開花※フィクションです
いっそ消えてなくなりたいって思ったのはいつからだっけ。私はなぜここにいるのだろうと何度思ったことだろう。両親はいない。母親は私を産んで、私にサクラという名前を付けてくれて、ほどなく亡くなったそうだ。太陽のように明るく朗らかな人だったらしい。誰とでも仲良くなって、皆を楽しませていたから、不治の病に侵されてるなんて誰も気づかなかったそうだ。父親は普通の人だった。最愛の妻を亡くして、男手ひとつで私を育てようと努力したけど、そう簡単なことじゃない。いつしか家の中から父親が消えていた。なぜかは知らない。そして私は施設に預けられた。施設で私は一人ぼっちだった。なぜか私を遠巻きにしてみてるだけだった。だから、私は一人で本を読みふけっていた。本を読んでいる時だけが楽しかった。けど、そういう時は長く続かず、私は施設を転々とすることになった。送り出す側は何かに怯えているような表情だった。なぜそんな目で見られるのかわからなかった。小学校でも中学校でもそうだった。転校することになると皆一様にほっとした表情をしていた。ただ、成績だけは良かったのでこの高校に特待生で入ることができた。ただ、噂だけはついて回ってきた。サクラには近づくな、というものだ。ただ、そういう噂があれば度胸試しのようにちょっかいを出してくるものが出てくる。そんなのは迷信だと笑い飛ばそうとし、実際にそうなった。私にちょっかいを出しても何も起こらなかったのだ。中学校の頃の私を知る生徒は最初は訝しみ、やがて私を虐めのターゲットにした。報復だと言っているらしい。なぜそんなことを言われるのかわからない。私の知らないところで何かあったのだろうか。そんな私を見てさらに苛立ち、虐めがエスカレートしていく。虐めはあからさまなものではない。傍からは私が酷い目に遭ってるように見えないように、教師などがいる時は普通に接したりもする。むしろ私がいろいろ周りに迷惑かけているように見せている。何もしていないのに、私がいきなり酷いことをしたと教師に泣き付き、目撃者たちが一斉に私の非を詰る。私はやっていないと訴えるが、誰も信じてくれない。言い逃れをしているだけだと決めつける。中学校の頃の噂に尾鰭がついて、私が素行不良だったと教師に吹き込む者さえもいたのだ。私は孤立した。授業は真面目に受けるし、成績は常にトップクラスだから、何か処分されることはなかったが、それが気に入らないのか、虐めはエスカレートしていった。とても大切だと言われてる彫像に赤いペンキがぶちまけられていた。これは許されないことだろう。そしてこれも私がやったことにされるのだろう。そのためにやったのだから、私に何かできることもない。私がいるからこんなことが起きる。私がいなければこんなことしなかったのかな?全部私が悪いのかな?誰も私の言うことなど信じないし、私に罰を与えられれば、私を追い出せればそれでいいのだろう。私さえいなければ…どうすればいいんだろう。特待生なのにこの学校を退学になったらもうどこにも行く場所はない。奨学金も返せと言われるだろう。まだ16歳では働くことも容易じゃない。いっそこのまま消えてなくなったら… 父親がそうなったように私もそうなっても構わないよね?もうここも見納めかな……まだ諦めちゃダメだよ何かが頭の中で明滅してる。すっと滑り込んできたのは懐かしい香り。暖かく包み込んでくれるぬくもり。ひび割れていた私の心に何かがしみ込んで穏やかな気持ちになる。改めて考えてみる。誰がやったのかは知ってる。やったという証拠がないだけだ。彼女もやってしまったことに後ろめたさはあるだろう。直接話してみればどうにかなるだろう。私は走り出した。彼女を見つけた。じっと見つめた。まだ虚勢を張ってる。私は手を挙げた。彼女は急に怯えだし、許しを乞うように泣き出した。私は不思議なものを見るように崩れ落ちた彼女を見つめていた。何が起きたのかはいまだにわからない。私の周りには不思議なことが起きる。それがまた起きたのだろうか?それも含めて私なんだと思うしかない。もう下を向いて諦めるんじゃなく、前を向いて歩いていくしかないんだ。こんな私なんだと受け入れて。