10.10.「やんちゃだなあ。少しおとなしくして貰おうか」 床に足がついた。ほっとしたら顎を指で上げられて、そのまま唇が重なってきた。 (えー!) しかも唇を舐められた、夏都兄の舌が入りたがっているサインだ。 どうしようと迷っていたらベルトを外す音がする! 声を出そうとして、口を開けてしまった。 ぐっと入り込む舌が僕の歯をなぞり、舌を捕らえる。 逃げようとして身をよじると体を寄せてくる。急に息苦しくなってきた。 唾液を吸われて舌を絡められて、頭の中が真っ白。 力が抜けて、だらりと下げた腕をかすめて夏都兄の手が僕のお尻に触れた。 「嫌だ、何するんだよー!」 どん、と突き飛ばして体を離したのに、唇は銀色の糸で名残惜しげに夏都兄と繋がっていた。 「何、これ……」 「わかっているくせに、聞くかなあ」 糸を手繰り寄せるように体が近づいた。 「ねえ、千里。俺に言わせたいの?」 夏都兄にシャツの上から胸を撫でられた。 「感じているって、いってごらん」 「やめて、夏都兄。シャツが擦れて痛いよ」 でも夏都兄の手は止まらない。 刺激を受けて起きた突起の形が、シャツの上からくっきり見えて、心臓が早鐘を打った。 「あ、硬くなってきた」 指先で突かれたのは突起なのに、体の奥の方までズキンと感じてしまう。 足の付け根が熱い、これは知られたくない。 「ちょ、ちょっと待って? 夏都兄」 「どうしたの?」 「あの。何処かが痛いんだ」 「だろうね」 どうしてそんな返事ができるんだ? いつもと違う! 「そ、それだけじゃなくて……ドアが開いているよ。母さんに見られちゃう」 「ふうん」 僕の忠告に興味がなさそうでシャツをめくられた。 夏都兄の温かい指に触られて肌が溶けてしまいそう。 「聞いている? 夏都兄っ……」 叫んだはずが、僕の声はかすれていた。 「聞いているし知っているよ。さっき、俺が開けたもん」 「母さんがまだ起きて……」 話しているのに乳首を引っ張るな、お尻を撫でるな! 「ねえ、つま先で立ってよ」 中腰で何を言い出すんだよ! 「夏都兄っ、やめ……」 立っていられなくて床に膝をついた。 ぺたんと尻餅をついて、肩で息をしてしまう。体が熱いし、力が入らない。 「夏都って、呼んでよ」 「え?」 夏都兄が僕の前に座って、目線を合わせた。 「行為の時は、俺を呼び捨てにして」 「こッ?」 僕は今から夏都兄と、するの? 「今までキス止まりで辛かったよね。そろそろ、いいかな」 喉を撫でないでよ、びくっとする! 「ちょっと待って! 僕、そんなの経験無いし!」 「だろうね。俺が大事にしてきたもん」 キス止まりでねーと微笑むので焦る。 「キスは、お約束だからしたんだろう!」 「お約束で唇にキスすると思っていたのか。少しは察しろよ」 「え、どういうこと?」 聞こうとしたら唇を吸われた。少し離して、小鳥が啄ばむように連続してキスをされた。 「小悪魔だな。わかっているんだろう?」 まるで魔法にでもかけられたみたいに体が夏都兄から離れない。 耳元で名前を囁かれて胸が高まる。 (で、でも) 「や、やめてよ、夏都兄。好きな子がいるんだろう、その子の代わりになりたくないよ」 駄々をこねると手を取られて、そのまま押し倒された。床に背中が当たって痛い! 「好きなのは千里だけ。だから、唇にキスをしてきたんだ」 (え、好き? 僕?) 驚いて見つめると、夏都兄の瞳の光に包まれてしまいそう。生唾を飲み込むと夏都兄の体温が伝わってきた。 「好き。出会ったときから、ずっと好き」 僕の事を? 本当に? 「知らない人達に追われたとき、千里のことが心配でたまらなくて……。思い知らされたんだ、側にいなくちゃいけないって。 俺の視界に千里がいないと不安なんだ」 僕の髪を指に巻きながら呟く。視界にいないと不安な気持って、僕と同じだ。 「折角同じ高校にさせたのに千里はやんちゃで、目立つから心配だよ。それに警戒心無さすぎ。何が『会ってもいい』だ。父さんの面子なんて関係無い、知らない人に会うな。 千里を誰にも渡したくないんだ」 ぎゅっと抱き締められて、耳に熱い息がかかる。 体が熱くなって、まるで夏都兄の体温を吸収しているような錯覚がする。 「……だって、夏都兄に彼女がいるって聞いたから」 「それで、誰かに会おうと思ったの?」 「夏都兄に彼女がいるなら僕もそうしようって。でも本当は誰でもいいわけじゃない。 夏都兄、どうしたらいいのかわからないよ」 言いながら肩が小刻みに震えてしまう。 「じゃあ、会う必要は無い。俺には彼女がいないから」 夏都兄が微笑んでキスをしてくれた。 11話に続きます。 |