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「逃げてって、あんたは・・・・・・」
「ぼくは男の子だから大丈夫だよ! 早く!」
「何言ってるの! 今は子供の誘拐に男の子も女の子もないんだから! あんたも一緒に逃げなきゃ」
ミツル達が言い合っている間に、男がむくりと起き上がった。
「ちょっとちょっと、きみ達、何を言ってるんだい?」
イタタとお尻を掻きながら、男がミツル達の方へ寄ってくる。ミツルは咄嗟に男に飛び掛って、お姉ちゃんに近づかせないようにした。
「ミツル!」
生温かい風を切り裂くようなお姉ちゃんの悲鳴が上がった。
「おじさん、子供を連れて行く悪い人なんだろ! 連れてくならぼく一人にしてよ! お姉ちゃんは逃がしてあげて!」
ミツルは男のビール樽みたいなお腹にしがみつくようにして叫んだ。すると突然、そのビール樽が破裂寸前みたいに振動した。
ミツルがびっくりして顔を上げると、男はブブーッとふきだしていた。ビール腹の振動は見る間に大きくなり、それにあわせて、がっはっはという野太い声が、ミツルを揺さぶる。
男はたまらないというように大笑いしていたのだった。
「はっはっはっは。坊や達は、おじさんのことを犯罪者だと思ってるんだね? そりゃケッサクだ! あっはっはっは」
ミツルは男のお腹から手を離して、笑い続ける男をポカンと見上げた。
「おじさん、悪い人じゃないの? ぼく達をさらって行こうとしてたんじゃないの?」
ミツルが首をかしげて訊ねると、男は笑いすぎて出てきた涙をぬぐいながら、ごめんごめんと謝った。
「怖がらせてしまってごめんよ。おじさんは、坊や達が誰か悪い人にさらわれたりしないように、見張りに来たんだよ」
「見張りに?」
「うん。僕はね、すぐそこの駐在所の人間なんだ」
「駐在・・・・・・? じゃあ、おまわりさんなの?」
「うん、そうなんだ」
男は懐中電灯を拾い上げると、二人に向かって微笑みかけた。
つづく
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