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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

8

8.

翌朝、並んで登校しながら章はふっきれたものを感じていました。
宇佐美に対して、一緒に絵を描きたいなんて。
来夢に満たされないものを覚えていたせいでしょう。
来夢が絵を描かないのは自分にも責任があるとわかりました。
姿を見れば触れたくなる。
触れたら止まらない。
それを抑制していかないと、性の虜になってしまいます。
覚えたてのものが嵌る落とし穴でした。
昨日の自分の行為も恥かしくなります。
「章?」
来夢が不思議そうに顔を見ています。
「なにか考え事?」
「ん、なんでもない」
この子が傍にいたらそれでいい。
好きな子と通じ合える。
お互いを求め合える。
それ以上、何に手を伸ばそうとしていたのでしょう。
欲しいものはひとつ。
もうひとつなんて、つかめやしませんよ。

「来夢、先に教室に行ってて」
章の小声に驚いて、来夢は足が止まります。
「いいから」
章はスタスタ歩いていきます。そっちは・・2年の先輩たちが出入りする校舎ですが・・。
「章?」
「大丈夫だから」
振り向きながら手を振ります。
「・・なにが大丈夫なの?」
来夢の搾り出した声は、か細くて。
章には全く聞えていませんでした。

2年の先輩たちがぞろぞろ歩いていくのを見ながら
「宇佐美さん」
見失わないように、遠くから声をかけてしまいました。
気が急いている証拠。
自分でも、いけない・・と感じましたが。
「おはよ」
宇佐美が立ち止まって、章を待ってくれました。
「どうした?」
やさしい言い方です。
その微笑に、こころがどうしても揺らぎそう。
「あの、お話があるんです」
「どんな?」
見透かしたような、まっすぐの瞳。
「あの、・・」
「ここでいえないこと?」
「いいえ」
章はきっぱり伝えるつもりで、息を吸いました。

「俺、足ることを知らなかったんです」
「たる?」
「俺には、好きな子がいます。
その子と好きな絵が描ければそれ以上、何もいらないし。望みもしないのに・・。
もう十分なのに、まだまだ欲しくなっていたんです。
自分のことを棚にあげて、あなたと絵を描きたいなんて。
すみませんでした!」
言いたいことをいいきると頭を下げます。
これは、宇佐美にしたら意味がわかりません。
「俺と絵を描きたいというのは気まぐれか?」
「いいえ、その・・。本気でした。
本気にしてはいけない、気持でした」

「そんなに、その好きな子に義理立てする必要があるのかな?」
キツネは隙を伺っているのです。

9話に続きます。








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