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ヒロガルセカイ。

ヒロガルセカイ。

14.

14.

「次男坊。いい加減、起きないか」
 
え。食欲をそそる匂いがすると思ったら、キッチンで焼肉が始まっていた。

「父さん、母さん、お帰りなさい。あれ? 夏都兄は?」
「目を覚ましたら、すぐに夏都か。おまえ達は一瞬でも離れる事ができないのか」
 
そうだよ、視界にいないと居ても立っても居られないんだ。

「だから、夏都兄は?」
「落ち着いて、千里。今日は遅くなるって電話があったのよ。テレビ局の人達が出演料代わりに夕食をご馳走してくれるんだって」
「え! そんな!」
「さあ、お父さんと焼肉を食べましょう」

 家で食べる焼肉は好きだけどさ。夏都兄、僕にも連絡してよ。

「辛気臭い顔をするな、千里。おまえがへこむだろうから、焼肉でもしてくれないかと、夏都が言ったそうだぞ」
「そうなのか!」
 僕のことを考えてくれたのが嬉しい。

「夏都の面倒見が良いと言えばそれまでだが、おまえは、どれだけ夏都に、おんぶに抱っこなんだ」
 どきんとして、箸を落としてしまった。

「その動揺、さては自覚があるのか」
「あ。あ、うん……」
別の意味の、自覚もあるんだけど。

「自覚があるなら結構。夏都もふらふらした面があるが、千里はやんちゃで見ていられない。大体何だ、昼間のテレビ番組での態度は。おまえはそんなに暴れたいのか」

「見ていたのかよ! 仕事しろよ、父さん」

「息子の晴舞台を見ずにいられるか、仕事が何だ。そこにまさか千里まで登場するとは。しかし、おまえの顔を見て社内の女性陣が、『可愛い・可愛い』と大喜びさ。お蔭で私も鼻が高いぞ」
「誉めているのかけなしているのか、わかんないよ」

それに誰も仕事をしていないのかよ、その会社。

「明日は会社帰りに学校へ行ってやろう」
「来なくていいよ。だって、ビールやおつまみは置いてないから」
「あらあら、お父さん一本取られましたね。
会社の人に連れて行ってと頼まれたんじゃないです?」
「ま、そうなんだけどな」
 ずばり言い当てられて恥かしそうに照れる父さんと微笑む母さん。 
この2人が出会ってくれた事に感謝だよ、おかげで僕は夏都兄に出会えたんだから。


――僕にとって夏都兄は、生きる為に必要なライフラインだ。
水や電気と同等にあの瞳と笑顔・声、夏都兄の存在が僕に必要だ。
側にいてくれたら安心できるから、いないと困るんだ。
あの瞳を求めて、焦がれてしまうんだ。寂しいのは耐えられないよ。

僕は夏都兄が好きだ。
自分の気持に気づいたらとても切ないし、目が痛くて泣けてくる……。

「……しっかりして、千里。煙いわ」
「千里、考えごとなら後にしろ。さっきからおまえは肉を焦がして、炭ばかり作っているぞ。この煙をどうしてくれる!」
 


部屋で寝転がりながら時計を見ると二十二時を過ぎた。
でもまだ夏都兄は帰って来ない。  

ぼんやりしていると突然お尻のポケットに
入れていた携帯が鳴り出した。期待して画面を見ると……慎吾からだった。

「タイミングが悪いなあ」
『何のことだよ。仮装は決まったか?』
「あ、何も考えていなかった」
 ツインテールだけはしたくないが。
『俺と同じものを貸してやろうか』
「同じものって何だよ?」
『着ぐるみだよ! ウサギやパンダの格好をすれば女子に受けそうだろう?』
 慎吾は正気か? 残暑が厳しいのに、何故あえてそんな格好をするんだ。
受け狙いも大概にしろよ、受けた先に期待しても何も無い、暑苦しい我慢大会だ。
「僕のことは構わずに頑張れ!」
(ごめんな、慎吾。今夜の僕は余裕が無い)



結局、夏都兄は帰らなかった。
もやもやした気分で起き上がると、携帯が鳴った。
また慎吾かと思って起き抜けの声で出たら。

『おはよ、千里。まだ眠い?』
 やっと待っていた声が聞えた。
「眠くないよ。おはよう、夏都兄」

(挨拶の前に言うことは無いのかよ)

「夏都兄」
『なあに?』
「昨日、寂しかったよ」
『ごめんね。クラブの打ち合わせもしていたんだよ。もう、打ち上げは今日だし』
「そっか……」
『あはは。本当に寂しかったんだね』
「笑いごとじゃないよ、酷いな」
 明るい笑い声が続いている。

『本望だよ。俺は自分の独占欲を自覚したからね。……早くクラブにおいで』
 甘い声に思わず目を伏せた。

15話に続きます。

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