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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

11

11.

ネコが自分を可愛がってほしくて手を舐めてくるときがありました。
  ざらざらの舌の感触に、ざわっとした思い。
  そして小さい体で、一生懸命に愛情が欲しいと訴えてくる瞳。
  なでてやると、ぐるぐると嬉しそうに喉を鳴らして目を細める。

自分の胸にしがみついて、思いの丈をぶつけてくる来夢が・・愛しくてなりません。
一昨日の自分なら、はねのけたはずでした。
でも今は違いました。
来夢のわがままも。想いも。全部受け容れてあげたくなりました。
先程再会した先輩も吹き飛ばしてしまう、強すぎる来夢の存在。
「嫌な思いさせてごめん」
章は来夢をそのまま抱きしめました。
「・・・!!」
来夢がびっくりして、もぞもぞと動いて身を離そうとします。
「じっとして!」
「・・・章」
来夢が章の顔を見上げています。
「・・近すぎて、目がつかれちゃう・・」
章は眼鏡を外すと、そのまま来夢にキスしました。

友人の目の前で・。

部室に繋がる階段で。

「・・・え!!」
来夢の友人が固まっているうちに、章は来夢を部室に連れて行きました。
手を繋いだまま、階段を駆け上がるうちに。来夢の気持ちがどんどん晴れていきます。
「・・章、あの・・」
「今。ごめん、恥ずかしくて顔見れないから・・あとで話して・・?」
どきどき。
高揚した気分のまま、部室に顔を出します。

「・・おお!章くんと来夢ちゃんだ!!どう~?絵の進み具合は」
変わった趣味を持っていそうな先輩が大喜びで迎えてくれました。
「昨日から塗り始めました」
「日数がないから大変だけど。頑張ってよ?」
部長も顔を見せてくれます。
「水彩だって?なんだかきみのイメージっぽいね」
「俺・・ですか?」
「章くん、なんだか落ち着いて見えてさ。・・透明感のある水彩。青い色のイメージ」
「青ですか??」
章がびっくりしていると。
「章くん。青きらいでしょ?そう言ってたよね」
「はい」
「赤がすき?もしかして」
部長が突っ込んできます。
「はい。赤・・好きです」
「珍しくないよ。赤が好きで・正反対の青にも不思議と惹かれるような子。
情熱の激しい赤、求め続ける姿勢の色の赤を好きで・・でも安らぎを求めてしまうときに・・青にひかれてしまうんだ。
きみのイメージが俺から見たら青だった。
それは・・・きみが安らぎを求めてここに来た。と解釈したいんだけど、どうかな?」
カラーセラピスト・・なんでしょうか?
「赤は・・いつも傍に置きたい色です。・・青は・・憧れかもしれません」
「憧れ、か。いいことを言うね。・・まるで青いイメージのひとがいるみたい」
部長の言葉に、心中穏やかではない来夢です。

<黒木先輩のことじゃないの・・?>

章が折角洗い流した激しい感情を、また起き上がらせようとしています。
青が黒木先輩なら・・。自分勝手に想像して悲しくなる来夢の手を。
ぎゅっと握る暖かい手が。

「青は思い当たりませんが。赤のイメージなら一昨日、拾ったネコがいます。
それですけどね・・」

「相当気ままなネコ・・かな?」
章が傍の来夢にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟きました。
来夢が章を見上げます。
<ほんとにネコみたい。>近いと余計に大きく見える来夢の瞳。

「肝心の絵を描いてくれないと、いくらきみたちが可愛くても入部を許可できないから」
部長がなにか言葉を飲み込んだような・・。
「はい。今日も頑張りますから。・・あのう、ドライヤー借りれますか?」
「章く~ん。ドライヤーなんか学校に持ってくる奴、この部にはいないよ?」
「あいつに借りてやるよ、」部長が慌てて廊下に駆け出していきました。
「・・あいつ?」
章が変わった趣味をお持ちの先輩に聞きます。
「黒木だろ。さっきまでここで部長とサッカーの話をしていたから・・」
「く・・!」
章は心臓が止まるかと思いました。
「黒木先輩・・?」
ああ・・やはり来夢はもっと穏やかではありません。
「なに?黒木、知ってるの?あいつ有名人だな~・」
「部長と黒木先輩は・・仲がいいんですか?」
章が震えそうな声で・・冷静を装っています。
「・・部長の片思い。かなあ?・・黒木は、ほら。見たとおり美人でしょ。
人気あるからね~いくら同学年でもさ、独り占めできないっつうか・・。
あ。部長には内緒だぞ」
頭がくらくらします・・。
振り切ったはずの思いは・・こんな縁で盛り返してくるなんて。
「社交的な性格だからな~黒木。すこし毛色の違う俺らにも分け隔てなく接してくるもん。
誰でもあいつが好きになるよ。ま。俺は来夢ちゃんがいいけど」
にこにこしている先輩の言葉をふううっと吹き飛ばして、来夢が章の袖を引きちぎるくらいの勢いで引張ります。

<章はどうなの??>

問い詰めるような怖い瞳。

「章くん。いいもの見せてやろうか?これ!」
画材の詰まった引き戸の奥から1枚の中厚紙を引っ張り出します。
「ほ~ら。これ!!」
ウルトラマリン1色で描かれた肖像画です。
ぼかして重ねた1つの色。濃い線とぼかした薄いドット。
その透明感にも驚きますが・・このモデルは・・。
肩をすぎるまっすぐの髪、二重の瞳、微笑しているこの美人は・・・・!!

「これ。黒木先輩!!」
来夢が指差します。
「だ。誰がこれを?・・部長ですか??」
章も大慌て。自分のイメージがここに現れたから・・黒木先輩のイメージの色で・・。

「部長の淡い恋の象徴さ。たいしたもんだろ。さ。きみたちも頑張れよ?」
先輩がその紙をしまったころに部長が走って帰ってきました。
ドライヤーを持って。
「使い終わったら、またここに持ってきて。おれが返しておくから」
沈着冷静に見えた部長がかわいらしくみえてきます。

12話へ続きます。



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