）」のギタリスト、エディ・リーに可愛がられていて、一緒に車上荒らしをしていた時にパクったのが七つの銃痕が穿たれたギターであり、継ぎ接ぎだらけの犬・ベックだったのだ。コユキはロックに触れてギターを習い始めたけど、これがいじめの標的になるきっかけでもあった。他方竜介はバンド仲間のエイジと決裂し、新しいバンドを作ることにし、ファンキーなベースの平と個性的なボーカルの千葉らとBECKというバンドを組む。中学3年になる時のクラス替えで、コユキはいじめの首謀者と同じクラスになりいじめも酷くなるが、そのいじめの中で桜井・サクという親友を得る。コユキとサクがBECKの追っかけみたいなことをしているうちにドラムが脱退、ドラムのできるサクとともにコユキも準メンバーになる。ギターも始めたばかりでへたくそなコユキはBECKのお荷物みたいなものだったが、水泳で鍛えたせいなのか、本人も気づかぬうちに一種独特のボーカル力を身につけていた。そんなコユキは竜介の妹・真帆と知り合い、惹かれあっていくことになる。コユキは竜介の創ったおそらくは真帆のことを書いた「SISTER」という曲のボーカルをすることになり、それをライブハウスでやっているところにお忍びでエディとダイブリのボーカルのマット・リードが来ていて、コユキの声を気にいる。そして、ダイブリのシークレットライブでマットはコユキをステージに上げて歌わせる。このことがコユキたちの運命を大きく変えていくことになる……ってのが、5巻辺りまでの話ですね。もの凄くエキセントリックというか、何かが違うBECKはそれなりに認められていくことになるんですが、同時に大きな敵も持ってしまうんです。エイジのバンドをプロデュースする蘭はミュージック界で大きな力をもっており、ダイブリをこのプロデュースに利用しようとしたものの、マットの気まぐれで頓挫し、脚光を浴びたのがコユキたちだってことで徹底的にBECKを潰そうとする。他方、犬のベックや弾痕の穿たれたギターの持ち主だったレオン・サイクスはアメリカのロックシーンで力をもっており、逆らうものは容赦しない「恐持て」でダイブリのライブ映像でそのギターをエディが使っているのを見てエディや竜介たちに圧力をかけてくる。内外ともに強大な敵に阻まれながらもBECKはがむしゃらに突き進む。けど、それゆえにバンドが空中分解したり、メンバー同士の軋轢があったり、様々な試練が襲ったりする。けど、コユキはBECKでみんなと一緒にプレイしたいと思い、BECKの良さを知る非主流というか、レジスタンス的な協力者たちに支えられ、どうにか前へと進む、そして…やっぱ、ロックというのは弾圧と抵抗と言えばいいのか、反逆の噴出と言えばいいのか、BECKを取り巻く環境って逆風の連続であり、そんな中でどうにかしのいでいるって感じです。あちこちに圧力をかけて何もさせないってのが日本的なら、逆らうやつを叩き潰す、あるいは殺してしまうってのがアメリカ的ともいえ、このために物語はサスペンスに満ちたものになります。コユキたちにもこの魔の手はのび、幾度となく命の危機に追い込まれたりします。それでもロックに生きるしかないってのが凄いですね。で、あと2回でどこに行くんでしょう？少年誌だからハッピーエンドなのかな？あるいはロックなまま逝ってしまうのかなぁ…＜え？　物語のラストって難しいですからね(^^ゞ　どういう風になるのかあれこれ考える楽しみでしばらくは過ごそうと思います(^^ゞ

  2008年04月21日

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• 倚天屠龍記（いてんとりゅうき）

  ツーことで、耽読明けでネタがないので、昨日もちょいと書いたけど、金庸「倚天屠龍記」（徳間文庫：全5巻）を取り上げます。これは「射鷲英雄伝（鷲の字は「周鳥」を一文字で表したものだけど表示できないので代用、以下同じ）」「神鷲剣侠」（いずれも徳間文庫：各全5巻）に続く三部作の三作目です。「射鷲英雄伝」は南宋の時代、華北を支配する金への抵抗や、まだ漠北の地にいたモンゴルなども絡む物語で、「神鷲剣侠」はそのモンゴルが金を滅ぼした後に華北に流れ込んできたのに抗している時代の話です。「倚天屠龍記」は「神鷲剣侠」の直後から始まりますが、主人公の張無忌が活躍するのは元の支配から脱却しようという元末の時代です。「射鷲英雄伝」と「神鷲剣侠」が隣同士に住む郭家と楊家との複雑に絡み合った恩讐と武芸の秘伝「九陰真経」を巡る争いなどが描かれており、そのラストシーンに出てくる郭襄、覚遠、張君宝から物語が始まります。覚遠、張君宝は「九陰真経」と対をなす「九陽真経」を会得したために類稀な内功を身につけているけど、このことを自覚していません。この三人のエピソードを経た後の三章から本格的な物語が始まるわけです。張三豊は少林寺から逃れた後に武当派の開祖となり、その弟子である武当七侠もまた武芸に秀でていた。その三番弟子が江南で事件に巻き込まれ重傷を負い、武当山に帰還する。なぜそのような重傷を負い、その仇を調べるために兄弟弟子たちは飛び出していくが、そのうちの五番弟子の張翠山は張三豊の後継者と目されていたが、江南でやはり事件に巻き込まれ消息を絶ってしまう。これには屠龍刀という宝刀を巡る争いがあった。張翠山は殷素素という少女と出会うが、この少女もまた屠龍刀を巡る争いに加わっており、張翠山は殷素素とともに姿を消すことになる。その原因となった屠龍刀と謝遜という恨み骨髄のために凶徒となった男が姿を消して10年ほど経ったころ、張翠山と殷素素は張無忌という少年とともに中華の地に戻ってくる。が、この三人の前にあったのは厳しい現実と悲惨な運命であった…というのがネタバレを極力排除した結果です((+_+))　「射鷲英雄伝」や「神鷲剣侠」の主人公が過酷な運命にありながらも武芸に励み、恋愛でも一途な姿を貫いたのに対し、「倚天屠龍記」の主人公・張無忌は純朴で愚鈍なまでに真面目に武芸に励むので、一応父母譲りの美貌と武芸の技を持ちながらも、ある事情から謙遜というよりも卑下的なくらいなまでに自分の命を軽視するところもあるし、このためか自分の意志よりも他人の意見を尊重する優柔不断な面が強い。見目麗しくて力持ちという娘であれば惹かれずにいられない好漢でありながらも自分に自信などもっていないからか来るものは拒まずのようになり、結果複数の娘に想いを寄せられながらもそのうちの一人に決めることができない。ある時などは4人の娘が張無忌を巡って角突き合わせるありさまなのに、張無忌はこれにきちんと対処できなくて右往左往するばかり。恋愛関係に関しては本当に情けない奴です。けど、過酷な運命を生き抜いたせいか武芸に関しては類を見ないものがあり、天下無双といってよいものになるんですが、お人好しなのか常に人に欺かれてしまう。功名心も権勢欲もないから常に謙虚でそれで却って祭り上げられるような真似になったりもする。正直、「射鷲英雄伝」や「神鷲剣侠」を読んでないとよく分からないところもありますから、これらを読んでから読むことをお勧めします。つまり全15巻ですからかなりの時間楽しめるってわけですね(^^ゞ　まぁ、今の時代とはかなり違う価値観で人々が生きているのでここで引っ掛かると先に進めなくなりますが、こういう考え方の時代、世界もアリだって読み進めるとケッコウハマります。事実あっしは4～5日くらいで読もうと思ったのに実質2～3日で読んじゃうくらいの魅力がありますね(^^ゞ　この「倚天屠龍記」は張無忌がどういう風に危機を乗り切るかとか、女難でどういう風に転ぶかがハラハラドキドキで、ワクワクドキドキとは違うようなものがありますね(^^ゞ　あえて詳しく書かないのはこのハラハラドキドキを邪魔しないためですので、もしもこんな説明でも興味をひかれた人はぜひ金庸の世界に踏み込んでみてはいかがでしょうか？(^o^)丿

  2008年04月14日

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• 沙門空海唐の国にて鬼と宴す

  ツーことで、夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」（徳間ノベルス：全4巻）です。夢枕獏と言えば「陰陽師」を思い出す人も多いと思いますが、その陰陽師安倍清明の時代よりちょいと前、9世紀初頭にのちの弘法大師・空海は橘逸勢らとともに唐の都長安に行っています。そして長安で密教の真髄を得て帰国し、天台宗の開祖となるわけですが、その事実にちょいと味付けしたのがこの「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」だと言えるでしょう。あとがきを見てみるとなんと1987年に書き始められ、書き終えたのが2004年、17年もの歳月が掛けられた作品らしい。この間に上記の「陰陽師」なども生まれているわけで、こちらの方が先に書き始められたのであるから、この中に出てくる空海と橘逸勢のやりとりが「陰陽師」の安倍清明と源博雅のやり取りの原型と見るべきでしょうが、「陰陽師」の方を先に読んでいるものとしては逆に感じてしまいます(^^ゞ　まぁ、言葉のやり取りも軽妙だし、タイトルのとっつきにくさを克服できさえすればケッコウ読みやすい部類にはるいんじゃないかって気もします。ただ、長安で密教の真髄を手に入れる話ですから仏教、密教などに多少の知識があった方が読みやすいかもしれませんね。「上弦の月を喰べる獅子」とか、そういう神様との対話的な作品もケッコウある人ですから、こういうのに抵抗がある人にはお勧めしません＜え？　時折現在のことについても書かれているから本当の歴史小説なんかよりは読みやすいとは思いますが(^^ゞ9世紀初頭、日本から遣唐使の船が中国に向かった。久々の遣唐使であるが、この時に空海や最澄が入唐し、のちの日本の仏教に多大な影響を与えるわけである。しかし、この時の空海は東の海に浮かぶ東胡（あずまえびす）の国から来た名もなき沙門・僧にすぎない。日本から唐に来た留学生・留学僧は20年の時をかけて知識を吸収し、それを日本に持ち帰る役目を負ってはいるが、20年もいればどうにかなるという話ではない。特に密教の真髄を得るには中国の言葉である唐語、仏教の生まれた地の言葉である梵語・サンスクリット語を習得し、なおかつ仏教についての深い知識と理解が必要であり、それでやっと密教の入り口である青龍寺の門を叩ける程度である。この青龍寺の頂点にいる恵果阿闍梨からすべてを教えてもらおうという先人は数千人とおり、それらの順番を待っていたら20年ではとても習得できるものでもないし、恵果阿闍梨は高齢で果たして20年先も健在であるとは言えない。ではどうするか？東胡の沙門とはいえ、恵果阿闍梨の方から教えたいと言わせるようにすればよいのではないか？あの空海なら、と思わせれば20年もの時を経ずして密教の真髄を得られるかもしれない。そもそも、20年で日本に帰るための船がやってくるかどうかも怪しいのだ。空海が日本を出る時にすでに遣唐使廃止の検討がなされており、実際、20年先の時点では船はやってこないのだ。空海は日本にいる時にすでに唐語を学んでおり、唐の人と変わらぬくらい流暢に会話もできたし、文章（漢語）も優れ、書も一流であった。梵語もある程度は学んでいるが、経典に書かれているものだけでなく、その原語まで通暁し、より深い理解をしなければならないので、日常会話などの細かいところは長安で学ぶしかなかった。とはいえ、長安に来るまでに空海の宗教的な思索は深いところまで来ており、それでいて人を誑かすというか、人懐っこいというか、いつの間にかするりと人の内側に入り込んでいるような不思議なところがある。この空海の文章力や書の力で嵐によって漂流し、地方の港に留め置かれて長安に向かうこともできなくなっていた遣唐使の一行があっさり、まさしく手のひらを返したように好待遇で先に進めるようになったりもした。その一行が長安の手前、東都と言われる洛陽で不思議な手妻を使うものに会う。幻術によって瞬く間に瓜がなるというものである。空海はそれが幻術であることを見抜くが、見抜いたことでその術師に悪戯をされたりもした。その術師・丹翁が後に空海が巻き込まれることになる、皇帝を巡る陰謀に関わっているなど、この時は知る由もなかった…てな感じで空海は「あの空海」と人に言われるようなことをして密教を頂いて日本に帰ろうと思い、あれこれあやかしを解決したりしながら長安に入るわけです。その長安では時の皇帝が崩御し、その皇太子もまた卒中で倒れるということが起きており、それを予言するようなあやかしが起きていたりした。様々なあやかしが深い恩讐の果てにあることなど知らず、細々とした事件にかかわるうちに空海もまたこの陰謀に関わっていくことになります。その根っこにあるのが、空海が長安に来た時からほぼ50年前の玄宗皇帝と楊貴妃に関わるものらしいことが分かってきて…まぁ、「陰陽師」が好きな人であればいろいろな呪術合戦なども楽しめるんじゃないでしょうか？一方で白楽天も出てきてあの「長恨歌」が生み出されようという姿も描かれたりします。それらが絡み合い、紡がれていくのを見るだけでもケッコウ楽しめます。上にも書いたように17年もの時が書き始めから経ているなんてことを読んでいる時は全く感じませんでしたが、それだけの時が経ることで物語に深みが出たのではないかって気もします。これはあくまでもフィクションでしょうが、こういう歴史事実が実際にあったのではないかって思うような出来上がりじゃないですかね？＜褒め過ぎ？　まぁ、お時間があって「陰陽師」などがお嫌いでない人にはお勧めですね(^o^)丿

  2008年03月24日

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• いいひと。

  ツーことで、高橋しん「いいひと。」（小学館、全26巻）です。これは以前テレビドラマにもなったことがありますが、その当時は全く興味がなく、先日「お籠り」した時に何気に読み始めてはまってしまっちゃいました(^^ゞ　高橋しんというと「最終兵器彼女」という突飛だけどほろりとする作品を以前読んだことがあり、どんなのかなって思ったんですが、ケッコウ考えさせられることも多かったですね。北野優二は北海道に住む走ることが好きな大学生。この走ることで感じる幸せを一人でも多くの人に感じでもらいたいとスポーツメーカー大手のライテックスに就職しようと思い、面接のために東京に向かうはずが、飛行機の時間も忘れて迷子の女の子の親を探してしまう。たまたまこの女の子の母親がチケットを譲ってくれたので東京に向かうことはできたが、急いでいる若い女性にタクシーを譲ったら自分のタクシーは渋滞にはまり、面接の時間に遅れてしまう。実はこのタクシーを譲った相手というのが面接官だったんですが、優二は全く気付かずに遅刻した言い訳など全くしなかった。面接をした人事部長の城山は部下がタクシーを譲ってもらったからなどということも知らずに優二を帰してしまうが、家に帰ってみれば娘が北海道で迷子の孫を助けてくれた青年について語り、母親が親切にしてくれた青年について語り、それがいずれも優二でそれゆえに遅刻したのだということに気づく。とてつもなくいい人。そんな優二はいい人ゆえになにかあるたびに他人に親切にして遅刻してしまう。なのになぜか、あるいはそれゆえにライテックスの中で光を放つ存在へとなっていく…大雑把に書くと上の通りなんですが、優二は尋常のいい人じゃないように思うんですよね。一人でも多くの人に幸せになってもらいたいがために奮闘するけど、それはそれまでに常識からは大きく逸脱するものだったりします。親切にしたのがたまたま関係者だったなんてのはご都合主義だって気もしますが、それが別に気にならないくらいの誠実さですから、なんとも言えませんね。社長や副社長相手にそれが誰かも知らないで親切にして、それでどうこうということを全く考えず、しかもその親切にした相手に媚を売るのでなくむしろ同じ人間として当たり前のように言葉を交わすわけです。偉い人にこんな口をきいちゃいけないってことが全くありません。仕事についても何も知らずに体当りですが、その底しれぬ「いい人」パワーで苦境を乗り切ってしまったりします。けど、当人はそれがどうってことでもないようにしか思っていません。関わりあった人たちからすればそれまでの自分とは違う新しい自分に気づく契機になったわけで、もの凄く感謝しているわけですが、優二は飄々と次の場所へと言ってしまうんですよね。規格外の異分子が紛れ込むことで活性化していく過程を描いていると言えば一言で終わってしまいますが、この一言ではとても言い表せないって感じですね。こういう規格外の存在がいれば人は変わりやすいけど、こういう存在がない時に人は変われるのかってふと考えたら、ちょいと怖くなりましたね。先日継続だけじゃダメだってことも書きましたが、継続を打ち破るパワーってのは継続の中に身を置いている間は無理なんじゃないかって気がしたんですよね。異分子もまた異分子であり続けるには継続の波にのまれちゃダメなんですよね。継続の中にいたら異分子もまた当たり前になっちゃうんでしょうね。そして受け止める方もそれなりの覚悟がないとダメなんでしょうね。どうしようもない状況だから異分子を受け入れ、どうにかしようとあがいただけかもしれません。現状に満足しているところでは異分子は単なる異分子として拒絶され、排除されるだけなんですよね。つまり、平時とそうでない時では求められるものが違うってことなんでしょうか。だから平時に乱を求めるようなことはいけないし、危急の時に安逸を貪ろうとしちゃアカンでしょうね。まぁ、あっしも鬼っ子っぽいところがあるだけに他人事のような気がしなかったのかもしれませんが、傍から見ると物凄くハラハラするもんなんですね(^^ゞ　そういうところは自戒しなきゃって思いましたね(^^ゞで、あっしが感じたのは優二はいい人なのかってことですね。一人でも多くの人に幸せになってもらうためにはいい人ではいられない。滅私奉公というけど、大いなる滅私奉公のためにはスクラップアンドビルドが必要であるし、コペルニクス的転換も必要でしょう。時には自分が責任を負えないという苦しみを味わうこともあるだろうし、それでも最後は自分が責任を取るという覚悟も必要でしょう。そのためにも責任を取るにふさわしい地位にならないといけない…　別に地位とかそういうものが欲しいからでなく、自分の目標のためには地位が必要だからやむをえないってのはもの凄く共感しましたね。ペーペーのうちはついついこういうことを考え、いざ上に言ってみるとやりたいこと以外のことが増えすぎて身動きできなくなるんですよね。だから初心に戻ってなどと思うのかもしれませんね。まぁ、あれこれ感じたこともありますが、あっし自身はいい人じゃないという自覚があるから、あっしに近い感じすらする優二がいい人だと感じられないのか、あまりの規格外さにいい人だと思えないのかは悩むところですが、ケッコウボリュームもありますけどお時間の許す方は読んでみてはいかがでしょうか(^o^)丿

  2008年03月12日

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• オレの子ですか？

  ツーことで、先日「お籠り」してて面白そうなもの物色して棚を見て回った時、小学館のところになぜか混じっていたのが、くりた陸「オレの子ですか？」（講談社コミック：全5巻）です。何気に元の場所に返そうとしたらそこが別のでいっぱいになっていて、なんだかなぁって思ったのもあるけど、5冊と読むのに手頃でしかも完結しているものだからってことで読んでみたら、物凄く考えさせられることがあれこれ取り上げられていました。「その位置でタバコをもつのをやめてもらえませんか？」二十歳の大学生の永井潤はデートの最中に見知らぬ女性からそう言われた。ちょっと野暮ったいけど磨けば光るような女性に言われた言葉の意味が分からずキョトンとしていると「その位置は子供の眼の高さなので危ない」と言われ、それまで考えたこともなかったので、そんなものかと納得して煙草を踏み消した。連れの女性はいきなり文句を言われたことにむっとしていたけど、潤はそんなにむっとはしていなかった。潤はそれなりのルックスと明るいキャラもあり、12歳で初体験を済ませた後はほとんど入れ食いというか、とっかえひっかえ遊びまくっていた。もちろん相手もわかった上で遊んでいたのだが、ある日、部屋の前に赤ん坊が置き去りにされていた。潤の子供だけど育てきれないので引き取ってくれというのだ。身に覚えがありすぎる潤としてはこの赤ん坊が自分の子供かどうかも分からないし、だから、警察に届けてもここがはっきりしないと対応の仕方も違うからはっきりさせてほしいといわれて門前払いとなる。たまたま大学の友人の家が保育園をやっており、ゼロ歳保育を始めるからとりあえず潜り込ませてくれることになった。その保育園の保育師は何と潤にたばこのことを注意した女性だった…まぁ、これ以上はネタバレになるんで触れませんが、子どもなんか大嫌いだという遊び人がすったもんだして苦労した揚句「パパ」として自覚していくって感じでしょうか。子供を取り巻く環境としてケッコウ重い題材が取り扱われていますが、主人公の潤がその重さから救ってくれているというか、女性が主人公だと重すぎて大変だったかもしれません。間違った性知識に基づいて自分の快楽だけを優先してそれですむ話ではありません。そこに快楽があるのはその後の妊娠、出産、育児という苦難の連続にひるまずに進むための呼び水なんですよね。直接の苦しみと無縁な男性は基本的に無責任で、後先考えずに快楽を求め、それに流されてしまった女性が妊娠してそれを告げられた時に大概は「俺の子供なのか？」という酷い言葉を投げつける。気持ちよさ以外はいらない、気持ちよさの結果への責任など全く考えていない、それを突き付けられても逃げ切れると思うのが男性という生き物かもしれませんね。どんなに言葉巧みに愛を囁いても、その裏側では遊び以上のものがなかったりすることも少なくないので、女性の方がガードを厳しくしないと拙いってことかもしれません。経済的にどうにかできる裏付けがない場合はそれなりのことをするのが当然であり、きちんとしないような相手ならピシッと拒絶するくらいで丁度いいのかもしれませんね。でないと苦労するのは女性の方ですからね。「オレの子ですか？」の中では望まれない子供、あるいは自分が望まれていない子供だと思い込んで大人になった人物などが出てきます。人から愛されたこともなく、人を愛することも知らず、自分の子供だといわれても実感などなく、認知はするけど親として当たり前の子供が可愛いという気持ちすら抱けない…　実際にそこに愛があると思い、結婚して家庭を築いてもそれが永続するのは容易なことじゃありません。ほんのちょっとしたことから心が通わなくなり、家庭が崩壊してしまうことも少なくありません。あるいは妊娠出産しても結婚に至らないようなこともあります。その結果である母子家庭は都内だけで11万件もあるとか。母子家庭は経済的に苦しく、小さい子供を預けて働くことでさえ容易じゃありません。子供が病気だと保育所では預かってもらえず、仕事を休めば収入も減る。それがわかるから子供も我慢する。小児科医が減っているからその質も低下するし、いざという時に診てくれる医師も少なく、手遅れになることも少なくない。命が失われてもそれで何かが変わるわけでもない。経済的に追い詰められてイライラしているのに子供が言うこときかずについつい手を挙げてしまうことも起きる。これがエスカレートすれば「虐待」と呼ばれるようになる。子供のことを愛しているのに「虐待」が止められない…　けど、それを周りが止めるのは容易じゃない。そして行くところまで行ってしまう…まぁ、小児科医不足、虐待、子供の不安、若すぎる妊娠、育児環境の未整備などなど考えされることが多いものでしたね。ちょっと複雑な潤を取り巻く環境の中で潤があれこれ考えつつも失敗してもめげても、挫けて立ち止まることだけはしない前向きさがまだ救われる感じです。けど、たまたま時間が空いて映画を見ただけでも保育所ではクレームが出たりするし、不注意で子供怪我させても虐待と疑われることがある。当人の思っていることと傍が感じ取るものには大きな開きがあるし、そこに怒りを感じてもどうしようもなかったりとか、重くならないで読めるものだから、これから大人になる人に男女を問わずに是非とも読んでもらいたい気持ちになりました。出来れば世のすべての男性がこれを読んで子育ての大変さを分かってもらいたい。政治家の人たちは必読して少子化対策の練り直しをしてくれたらなぁってとんでもないことさえも読みながら感じましたね。もちろん女性も機会があったら読んでみてくださいね(^o^)丿

  2008年02月02日

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• 地の日　天の海

  ツーことで、久々の「読書案内（？）」は内田康夫の「地の日　天の海」です。実はこれまだ出版されていません。ツーのは、先月まで新聞の夕刊に連載されていたものだからです。内田康夫といえば浅見光彦シリーズで有名なミステリー作家ですが、昨日の夕刊に連載当時のことについての記事が載っていたんですけど、それによると初めて歴史小説に挑んだのがこの「地の日　天の海」だそうです。あっしは歴史小説も読むほうですが、全く違和感なく読んでしまいました。江戸時代初期に「黒衣の宰相」と呼ばれ、政治的影響力を誇った天海大僧正。その天海がまだ隋風という一介の僧であった頃、生地の会津から比叡山へと向かっていた。その途次、美濃に差し掛かるころ、殺気立った集団に追われていたものをひそかに助けた。この集団は蜂須賀小六率いる川並衆で、そこから抜け出した服部半三というものを追っていたという。国境であったことから小六らは半三をあきらめて引き返した。その後隋風は道筋で人懐っこい針売りと会う。日吉という猿に似た男は尾張出身だが、出世の望みを抱いて駿河で奉公をしていたが、一生懸命さを同輩に煙たがれ、尾張との関係がきな臭くなってきたため、駿河から出奔してきたのだという。隋風はそんな日吉に藤吉郎と名乗ることを勧める。この日吉こそがのちに太閤となる秀吉なのであった。日吉改め藤吉郎は隋風と別れた後、川並衆と出会い、やがて信長に仕えることになっていく。旅を続ける隋風は明智庄というところで明智光秀と会う。聡明な光秀が美濃の覇権争いの中で助かる見込みのない戦いに赴くのを残念に思いつつも隋風は見送るしかなかった。隋風が会津から比叡山に向かい、比叡山で学んでいたのは織田信長が美濃の斎藤道三の娘・濃を娶ったのち、そろそろ駿河の今川が上洛を目指して尾張を蹂躙せんとしていた時期であり、道三が息子義龍との覇権争いになり始めたころである。また、室町幕府の将軍家が京都周辺の有力者によって首を挿げ替えられるくらい実力を失っていたころでもある。実は隋風は将軍家の御落胤であり、次の将軍の候補者の一人だったのであるが、そんな証拠はないと固辞したので、最後の将軍足利義昭が迎えられることになったとも言われている。この義昭の側近には美濃の動乱で死んだと思われていた光秀もいた。信長が機内の覇権を握っていく時代、隋風はその出自や見識、聡明さなどから秀吉や光秀のみならず、信長、家康、信玄などの武将らに招聘され、助言を求められるとともに仕官するよう請われたりもしたが、会津の芦名家のために働くのみで士官は断っていた。まぁ、大まかにはこういうような話で、芦名家の若様として生まれながら出家し、人が殺し合わないで済むような世の中を目指しつつも、戦国の世で苦悩する隋風の姿が描かれています。まぁ、ネタバレの一種でしょうが、この連載は本能寺の変の後の秀吉の大返しの辺りで終わっています。つまり、ようやく秀吉が政権を奪取しようかという辺りまでなので、隋風がどのようにして家康の側近として力を持つようになったかについては描かれていません。あっしとしてはこの辺りが物凄く楽しみだっただけに連載が終わって物凄くがっかりです。まぁ、新聞連載なのでいろいろな事情があるんだろうとは思いますが、昨日の記事でも内田康夫自身も「この先をもう少し書きたい」と書いていたので、どの辺りまでになるかは分かりませんが、きちんとした形で単行本になるのを待ちたいと思います。新聞の連載小説は「愛の流刑地」みたいに映画化されるものもありますが、一方で「なんでここで終わりなの？」というのも多いですね。朝刊の方は今北方謙三が書いていますが、ケッコウ面白いので毎朝楽しみにしてるんですが、その前のチンギス・ハーンのや「新リア王（だっけ？）」などは急に終わってしまいました。チンギス・ハーンの方はできれば中国征服辺りまでいってほしかったけど、地名やら人名やらが分かりにくいってのもあったし、仕方なかったのかもしれません。「新リア王（だっけ？）」の方は実は前提となる物語がすでに出版されているんですが、それについて全く知らずに読み始めたころはケッコウ辛かったように思います。で、どうにか慣れてきてこれからどうなるのかなってところで「続きは単行本で」とやられたからブチ切れそうになりましたね。いろいろな事情があるにしてもとりあえずは完結してほしいですよね。まぁ、連載途中で挿絵の「盗作」問題が起きてすったもんだしたこともあったし、仕方ないのかもしれませんが。夕刊の方は今月から篠田節子のが始まりましたが、あっしは篠田節子の本を読んだことがないので合うかどうかがちょいと心配ですが、毎日読んでいればどうにかなるもんでしょうね。ちなみに「地の日　天の海」の前にやっていた諸田玲子の「奸婦にあらず」は良かったですね。幕末のころ、井伊直弼がまだ家督相続もしない頃からそこに食い込み、誑かそうという役目を負って側女となったたかのお話ですが、これは新田次郎文学賞を受賞しています。これは最初からずっと読んでいたものですが、文庫になったら再読しようかと思っています。ツーことで、今日のはお勧めだけどすぐには読めないものですみません。けど、本になったら再読したいと思うものでもあります。早ければ年明けくらいには出るらしいので、記憶にとどめておいてくださいね。

  2007年10月04日

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• デーモン聖典（サクリード）

  ツーことで、久々の「読書案内（？）」は樹なつみの「デーモン聖典」（花とゆめコミックス・全11巻）です。樹なつみは「八雲立つ」からケッコウハマっている人で、超常的なものを扱ったりしてるから最後まで一気に読まないで途中で中断したりすると続きが気になっていけないので、「デーモン聖典」も完結までじっと我慢していました。で、数日前に最終巻が発行されたので一気読みしました。新婚旅行でフィンランドを訪れた礼奈（れな）はオーロラの舞う下でユニコーンの群れと遭遇する。礼奈がその中の一頭に触るとそのユニコーンは憧れの夭折したピアニスト、ミカ・ヴァラツカの姿に変わり、言葉もかわせるようになった。彼のことをミカと名付けた礼奈が振り向くと、そこにいるのはユニコーンの群れだけで夫をはじめとするツアー客などは着ていた服を残して消えていた。そんな事件が起きてから十数年後、礼奈の双子の娘であるりなともなは遠縁の忍に引き取られて暮らしていた。りなともなの姉妹は10歳の時に母を亡くし、孤児となっていたところを忍に引き取られて4年になるが、数年前から姉のりなは成長が逆行し始め、今では9歳児くらいにしか見えない。これは「逆行症候群（リターンシンドローム）」という人類不可知の病気で、十数年前から急増しており、忍も研究施設でこの病気について調査をしている。そう、りなを治すために頑張っているのだ。そんな3人の前に数年ぶりにミカが姿を現す。かつては礼奈や双子の姉妹と4人で暮らしていたのに礼奈が死んでからは姿を消していたのだ。そんなミカが双子の姉妹の前に姿を現したのはりなを救うためだという。ミカが言うには、ミカのような霊的存在と人とではあまりにも時間の流れが違うために下手に接触してしまうと瞬時に人の時間が逆行して消失してしまうのだ。ただ、稀に礼奈のように霊的存在と接触しても無事な人もいる。これはこの人が霊的存在の「鎖」となったためで、「鎖」をもった霊的存在はもはや他の人を逆行させることはないし、「鎖」の意向に逆らうこともできない。「鎖」になった人は他の霊的存在に触れても時間が逆行することもないし、その霊的存在の「鎖」になることも可能であるが、すでに「鎖」の関係にある霊的存在よりも高位の霊的存在でないと「鎖」になることはないという。りなともなは礼奈がミカと接触した時に「胎内接触」したため、「鎖」の素養を持つもなは何でもないが、「鎖」の素養を持たないりなは逆行し始めたのだ。この逆行を食い止めるにはミカよりも高位の霊的存在の「鎖」にもながなるしかないという。霊的存在は自分よりも低位の霊的存在のオーラを喰らって生きているので、ミカが自分のオーラを放出し、これを餌に高位の霊的存在を呼び出すことになった。そして出てきたのはヨハネの黙示録に出てくる獣（ビースト）という最高位クラスの霊的存在だった。すでに「鎖」の素養を発揮しているもなとはいえ、ビーストという霊的存在をつなぎとめるのは容易ではない。が、どうにかビーストをつなぎとめたところ、そこに現れたのは憧れのアイドル閨人（けいと）と瓜二つの奴だった。まさか閨人と呼ぶわけにもいかないのでもなはK2（ケーツー）と名付けた。このK2ことビーストは霊的存在としてはトップの赤龍（レッドドラゴン）に次ぐナンバー2の力を持ちながら何千億年と生きる霊的存在の中では生まれてまだ5000年という子供にすぎず、人についても霊的存在についても無知というか無垢で、オーラを放出して消滅しかかっているミカに自分のオーラを分け与えるという霊的存在としては自殺行為をしたりもする。そんな無邪気なK2やミカが加わって5人で暮らし始めることになったのだが、ひょんなことからK2の元となった閨人ともなやりなが関わることになり、そこにK2が……って感じだとドタバタになりそうな雰囲気ですが、そういうこともなく、話はシリアスに進みます。礼奈がミカと出会ったころから霊的存在の出現が増え、逆行症候群によって消失してしまう人も爆発的に増えている。世間的にはウィルス説などの流布によって真実は伏せられていたために却って不安が増大し、被害者の遺族などが非難のやり玉に挙げられたりしていた。一方、忍の異母兄弟であるヘルムートを頂点とする世界的な財閥の後押しする組織SMICでは逆行症候群の原因である霊的存在とそれを抑え込む「鎖」について掌握しており、「鎖」を用いて霊的存在を撲滅に追いやることを画策していた。それを知った忍はもなとりなの姉妹やK2、ミカなどをSMICからいかに隠し通すか苦慮していた。他方、グリフィンというケッコウ高位の霊的存在がミカと遭遇し、己の「鎖」を守るためにグリフィンがもなたちを襲わせるようなことも起きたりした。が、そもそもなぜ霊的存在は人と接触したがいるのか？それは「聖典」という存在が…まぁ、これ以上はかなりのネタバレになるので自粛しますが、いうなれば超常的な存在とのラブストーリーってことになるのかな？お伽話の異種婚ものとちょいと趣が違うのは、普通は異界のものの方がすべてを知っており、苦悩する姿を人は理解できずにいるって感じですけど、何分K2はまだ幼獣で何もよくわかっていない。一方もなの方はミカからあれこれ聞いて、苦悩したりするわけです。叶う恋、叶わぬ想い、それぞれが懸命に生きるがゆえにとんでもないことになったりもするわけで…　一方で、世界規模の人口爆発の問題がベースにあったりするように様々な問題が袋小路にはまりこんでにっちもさっちもいかない様も描いたりしています。劇的な解決策は非人道的だったりするし、かといって手をこまねいていれば事態はより深刻になっていく。こういうことをどう解決させるか、についてはこれからの課題というか、読者一人一人が考えることと答えは提示していない。ツーか、エンドマークのその後で解決することってことですかね？もちろん、いろいろな方策は示されていますが、それについて考えるってのも別の次元の楽しみ方かもしれませんね＜え？　まぁ、とにかくお勧めですので、お時間のある人は是非！(^o^)丿

  2007年09月10日

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• 連城訣

  ツーことで、金庸の「連城訣」（徳間文庫・上下巻）です。しばらく積読してたものですが、読み始めたら久々に耽読しちゃいました。お蔭で夕べは巡回パスしてしまったくらいです。上巻末にある訳者あとがきによるとこの「連城訣」は数ある金庸の作品の中で最も「読みやすい」長編小説らしい。というのは程よいボリュームで、膨大なキャラクターの数やサイドストーリーに悩まされることなく、最初から最後まで主人公の一人称で語られているので、武侠小説に馴染みのない人でも最後まで一気に読めるものだという。実際、あっしも途中で辞めることができずに最後まで読み通しちゃいました(^^ゞ　そしてもう一つ、金庸の作品の中で最も「主人公が惨い目にあう」ものらしい。殴られる蹴られるはホンの序の口、手指は切り落とされるわ脚は踏み折られるわ、挙句の果てには肩甲骨に穴を開けられ、そこに鎖を通される始末。肩甲骨を穿たれると健常者としての生活は望めず、武芸者として闘うことも不可能になるとか。更に盲目的な信頼を注いでいた師匠に裏切られ、愛してやまなかった恋人に背を向けられ、いわれのない蔑みに晒され、絶望的な孤独の中で心から死を願うところまで追い詰められるのです。このようなことは小説の中の話だろうと思っていたのですが、下巻末の作者あとがきで実はこれが金庸の幼いころの知り合いが似たような酷い目にあっており、九死に一生を得たことをモチーフにしていると書いてあった。20世紀前半にあった話では肩甲骨を穿つことはなかったらしいが、冤罪に嵌められた際に受けた暴行で背骨が曲がり、身体の右半分が盛り上がっていたとか。人は欲望ゆえにいくらでも非道になれるものなのですね…狄雲は揚子江南方の湘西の片田舎で師匠の戚長発とその娘・戚芳と暮していた。幼い頃からずっと兄妹のように暮していた戚芳とはともに武芸の鍛錬をしつつも、親しくしていた。そこに戚長発の兄弟子に当たる万震山から遣いが来て、狄雲ら三人は万震山のもとに行くことになる。都会の真ん中に大きな屋敷を構える万震山の祝いの席に闖入者が現れ、狄運は純朴さゆえにこれを撃退してしまうが、万震山の弟子らに逆恨みから袋叩きにあう。翌日再戦となった際に使った技のせいで万震山と戚長発が口論となり、戚長発が万震山を刺して姿をくらました。一方、賊に襲われている女性を助けに行った狄雲は逆に強盗の濡れ衣を着せられ、右手の五本を指を切り落とされた挙句、投獄される。投獄された狄雲は肩甲骨を穿たれ、そこに鎖を通され、それまで学んでいた武術などが一切ダメになってしまった。しかも、同じ獄にいた凶暴な男に殴る蹴るの暴行を受ける始末。3年が経ち、自分が投獄されたのは万震山の息子の万圭が戚芳を娶るために仕組んだ謀略で、すっかり騙されてしまった戚芳が万圭と結婚すると聞かされ、狄雲は世を儚み首を括って死のうとする。が、狄雲は死ななかった。同じ獄にいた凶暴な男が狄雲を助けたのだ。この男、丁典はとある秘密を知ってしまったがゆえに獄に繋がれていたのだ。その秘密というのは狄雲の師匠である戚長発らの師匠である梅念笙の秘匿していた「連城訣」に関るものだった。丁典はそれを知ってしまったためにその秘密を探るものたちに付け狙われるようになり、それらの追跡をかわしているうちに知り合った娘と恋仲になったが、その娘の父親に囚われ、獄に繋がれ、「連城訣」の秘密を明かすよう迫られていたらしい。丁典は頑として口を割らず、密かに梅念笙から受け継いだ内功の最高峰である「神照経」の修得に励んでいたのだ。そこに狄雲が放り込まれたのだが、丁典は当初狄雲を娘の父親の廻しものだと疑い、忌み嫌っていたのだが、狄雲が自殺を図ったのを見て疑いを解き、「神照経」を伝授する。内功の奥義である「神照経」は丁典でも修得に12年を要したので、狄雲が一朝一夕で修得できるものではない。狄雲が投獄されてから六度目の春が訪れた時、丁典の恋する娘が身罷った。それを知った丁典は狄雲とともに脱獄し、娘の柩に最後の別れをしようとするが、娘の柩には娘の父親によって毒が塗られており、それに触れた丁典は「神照経」の力で危地を脱したものの、やがて狄雲に看取られて絶命する。丁典は「連城訣」を自分と娘をともに弔ってくれたものに授けることにしており、これを約した狄雲に伝えようとするが、邪魔が入り、最後までは伝えることはできなかった。狄雲は途方にくれながらも、三つのことを心に誓う。師匠である戚長発の消息を掴むこと、丁典を娘とともに弔うこと、そして報復である。自分から戚芳を奪った万圭、丁典を屠った娘の父親。これらを果たすまでは死ねないと狄雲は決意したが、前途はまるで見通せず、とんでもない方向へと流されて行ってしまうのだった……ってことでケッコウ詳しく書いちゃいましたが、おおよそ6～7年の話なんですが、そのうちの5年間は獄中で、しかもほとんど話が動きません。人物紹介やあとがきなどから想像できる程度で留めたつもりですが、大丈夫かな？とにかく田舎暮らしの純朴な青年が周りの悪い奴らのせいでドンドン悲惨な目にあうわけです。田舎から都会に出てきて折角の新しい着物をダメにされたと怒っただけなのに逆恨みされたり、袋叩きにあった後、実は師匠が教えていたのは出鱈目だったと知らされたり、本当のことを言っても信じてもらえなかったり、賊から女性を守ろうとしたら逆に賊にされ、投獄された上に、戚芳には自分が裏切ったかのように思われてしまう。獄中では丁典から殴る蹴るの暴行を受けるし…　それでもなお生きていられたってことが不思議な感じです。丁典の境遇も悲惨なものがありますが、右手指を失い、肩甲骨を穿たれて武芸を失い、「神照経」も修得できておらず、武芸者に襲われたらひとたまりもない状態で狄雲は脱獄し、自由を得るんですが、却って獄中のほうが幸せだったかもしれないと思うような状況です。徒手空拳な上にドンドンドツボに嵌っていく。何度も挫けそうになるたびに丁典の願いを思い出しては踏みとどまるんです。それだけの重みがあるんですね。武侠小説を読むとその価値観のありように時折違和感を感じますが、この「連城訣」はそれが比較的少なかったように感じます。もちろん皆無って訳でなく、計略によって万圭の妻となり、娘を産んだ戚芳がことの真相を知った時に取った行動などはそうですね。なさぬ仲ではない夫や義父が実は父の仇であったと知ったなら普通はどうなんでしょう？真相を知らなかった時のことなどすべて吹っ飛んで仇を討とうとしませんか？仇は討ちたい、けど、ってことになるんでしょうか？ある意味貞淑な妻はこうあるべきってことなのかなとも感じましたがどうなんでしょう？戚芳の「選択」についてどう思うか、実際に読んでみてください＜おひ！　一気に最後まで行っちゃいますんで、お時間のある方は是非！

  2007年06月10日

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• シバトラ

  ツーことで、昨年くらいまで「クニミツの政」を描いていたコンビ、原作・安童夕馬、作画・朝基まさしで週刊少年マガジンに連載中の「シバトラ」に触れましょう。最初にタイトルを聞いた時には芝浦界隈のトラック野郎の話かと思ったんですが、まるっきり違いました(^^ゞ　まだコミックスも1巻だけ、まとまった話としては3つ目が終わったばかりなので、イントロダクション以上には触れようがありません。なのになぜ取り上げるのかは紹介の後で＜え？柴田竹虎と言う名前から連想するのはむさ苦しい大男か、マッチョな格闘家だろうと言うのはあっしだけだろうか？けど、この柴田竹虎はチビで物凄い童顔のため、気の弱い中坊（中学生）くらいにしか見えないので、ちょくちょくカツアゲにあったりする。しかし、れっきとした警察官（巡査）で、剣道日本一の腕前らしい。今ではチーマーなどの伝説となっている藤木小次郎とその一派に一人で挑んで叩き伏せ、更生させるのに成功し、今では小次郎から「命の恩人」のように思われている。また詳しくは語られていないが、竹虎はあることがきっかけであるものが「視える」らしい。「それ」はまるで死神の腕のようにあの世に連れ去ろうとしているようだ。竹虎は「それ」に捕まりそうな少年たちを救うべく少年課の刑事を目指している。そんな竹虎の周りで事件が発生して…というのがおおよその話です。あまりに可愛い容貌からか先輩の女性職員やら猫やらに纏わりつかれるばかりか、とある事件で関った少女などは竹虎の部屋に転がり込んでくる始末。見た目は少女のほうが姉にように見え、少女は押しかけ女房気取りで、おそらくは押しに弱いらしい竹虎はおたおたするばかりだ。けど、芯は強く、徹底して少年たちを信じる態度が頑なだった少年たちの心を解すことになったりする。あまりにも熱心な姿はコミカルだが、その根っこまで覗き込んだことがあるらしい小次郎は静かに見つめるだけだ。竹虎はその容貌ゆえに中学校に潜入捜査をしたりもするが、それが教育実習生とか教師でなく、中学生としてで、しかも全く違和感がないというのは笑えます。ところで、この「シバトラ」を取り上げたのは、この竹虎のようにキチンと子どものことを見ているのだろうかってことですね。先日少年法がまた改正されたらしく、少年院に送致される年齢が12歳が目途となり、下手をすれば小学生でも少年院に送られたりすることになった。また、法律で罰せられない「触法少年」についての捜査も行えるようになったらしい。子は親のために隠し、親は子の為に隠すとか言いますが、ことの善悪すらわからない子供についてまで罰を与えるのはどうかって気がします。もちろん、被害を受けた人のことを考えるならば、保護者が賠償責任を負うのは当然ですが、それすらも逃れるために捜査拒否していたのだとするなら情けないというか…あっしはそもそも刑罰として「牢屋に入るだけ」というのはどんなものかって思っています。ハンムラビ法典みたいに目には目をとは言いませんが、最低限失われたものを賠償させるべきではないでしょうか？刑事罰と民事賠償は別だといわれるかもしれませんが、裁判で決まるのは社会的制裁のみで、被害者への賠償は一切含まれません。賠償能力がないこともありえますが、懲役刑に処すならその間に得たお金を賠償に充てさせたりすべきじゃないのかな？死刑になったら遺族の気持ちは晴れるかもしれないけど、失われたものへの賠償は全くなされないことになる。もっとおかしいのは「心神喪失」や「心神耗弱」などの責任能力がない場合ですね。例えば泥酔して行った行為は「心神耗弱」で責任を負わないでよいのか？あるいは少年などの無分別な存在が犯した場合はどうなのか？これらはすべて社会的制裁としての刑罰が免れたとしても、民事上の賠償責任は免れないとすべきですよね？上で触れた少年法の改正で言うなら少年院に入れる年齢を下げるよりも触法行為で失われたものの賠償を保護者に課すくらいのことで十分じゃないのかな？この少年が成人に達した時に保護者とともに賠償責任も負うようにすれば良いだけじゃないのかな？返済能力がない場合にはそれ相応の場所に入ってもらってそこで強制的に働いてもらい、それでしっかり賠償してもらうことで再犯もかなりの割合で防げるんじゃないでしょうか？責任がないから何をしても良いと言うのではなく、責任が取れないのだから相応のこと以外はしてはイケないんだってことを学ばせるには少年院よりも将来の返済義務のほうじゃないのかな？奪ったモノは奪われるように世の中はできていますからね。つまり、刑務所でいくら長い年月を過ごしたからといって更生できるとは限らないし、むしろ犯罪を犯すことで負った「借金」を返済し続けるほうがナンボもマシのような気がします。この辺りは国などが賠償金を肩代わりし、後に加害者から徴収する形にすればいいわけです。徴収漏れをなくすためにＧＰＳ機能つきのＩＣチップを外せないように身につけさせるとか、やり方はいくらでもあると思います。基本は罪を繰り返し犯させないこと、被害者の失われたものを償うことで、少年院や刑務所に叩き込むのが目的じゃないと思うんですよね。まぁ、再犯の危険性が高い場合には少年院や刑務所での「教育（矯正）」が必要かもしれませんが、どんなものでしょう？

  2007年06月04日

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• 財前丈太郎

  ツーことで、今日は原作：北芝健、作画：渡辺保裕「内閣権力犯罪強制取締官財前丈太郎」（バンチコミック・全17巻）です。一応「第1部完」となっているけど、続きはまだ書かれていないようですね。3年ほど前に殉職したはずの警察官・財前丈太郎が世界でも有数の大金持ちでないと持てないザイナーズのゴールドブラックカードを手に、内閣権力犯罪強制取締官として権力を背景にして殆んど摘発されないような犯罪・「権力犯罪」を暴いていくというお話です。権力の中枢にあることで警察などに圧力をかけ、曖昧なまま捜査を打ち切らせたりするのが通例な犯罪に対し、一切のタブーなしに摘発を図る財前丈太郎たちと、これと真っ向から対立し、すべてを闇に葬ってしまおうとする連中との闘いになります。あらすじというとこんなものと言っては怒られそうですが、政治家、官僚、財界人、政商、○クザなど、犯罪をなかったことにしようとする連中と闘うわけですから、策謀や暴力の応酬となります。内閣の下にある部局でありながらその長である首相すらも捜査の対象とし、時には摘発することもあるという内閣権力犯罪強制取締室（通称：内権）は構造汚職に対する尻抜け的な組織ということで設立したつもりの政治家たちは聖域なしに切り込んでくる内権に圧力をかけようとするが失敗する。まぁ、筋は全部読んでもらったほうがわかりやすいと思いますが、この漫画の特徴は一部の登場人物が芸能人や政治家、著名人などの似顔絵になっており、人名も実在の人物の名前をもじったりしている。そういった意味でなぜこの名前でこの顔なのかとか考えながら読むという楽しみもあります。が、残念ながらこういうコミックにありがちなように風呂敷を広げすぎ、これをたたむことができないうちに完結する羽目に陥っています。ゼネコン汚職と政治の黒幕およびその走狗である○クザたちとの闘いのうちは良かったのですが、支配階級のクラン（血族）だとか、権力構造の再構築を目指している一派だとかと三つ巴の闘いになりそうになったらいきなり「外国勢力」が出てきてこれから日本を守るのどうのという話になって、「権力犯罪」そのものから話がずれ、クランなどとの対立に踏み込まないままの完結です。正直な話、不完全燃焼での決着ですから、できればキレイに決着をつけて欲しい気持ちもあります。とはいえ、雑誌連載の場合は余程の名前のある作家でもない限りは読者からの評価：人気がない作品はあっさり打ち切られますから、もう少しどうにかなるだろうという情けない終わり方をしてる作品って多いですよね？一方で、人気があるために終われなくて、却ってダメになるという作品もありますし、難しいところですね。ところで、登場の仕方はまるで「富豪刑事」でやることは「新宿鮫」だったりする財前丈太郎ですが、こういうスーパーヒーロー的な存在はカタルシスになりますね。もちろん、こういう存在などありえないからむちゃくちゃなことをしてもケッコウ許せちゃうものです。ツーか、こういうのが許せちゃうくらい世の中がダメなのかなってことかもしれませんね。上からの圧力で捜査が明後日の方向に向いたり、下手すれば打ち切りやお宮入りになるのがよくあるようにフィクションでも描かれていますから、それに屈せずに突き進むのには快哉を叫びたくなります。が、上に屈さないために上の違法行為を立件しないこと、いわゆる司法取引の一種ですが、巨悪をのさばらせないためにちっちゃな悪は大目に見るというのはどうなんだろうと思います。それが権力を利用したパワハラやセクハラだったりすると余計ですね。相手の弱みを握って思いのままに動かすのも一種の「権力犯罪」と言えなくもありません。まぁ、他にもイロイロ突っ込みどころも満載ですが＜おひ！話がずれちゃいましたが、今の世の中で本気の正義があったらどうなんだろうって思います。これがないから内閣権力犯罪強制取締官なんてのを創作したり、あるいは仕掛人みたいな闇で報復するような存在に期待したりするんでしょうね。そういった意味で財前丈太郎という存在はフィクションとして面白いものだろうとは思ったんですが、それだけに作品全体が明後日の方向に行ってしまったのが残念ですし、それゆえの「打ち切り」もそうですね。キチンと練り直した上での「第二部」ができるのであれば読んでみたいですね。

  2007年05月27日

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• 日本沈没

  ツーことで、ビックコミックスピリッツで連載中で先月コミックスの6巻が出た小松左京原作・一色登希彦「日本沈没」について触れます。これは昨年だかに映画化されたもののコミック化らしく、あっしが子供の頃に映画化されて話題になった「日本沈没」とは違うもののようです。あっしは原作はもちろん、連載のほうも読んでいませんし、連載が終わっていない作品を取り上げるのはあまり好きじゃないんですが、今回読んだ6巻が衝撃的だったので触れずにはいられなくなったって感じですね。この先どうなるかというのもありますが、日本各地で異常な現象が起きており、それが大規模災害になりながらもその予測を公表することもままならないまま、ついに東京を直下型地震が襲うことになる。この6巻はこの地震が東京にどのような被害をもたらすかをかなりリアルに描いています。その規模が今日語られている被害シミュレーションとは桁違いなことに度肝を抜かれましたが、それが決して誇張でないとしたら…この「日本沈没」はやたら専門用語の入った長いセリフが多いんですが、この6巻はコミックなのか挿絵入りの本なのかわからなくなるくらい説明のための文章が入っています。その一つ一つは覚えていないし、実際に自分で読んでみないことには単なる大風呂敷であるようにしか思えないので、細かいことについては実物を読んで貰うしかありません。で、ここで何について触れるかというと、もしも東京を直下型の大規模地震が襲ったとしたらどれくらいの被害になるかってことですね。阪神淡路大震災で5000人以上もの犠牲者が出ており、今公表されているシミュレーションでは1～2万人程度の犠牲者が出るだろうといわれています。この「日本沈没」では地震の規模自体が違うかもしれませんが、500万人以上の犠牲者が出るとしています。ちなみにおよそ80年前の関東大震災では15万人くらいに犠牲者が出たといわれています。この数字のバラつきは一体どう言うものなのでしょう？昼飯時で多くの人が火を使っていた関東大震災と、夜明け前でほとんどの人が寝静まっていた阪神淡路大震災ではこれくらいの規模の違いが出ても当然なのかもしれません。とすると、多くの人が起きて活動している時間帯に大地震が襲ったら、「日本沈没」の500万人はオーバーだとしても、数十万人単位で犠牲者が出てもおかしくないと言えるのではないでしょうか？あっしは地震については門外漢で、それがどういうメカニズムで発生し、その際にどのような影響が出るのかは全くわかりません。爆発的なエネルギーが噴出することでその際にコンピュータに悪影響を及ぼす電磁波が発生していたら、運転制御の多くをコンピュータに委ねている乗り物はどうなるのでしょうか？ホンの数秒から数十秒運転の制御ができなくなっただけで多くの乗り物が「動く棺桶」になりかねません。飛行機の場合なら離着陸の際に制御を失ってそのまま構築物に激突したらまるで「9.11」の再現のように数百人、数千人の犠牲者が生まれるでしょう。管制塔が沈黙することで、あるいは混乱することで別の空港に向かえないまま墜落する危険性も皆無とはいえません。電車の場合は大規模地震発生とともに送電を停止して電車を止めるのでしょうけど、すべての電車が脱線もせず、前の電車に衝突することもなく停止することができるのでしょうか？制御ができなくなって脱線したり、前の電車に衝突したりしたら数百人単位の人が犠牲になりかねません。ラッシュ時でホームから振り落とされた人を電車が跳ね飛ばす危険性もないとは言えません。高速道路を時速100ｋｍ前後で走っている自動車の場合はホンの数秒制御不能になっただけで周りの車と衝突したり、隔壁に激突して炎上することもありえます。仮にそれが燃料運搬車だったら…　相当に恐ろしいことになりそうですね。地震で恐ろしいのは火災です。電気の途絶で信号が使用不可能になった状態では緊急車両は動きようがありません。一旦火が出てしまったら自分たちで消さない限りは消し止められません。倒壊した建物などで火が出てしまったら消火する術はないでしょう。とにかく火から遠ざかるしかありません。しかし、火が風を呼び、風が火を広げる役目を果たし、逃げ場所を誤ると焼け死ぬしかありません。また、地震による津波が襲ったらこれまた甚大な被害となるでしょう。こういった地震が巻き起こす暗闇や流言蜚語の類に惑わされた人々の行動が非人間的な行動を取らせたりする。自衛のために全く罪のない人々をスケープゴートにして鬱憤晴らしをしたりする。関東大震災の時の朝鮮人虐殺みたいなことも再現されたりするのでしょう。ヒステリーがパニックによって昂進され、理性が失われてしまう。あるいは厭世的な気分から暴走してしまう人も出てしまうでしょう。「日本沈没」6巻に描かれていることが誇張だと言い切れるでしょうか？東京という人間関係の希薄な、自分さえ良ければいいんだという風潮が強い場所でパニック状態になった時に「まともでない」行為がまかり通ることはママあるでしょう。実際の犠牲者の数自体はおそらく一ケタ多いものだとするならばほぼ妥当なものと言えるのではないでしょうか。というよりも、あっしの頭が「日本沈没」の数字を拒絶してるからこういうだけであり、昨今のシミュレーションよりはまだ実相に近いものだろうという気がします。夜明け前のほとんどの人が寝静まっている時間ならこのシミュレーションくらいの犠牲で済むかもしれません。が、多くの人が活発に活動している時間帯なら桁違いに多い犠牲が出るかもしれません。けど、自分はそんな犠牲者になるということを頭から放り出して人々はこの東京に住んでいる。その危うさへの警鐘を笑い飛ばすことはできないでしょう。地震そのものよりも地震に対する我々のありようこそが恐ろしいものだと感じるものでしたね。心に余裕のある方はちょいと読んでみてくださいね。

  2007年05月22日

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• デセプション・ポイント

  ツーことで、ダン・ブラウン「デセプション・ポイント」（上下巻・角川文庫）を読みました。「ダ・ヴィンチ・コード」「天使と悪魔」に続いて文庫化されたんで読んだんですが、前二つがラングドンによる謎解き＆パリやローマの観光案内（？）だったのとは趣の違う作品です。ちなみにダン・ブラウンのデビュー作は「パズル・パレス」でこれはまだ文庫化されていません。この「パズル・パレス」もラングドンシリーズとは違うタッチらしいのですが、文庫化されるまで我慢です。で、タイトルの「デセプション・ポイント」ですが、訳者あとがきによれば「欺瞞の極点」と言うことらしい。「政界における権力の極点とも呼ぶべきワシントンと、文字通り地球の北の極点…このふたつを主舞台として、欺瞞と欲望に満ちた人間模様が繰りひろげられる、重厚ながらスピード感あふれるポリティカル・スリラーである」（訳者あとがきより引用）レイチェル・セクストンは国家偵察局（ＮＲＯ）で機密情報を要約してホワイトハウスに提出する職務についている。34歳の今まで結婚をしていないのは3年前に母親が事故で死んだことや上院議員である父親が大統領選挙で躍進しており、未来の大統領令嬢の夫君の座を狙う輩どもにうんざりしてたことがある。父親は外面はいいものの、母親に対しては不誠実で、浮気を繰り返しながらも一切尻尾をつかませず、母親が死んだ3年前の感謝祭の夜も本来なら家族で過ごすところを浮気をしていたために母親が事故に遭って死んだのだ。レイチェルはそんな父親が嫌いで、現職の大統領を下そうという父親が政府機関のひとつであるＮＲＯを辞めるように言って来たのを今朝も突っぱねたところだった。大統領とは直接会ったこともないんだから…そんな理由を挙げたばかりだというのに、ＮＲＯ局長にいきなり呼び出されたレイチェルは大統領が極秘に面会を求めてきてると言われ吃驚する。レイチェルの父親は、大統領が金食い虫のＮＡＳＡに湯水のように国民の税金をつぎ込み、それらが全く成果を挙げていないのだからそれらにつぎ込まれている予算を教育に廻すべきだとキャンペーンを張っており、譬え職務とはいえ、大統領と面会することは父親の選挙運動への何らかの陰謀ではないかと忠告されたものの、もともと父親に協力する気もないレイチェルは大統領との面会に肯う。そのころの大統領はレイチェルの父親の大攻勢に対してまるでやる気をなくしたのか、もはや匙を投げるのではないかとさえホワイトハウスの中でさえ噂されるような状態だった。しかし、実際には大統領選挙などどうでも構わないとさえ言いたくなるようなことに忙殺されていたのだった。レイチェルの父親が攻撃しているＮＡＳＡがとんでもない発見をし、それが間違いないものだということを証明するために民間の科学者を招集して確認させているのだという。詳細についてはＮＡＳＡ長官に聞いてほしいといわれたレイチェルはワシントンから3000マイル、北極圏へと運ばれてしまう。そこでＮＡＳＡ長官に会うが、長官は具体的なことは民間の科学者に聞けという。ＮＡＳＡとＮＲＯの関係は麗しくなく、しかもＮＡＳＡの予算削減を声高に叫ぶ大統領候補の娘に良い感情を抱けという方が無理なのだ。北極圏に集められた4人の科学者から話を聞いたレイチェルは愕然とした。北極圏の氷河の中からおよそ300年前に落ちた隕石が見つかったのだ。しかもその隕石には昆虫の化石が含まれているのだ。この昆虫は地球上の生物と共通点が多く、宇宙から飛来した隕石が地球上の生物の始祖であるという説を裏付ける証拠だという。200フィートもの氷に閉ざされた隕石が掘り出された。これまでＮＡＳＡが全く成果を挙げていなかった分野、地球外生物の発見をはじめとする様々な功績が公にされることになる。これはレイチェルの父親にとっては致命的なものとなるはずだった。レイチェルの父親の個人秘書を務めるガブリエール・アッシュは選挙参謀の一人として主にＮＡＳＡに関する情報を収集していた。まだ24歳の彼女は生真面目で、セクストン上院議員の手管で関係を持ってしまったことを後悔していた。たった一度の過ちだが、それがどこからかリークされたとき、上院議員は事実無根だと反論し、大統領の方が謝罪するという一幕もあったくらいだ。家族を大事にするという外面の裏には女色があることを知りつつもその政治理念に信服して上院議員のそばにいるのだが、どうも上手く行きすぎているような気がする。防戦一方の大統領がテレビ討論に大統領上級顧問で見栄えが全くよくないマージョリー・テンチを送り出してきたとき、嫌な予感がした。討論で上院議員はテンチをやり込めたように見えたが、テンチはむしろしてやったりという表情をしてたような気がするのだ。一方、上院議員もなにやらガブリエールに内緒の行動をしているようだ。疑惑がその芽を出しかけた頃、ガブリエールはＮＡＳＡに関する情報提供者から面会を求められた。それまで一方的に情報を送ってくるだけで全く姿を現さず、連絡の取りようもなかった人物が面会の場所として指定してきたのはホワイトハウスの前だった。北極圏では前代未聞の大発見の発表を目前として沸き立っていた。地球外の生物の実在が確認され、それが地球の生物の始祖らしいということ、これらの発見は金食い虫だと非難されていたＮＡＳＡの極軌道型密度走査衛星（ＰＯＤＳ）によってされたことなど、どれをとってもＮＡＳＡにとって失地挽回となることである。が、その喜びに沸き立つＮＡＳＡの職員とは別に民間科学者の一人、古生物学者のウェイリー・ミンは隕石を掘り出した後の穴の中に不思議なものを見ていた。とてもありえないものだ。ミンはそのサンプルを取ろうとした。が、事態をじっと見つめていたデルタ・フォースと呼ばれる特殊部隊の一員はありえないことを明らかにされるのを阻止すべく動いた。そしてミンは穴の中に落ち、助けを求めることもできずに死んだ。けれども、ありえないことに気付いたのはミンだけではなかった。残りの3人の科学者とレイチェルたちはその謎を解こうとするが、デルタ・フォースがこれを阻むべく動き出していた。…ということで、政治と科学の謎というものを巡ってワシントンと北極圏でハラハラドキドキの連続です。あまり踏み込んで書くとネタバレになっちゃうので書けませんが、地球外生物についてはいわゆるＵＦＯなどが実は最新技術の秘密実験を民間人が垣間見ただけのものである、というのがアメリカの情報機関では常識であり、一般に実用化されていない技術は既に秘密裏に実用化されているものだ。このような機密を要約してホワイトハウスに提出するのが任務のレイチェルはいろいろなことを知っており、それゆえにデルタ・フォースに襲われた時に絶望的な気分になったりします。わけのわからないものに襲われるのも恐怖ですが、逃れようもないものに襲われるのはもっと恐ろしい気がしますし、臨場感も増してきます。こうしたことの黒幕は誰か？ちなみにあっしは黒幕の正体、外しました。すっかり騙されたわけです。あっしがどうして騙されたとかはネタバレになるので書けません。で、まだ「デセプション・ポイント」を読んでいない皆さんにはチャンスがあります。あっしが騙された黒幕の正体を当ててみて下さい。とにかく一気に読めちゃいますんで、お時間のある方は是非！

  2006年10月31日

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